Crafts

2012.06.22

Maker Works – 社会的目的のあるMakerスペース

Text by kanai


Makerスペースはみんなの期待に応えることができるだろうか。こうした施設の大多数は、人々が物を作り、教え合い、工具を共有することを目的としているが、なかには社会の要求に応えるためのものもある。これは、そんな Makerスペースの物語であり、彼らが世界に広めたいと願っているビジネスモデルの話だ。Maker Worksは、ミシガン州の重工業地帯の真ん中にある会員制のスペースだ。ここは100年間にわたって物作りの伝統を受け継いできた土地だが、幾度となく試練を経験してきた。ここ数十年間に工業の拠点が海外に移転し、工場が閉鎖され、失業率が上昇してきたことはみんなが見て知っている。厳しい時代だ。そんななかで、Tom RootとDale Groverは自分を見つめ直していた。

作業服姿のTomとDale
多くのMakerスペースがそうであるように、Maker Worksも、同好のギークたちが定期的に集まっているうちに出来上がったものだ。最初はGo-Techという週1回の朝食会だった。これはDaleが企画運営していたものだが、たちまち大きくなって、月1回、夜にプロジェクトの発表会を開き、CNCマシンを運び込んだり、Arduinoの配線を行ったりと、みんなで作る喜びを分かち合うようにもなった。さらにDaleはノートパソコン愛好家の共有スペース、Workantileと合同でワークスペースを開設、続けて3人の友人と起業家精神を持つエンジニアたちのための共有ワークスペース、A2MechShopを立ち上げた。そのころ同じ道を辿っていたのがTom Rootだった。2008年、景気が悪化して通販の仕事が行き詰まるも、なんとか乗り切ることができたとき、困難に負けてしまった人も大勢いることを知り、そうした周囲の人たちを助けてやらなければという思いに駆られた。物作りの需要性を知っていた彼は、Makerスペースを作れば、失業対策、職業訓練、自立、環境などの大きな問題を解決できると考えた。2008年、地元にTechShopを誘致しようと試みたが、これは失敗に終わる。そこで、自分でワークショップを立ち上げようと決意した。
それから2年をかけて、TomはGo-Tech、Workantile、そしてDaleのいるA2MechShopにたどり着いた。2人はそこで出会い、同じ価値観を持つことを知り、共通の夢を語るようになった。時が経つにつれて2人の方向性が定まり、2010年、ついにMaker Works設立という大きな一歩を踏み出した。

金属加工室
ここで、彼らの共通の価値観について話しておこう。Tomは18年間、コミュニティ・オブ・ビジネスの会社、Zingerman’sを経営していた。「コミュニティ・オブ・ビジネス」とは聞き慣れない言葉だが、これがある意味、重要なのだ。これは、共同所有の会社を社会的起業家同士で運営し、利益をあげつつ、顧客と従業員と経営者たちを満足させ、社会に貢献するというものだ。善いことをするために会社を経営するということは、Tomの第二の天性でもあった。DaleはZingerman’sを知れば知るほど、価値観に基づくビジネスというスタイルに惹きつけられていった。そしてこの、社会に貢献するためのビジネスを展開するという基本的な考えは、彼らの共通の野望の基盤ともなった(Zingerman’sに関する詳細はここを見てください。または、Building a Great Business という本も出ています)。

木工室
では物語に戻ろう。2010年の始めのことだった。DaleとTomは社会的な責任のある Makerスペース事業を建設的な方向に変革させることを約束した。立ち上げのカウントダウンが始まった。12月には大きな障壁を克服した。この事業に出資してくれる保険会社がみつかったのだ。次なるチャレンジは、場所探しだ。
当初、約140坪の広さを目標にしていたが、それでは狭すぎることがわかった。そして最終的には約300坪の物件を、Zingerman’sのすぐ近くに見つけることができた。ここなら、Zingerman’sのコネが効くし、Zingerman’sの倉庫やフォークリフトが借りられたり、ショップが利用できる。同時にZingerman’sの側も、Maker Worksで看板のデザインや加工、椅子の組み立てなどができるという利点がある。2011年2月、Maker Worksは賃貸契約を行った。
Makerスペースビジネスの拠点が定まった。場所が用意できたことで、次なる大きな仕事が見えてきた。床に敷き詰められたカーペットは剥がして掃除して、エポキシでコートする必要がある。壁も塗り直さなければならない。その壁の数がやたらと多い。Daleは「塗った壁の長さは1,640フィート(約490メートル)って、誰が数えたんだよ!」と話していた。必要な場所に電気の配線もしなければならない。幸い、Tomの奥さんでパートナーでもあるToniが業者との交渉を引き受けてくれた。TomとDaleの父親たちも、テーブルの製作などで長時間の奉仕をしてくれた。家族とは便りになるものだ。
もうひとり、大きな力になってくれたのは、ミシガン大学教授のKarl Daubmanだった。彼はPlyという建築会社の主要メンバーであり、BLU Homesというプレハブ住宅を製造している会社の主任建築士でもある。その彼が、建築許可、内装デザイン、交通流設計などを手伝ってくれた。友人たちや家族のボランティアもあれこれ頼もしい力になってくれたが、やはりいちばん汗をかいたのはTomとDaleだ。
Maker Worksは2011年5月から家賃を払い始めた。雇用したスタッフは8月から勤務を開始した。そこからゆっくりとスタートして、具体的な仕事内容が固まったのは9月だ。そして2012年5月までの間に業務内容を洗練させて、細かい問題を解決していった。トータルで18カ月にわたる努力が実り、2012年5月12日のグランドオープンにこぎ着けた。

3Dプリンタ組み立てグループ
3月、再びMaker Worksを訪れたときは楽しかった。アンアーバーへ娘の大学の見学に行ったついでに顔を出しただけなので、正直、こんなに楽しい思いをするとは期待していなかった。中をちょっと案内してもらえるぐらいだと思っていたのだが、Tom本人の熱烈な歓迎を受け、彼自らが案内役を務め、今後の計画やビジョンについても話してくれた。施設内は清潔で、設備も整っていて、活気ある音が鳴り響いていた。ある部屋ではロボット入門教室が開かれていて、受講生でいっぱいだった。別の大きな部屋では木工作業が行われていて、フルサイズのShopBotが木材を切り出していた。クラフトエリアを見学して、レーザーカッターや刺繍ミシンや3Dプリンタを見たときは、私たちもやりたいという痛いほどの衝動に駆られた。ツアーはいつまでも続き、次から次へと宝物が現れた。
そこで、プライベートなオフィスがいくつかあることに気がついた。聞けば、スタート当初、スモールビジネスや起業家たちに余ったスペースを貸し出したところ、たちまち埋まってしまったのだという。TomとDaleもひとつのオフィスを共有しているほどだ。A2MechShopの賃貸契約が4月に切れたとき、Maker Worksは建物の残りのスペースもすべて借り切り、そこにA2MechShopが越してきた。
ツアーの最後に、Tomはホワイトボードを使って彼のビジョンを説明してくれた。私たちが見てきたものには目的があるという。これはビジネスであり、事業として自立していなければならないので、利用者には相応の料金を払うことになっている。しかし、学生や職業訓練中の人には割り引き料金が設定されていて、求人掲示板で仕事の紹介もしている。また、職業訓練や会員権は、掃除、修理、講義などMaker Worksで働いて得ることもできる。つまり、いろいろな方法で誰もがMaker Worksを利用でき、新しい技能を学び、自信を高め、社会に貢献できるようになるという理念だ。DaleとTomは、世界に貢献するという彼らのビジョンを理解してもらうために、人々を排除するのではなく、受け入れることを決めたのだ。
では、彼らの言う世界への貢献とは、どんなことなのだろうか。彼らは、Maker、学生、1099(失業者、雇用されている人、自営業者、独立請負業者など)という3つの社会を定義している。目標は、教育と革新を育てる環境を整え、高い技能を持つ人材、新しいビジネス、素晴らしい製品を生み出して世界に貢献すること。Tom はこのビジョンを下のように図式化している。

Maker Worksのビジョン
かくして、Maker Worksは立ち上がり、現在元気に活動している。次はどうなるのだろう。アンアーバーで成功したら、他の土地でもMaker Worksはうまくいくはずだ。彼らはこのビジネスモデルを、最新の製造技術を学びたい人たちや、工具が自由に使える工房を利用して経済を再活性化させたい人たちが待つ場所に展開したいと考えている。Tomはこう話してくれた。
「アンアーバーは起業するには安全な街でしたが、インパクトという面では、デトロイトの繁華街が究極でしょう。多くの有能で熱心な人たちが活動していますから。デトロイトで建設的や一翼を担うことが私たちの夢です」
彼らは、社会起業家精神に基づくこのビジネスモデルで問題を社会的な解決したいと考えている人を探している。
詳しくは、彼らのウェブサイトを見て欲しい。Maker-Works.com
アンアーバーに住んでいるというラッキーな人ならば、直接訪ねるとよいだろう。
私のように飛び込みではなく、事前に電話で見学の予約をしておくのが賢明だ。:-)
– TravisGood
訳者から:1099とはアメリカで確定申告をしている人のこと。
原文