Fabrication

2012.02.03

Maker、ハッカー、起業家はアメリカの郵便事業をどう救えるか

Text by kanai


年末休暇の間、Adafruitの発送スタッフが休みだったので、私はひとりで、何百何千ものオープンソース電子キットのパッケージの発送に追われた。私はヘッドホンをして、工場と在庫棚の間を行ったり来たり。それは私にとって、アメリカの郵便事業(とその周辺のEndiciaやStamps.comなどの企業)がどれほどありがたいものであったかを再確認するよい機会でもあった。安い料金で、ほとんどどこへでも届けてくれる。そりゃ、ときどきトラブルもあるけど、これだけの数を、これだけの料金で配達してくれることを考えれば、大したもんだと思う。このニューヨーク市内のオフィスには、毎日集荷に来てくれる。郵便屋さんは、ウチのスタッフみたいなもんだ。数週間前、土曜日の配達業務を止めないでほしいという嘆願書が郵便公社に出されたが、状況は深刻だ。
あちらこちらで報道されているが、郵政事業の赤字は巨額にのぼっている。今の郵便システムをどう変えたら救えるのか、昼夜の区別なく配送の手続きに没頭していた私は、それを考えてみたくなった。Makerやハッカーや起業家など、物事に対するユニークな視点の持ち主たちと、意見を交換してみたい。みんなの考えを聞きたいんだ。この全国的な配送ネットワークという宝を、どうしたらもっと活用できるのか、みんなで考えよう。というわけで、今週のSoapboxのテーマは「Maker、ハッカー、起業家はアメリカの郵便事業をどう救えるか」だ。
まずは歴史のおさらい

アメリカ合衆国郵便公社(USPS)は、アメリカ国内の郵政事業を行う公社。アメリカ合衆国憲法で明示的に権限を与えられた数少ない政府機関のひとつです。USPSの起源は、1775年の第二次大陸会議において、ベンジャミン・フランクリンが初代郵政長官に任命されたときに始まります。1792年、閣僚レベルでの郵政省が設立され、1971年、郵政合理化法より現在の形に変更されました。

First Us Stamps 1847 Issue
ベンジャミン・フランクリンは大統領にはならなかったが、現在流通している最高額紙幣である100ドル札の肖像になっている。アメリカの創意工夫の象徴として最高に崇められているわけだが、今の郵便公社はどうだろう。あまり芳しくない。

USPSは574,000人の従業員と、218,000台以上の車両を抱えている。雇用者数ではアメリカの事業者で2番目に多く、車両の数では世界の事業者の中でもっとも多い。USPSは、アメリカ国民にサービスを提供する義務を法的に負っており、地域格差なく全国一律の料金で均一のサービスを提供しなければならない。USPSは、U.S.Mailと書かれた郵便ポストを開けることができる権利を独占しているが、UPSやFedExなどの民間宅配業者との競争に苦戦している。
2011年12月5日、USPSは郵便集配所の半数以上を閉鎖し、28,000名の従業員を解雇して、第一種郵便物の翌日配達を廃止すると発表した。461箇所あるうちの252箇所の郵便集配所が閉鎖されることになる。2011年12月13日、USPSは、252箇所の郵便集配所と、それにともなう3,700箇所の郵便局の閉鎖を2012年の5月中旬まで延期することに合意。2006年12月20日に The Postal Accountability and Enhancement Act of 2006(PAEA:郵政責任強化法、HR 6407)が施行され、USPSは、10年間の退職者のための75年分の医療保険給付金を保証するよう義務づけられた。これは他の行政機関には求められていない。

ついでなので、悪い話をもう少し続けよう。 郵便事業の巨大損失
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上は NY Times に掲載された表。

郵便公社の発表によれば、年間の損失は510億ドルにのぼる。郵便取り扱い数が減少する一方で、増大する給付費用が重くのしかかる。退職者の医療保険給付のための資金55億ドルの支払いを猶予する法案が成立しなければ、およそ106億ドルの損失になっていただろうとUSPSは話している。
USPSの稼ぎ頭である第一種郵便物による利益は、前の会計年度の320億ドルから6%減少している。全体的な郵便物の取り扱い数は30億通減った。これは1.7%にあたる。
「売り上げのおよそ49%を担っている第一種郵便物への絶え間ない、そして避けがたい電子化の波が、我々の基盤のスリム化とビジネスモデルの変換を強く迫っている」と、郵便公社の最高財務責任者、Joe Corbettは上の図を載せた報告書で語っている。
昨年の損失は、思い切った予算削減と人員カットにも関わらず85億ドルに達した。この4年間で、郵便の取り扱い数は20%減少している。

ここで、私のアイデアを発表する前に(そしてみんなの意見を聞く前に)、一度船の針路を変えてみよう。退職者の医療保険は別の問題として切り離す。私はアイデアとサービスに話題を絞りたい。郵便サービスはビジネスの問題であることはわかっているが、Makerやハッカーの視点でサービスの転換を考えてみようという趣旨だ。政治的問題も脇に置いて、実現可能なアイデアを出し合っていこう。わかってもらえたかな?
ここに紹介するのは、順不同、冗談半分に出てきた突飛なアイデアだ。

郵便事業センサネットワーク

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すべての配達トラックに、ネットワークにつながった「センサボックス」を取り付ける。このボックスの中のスペースを貸し出すのだ。人工衛星を利用すれば実現できる。DIY人工衛星も利用できるようになるだろう。郵便トラックを使わない手はない。国中の大気汚染、放射線量、細菌やウイルスなどを監視できる。研究者が利用するだろう。一般の人も、仕様を満たすモジュールを自作して積ませることができる。「直流12V電源と、6インチ四方の空間を提供します」みたいな。さまざまな情報を送信してくれるArduinoベースの巨大なセンサネットワークができるのだ。アメリカのあらゆる街から大量の情報が届く。Googleは我々のWi-Fi情報を集めていた。だから、走り回るトラックにセンサを積んでアメリカ中の情報を集めることは可能だ。上の写真はEngadgetと提携した配達トラックの想像図。

郵便公社によるストリートビューサービス

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地図用の写真撮影をしたい業者にトラックの屋根を貸す。Bingがこれを使えば、毎日、ほぼすべての場所を撮影できる。Googleストリートビューのリアルタイム版だ。または、APIを使えば誰でもその写真にアクセスできる公的サービスにしてもいい。郵便トラックが通るすべての通りの毎日の写真が得られたら、何ができるだろう? アメリカのバーチャルツアー? Livestream/Ustreamを使えば、郵便配達の実況中継もできる。トラックに「便乗」して、昔住んでいた街や家を訪れるということもできる。大したアイデアではないが、言いたいことはわかるだろう。
上の写真はGoogleの偽ストリートビュー撮影車。 自分で作れるよ。

郵便公社クラウド

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建物でも車両でも、郵便サービスがあるすべての場所でモバイルホットスポットを開設する。特定の範囲からアクセスできる小さなアンテナでもいい。携帯電話会社のネットワークを拡張する形でもいい。今すぐは思いつかないが、いろいろあるだろう。携帯電話会社は、トラックを使って電波の弱い地域を探すこともできる。大きな街では、郵便ポストにワイヤレスネットワークのノードにして、公衆無線ネットワーク(やセンサネットワーク)を提供するという手もある。私書箱は、ローカルなバックアップストレージになる。郵便局にオフサイトストレージがあり、いつでも自分のデータが受け取れる。私なら、地元の郵便局にテラバイトのストレージが欲しい。そのデータは常に同期されていて、必要なときに引き出せる。
上の絵はクラウドのアウトラインアイコン

郵便公社AdSense

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Googleに手紙を売ってスキャンさせる。すると、Googleはそれに関連する小さな広告を入れる。まあ、これは冗談だけど、真面目な話、手紙を出して配達されるまでに、いろいろな形でかなりのデータが「スキャン」されている。これを何かに利用できないだろうか。手書き文字認識、パターン認識などなど、いろいろ考えられる。

郵便公社Kickstarter特別割り引き

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「クラウドファンド」で作られた製品に特別価格で配送サービスを提供する。たとえば、Kickstartersで製品化されたものを郵便で配送する場合は、料金が安くなるといった具合だ。現在の郵便事業の最大の問題点が利用者数の減少にあるとするなら、Kickstarterと提携して、Makerたちに大幅な割引サービスを提供するぐらいのことを考えてもよさそうだ。クラウドソースのプロジェクトを何らかの形で応援することで、より多くの人が郵便を使うようになる。それにつられて、他の人たちも使うかもしれない。Kickstarterから生まれるプロジェクトは、ほとんどが実体のある製品の形になるから、それを買ってくれた人たちに配送する必要がある。もちろん、eBayでも送料の割り引きがあるが、ちょっと意味合いが違う。コミュニティやクラウドファンドサービスにいちばん安い料金で配送サービスを提供するという具体的な取り組みなのだ。

郵便事業に3Dプリントを追加する

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郵便局に3Dプリンタを置く。そこにデータを送れば、数日後にプリントしたものが送られてくる。PonokoやShapewaysなどと提携するのもよい。そうしたサービスに場所を提供するのもよい。郵便局には広いスペースがあり、大きな機械も置かれている。基本的に年中無休24時間体勢だ。3Dプリントのハブには最適。USPS.comにデータを送れば、完成したオブジェクトを3D私書箱で受け取れる。郵送してもらってもいい。

郵便局がスモールビジネスにスペースを「補助」

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ニューヨーク市では1万平方フィート、その他の大きな街でも、使われていない郵便局内のスペースを提供する(ニューヨーク市の郵便局には空きスペースがたくさんある)。私なら、一般的な料金を払ってでも借りて電子キットの工場を作りたい。これはちょっと身勝手な希望なんだけど、自分にとっては切迫した需要だ。しかし、デザインや開発や科学研究を行うクールな企業に、有効に使われていない郵便局内の場所をオフィススペースとして貸し出せば、多くの企業がひとつの場所に集まって、みんなが郵便を利用するというオマケまでついてくる。ブルックリンのMakerBotは、使われなくなった郵便局のビルをまるごと買い取ってもよさそうだ。出荷を待つ製品の大きな箱をたくさん置いておけるからね。
ネット関連業者やクールな企業が同じ建物に集まることで、互いの交流が深まって、そこから新しくて面白いものが生まれてくる可能性もある。
上の写真は、私の住居兼仕事場のすぐ近くのPeck Slip Post Office。ここがAppleに買い取られてAppleストアになる前に、Makerが集まる場所になるといいな。


とまあ、以上が、年末のニューヨークの街でキットの発送に追われながら私がつらつら空想したアイデアだ。みんなの考えもぜひ知りたい。まったく新しいアイデアを聞かせてくれ。
– Phillip Torrone
訳者から:日本は郵便事業が民営化されたとは言え、国が株の100%を持っている以上は、やっぱり我々が心配すべき問題なんだから、Philが言うように、我々も意識すべきことだと思う。3Dプリントとレーザカットサービスしてほしいね。もちろん格安で。
原文