Electronics

2013.08.30

Maker父娘が博物館展示用の火星探査車を製作

Text by kanai

BeattyMarsRover_0635
Beatty家の女の子たちがNYSCIで火星探査車を準備(写真:Andrew Terranova)

ひとりの男性とその2人の小さな娘がNew York Hall of Science(NYSCI)に展示するためのロボットを製作することになったと聞いたら、驚くだろう。その話がまた面白い。小さなMakerたちや両親たちによい刺激を与えてくれる話だ。

ミシガン州立大学出身で機械工学の学位を持つRobert Beattyは、ソフトウェア会社を経営している。ロボットなど作ったこともなければ、エレクトロニクス工作の経験もない。彼の上の娘、11歳のCamilleがロボットを作りたいと持ちかけてきたとき、Robertは気乗りがしなかった。Camilleの9歳の妹、Genevieveもいっしょになって「私もロボットを作りたい」と言い出した。Camilleがロボットを作りたくなったのは、彼女が大好きなアニメ『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』の影響だ。Robertは挑戦に同意した。

ほとんど知識のないところからのスタートだった。Camilleは「真っ暗なトンネル」と表現している。まず最初のロボットを作った。そして次のロボットを作った。そしてまた次を作った。必要な知識はすべてインターネットで学んだ。必要なツールは買ったり作ったりした。その中には、金属パーツを作るための自家製CNCもあった。失敗を繰り返し、そこから学んでいった。ウェブサイト、Beatty Roboticsを立ち上げ、友だちや家族にプロジェクトの様子を公開した。そうして次第に人々に知られるようになっていった。

Samuel LittとKelley PeregoyがNYSCIのMars Roverを新しくしようと考えていたとき、Beatty一家のウェブサイトを発見した。一家が作っていたロボットが、火星探査車のスピリットとオポチュニティにそっくりだった。彼らはそのロボットをSpirit IIと名付けていた。サイズは小さく、完全なレプリカではなかったが、見栄えは良かった。KellyはBeatty一家に連絡をとり、博物館用に作ってくれないかと依頼した。

「私たちが展示していたオリジナルの探査車は長持ちしました。火星にある本物のスピリットより長生きでした。それらは時代遅れとなってしまったので、新しいものに交換する必要がありました」とKellyは私に話してくれた。経験豊富なプロに依頼したり、内部で作ったりせずに、ロボット好きの家族に発注するとうのは、かなりの冒険だったが、それが正解だった。

Robert, Camille, and Genevieve Beatty with their rover at NYSCI Photo Credit: Andrew Terranova
NYSCIで探査車を準備するBeatty一家のRobertとCamilleとGenevieve(写真:Andrew Terranova)

それを作るためには、Beatty一家はロボット製作のレベルを一段上げなければならなかった。「私たちのロボットはよく壊れるので、しょっちゅう直してやる必要がありました。子どもの博物館のためのロボットを作るということはよくわかってました」とCamille。それは子どもたちが使うものだから、頑丈でなければならない。それでも、多くの子どもたちに刺激を与える何かを加えたいという意欲に駆られた。

積極的なお姉さんに比べて内向的なGenevieveは、ハンダ付けの95パーセントを担当していた。CamilleやRobertが彼女抜きでハンダ付けをすると、「勝手にやっちゃったの?」と怒られる。GenevieveはCNCの操作も大好きだ。彼女は、彼らが作ったロボットのミニチュア版を作る。「これが伝統になったの」とCamille。「最初に大きなロボットを作って、それからミニ版を作るのよ」


Genevieveが探査車のモーターに配線をハンダ付けしているところ(写真:Beatty Robotics)

Camilleはロボットを組み立てるのが大好きで、組み立て作業のほとんどを担当している。また、ミニチュア垂直フライス盤でパーツを作ることも大好きで、CNCでパーツを設計して切削している。「ミニフライス盤はパーツの修正にいいの。最初からパーツを作るときはCNCを使うのよ」とCamille。


工房で火星探査車を作るCamille(写真:Beatty Robotics)

CamilleとGenevieveは13歳と10歳。ノースカロライナ州アシュビルのCarolina Day Schoolに通っている。「学校は違う視点から見るのが好きなの。去年は、レゴ Mindstormsの授業があったわ。私たちはプレゼンテーションを行って、演説をするの」とCamilleは話してくれた。Camilleのプレゼン能力はずば抜けている。Genevieveはシャイだが、自分の得意分野になると生き生きとしてくる。

2人がやっていることは、レゴ Mindstormsのレベルをとっくに超えている。先週の土曜日、彼女たちに感謝するNYSCI見学者のグループに対して、2人はロボット製作に関する発表を行った。父親は娘たちを前面に出して裏方に徹した。トークのほとんどはCamilleが担当し、父はノートパソコンからスライドショーの操作を行っていた。

Genevieve takes her turn explaining her role in building the rover. Photo Credit: Andrew Terranova
Genevieveが探査車製作での自分の役割について説明しているところ(写真:Andrew Terranova)

NYSCIは、この探査車をCamilleと命名したのだが、もう1台作るように一家に依頼した。そちらにはGenevieveと命名される予定だ。彼女たちはまた、プラハの宇宙博物館に、3台のミニチュア版火星探査車と、ロシアの月探査車ルノホートをモデルにしたロボット3台を作ることになっている。

Beatty製ルノホート(写真:Beatty Robotics)

一家は、小さいながらも設備の整ったガレージで一緒に作業をしている。工具もきちんと分類整理されている。彼らの工房には独特な約束ごとがある。工具をみんなで使うときは「真ん中に置く」ことになっている。床は黒く塗られているが、金属の削り屑が散乱して光っている。「宇宙の星みたいでしょ」とGenevieveは言っていた。

そこには、使っている間に壊れた工具や、切削に失敗したパーツや、焼けてしまった基板などを入れるBox of Shame(残念箱)が置かれている。しかしこの名前は、失敗は悪いことではないという一家の考えをユーモラスに表したものだ。失敗は学びの源だ。

Camilleの好きなプロジェクトにSnailbotがある。貝殻の中にロボットを組み込んだものだ。自然のものとテクノロジーを組み合わせるのが好きなのだ。Camilleはスティームパンク風のネックレスも作っている。これは彼らのウェブサイトで販売もしている。Genevieveは電信プロジェクトが大好きだ。彼らは、モールス・キーと音響器のセットを手に入れた。それをArduinoマイクロコトンローラーとXBee無線ボードを使って無線モールス通信機に仕立て上げた。Robertはこの楽しい通信機を、そそくさと自宅オフィスに持ち込んでしまったが、娘たちは、遊びたくなると、いつでもそれで遊んでいる。

さて、このBeatty一家の今後は? 次はGenevieve探査車を作って、NYSCIとの関係を続けていくだろう。

「彼らは小さなMakerたちの手本として、誰にでもこういうことができるのだという例を示してくれました」とNYSCIの社長兼CEOのMargaret Honey博士は話していた。

彼らの探査車は、マンハッタンの小児病院を巡るプログラムに参加する予定だ。入院している子どもたちも、このロボットで遊ぶことができる。

Beatty一家は、9月に開かれるMaker Faireに出展するために、再びニューヨークを訪れる。彼らは、同好のMakerたちと会えることを楽しみにしている。

– Andrew Terranova

原文