Fabrication

2013.04.02

知的所有権と自家製造の未来

Text by kanai

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知的所有権と、安価で分散型の積層造形法の衝突は避けられないものであり、予測が可能だった。これは決定的な戦いのひとつであり、良かれ悪しかれ、世界を変えるものだった。

対立は明白だ。特許と著作権は保護と独占のためにあり、一方、製造が後に続く開発の分野では、アイデアの創造、共有、改良が際限なく続くことが要求される。商標はブランドの管理であり、現実にはアイデンティティだ。その制度はこの分析には含まれない。

これから数年のうちに、この問題は前面に出てくる。従来型の設計や製造業者は売り上げの落ち込みを嘆くことになる。すべては、ライセンスなしかオープンソース(リバースエンジニアリングした)ものが反乱するせいだ。想像してほしい。「海賊版」iPhone5sと同等のものがフリーマーケット(またはオンラインショップ)でAppleの4分の1の値段で売られていたらどうだろう。待ってる間にプリントしてもらえる(電子基板、アンテナ、画面などすべてだ)。

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画像提供:webuyics.com

世界中の投資銀行、多国籍企業、政府がパニックに陥る様子を想像してほしい。古い制度では我々の資産は守れない。すべてはどこかのホビイストが作った安くて広く普及したラピッドプロトタイピング技術のお陰だ。今や、誰でもなんでも好きなものが作れる。さらに問題は、誰でも、私たちが買ったり苦労して開発したものを、一文も払わずに盗めてしまうことだ。

もうメチャクチャだ。なんとかしなければ。

SFの世界の話だと思うかもしれない。しかし、3カ月前に、Nokiaが新型Nokia Lumiaのカバーの3Dプリント用スペックを発表した。

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こんなブログ記事が載った(抜粋)。

「しかしそれに加えて、私たちは3Dテンプレート、ケーススペック、推奨素材、最適なパーティクルなど、自分だけのLumia 820用ケースを3Dプリントするのに必要な情報を提供する予定です。私たちは、これらをまとめて3Dプリンティング開発キット(3DK)と呼んでいます。

…「将来は、より幅広くモジュラー化とカスタマイズ可能な形になると考えています。おそらく、私たちの美しいデザインの電話機に加えて、電話機のテンプレートのようなものを販売して、世界の起業家が地方のビジネスとして、地元の要求に応えた特別な形の電話機を作って売ることが可能になります。防水電話でも夜光る電話でも、栓抜き付きでもソーラーチャージャー付きでも、誰かがあなたのために作ってくれます。あなた自身で作ることだってできます!」

まずは、Nokiaのこの先進的な考え方を称賛しよう。彼らは、プラットフォームをオープンにすることで、彼らの製品を好きになってくれる人が増えると考えている。そのプラットフォームの上に、起業家にビジネスを起こさせることで、より多くの人に彼らの製品が行き渡ると考えている。

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画像提供:BoardForge.com

一方で、先日のSXSWのCREATEステージで、BoardForgeという生まれたばかりのオープンソースハードウェアプロジェクトがデビューした。BoardForgeを支えるチームは、高品質のカスタム電子パーツ、おもに電子回路を作る際に大量発注しなければならない現状を変えることを目指している。彼らのウェブサイトから抜粋しよう。

「私たちはこれを、簡単に使えて入手しやすいベンチトップロボットで解消しようとしています。電子部品用のMakerBotだと考えてください。究極的には、この機械は、エッチング、ハンダペーストの塗布、部品の配置、ハンダ付け、テストまでを行うようになります。バージョン1.0では部品の配置ができます」

好むと好まざるとに関わらず、ほとんどあらゆる消費者向けエレクトロニクス製品の「海賊版」が作れる能力は、みんなが思っているよりも早く手に入る。そして、多くの産業が既存のビジネスモデルを守ろうと必死に抵抗する。

こんな声が聞こえてくる気がする。「海賊版を作る能力が手に入ったからって、そうするかどうかはわからない」と。そのとおりだ。しかし、それはこの会話とは関係がない。新しい技術のための新しいルールの施行は、つねに「最悪の犯罪者」を想定している。

これは問題(毎日デモンストレーションされている、広く行き渡った非効率な、あらゆる形式のメディアにおけるデジタル著作権管理のような)に対処できないだけでなく、罪のない、または善意の利用者をも対象にして、成果をあげたい一心で、安易な暴挙に出てしまうこともある。

現代の「ハッキング」には二通りある。「ホワイトハット」と「ブラックハット」、つまる善と悪だ。法体制が誰を追うほうにリソースをつぎ込むべきかは明かだよね?

賞を受賞したセキュリティー研究家のAndrew “Weev” Auernheimer(またの名を AT&T Hacker)は、先日、41カ月の懲役、執行猶予3年を言い渡され、AT&Tに7万3000ドルの返還を命じられた。

andrwe.jpg-w=300画像提供: techcrunch.com

彼の罪は? 1月に有罪が決まったあとの彼の言葉だ(抜粋)。

「2010年6月、オープンなインターネット上にAT&Tのウェブサーバーがあった。サーバーにはAPIがあり、最後に数字の入ったURLがあった。この数字を増やしていくと、次のiPad 3Gユーザーのメールアドレスが見られた。iPad 3Gオーナーの完全なターゲットリストを公開するなんて、AT&Tの甚だしい怠慢だと思った。そこで私は、API出力のサンプルをジャーナリストのGawkerに見せた

検察官のひとり、Michael Martinezは、公共のウェブサーバーを検索した我々の行為は「ESPNでスポーツチームの得点を調べるのとワケが違う」として有罪だと言った」

事実、AT&Tはデータを「公開」したことを法廷で認めた。彼らの言葉。公衆に向けたプログラマブルなAPIへのアクセスは、1日に無数の件数が増えた。彼らの昔のAPIに関するツイッターは130億件を超えた。地球の人口を超える数が毎日発生している。政府にとってこの件は問題ない。この出力を重要な人たちに向けて攻撃的なものに変更しない限りは。『社会に混乱をもたらす』起業家にとって、これは警告だ。次はあなたが狙われる」

この国で、連邦法に違反した人たちを真剣に訴えているのは弁護士だ。彼らのほとんどが新しい技術を理解していない。内部の小さなことや詳しいことにまるで興味がない。彼らに善悪の区別をつけてほしいと思うのは高望みだ。

既存の保護されたものに似ているか、まったく同じものを許可なく作ることは、なぜ別扱いになるのか。

問題は、「なんとかしなければならない」危機が問題を強引に動かすまで待つのか、または、分別のある大人として会話をして、事実と現実を我々の手に導くのかだ。

この道は前にも通ったことがある。

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画像提供: mbwda.com

このまま何もしないでいたら、お決まりの禁止事項がまた増えることになるだろう。

知的所有権の法律はそのままで、新しい政府機関がひとつかふたつできて、「自家製造ビジネス」を規制するようになる。

おそらくこれは、ライセンス制度となるだろう。そこでは、「自家製造ユニット」を所有し運営するために知的所有権の講習を受け、行政にライセンスのための料金を払い、作られるすべてのアイテムに識別番号を付けるようになる。あなたの機械とあなた自身に責任を負わせるのだ。

いいニュース:ライセンス取得のための講習は、機械の操作に関して最低レベルの上達をもたらす。製品の海賊版が作られたとき、欠陥があったとき、詐欺行為が行われたとき、誰を罰すればいいかがすぐにわかる。

悪いニュース:ライセンスが必要になると、ホビイストや愛好家たちはアウトローとなり、何もしなければ闇市場の一員とされてしまう。ライセンス制度に加わった人には、競争相手が減るという利点がある。しかし、すべての製品は製造した機械を特定できるようになるので、大量の信頼性の問題を引き起こす。そこはまだ真剣に考えられていない。

海賊版の問題では、すべての行為が意図的なものであるという前提だが、一体どれだけのアイデアがあるのだろう? どれだけのデザインがあるのだろう? 積層造形法は、すべてが「思いついたらデザインするかスキャンして、その場で作る」というデザイン過程で作られる。そのため、「他の人の知的所有権に抵触しないかを調べて確認する」作業はいつ行えばいいのか? プリントボタンを押す前か後か?

積層造形法は、成長可能な最小の市場のサイズを、1人の消費者にまで小さくできるので重要だ。自家製造者は、プリントを依頼されたすべてのデザインに対して調査を行うべき責任を負うのか? おそらくそうだ

このシナリオでは、知的所有権の損害賠償保険は強制になるだろう。不注意による違反が多発し、同じようなことが起こらないように懲罰的な反則金が科せられる。

しかし、こうしたツールの可能性が知られた以上は、創造性を萎えさせることはできない。マシンを手に入れるのは簡単だが、ライセンスが高価だ。そこで闇市場が栄えて、必然的に犯罪が起きる。禁止のためのコストはすでに積み上がっているため、手の施しようがない。しかし、これはおかしい……。

集団的ルネッサンス

特許には存在する意味がある。発明は無料ではなく、安くもない。しかし、今それがうまく機能していると誰が言えるだろうか。大手製造業は競争相手から訴訟を起こされたときに備えて、防衛的に特許を取得している。「特許トロル」と呼ばれる連中が宝くじのような感覚で特許を買い、強盗が拳銃を振り回すように法律を振りかざす。自分で作ったものでない価値を、震える被害者をよそに巻き上げていく。彼ら自身から奪うのでないだけ幸いだ。

個人発明家もその中にいるが、ひとつのアイデアで特許を取るとなると、数年の時間と数千ドルという費用(法的費用は別)がかかる。普通の個人で、自分で考えたアイデアを自腹で保護できる人がどれだけいるだろうか。そう多くはない。

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画像提供:poetryfoundation.com

リンカーンは「特許制度は天才という炎に興味という燃料を加えた」と言っている。それは本当だった。しかし、ここまでの数十年間、官僚主義のクレオソートと乱用によって、かつてはアメリカの創造的自由市場の活気ある部分であったものが、ゆっくりと狭められてきてしまった。

ひとつのサイズですべてに適合するようなものはない。産業革命以来、大量生産業者が経済を動かしてきた一方で、コストが上昇した。中央集中型の製造業では、ほんの小さなものを作るのでも大きなコストがかかる。「大量に作る」というマントラによって、最低下限価格に固定されたコストでのゼロサム思考へと導かれるのだが、残りの利益を巡って他の業者と競い合わなければならなくなる。これが、何を作るのであれ大量生産の本質だ。そこから生まれる文化は、技術的停滞と秘密主義だ。

このスペクトラムの反対側にあるのが、Thingiverseのような世界だ。ほとんどあらゆるデザインが無料で提供され、オープンソースだ。他の人たちが作ったものを、なんでも使えて、多少の変更改良組み立ての簡略化、あなたや他の人が作ったものとの組み合わせができて、それをさらに公開して、他の人たちに同じことをするように刺激を与えることができる。すべての作品にページが割り当てられていて、そこではその作品が何をベースにどのようにできてきたか、その血筋が誇らしげに書かれている。そこにひとつだけ欠けているのは、バリュープロポジション(商品の価値を提案すること)だ。これを別の場所で販売する彼らの他の商品の宣伝に使っている人がいる。しかし、ほとんどの人は、その新しい製造とデザインの現実で何ができるかを協調的に進化させようとしている。

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画像提供:instructables.com

次なるチャレンジは、このイノベーションの高潔な自己強化サイクルを、より革新的な方向へ導き、利益が得られる知的所有権に置き換えていくことだ。

リンゴの1000かじり

新しくて利益になりそうなアイデアがあり、その特許を現行制度のもとで取得する。それは結構なことだ。しかし、そこからどうやって金を生むか? それを売ることもできる(買いたい人がいればの話だが、アイデアは安い)。自分で市場に出したいのなら、製造業者、出資者、パッケージング業者、マーケティング業者、流通業者などなどを探す必要がある。ほとんどの特許は、既存の製品の改良なので、誰かがあなたの特許アイデアを改良して、その特許を取ろうとしたときに何が起こるだろうか? あなたのシステムが時代遅れになるだけではない。新しく開発した「最新鋭」の製品を作ろうとしたとき、非常に高いライセンス料を支払わなければならないか、あなたの技術の改良型の改良型を開発するという二重のコストが必要となる。時間と労力の無駄だ。

そうではなく、このデジタル世界の利点を活かすべきだ。クリエイティブ・コモンズの表示-継承 3.0ライセンスのコンセプトとBitcoinのようなオープンな決済システムを組み合わせて、Ricardian contractsを使ってすべて自動化するのだ。

これは、ひとつの商品が売れると、その製作ライン上にいるすべての人たちに価値が供給されるシステムを作るということだ。最初、この関係は単純なものだが、ここに好循環が起きると複雑になっていく。

開発への参加を促すために、少量のデザイン料を支払ってもよいだろう。よく考えられたちょっとしたアイデアなら10ドルといった具合に。誰かがそのデザインを詳しく調べたいときは50セントを支払う。それをプリントしたり、改良したり、使ったりしたいときは1ドル払う。既存のデザインを使ったり、それで実験したりがやりやすくなるように、料金はなるべく低く設定する。

このコンセプトは、世界最大の「レゴ」キットのようになる。あらゆるデザインの、すべての部分が登録、タグ付けされていて、作者によって保管され、それに続く開発者へ提供される。料金はライセンスとは違う。新しい開発者が既存のデザインを利用できることで節約される時間の代金だ。これは商用利用であっても、個人利用であっても同じだ。

この利用料の1ドルは、少なくともその50パーセントは直接の作者に支払われる。その前に遡るにつれて、開発者に支払われる金額は小さくなるが、決してゼロにはならない。

BitcoinOpenTransactionsと呼ばれるプロジェクトでは、0.00000001 bitcoinという少額まで扱える。実質的に手数料はかからない。あらかじめ決めておいた条件のもとで、自動的にフルフィルメントが行われる。

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単純化してみよう。もし私が新しい革新的なドアストッパーを発明して、このサービスにアップロードしたとする。あなたがそれを見てプリントしたいと思った。あなたは契約に従って1ドルをBitcoinが自動的に生成したアドレスに送る。するとファイルが送られてきて、これを元に作ったものを同じライセンスで公開することを条件に、プリントしたり改造したりする許可が与えられる。

コンテンツ作家である私は、一度だけこの契約書を作りサインをして、私の製品を気に入ってくれる人と同じぐらい、私をそこへ連れてきてくれた多くの人たちのために公開しておく。私のドアステップが、5世代目の革新的改良が加えられたものであれば、それ以前の開発者も同じようにしている。ただし、これによって支払われた1セントは、減衰の法則に従って残りの人たちとの間で分配される。長い時間がたって、あなたのデザインが広く使われるようになると、1回の使用で得られる金額は少なくなる。

すべての人にオープンソースの発明の代価を

アイデアや技術の保護に時間とエネルギーを使うのではなく、大勢の人が自分の発明を見てくれるように努力することのほうがよいと、すぐにわかるはずだ。誰かがそれを改良したいと思ったら、それは素晴らしいことだ。一時的に興味を持つだけでなく、改良されたバージョンを安価に利用して、独自の改良をそこに加えることもできる。

製造業では、コンテンツ所有者と半年で10万個を作る契約を交わすかわりに、「ローカル製造センター」として、このシステムから取得できるあらゆるものを、プリントするごとに1ドルを支払うだけで製造する場所となれる。顧客からは、一般的な市場価格をもとに、ライセンス料と材料費の差額を払ってもらう。さらに特別なものにしたければ、客は自分の好みに合わせてカスタムデザインを注文することもできる。

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画像提供:adafruit.com

クリエイターにとって、作ったすべてのものがライブラリーに収められ、自分が作った部分に適正にタグ付けしておけば、将来の発明に利用したい要素を探す中で、何度も何度も登場することになる。また消費者は、それを中心にして製品を作りたいと思う。これであなたは、時間が自由に使えるようになり、あなたのすべてのデザインはロングテールを有するようになり、すでに作られたものを守ることではなく、新しいアイデアの開発に集中できるようになるのだ。

これは大きな問題だ。私の間違ったところを指摘してほしい。そして、私が理解していない点を説明してほしい。それまでは、これはより生産的でオープンな未来へのよりよい道となるだろう。上質で、常に改良が加えられるデザインのライブラリーを今すぐ作ることができる。これは、安価にライセンスされ、そのためあらゆる場所で、デザインの裏にある精神に価値を提供しつつ、競争力を持って製造できる。

人は作りたい。なので、我々が身を置いている知的所有権の環境に敵対したり混乱させてでも作ろうとする。すべてのホビイストが夢を実現させようと努力しなかったとしても、こんな話をせずに、そのまま進んでいくことができたかもしれない。しかし、物事が進む方向はそれだけではない。

この後も、コメントでみんなと論議を深めていきたい。

Adam B. LevineMindToMatter.orgで新技術や世界の出来事について執筆中。The Daily MinufacturistThe Daily BitcoinThe Daily Exposureの監督も行っている。

– Adam B. Levine

原文