Fabrication

2012.10.09

Kickstarterがルールを変更。それがMakerにもたらす意味とは

Text by kanai


MakerコミュニティがMakerBotのニュースに注目し、オープンソースハードウェアについて議論している間、Kickstarterも、ルールの変更という大きな話題を提供していた。それは、このプラットフォームを利用するMakerに大きな影響を与えるものだった。
Kickstarterは、少なくとも数ヶ月間、プレッシャーに悩まされていた。
とくにこの数週間は、Kickstarterプロジェクトに関するあまりうれしくないニュースが続いた。ブルームバーグは遅れと課題に関する連載を行い、ペンシルベニア大学の助教授は論文を発表し、ハードウェア関連のプロジェクトでは、75%で進行が遅れていることを明らかにした。ウォールストリートジャーナルは、「Kickstarterのベストとワースト」のリストを掲載し、「Kickstarter利用者の多くは、声高で破れかぶれな現代の野心的物乞いにになる可能性がある」と指摘している。
ニューヨークタイムズでさえ、成功したKickstarterプロジェクトが起業家を悩ませているという記事を掲載した。
Kickstarterも、指摘されていたのと同じ問題を気にかけていたようで、製品デザインやハードウェアプロジェクトに関するガイドラインを書き替えた。変更点の中には次のようなものがある。

  • リスクと課題 – プロジェクト製作者には、想定される「リスクと課題」と、その対処方法を申告することになった。
  • シミュレーションとレンダリングの禁止 – プロジェクトのシミュレーションやレンダリング画像での公開は禁止。掲載できるのは、現時点でできている限りの内容を示すプロトタイプの写真のみ。
  • 抱き合わせの禁止 – 複数のものをセットにして謝礼品とすることを禁止。

Makerにとって、これは大問題だ。Joseph HollowayがKickstarterブログで指摘していたとおり、次に挙げるような有名なプロジェクトも、新しいルールのもとでは不採用となってしまう。
「Capture、The Oona、TikTok + LunaTik、Infinite Loop、Isostick。Trigger Trap、Elevation Dock、Nesl、Brydge、Synergy Aircraft、Taktik、Nifty MiniDrive、OUYA、POP、Oculus Rift、Slim、Instacube、SmartThings、LIFX、そしてもちろん、Pebble も」
もちろん、軽々しい決定ではなかったはずだ。
私個人としては、この変更は歓迎すべきものだと思う。このプラットフォームの品位を守るためには、何か手を打たなければならなかった。さらに重要なのは、このプラットフォームを利用するクリエイターやMakerの卵の健全さを守ることだ。テーブルのあちらとこちらに座っている人たち、つまり、バッカーとプロジェクト製作者は、Kickstarterバブルの空気を入れ換える必要がある。何かがうまくいかなくなったからというのではなく、これでいいのかどうかを確認する必要があるからだ。KickstarterもMakerもみんなで考えるべきだ。
私は1週間前、ルール変更がされる以前にこの記事を書こうと思っていた。ブルームバーグとウォールストリートジャーナルの記事に大変に失望したからだ。私には会話が噛み合っていないように思えた。障害につまずいたMakerやプロジェクトをあげつらって、彼らを失敗者と呼ぶのは簡単だ。そこでKickstarterの利用者を「破れかぶれな現代の物乞い」と書き捨ててしまっていいのか。そんなはずはない。
これらの記事は、大きな文脈をとらえていない。考えてみてほしい。今ここに、誰でも自分のアイデアや製品を、支援してくれる人と直接結びつけてくれるプラットフォームがある。昔ながらの管理者や排他的な流通チャンネルを通さないで済むものだ。それがまったく新しい可能性と、創造と生産の参加型モデルの世界を開いた。これは驚きであり、素晴らしいことだ。
しかし現実に使ってみると、クリエイターは、公開と記録と生産に関する学習と実践を同時に行わなければならないことに気がついた。そして多くの場合、この「準」起業家たちは、まったく新しい小規模生産の一括処理方法を編み出すことになる。実現可能な製造方法のプロトタイプだ。この新しい世界にはガイドブックなどない。物を作るのは大変だ。
Kickstarterの中で起きていることには、まったくもって正しいこともある。クリエイターの失敗を嘆くのではなく、成功例や最高の実践例に光を与えるべきだ。次なるMakerの一団のためにプロセスをもっと簡単にするよう、みなで力を合わせるべきだ。
いったい何が障害なのだろうか? 機械設備か? ツールか? いちばん間違いを起こしやすい生産水準とはどの程度のものか? 限定的な一括処理は効率的か? プロセスを簡単にするサービスにはどんなものがあるか?
カスタマーサービスの必要性が大幅に過小評価されていたというブルームバーグの指摘は、正しかったと思う。WindowfarmsのBritta Rileyは、前回の記事へのコメントで、類似の問題を指摘している。最高の実践例はなんだろう? 特別に効率的に何かをやった人はいるのだろうか? どのような機能を Kickstarter チームに陳情すればよいだろうか?
この論議が、何が「できなかった」から何が「できた」かに変わっていくこと、そして、できることをもっと簡単にできるようにするための話に変わっていくことを期待したい。
– David Lang
原文