Science

2014.01.20

コルテス海からのブログ:便利な科学?

Text by kanai

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前の記事で私たちの仮説を書いた。科学と探検のためのツールが安くなり誰の手にも届くようになれば、アマチュア探検家の新しい可能性が開くと。まあたしかに、科学と探検とは、単なるツールに対して大げさなテーマかもしれない。コルテス海への旅の準備を進める我々としては、すべてにおいて正直であるべきだろう。そもそも、この計画は科学的な仮説からスタートしたものではなかった。好奇心から始まったのだ。好奇心から枠組みができ、説明がなされ、計画が作られた。

Mac Cowell(DIYBio.orgGenefooの共同創設者)は、この旅の科学的な面を担当している。彼から、我々の考え方と、どのように進めていくかを説明してもらおう。

では、Mac、よろしく。

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Davidが言ったように、私たちはジョン・スタインベックとドクター・リケッツが59年前に旅した軌跡を辿ろうとしている。彼らは1940年代にコルテス海をのんびりと航海しながら探検を行い、科学的発見を重ねていった。船で湾内の各地を巡り、哲学し、海洋生物の調査を行った。

彼らのように、私たちも、バハカリフォルニアを、遊びと科学の精神で巡ろうと考えている。ただし、私たちはロボットや最新のバイオテクノロジーやDIY精神を連れて行く。さらに、海の大型動物を採取して分類するのではなく、湾内に棲息する微生物の遺伝子を、DNAシーケンシングとゲノム解析を使って調査するのだ。少なくとも、それに挑戦しようと思っている。この検査には私たちのツールを使用し、それがどこまで使えるものかを検証したい。

新しい科学的手法を切り開こうとか、目覚ましい科学的研究を行おうというのではない(スタインベックとリケッツはそうだったが)。これを始めた当初は、検証すべき仮説すら持っていなかった。ただのホビイストであり好事家として、我々の周囲の遺伝子の海を、遺伝子研究者が、そして今はMakerたちが切り開いている魅力的な(そしてどんどん身近になっている)技術を使いながら探検したいと思っただけだ。

メモ:この旅行に関連する法的、倫理的問題には十分に気をつけるつもりだ。私たちの主な目的は、限界を探り、それが市民探検にどう影響するかを確かめることにある。だから、物事を正しく行う必要があるのだ。次回の記事では、規制とそれに対する挑戦について考えてみたいと思う。そんなわけで、助言や心配やアイデアがあったらコメントをいただきたい。

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ゲノム解析の好機

海の微生物の中には多くのDNAが浮遊しているが、その大部分は塩基配列決定がされていない。海の水1滴あたり、数百万個の微生物のなかに1〜2兆のDNAの塩基があるとされている。海の生態系全体を見ると、その何倍も何倍もの量がある。ウイルスも含めればさらに膨大になる。研究者によれば、微生物はその棲息場所から採取されて研究室に持ち込まれたとき、その環境で生き伸びて成長できるのは全体の1〜10パーセントほどだそうだ。だから、棲息している環境でDNAの塩基配列決定が直接行えれば、偏りはあるかもしれないが、特定の生態系の中の微生物の、より完全な状態を示すことができる。(Gilbert 2011

研究者のなかには、生命体の輪郭を決める境界線について考え直そうという人たちがいる。各微生物を完全に独立した個体と考えるのではなく、部分的には独立しているが、機能的には微生物のコミュニティ全体がひとつの生物「メガオルガニズム」と考えるほうが合理的だというのだ。(Zarraonaindia 2013

このメガオルガニズムの考え方とDNAの塩基配列決定を使って、微生物の遺伝子とゲノムのコミュニティを直接調査することは、メタジェノミクスと呼ばれる比較的新しい研究分野の核をなす。最近の報告によると、メタジェノミクスとは、特定の生態的地位にある遺伝子とゲノムの共同体を調べ、「誰がいるか?」「何をしているのか?」「誰がそれをしているのか?」「進化がどのようにそれを促しているのか?」を尋ねることだと公式に説明している。(Kennedy 2010

DNA塩基配列決定のコストが下がったことで、メタジェノミクスの研究はこの10年間で爆発的に発展した。なかでももっとも知られているは、愉快な科学者、Craig Venter率いるGlobal Ocean Sampling (GOS) Expeditionだ。2004年から2006年にかけて、帆船で世界を回り、海洋微生物のサンプルを採取した。2003年の先行調査では、サルガッソー海から採取した標本から、1ギガベース(GB)の一意のDNAの塩基配列をショットガン・サンガー法で決定し、100万個以上の遺伝子を発見した。本番のGOS調査旅行では、さらに多くが発見され記録された。

その他にメタジェノミクス技法を使った調査には、ヒトの小腸(ヒトの健康に関する研究)、酸性鉱山の排水溝の底(環境改善に関する研究)、海綿(新薬の開発)に棲む複雑な微生物コミュニティを対象にしたものがある。

この分野に関する2011年のGilbertとDupontによる報告では、海のメタジェノミクスの大規模な研究は、90年代半ばから45件ほど行われているという。

塩基配列決定の技術が進歩したとは言え、コミュニティから分離できるDNAのほんの一部しか塩基配列の決定ができない。だから、メタジェノミクスの研究は、標本のなかのもっとも情報的価値の高いDNAを対象に選択的に行うようにデザインされているのが普通だ。それには、環境的単一遺伝子調査とランダム・ショットガン調査という2つの調査方法がある。最新の海洋メタジェノミクスに関する報告を引用しよう。

「[環境的単一遺伝子調査]は、指定的、集中的メタジェノミック調査として見られる。単一のターゲットをPCRで増幅し、その生成物を塩基配列決定して、特定のコミュニティのなかの遺伝子の、相同遺伝子の幅を分析する」

ランダム・ショットガン・メタジェノミクスは、サンプルからDNA全体を分離し、塩基配列決定を行い、コミュニティ内のすべての遺伝子の概略を知るというものだ。どちらの方式でも、コミュニティの範囲は、塩基配列決定の深さによって決まる。つまり、塩基配列決定の際に、どれかけの遺伝子の破片が得られるかによる」

さて、我々はどの方式でいくかと言えば、まだ決めていない。両方の方式の手順やらコスト(そして合法性)を調べているところだ。
ここに我々が集めた資料のMendeleyがある。私たちが読んだほうがよいと思われる資料があれば、推薦してほしい。(誰にでもアクセス可能なメタジェノミクスの解説は、ここここここで読める(英語)。

思ったのだが、単一遺伝子調査を、蛍光タンパク質を探すようにデザインできないだろうか。変性プライマーがターゲットにできるような既知の蛍光タンパク質ファミリーの塩基配列が保存されているかどうかは知らないが、もしそれが可能なら、ちょっとクールな研究ができる。新しい蛍光タンパク質を発見できるかもしれない。

少なくとも、「伝統的なメタジェノミクス」はできるだろう。DNAバーコーディングの手法で、いくつかの標本の微生物の多様性とを分布構成を推測できる。これは、16SリボソームDNA塩基配列と、もしかしたらよく知られた代謝関連遺伝子を調べるための、もうひとつの単一遺伝子調査法になるかもしれない。

さらに、微生物の多様性が、pH、温度、深度、溶解鉄、硝酸塩、酸素、他の有機体との距離といった特定の環境パラメータでどう変化するかを調べることもできる。私たちは、採取した標本ごとにそれらを調べ、GPS座標と写真を添えて記録する。

ともかく、私たちは基本的なメタジェノミクスを行おうと思っている。採用する方式が決まったら、また報告したい。だが、基本的には、海洋微生物コミュニティの標本を採取し、メタジェノミクス分析のためのDNAを保存し、標本の顕微鏡写真を撮影し、採取した位置ごとに環境的な条件を測定する予定だ。

これから本屋とハードウェアショップを廻ってくる。

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参考資料

Gilbert, J. a., & Dupont, C. L. (2011). Microbial Metagenomics: Beyond the Genome. Annual Review of Marine Science, 3(1), 347–371. doi:10.1146/annurev-marine-120709-142811

Kennedy, J., Flemer, B., Jackson, S. a, Lejon, D. P. H., Morrissey, J. P., O’Gara, F., & Dobson, A. D. W. (2010). Marine metagenomics: new tools for the study and exploitation of marine microbial metabolism. Marine drugs, 8(3), 608–28. doi:10.3390/md8030608

Men, A., Forrest, S., & Siemering, K. (2011). Metagenomics and beyond: new toolboxes for microbial systematics. Microbiology Australia, 32, 86–89. Retrieved from http://microbiology.publish.csiro.au/view/journals/dsp_journal_file.cfm?file_id=MA11086.pdf

Zarraonaindia, I., Smith, D. P., & Gilbert, J. a. (2013). Beyond the genome: community-level analysis of the microbial world. Biology & philosophy, 28(2), 261–282. doi:10.1007/s10539-012-9357-8

– David Lang

原文