Science

2014.02.13

市民科学と市民探検:誰がルールを決める?

Text by kanai

Ed Ricketts in his lab in 1945 - dissecting a shark. Photo by Peter Stackpole (Yes, most amazingly, Eric Stackpole's grandfather). SU Archive #158.
自宅研究室でサメを解剖するEd Ricketts (1945) – 写真:Peter Stackpole(そう、なんとEric Stackpoleのおじいさん)。SU Archive #158.

コルテス海探検旅行の準備を進めているとき、誰かが何気なくこう聞いた。どんな許可がいるのだろうかと。それで私たちは、メキシコで生物標本を採取するための正式な許可を取った。

いや、正確にはこうだ。

オーケー、じゃあ許可をとろう。難しいことはないだろう。書類に必票事項を書き込んで送れば、郵便で許可が届く。なんでもないよ。

いや、正確にはこうだ。

科学研究所などの後ろ盾がない市民探検家のグループにとって、許可の獲得には恐ろしいほどの努力が必要だった。調べれば調べるほど、複雑に入り組んでいく。Googleでその手続きに関して少し検索すると、メキシコのアメリカ大使館のウェブサイトに行き当たる。そこには、次のように書かれている。

「調査申請書が国務省またはメキシコシティの米国大使館に提出されると、それはメキシコ外交事務局(SRE)に送られます。SREは、メキシコ政府を代表して審査と承認の手続きをとりまとめます。申請書はメキシコの関係技術研究機関で審査され承認されますが、最終的な公式の承認が行える権限は、SREのみが有します。申請は複数の期間で審査されることがあり、その場合は、各機関が個別に承認した後に、SREが最終的な認証を行うことになるので注意してください。審査を担当したひとつ機関が承認したからと言って、他のすべての審査担当機関が承認したことにはならず、それによってSREが最終的な承認を行うという保証にはなりません。

SREの最終承認は、外交文書の形で下され、大使館に送られます。それを受けて、大使館は、許可証を郵便またはFAXで申請者に届けます。SREからの正式な許可証を受け取るまでは、調査は行えません。SREからの外交文書によって承認されたもの以外のあらゆる調査は、メキシコ政府がそれを認めません」

これはほんの序文にすぎない。このあと、うんざりするような条件の話が続く。そのすべては、プロの科学者には当たり前のことのように見えるが、我々のようなグループにはどうだろう。いや考えまい。科学者の友人に聞いたが、彼らも補助金の申請書類を書くことでほとんどの時間が取られているそうだ。劇的にコストを削減することで、長い長い補助金申請の書類を書かずに済ませる。そのほうが時間も節約できる。これをやっていては、その方針が崩れてしまう。

釣具店で当日遊漁券が買える世界なら、水の標本を採るための方法はきっとあるはずだ。私はさらに調べてみた。そして、ウェブサイトに記載されていたアドレス(MexicoSciencePermits@state.gov)にメールして、我々のようなアマチュアはどうしたらよいかを問い合わせた。返事はすぐに返ってきた。丁寧な文面で、そのようなことは聞かれたことが一度もないと伝えてきた。さらに調査が必要となった。その後、いくつかの電子メールのやりとりを行い、指揮系統をさかのぼったが、まだ満足のいく回答が得られない。そこでいくつかの疑問が湧いてきた。我々がやろうとしていることはそもそも科学なのだろうか? 研究機関と協力することはできないだろうか? 許可が得られかったとしたら、どこまでが許されるのだろうか? どこから科学的調査となるのだろうか?

「国務省は、教育機関、とくにバトラー博士が所長を務める機関が行うもの以外は、海洋無脊椎動物の採取に関して、ほとんど、またはまったく関心を持っていなかった。政府は、そうした手続きを、一般の個人に対して行ったことはない。おまけに国務省は、我々が問題を起こして助けを求めてくることがないことを切に願っていた」- ジョン・スタインベック 『The Log from the Sea of Cortez(コルテスの海 航海日誌)』

ルールを破ろうとは思っていない。生物資源の盗賊行為でメキシコの牢獄にぶち込まれるのだけは避けたい。しかし、どこに伝手があるのだろう。本当に誰も知らなかった。科学や探検のためのツールのコストが下がり、新しい可能性が開かれ、市民探検家の活動範囲が広がり、そこに新たな疑問が生まれ出た。

私たちは、そうしたツールの能力を自分たちで確かめたかった。権威ある官僚システムは、それを明らかにする方法を持たない。Makerの世界を見渡せば、計画が法的知識の範囲を超えたところで、別の新しい問題が発生する。

規制のぶつかり合い

UAV(無人飛行機)のコミュニティは、ラジコン飛行機のホビイストと商用航空会社の中間のややっこしい立場にあるのだが、いまだにFAA(連邦航空局)がルールを定めるのを待っている状態だ。一般の人間にも買える価格のUAVが、複雑な未知の問題の蓋を開けてしまった。そこには、安全性、経済性、プライバシー、技術的能力といった問題が絡み合っている。それは、アマゾンやドミノピザが計画している商用運用の粋を超えて、たとえ密漁者の監視にUAVを使いたいという南アフリカの自然保護活動家のような、全世界のアマチュアに関係してくる大きな問題だ。

ルール作りに不適格な人

Glowing Plant(光る植物)のプロジェクトがKickstarterで論議を呼んだが、バイオテクノロジーを支持する人たちと、遺伝子組み換えに反対する人たちが、Kickstarterのサイトに相応しい、または相応しくないプロジェクトについて意見を交わした。

Kickstarterは周囲を見回して、科学者の意見を聞き、最良と思われる決断を下した。結局、彼らは、寄付の謝礼として遺伝子組み換え生物を配ることを禁止した。彼らには荷の重すぎる判断だったことは理解できる。では、誰が判断すべきだったのか?

倫理的問題

市民微生物プロジェクト、uBiomeは、ヒトに関する研究を、施設内倫理委員会(IRB)の承認を得ずに行ったことで、倫理的な議論を巻き起こした。職業的な科学者であれば、さまざまな団体や学会の倫理規定に縛られることになる。しかし、アマチュアの場合は、そうしたルールがいつどのように適用されるのかが不明瞭だ。

倫理規定のリストはどんどん長くなっている。そして、ここの状況がまた新しい疑問を提示する。どこから手を付けていいのか誰にもわからないが、何らかの規定が必要であることは、みんなも同意するところだ。単にネガティブな結果を生みそうなものを制限するのではなく、有益性が見込まれるものを奨励し支援するほうに重点を置くべきだろう。

uBiomeの問題に関連して、科学者でブロガーのLee Danielle博士は、市民科学者はもっと自己管理を厳しくすべきと主張している。博士はuBinomeに批判的で、建設的な助言はしていないが、科学の倫理に関する説明と意味付けをわかりやすく語っている。

「1人の人間が線をはみ出せば、その影響は全員に及び、あれこれ詮索され、非倫理的だと非難されることにもなる」

これは、市民科学にも市民探検にも言えることだ。ルールや規制の問題だけではない。このムーブメントを有用で楽しいものにしているアマチュアとプロの科学者との関係においてもそれが重要だ。すべてのグループが、開かれた心でそこへ向かうべきだと私は考える。科学者は、忍耐力を持って市民科学プロジェクトを応援する。監督する立場の人間は、こうした一般市民の参加を奨励する方法を探る。そして市民探検家と市民科学者は、何を知っておくべきかを理解し、フィードバックや建設的な批判を受け入れる。

できるからやる、ではいけない。慎重であるべきだからといって、やらないのもよくない。

Stewart BrandがEsther Dysonに送った手紙で、「警戒的用心(Cautionary Vigilance)」を提案している。

「それは問題解析のひとつの形だ。新しい技術や発明は、すべて、複雑な要素を解体して個別の項目に並べ替えてじっくり考えなければならない。その成果は、時間を追うごとに現れる証拠から判断される」

私はこの考え方が好きだ。とくに、絶滅種の復元などの最新技術やその応用に関してはそうだと思う。しかし、技術が一般に広く普及して、より大きな、そして根本的に異質な文化的インパクトを与えているような場合に、それが可能かはわからない。そのときは、誰が用心するのだろうか? 誰が監視するのだろうか?

市民科学と市民探検でも、同じような考え方が必要だ。科学コミュニティの知恵と監視を取り入れ、時間をツールとして使い、しかし同時に、奇抜で独創的な参加者を歓迎する。公的なフォーラムの姿をした「警戒的用心」だ。

私たちが計画している科学の話に針を戻そう。私たちのコルテス海の旅では、機材のテストを行い、構想を実証する予定だ。また、改良点も見つけ出す。より成長して賢くなって、必要なすべての許可を取って、また旅に戻るためだ。

「こうした、たくさんの小さな間違いを見で、私たちはこう結論付けた。見知らぬ地域での標本採取の旅は二度行うべきだ。一度は失敗するため、もう一度はそれを修正するためだ」- ジョン・スタインベック『The Log from the Sea of Cortez(コルテスの海 航海日誌)』

– David Lang

原文