Fabrication

2013.03.22

おもちゃの未来 – Alice Taylorインタビュー

Text by kanai

Alice Taylor

Alice Taylorは、ロンドンに拠点を置くMakieという3Dプリントで作ったアクション人形のメーカー、MakielabのCEO。客は、Makieのウェブサイトで、顔の表情、髪型、目や肌の色、服やアクセサリーをデザインできる。いろいろなポーズがとれる身長10インチ(約25センチ)の人形は、ロンドンでプリントされて出荷される。MakieとAliceにとって、これは長い冒険の始まりにすぎない。

私は、彼女がおもちゃで遊び、ギークたちと働き、3Dプリントを一般大衆に広めるというMakielabと歩んできた冒険について話を聞いた。

Aliceの物語は2010に始まった。

「私はニューヨークのトイフェアに行ったのですが、そこにEngage Expoというものが同時開催されていました。Engage Expoは「デジタル」で地下で行われていて、トイフェアは盛大に堂々とメインフロアで開かれていました。それらには、まったく対話がありませんでした」

「そこで私はあることを思いつきました。3Dプリントを使ってアバターを人形にしたらどうだろうと。デジタルの怪獣をおもちゃの怪獣にできたら。デジタルの車をおもちゃの車にできたら、などです」

「3Dプリントのことは知ってました。頭では、その可能性もわかっていました。デジタルファイルを物理的な物体にできるという程度は。『ビットからアトムへ』という考え方が頭の中を回っていました。そこから始まったのです」

しかし、Aliceには普通の人形を作る気はなかった。子供たちが想像力を働かせて遊べる人形を作りたかったのだ。バービーよりもレゴのような人形だと彼女は直感した。

「自分で作る人形にしたかったのです。それは想像力を豊かにします。男の子も女の子も人形を作って遊んでほしい。アクション人形なんです。洋服を作り、実験をして遊んでもらいたいのです。おもちゃなんだから」

Makies

未来を見つめるMakieたち。

Makieは、粉末焼結積層造形法(SLS)と呼ばれる3Dプリント技術で作られる。ナイロンの粉末をレーザーで焼結させてパーツを作っていく。この方法なら、デスクトップ型の一般的なプリンターが採用している溶けたプラスティックの糸を積層していく熱融解積層法(FDM)に比べて、パーツをより精細に頑丈に作ることができる。

この製造方法の欠点は価格だ。SLSマシンはFDM方式のものに比べて格段に高い。それでも、SLS技術は手が届く範囲と言えるだろう。Makieは一般消費者品質の3Dプリントの完璧な応用例だ。デジタルでデザインされ、それぞれがユニークなMakieは、しきりに語られている未来、大量カスタマイゼーションを暗示するサインだ。

「私たちは3Dプリントを使って消費者に向けた製品を作ることにしています。最初のビジョンは、バーチャルなものが物理的なものを生むという考えです。自分で改造できる物理的な製品です。それはバーチャルな世界にフィードバックをもたらします。それが、デジタルとフィジカルの間を循環するのです。唯一それを可能にするのは、アイデンティティでつながれて、物理的にも存在するデジタルなものです。昔ながらのおもちゃ製造の技術では難しいでしょう。3Dプリント技術がそれを可能にしたのです」

そうして、3Dプリントがパーソナライズされた人形を可能にした。そのパーソナライズが、Makieを特別なものにしている。

「アクションフィギュアや人形で遊んでいる子供たちは、みな物語を作っています。みんな本当に創造的です。もし子供たちにキャラクターを作る手段があったら、もっと創造的になれるでしょう」とAliceは言う。

創造性は、人形が作られる以前のデザインの段階から始まる。しかし、それは出荷されたあとも、遊びの中で、さらに将来のカスタマイズの中で続いていく。Makieは決して終わらない。そこがこの製品のパワフルなところだ。デザインから、飾り付けから、物語まで、自分で作れるおもちゃなのだ。

さらにもっと大幅なパーソナライズを行う人もいる。ドレメルやハンダごてを使ってだ。

Hacked Makie

音に反応するようハックされたMakie。写真提供:Sara Long

ギークの手におもちゃを持たせる

Tim O’Reillyは、今、ギークがやっていることを、将来残りの人間たちもやるようになるという考えを広めた人だ。Aliceもそう思っている。

「アルファギークから始めて、彼らが好きなことを理解すれば、それがやがて主流になります」と彼女は言う。

「アルファギークは炭鉱のカナリアのようなものです。彼らは、ほとんどの人が理解できないようなものを拾い上げては、それを調べて、なんだこれは、どうやって使うんだと考えます。彼らはそれで遊び、問題を解決し、その過程で、製造者や提供者は多くを学びます。そしてみんなの準備が整ったとき、それが主流になっていくのです」

早く発表してオープンに開発する

ギークは未完成の製品に惹かれる。何かを作るためのプラットフォーム、つまり、実験やハックや間違った使い方のスタートポイントだと考えるのだ。ギークコミュニティへのMakieの自然なアピールとなったのは、全員が勝利するということだった。ギークはハックできるおもちゃを手に入れ、Makielabは、提案をテストし、製品を洗練することができる共同開発者のコミュニティを手に入れた。

「最初の資金を手に入れたとき、投資家にこう言われました。『あなたたちのバックグラウンドはデジタルメディアだ。製造のことはわかるのか? とても大変なことだぞ』と。そこで私たちは、最初の資金をソフトウェアと製造プラットフォームの開発に使いました」とAlice。

「顔は白一色で、肌の色は選べませんでしたが、私たちは販売を開始しました。インターフェイスは完璧とは言えませんでした。価格は99ポンド(147ドル)でした。当時、あれだけの小規模では製造コストがそれだけかかっていたので、仕方なかったのです。おもちゃの安全性も満たしていなかったので、対象年齢を14歳以上としなければなりませんでした」

「私たちは言いました。かまわないと。私たちはとにかく、それを送り出したかった。アルファギークコミュニティに届けたかった。私たちは人々に話しかけたいのです。人々が欲しがるものを見たいのです。カスタマイズできる人形に人々が何を求めるかを知りたいのです」

最初の人形がウェブサイトで変えるようになってから1年になる。その間に、Makielabはアクティブなコミュニティを作った。そこでは、ファンたちが人形をカスタマイズしたり改造したり、その結果を互いに見せ合ったりしている。

「彼らは人形をお茶に浸したり、インクに漬けたり、紙ヤスリでこすったりし始めました。同じように、私たちも新しいブレイクスルーを発見するたびに、それを公開しました。Makieをいろいろな色に染めることができるようになったときも、自分でやってみたい人のために、即座にその方法を公開しました」とAlice。

デザインの協力的なアプローチは、Makielabのやり方だ。彼女はさらにこう続けた。

「服にも同じことが言えます。ここで衣服のデザインをしていて、できあがるとショップに展示しています。しかし、パターンも公開しているので、自分で作りたい人は、それを使って作れます。作りたくない人は、私たちから買えばいいのです」

Painted and polished Makie

着色して磨いたMakie。 写真:Copyright My Delicious Bliss.

主流へ

Makielabは、歴史の新しい章を開いた。彼らはギークたちと足場を築いたが、もっと大きな主流のおもちゃ市場を見据えている。問題は、ギークたちが正しいかどうかだ。AliceとMakieを作った彼女のチームは、 大量生産に対応できるのだろうか。

今のところ、彼らと大量市場との間にある壁はコストだ。小規模に開始して最先端技術を使って成長してきた新興企業にとって、それは大きな挑戦となる。

「私たちは、小さな新興のデジタル/フィジカル製造業です。未知の領域で活動しています。みんなは成長することを確信していますが、明かな不安もあります。素材費が下がるまでどのくらい時間がかかるか、SLSマシンが125,000ポンド (186,000ドル) という時代が終わって、1,000〜5,000ポンド (1,500〜7,500ドル) の幅になるのはいつか、などです。それによって物事は劇的に変化します。今、バービーなどに比べて私たちの人形はとても高価です。しかしそれは、粉末プラスティックの材料費のせいです。そのため、このテクノロジーが停滞するアルファギークの段階を生き抜いて、主流に向かうのです。それまでには、3年も4年もかからないと期待しています」

Makieを売る方法も変えなければならない。ギークの興味を惹きつける言語は、普通の人には通じない。つい最近まで、Makie.meウェブサイトでは、隅に意図的にAlphaタグがあり、開発中の機能の作業リストがあり、3Dプリントで作る世界初のおもちゃであることを誇らしげに主張するバッジが表示されていた。リストとバッジは今でもあるが、Alphaタグは消えた。これは言語の変化の最初のサインだ。彼らは最近、初めてのiPadアプリ Makies Doll Factoryをリリースした。これを使うとデジタル版のMakieを作ることができ、欲しければ実体版を注文できる。プロモーションビデオのターゲットは技術系でない人たちだ。ベタベタに女の子っぽい雰囲気ではないが、普通のおもちゃのCMになっている。「3Dプリント」という言葉は出てきても、「粉末焼結積層造形法」について触れていないのは、(ギークにとって)注目に値する。その代わりに、「大きなレーザーの機械」で人形に命を吹き込むと説明している。

Makies in their new skin colours

Makieの新しい肌の色。ストロベリーミルク、アイスフロスティング、ココアビーン、ペイルピスタチオ。

彼らは今も製品の改良を続けている。Makieは今、肌の色が揃っている。また、おもちゃの安全基準も満たした。つまり、3歳以上の子供に販売できるようになったのだ。ただ、AliceはMakieが女の子だけのおもちゃではないことを強調する。男の子向けの製品も計画中だ。

ギークたちは正しい。今私たちが見ているのは、未来からのかすかなサインだ。もっと多くのMakieが世界に普及する。そしてこのおもちゃで、デザインやハッキングや物語を作って遊ぶようになる。


MakieはMakie.meウェブサイトまたは新しいiPadアプリでデザインできる。


– Andrew Sleigh

Andrew Sleigh:イギリスのブライトンを拠点に活躍する Maker、ライター、写真家。彼はペイルピスタチオ色の目でMakieを見守っている。秋に開かれるBrighton Mini Maker Faireでは、みんながMakieを持ち寄ってほしいと考えている。

原文