Crafts

2011.06.03

昔の日用品について考える

Text by kanai

メモリアルデー(戦没将兵追悼記念日)の週末に相応しい記事を。(編注:元記事は5月28日に掲載されました)
数カ月前、ハワイ諸島のカウアイ島へ休暇を過ごしに行ったとき、ある古本屋に立ち寄った。その主人が誇らしげに曰く「アメリカでいちばん西にある本屋だよ」とのこと。書棚を見ると、全四巻からなるすばらしいシリーズ本があった。『A History of Everyday Things in England』(イギリスの日用品の歴史)というものだ。著者はMarjorieとC. H. B. Quennell。初版は1918年だ。この本は、これから人の役に立つ職業の訓練を受ける子どもたちに向けて、自分の手を使った技能を身につけさせるために書かれたものだ。
このシリーズは、1066年から出版当時までの、城、船、衣服、家具など、さまざまな物の構造や作り方を解説している。そのなかの市場を解説した章で、私は初めて「Cheap」(安い)という言葉の語源を知った。
Quennellsの文章より:

古英語では、買う(buying)ことを「cheaping」と言いました。商人はチープマン(cheapman)またはチャップマン(chapman)と呼ばれ、露天が立ち並んでいたロンドンのある通りは、今でも「チープサイド」(Cheapside)として知られ、反対岸の通りは「イーストチープ」(Eastcheap)と呼ばれています。また、エセックスのウィザムの近くには、チッピングヒル(Chipping Hill)という土地が、コッツウォルズにはチッピング・カムデン(Chipping Camden)という土地があります。……


写真はチッピング・カムデンで撮影したもの。コッツウォルドには古くからの羊毛市場の街だ。
この本は、建築家C.H.B.Quennell(クウィネル)が企画し執筆した。彼にとって第一次世界大戦中の「勤労奉仕」は「職業的に受け入れがたく、大きな精神的ダメ―ジを与える」ものだったと息子が語っている。彼はジョン・ラスキンとウィリアム・モリスの理念を師と仰いで育ったため、戦争はその世界を破壊するものとしか思えなかった。そしてクウィネルは、妻といっしょに、仕事が終わったあと、家の居間で『Everyday Things』を書く決意をした。彼は製図のエキスパートであったため、彼の技術イラストがこの本の大きな役割を担っている。

クウィネル夫妻は、一般とは異なる歴史を書き上げた。歴史の本では無視されてしまう部分に、彼らは目をつけたのだ。彼らが見聞きした物事の価値を広めるために、それらの実例を列挙し、失われることを防ごうと考えた。次に引用する章では、我々が作るものは、便利であり同時に美しいというウィリアム・モリスの声が聞こえてきそうだ。

中世においては、アートやクラフトは、現代よりももっと強い意味で社会を象徴していました。職人は、その技術の細かい知識や、道具の使い方や、材料の選び方などを教え込まれるだけでなく、デザインの方法も教えられました。仲間の職人も、みな同じでした。みんなで、同じ仕事をしたのです。目標は、いい仕事をすること。そして、よりよい方法やデザインを追求することです。こうして積み重ねられてきた知識は、世代ごとに受け継がれ、がやがて伝統と呼ばれるものになりました。そのため、職人は仕事に対して非常に誠実なのです。14世紀の職人は、13世紀の仕事をコピーするだけで満足はしていませんでした。彼らは、みんなで先達の仕事に、さらに磨きをかける努力をしていました。


このシリーズが目指したのは、単に過去を記録することではなく、未来に影響を与えることだった。「願わくば次の世代が、実用性と美を兼ね備えた昔の職人の技量が高く評価し、今日の機械の製造能力と合体させることで、新時代の美しい日用品を生み出してほしい」
『Everyday Things』は、人間が作り上げた世界を直接理解してもらうために書かれたものだ。今日、私は「Connections」(James Burke) に関する記事を読んだ。1970年代にBBCが製作した素晴らしいドキュメンタリーシリーズだ。クウィネルと同様、Burkeも何世紀もの時間を飛び越えて、いろいろな技術の生い立ちや、それが現代に及ぼした影響などを語っている。

「これは、現代社会で私たちを取り巻いている物に関する話です。それは、当たり前のように、私たちが思っているとおりの形をして、思っているとおりに動きます。しかし、どうしてそんな形をしているのでしょう。誰が、何が、どうなってここにあるのでしょう」

– Dale Dougherty
原文