Electronics

2013.06.12

[NUC HACK]こだわりエンジニア高橋隆雄の『つぶやきの樹』

Text by pr

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2013年6月15日に開催される、Maker Conference Tokyo 2013(MCT2013)では、Makerたちのものづくりを支援するインテルが、「NUC HACK」と題して、手のひらサイズで驚異的なビジュアルと高性能を実現するPC、インテル(R) NUC を使ったアーティストたちのバラエティー豊かな作品を公開します。本ブログ記事では、Makerたちの創造力をかきたてるアーティストたちがつくった作品を、MCT2013へ向けて紹介していきます。[登場アーティスト(予定)]Rhizomatiks/高橋隆雄/岩崎修/森翔太

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盆栽のように鉢から伸び上っているケーブルの枝の先に、短冊ほどの大きさの黒いディスプレイがひとつひとつ取り付けられていく。最後のディスプレイをネジ留めし、電源を投入すると、ほどなくイニシャルメッセージが現れた。電話の受話器を取り上げる。

「9」「9」「#」

(……ピーッ!)

「こんにちは」――そう吹き込むと、ディスプレイのひとつに、たったいま話した言葉が「パッ」と表示された。

 

「つぶやき」を形あるものに結びつける

『つぶやきの樹』というこの作品は、かかってきた電話の音声を文字のメッセージに置き換えてディスプレイに表示する。集まった人たちが面白がって電話をかけ、思い思いのメッセージを吹き込みだした。

「みんなで作ろう」

「誕生日おめでとう」

「今日は直帰します」

「晩御飯食べてきて」

(ん? これは伝言板にも使えそう…)

『つぶやきの樹』は、手のひらサイズのPC、インテル(R) NUCでAsteriskというオープンソースのPBX(電話交換機)ソフトウェアを動作させて、実現している。Asteriskは、「99#」でかけられてきた通話から音声を取り出し、Googleの音声認識サービスを利用して文字列に変換、ディスプレイのひとつに表示するようにセットアップしてある。

NUCに市販の音声認識ソフトウェアをインストールすれば、Googleのサービスを使わないスタンドアロンシステムにもできる。デモンストレーションでは、構内回線として複数の電話をつないだが、もちろん外線から電話をかけるようにすることも可能だ。

 

DIYに使うのはお気に入りの技術

作者の高橋隆雄さんは、ハードウェアからソフトウェアまで守備範囲の広いエンジニアだ。「つぶやく」といえばTwitterというこの時代に、あえて「つぶやきを形あるもので表現したい」と考え、普通に話して表示される機械を作った。

気に入っている技術を使って好きなものを自由に作れるのが、趣味のDIYの最高に楽しいところだと、高橋さんは話す。そのこだわりが、『つぶやきの樹』にも随所に現れている。

 

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「VFD(蛍光表示管、作品に使用しているディスプレイ)って、かっこいいんですよ。液晶は角度によっては見にくいし、LEDは明るいところでは見えません。でも、VFDはいいとこ取り。これ、日本のオリジナル技術なんです」

「ケーブルは支柱に結束しました。私は常々、動いている回路を見せたいと思っているのです。だから、ケーブルも隠すのではなく、あえてむき出しにしています。ケーブルの枝ぶりは、段ボールに描いた絵にディスプレイを置いて検討しました」

「ディスプレイを支える真鍮製の支柱と、支柱に取り付けるためのフレームは、ロウ付け(はんだ付け)しています。フレームは、ディスプレイを取り付けられるようにネジ切りをしました」

「かかってきた通話を仕分けて、音声をGoogleの音声認識で変換させるような仕組みとして、Asterisk以外の選択肢は考えられません」

「鉢は、ずいぶん探しました。やっと、アクリル製のワインクーラーを見つけたんです。穴開けする時は亀裂を入れないように、気を遣いました」

「技術屋としては、機材を筐体(ふたを付けたワインクーラー)に入れたら、排熱は欠かせません。ほら、ここにちゃんとファンが入っています」

「この電話機? 600-P 型電話機です。アナログ式の黒電話も考えましたが、VFDに似合うのはプッシュホンでしょう」

「NUCはそれなりの性能があるので、Asteriskを使って、同時通話数が50程度の小型のPBXとしても使えそうです」

「NUCの配置位置のことですけど。アボカドを植えたことはありますか? 種がパカっと割れて、そこから根が出て、芽が出て。NUCは、種だと思うんです。土を押し上げて出てくる種。だから、どうしても鉢から斜めに顔が出ていなくちゃいけません」

 

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技術の「床下」を見せる

高橋さんには、クラウド化して見えにくくなっていく技術の「床下」を見せたい、物質的な技術レイヤーを見せたい、という思いがある。そこは、配線がケーブルが這っていたりする世界。透明な植木鉢の中のケーブルはきれいに短くしないで、あえてとぐろを巻かせた。「根が回っている」という表現が鉢植えに使われるが、「『つぶやきの樹』も根が回っていると言われたら本望」だそうだ。あなたなら、この作品にどんなメッセージを残す?

 

【DATA】高橋隆雄:オープンソースソフトウェアの利用を得意としているフリーランスのエンジニア。日本Asteriskユーザ会代表。「Make:Japan」誌の執筆者。Make:Tokyo Meetingの初期からの運用コントリビューターでもある。『たのしい電子工作 Arduinoでガジェットを作ろう!』『たのしい電子工作 Arduinoで電子工作をはじめよう!』『やさしいPICマイコン プログラミング&電子工作』など、著書多数。

【制作メモ】アクリル製ワインクーラーの本体に、AsteriskをセットアップしたNUCと、NUCとディスプレイに供給する電源を収容。NUCのUSBポートから自作のFTDIブレークアウト信号反転回路を介して5つのディスプレイをケーブル配線している。デモは、構内電話システムとして構成した。

NUCに関する詳しい情報はこちらから。