Fabrication

2012.11.16

Makerムーブメントの権化:PrintrbotのBrook Drumm

Text by kanai


PrintrbotのBrook Drumm
Maker ムーブメントと私たちが呼ぶ現象にはいろいろな特徴があるが、そのなかに、ハードウェアのプロトタイプを安く早く行う能力がある。オープンハードウェアの原則、共同デザイン、クラウドファンドなどはその要因だが、もっとも大きな力になっているのは、安価なコンピューター制御ツールとソフトウェアが簡単に使えるようになったことだろう。こうした一連のツールで何ができるかを体を張って見せてくれる人がいるとしたら、それは PrintrbotのBrook Drummだ。
私は、何度かBrookと話していたが、今年の春に開かれたMAKEのHardware Innovation Workshopまで会ったことがなかった。彼は、我々の Makerの革新的な製品のコーナーの中で彼の3Dプリンターを紹介したいと参加していたのだ。Kickstarterキャンペーンで記録を更新した彼の製品は、我々の間でも有名になり、彼に個人的に会いたいという欲求がわいてきた。しかし、彼のブースを訪れてみると、私の目は、後ろに置いてあった小さなプリンターに釘付けになった。互いに自己紹介を行ったあと、それについて尋ねてみた。
「ああ、あれは週末に思いついたポータブル3Dプリンターだよ」と彼は答えた。
(休憩)
彼は、コンセプトを思いついてから、設計して試作するまでをたったの2日間でやったという。まさに、こんなことが可能になるというのが、この記事のポイントだ。
25年前、私が工学科の学生だったころ、コンピューター制御の工具は何百万ドルもする代物だった。今では、簡単なものなら数百ドルで手に入る。さらに、ハードウェアの設計は多くが公開され、安い(またはタダの)ソフトウェアを使って作れる。この組み合わせが力になる。つまり、ハードウェアの革新は、もはや 豊富な資金と経験を持つ人々だけのものではないのだ。さらによいことに、これは物作りをより多くの人に広める。デザイン用ソフトウェアとコンピューター制御のツールは、職人技を習得するための何年間もの修行から私たちを救い出してくれた。新製品のアイデアを効率的にデザインしてプロトタイプを作れる宇宙が、うんと大きくなっていることを意味する。
たしかに、Brookのスピードはスキルの蓄積とビジネスの必要性の結果だ。Printrbot Jr.は、Printrbot LCとPrintrbot Plusという、どちらもオリジナルPrintrbotのレーザーカット版から拾い集めた経験から生まれたものだ。オリジナルのPrintrbot は3Dプリントしたプラスティックパーツで作られている。レーザーカットへ移行したのは、自身の成功がもたらした挑戦と関係がある。キャンペーンの締め切り日であった2011年12月17日、彼は元々の目標であった50台ではなく、1,400台のプリンタを先行販売していたのだ。Kickstarterのゴールも25,000ドルだったのが、最終的に83万827ドル集まった。3Dプリントでフレームを作っていては時間がかかりすぎるので、レーザーカットの木製フレームに切り替えた。そして12カ月以内に、Brookは4つの3Dプリンターモデルを投入し、1,400台以上のプリンターを生産して出荷したのだ。
(一息)
能力のある人が現在のプロトタイピングツールを手にすると、びっくりするようなことができる。彼の話はまだまだたくさんあるが、この章では時代が変わったという点に絞ってみたい。世界中のMakerたちにもそれが広がりつつある。彼らはこうしたツールを買って使い、革新的なハードウェアを作ろうとしている。Makerムーブメントは、創造的な個人が新製品のプロトタイピングを始めることで、熱気が高まっている。おそらく、あなたの会社もそうだろう。
企業の世界では、端のほうで何が起きているのか気がつきにくい。気がついたとしても、それがもたらす脅威や好機がわかるとは限らない。ハードウェアのイノベーションは、すでに大きな予算を持つ企業の研究所だけで起こるものではない。今や、アイデアとデザインソフトウェアを使える技能があれば、誰でもプロトタイプが作れるのだ。製品のイノベーションは、組織全体から沸き起こり、量もバラエティーに富んだ新しいアイデアも増え、企業の展望も大きく開けることを意味する。
これを書きながら、最近の話を聞こうとBrookに連絡を取ったのだが、そこで彼の反復速度が低下していないことを知った。
「Printrbot Jr.を1回の週末で完成させて、数週間かけてユーザーのフィードバックをもとに改良したよ。こんなことがあった。バージョン3のPrintrbot Jr.をMAKEの3D Printer Shootout に届けて、1週間ぐらい後で、それを使ってレビューを書いてくれた人たちに話を聞いたら、たくさんのフィードバックが得られたので、その晩にデザイン変更を行った。その数日後、新しいバージョンをお客さんに届けることができた。古いバージョンを作り続ける理由はないからね。もっといいバージョンがあるのに。だから私は新しいほうを発送した。この繰り返しの周期が、前よりずっと速くなってるよ」
Makerムーブメントで起きていることには、いろいろな面がある。低コストの高速ハードウェアプロトタイピングは、その一面にすぎない。私たちは、もっといろいろな面を取材して、プロのMakerたちの成功例を伝えたいと思っている。おたのしみに。
略歴:Travisは興味のあるプロジェクトを追いかけている。現在はMakerムーブメントの中で起きている革新や起業に興味が集中している。彼は65カ所のMakerスペースを訪れ、Nova-Labsを共同設立し、6週間フルタイムでTechShopにてMakerスキルを磨いた。彼のMakerムーブメントの記録は、make.GoodPursuits.comで読める(英語)。
– TravisGood
原文