Electronics

2013.12.13

職場でMakerとしての自分を活かす

Text by kanai

Cloudfridge Arduino Yun

私たちの生活がテクノロジーによって支配されるようになればなるほど、世界はぼやけてくる。スマートフォン、タブレット、クラウドサービス、3Dプリンターなどの登場により、仕事場と私たちのプライベートな生活の場との境が溶けて消えた。仕事場で、個人的なメールを送ったり、クリスマスプレゼントを買ったり。家では、土曜日に仕事のメールに返事を書いたり、仕事に使う新しいソフトのことを調べたり。その合間に時間を見つけては、ガレージで機械いじりに励み、純粋な趣味として科学やテクノロジーの世界を散策するとはどういうことだったかを思い出す。こうしたガレージでのMakerの考え方を、仕事場に持ち込んでもいいはずだ。

仕事もテクノロジーコンサルタントもしていないとき、私はガレージで、子どもを喜ばせるためのハロウィンの小道具テニスボールを飛ばす投石機や、今取りかかっている、MAKE英語版 vol.36に掲載されたウェブ上の冷蔵庫など、あらゆるものを作っている。私のように、機械いじりとテクノロジーを使って自分で問題解決したい人間は何百万人もいるはずだ。しかし、こうした家での創造性を、仕事場で熱狂的に要求される革新的なアイデアを結びつけることには、メジャーリーグの選手になるほどの大きなチャンスがある。

MAKE創刊号を読んでから、Makerには仕事場で面白い役割を果たせるはずだと思ってきた。その号には、凧を改造して航空写真を撮るという記事が載っていた。もしあなたがショッピングセンターの経営者だったら、駐車場の車の駐車パターンを空から撮影することで、何かを学べないだろうか? 保険会社の人間なら、災害の被災地を上空から撮影することに価値が見いだせるのではないか? たしかに、航空写真自体は珍しいものではない。ただ、普通は高額だし、撮影までに時間もかかる。Makerは、小さなリスクと低いコストで大きなことができるというわけだ。

Makerと、ArduinoやRaspberry Piなどのマイクロプロセッサーを使ったプロトタイピングに代表される技術系コミュニティの中で高まる熱気を組み合わせたらどうか。大量のセンサーをそこに接続したら? あなたが販売する製品や職場で毎日使っているデバイスにセンサーを組み込み、いつ、どこで、どのように、どれくらいそれが使われているかを見ることができたらどうだろう? Makerがモノのインターネットにスポットライトを当てることができる。

Maker の考え方に投資する

私の個人的な経験から言わせてもらえば、ほとんどの企業は、市販されているテクノロジーで何ができるかに気づいておらず、どれだけ簡単にそれが実現できるかを知らない。Makerは、地に耳をつけ、空に目を見開いて、次に何が来るかを常に気にかけている。Makerこそ、職場を「なせば成る」の精神で熱くさせる立役者だ。Makerには、まったく毛色の異なるテクノロジーを組み合わせて、その可能性を最大限に引き出せる能力がある。それが、そんな魔法をもたらすのだ。言い換えれば、Makerは、モノを一から発明する必要がない。いろいろな既存のテクノロジーを組み合わせて、現実世界の問題を解決するというのがMaker流だからだ。

既存のテクノロジーを組み合わせた例を示そう。自動車エンジニアのMike Lempは、1995年、天文観察に関わる繁雑さをなんとかしようと考えた。解決すべき問題は2つ。ひとつは特定の星に望遠鏡を向けること。もうひとつは「今、土星はどこにある?」といった疑問に答えることだ。

MikeはSkyScoutという画期的なガジェットを開発した。これには、エアバッグを取り扱っていた関係で得たセンサーの知識が使われている。GPSで現在位置を特定し、加速度センサーとコンパスでデバイスの方向を三次元的に決める。方向が定まったら、目的の星を視野の中心に合わせてボタンを押す。すると、ディスプレイにはその星の名前や情報が表示される。特定の惑星や銀河を識別したいときは、ディスプレイでそれを指定すると、望遠鏡のファインダーに赤いLED矢印が出て、それがある方向を示してくれる。

MikeはMakerの考え方の持ち主だ。ひとつには、毎晩、現実に遭遇している問題を解決しようと考えたこと。そして、いくかの市販のセンサー(加速度センサー、コンパス、GPS)と、小さなCPU、ディスプレイ、簡単なソフトウェア、一般公開されている天文情報を組み合わせたことがそれだ。既存のものを組み合わせて、新しいものにして、世界の見え方を変えてしまったところに、彼の凄さがある。今ではスマートフォンやタブレットで天文観察用のアプリが普通に使われるようになった。それらのデバイスには、彼も使っていた3つのセンサーが最初から組み込まれている。彼の作品は、時代の先を行っていたのだ。

彼が務めていた自動車会社は、仕事以外では、彼がMakerであることを知っていただろうか。従業員の本来の才能を活用するために、その人がどんな人物なのかを知る方法はあるのだろうか。

みなさんはMakerとして、職場でその創造性を発揮して欲しいと言われたら、どう思うだろう? あなたの同僚は、あなたがMakerであることを知っているか? あなたが持っている技術、独創的な発想、情報をオフィスでも発揮できることを、会社のみんなは知っているか? あなたは、自分の想像力や発想力を職場で活かしたいと思っているか? それとも、あなたは会社のトップで、従業員のなかのMakerを探しだし、その能力を発揮させられる立場にいるのかもしれない。

仕事とプライベートとの境界がなくなり、生活のあらゆるも場面にテクノロジーが埋め込まれている今、企業とMakerが手を結ぶ理想の時だ。経営者は、会社の問題をクリエイティブに解決したいと考えているMakerを探し出して、その突飛な発想をビジネスに活かすことを考えるべきだ。

もしあなたが、夜はMaker、昼は従業員という生活を送っているなら、職場でMaker仲間を探して、いっしょにMaker的才能を会社に売り込まれることをお勧めする。お弁当を食べながら、そうした仲間と職場に活かせるアイデアを話し合うのもいいだろう。

あなたは、Makerとしての自分と仕事をどう結びつけているか。体験談をコメントに書いてほしい。

– Chris Curran

Chris Curran:PwCのチーフテクノロジストでMaker。

原文