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2014.06.02

「Year of the Maker」Maker Faire Bay Area 2014レポート

Text by guest

2014年5月18日、19日の2日間、アメリカ、サンフランシスコのサンマテオにて、世界最大のMaker Faireである、Maker Faire Bay Area 2014が開催され、900組を越えるMakerが出展し、10万人以上の来場者がMakerのためのお祭りを存分に堪能しました。今回は日本からMaker Faire Bayareaに出展した「品モノラボ」の田中章愛さんに、現地からのレポートを寄稿いただきました。(日本語版編集部)

EL_PULPO_MECANICO
EL PULPO MECANICO(Photo by Asuka Kadowaki)色々なメディアで取り上げられているのでもう説明不要かもしれませんが、メインの入場口の目の前にあり、問答無用で目立っている展示でした。見た目のひょうきんさの割には、カッコいいエレクトロミュージックに合わせてリズムよく火を噴き、炎の熱波と周囲の人々の熱気が相まって物凄い熱量の展示でした。

品モノラボは、品川に縁のあるものづくりを愛する人々が仕事が終わった「放課後」に集まるコミュニティです。隔月のMeetupや「ものづくりバンド活動」をベースに、会社員から学生・先生まで、さまざまな人たちが分野を問わず実践的なものづくりについて学び、シェアをし、手を動かして作ったりしています。

品モノラボはこれまでもMaker Faire Tokyoに出展してきましたが、先日開催されたMaker Faire Bay Areaにも出展してきました。「Shinamonolab Makers Collection」と題し、SUGO-SOOZ、8pino、MCU Gear、UZUKI、Four Beat、真空管アンプ内蔵ヘッドホンの6点を展示。それぞれ技術モノからエンターテインメントまで幅広い作品で、子どもも大人も楽しめ、活気と笑顔があふれる展示にすることができました。当日の様子はぜひ品モノラボのFacebookページでご覧ください。

ではまずMaker Faire Bay Areaで、心に残った展示をご紹介したいと思います。

・Drone Fight
drone

いまさらドローンか、とも思われるかもしれませんが、これは単にドローンを飛ばすわけではなく文字通り体当たりの真剣勝負の対戦形式のイベントで、オーディエンスは大変な盛り上がりをみせていました。競技はぶつかりあいのバトルとアスレチック形式のタイムアタックで、どちらもとても高度なドローンの操縦能力が必要です。

1対1のバトルだけでなく、最後はたくさんのドローンが入り乱れるデスマッチとなり、プロレスなどの戦闘モノが大好きなアメリカらしいエンターテイメントでした。中には試合開始早々ネットに引っかかってしまい、最後までぶら下がっているような機体もありました。とにかくこのイベントのエンターテイメント性は相当なもので、大きなブームが来そうな予感がします。

Tempo Automation
TempoAutomation

Tempo Automationはデスクトップサイズのチップマウンタを開発するスタートアップです。昨年のMaker Faire Bay Areaでもラフなプロトタイプを展示していましたが、今回は満を持して完成度の高い製品直前バージョンを展示していました。

高価なリール用のマガジンは使わずに、小ロットに特化し、テーブルに部品を並べる方式とカメラによる画像認識を組み合わせることで、小型化・低価格化を目指しています。価格について質問をしてみたところ、逆に「いくらが妥当?」と聞かれてしまいました。こういった機材が安価に普及すれば個人・小ロットのものづくりに新風が吹きそうです。

Taktia
taktia

加工ツール分野の新しい木工用電動工具Taktiaもぜひ紹介したいと思ったプロジェクトでした。カメラによるマーカー認識と小型X-Yテーブルを用いており、熟練していない作業者でもCADで描いた通りに加工ができる「Computer Augmented Power Tool」というコンセプトを提唱しています。

あえて囲いを付けてテーブルに固定しないのは、これによって不揃いな大木の一部だけを加工したり、既存の机をそのまま加工したりなど、絶対座標系ではなく相対座標系で加工できるような機動力の方にメリットを感じているからとのこと。昔ながらの木工作ツールとロボティクスを融合した新しい方法に未来を感じます。

R2 Builders Club
R2D2

スターウォーズのメインキャラクターの一つ、R2-D2をひたすら作っているR2-D2自作コミュニティです。とても洗練された自作R2-D2たちがたくさんいて、会場でも存在感がある展示でした。しかも、よく見るとそれぞれのR2-D2には少しずつ特徴があって、目が慣れてくると個性豊かなR2-D2の姿を楽しむことができます。オーディエンスに人気があったのは、ひときわ目立つ黒の「ダークサイドR2-D2」。Maker Faireらしさを色濃く反映したコミュニティの展示だと思います。

品モノラボがBayareaに出展をしたいくつかの理由

shinamono

今回、品モノラボでははじめて海外のMaker Faireに出展に挑戦してみましたが、出展自体のハードルは日本のMaker Faireに出展したことのある方であれば(旅費を除けば)、ほとんど問題ないと感じました。英語を勉強する良いきっかけにもなります。

私たちが今年Maker Faire Bay Areaまで足を延ばしたのには3つの理由がありました。

本家の「空気」を感じる人々を増やし、良い部分を持ち帰りたい

Maker Faireは新商品の展示会や技術展ではなく、自由なものづくりを象徴する文化的なお祭りです。最近は日本のメディアからも海外の情報が入るようになりましたが、世界中の作り手と心から共感をもってつながるには、作り手としてイベントに参加して、同じ「空気」を共有するのが一番です。

その本家の「空気」を一言で言い表すのは難しいのですが、「挑戦をリスペクトし、褒めあう・認め合う雰囲気」「冗談や笑顔を交えながら率直で真剣な議論をする雰囲気」「人を楽しませるにも、まず自分が最大限楽しむ」ことなのかもしれないと現地で感じました。

自分たちや日本が培ったものづくりの本当の価値を再発見したい

日本では現在さまざまなところでものづくりの危機が叫ばれていますが、これは本当なのでしょうか。もしかすると自分たちに自信がないだけなのではないでしょうか。判断に迷うときは、当事者ではない第三者によって、自分たちの価値を再発見してもらうのもよい方法なのかもしれません。

今回、私自身は世界最小級のArduino互換機、8pinoを出展しました。徹底的に簡素化されたモノは、より多くの創造性をもたらすと考えています。Maker Faire Bay Areaでは巨大な展示が多いこともあったので、正反対の方向性を打ち出すことで、インパクトを与えたいという意図もありました。

とはいいつつも、実は個人的には、簡素化と小型化という、従来の日本のある種の正統的なものづくりを実践しただけで、あまりこの作品に自信がなかったのです。しかし、Bay Areaの現場ではものすごい反応で、「欲しい」「今すぐ売ってくれ」という言葉をたくさんいただきました。「日本のミニチュアリズムの価値は健在だね!」と言われたときは、本当にうれしかったです。この反応のおかげで「これは世界に届けなくては」という思いが強まりました。

「日本発世界へ」ではなく「世界の仲間と響きあうものづくり」に

ひとりひとりの個性を日本という背景と合わせて発信することで、世界の人々はその特徴に共感をしてくれます。今回、私たちは自分から作品を発信したことによって、世界中の人々の接点が増え、ものづくりの心が真の意味で響き合うような仲間が増えた感覚を何度も味わいました。

世界に少しでも価値を提供するようなことができれば、その先一緒に苦楽を共にしながら挑戦する仲間が世界中に増え、未来へとつながる関係を構築することができます。日本から国外に向かって何かを輸出するのではなく、世界の人々とともにものづくりをすることで、自然と世界に受け入れられることができるのではないかと、私は考えています。

withdale
Maker向けのパーティーでは、Makeのファウンダー Dale Doughertyにパエリアをよそってもらいました。(写真右が筆者)

Maker Faireに出展することは「ものづくり」という共通の背景を共有しながら話せる仲間をたくさん見つけ、世界の最先端の現場を知り、自分たちの価値を再発見できるとても素晴らしい機会になります。来年はぜひもっと多くの日本の方々と現地でお会いできればうれしいです。

─ Akichika Tanaka