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2016.02.25

Mini Maker Faire Barcelonaレポート(1)—スペインや中南米から広がる教育のアイデア

Text by Toshinao Ruike

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世界に先駆けて数年前からIoTの教育プログラムが行われてきたバルセロナ。バルセロナは今年からMaker Faireの規模が大きくなるという話を、昨年Arduinoの教育ディレクターDavid Cuartiellesから聞かされ、今回(名前にはMiniが付くが)Mini Maker Faire Barcelonaの様子を取材してきた(2016年2月7日開催)。やはり教育関係のシンポジウムや展示が充実していたが、実際に訪れてみると興味深い作品が特に音楽系の展示(教育関係を含めて)に多かったのが印象に残った。

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会場となったのは、これまでも教育プログラムの発表会などが行われてきた科学博物館、Cosmo Caixa。ArduinoのDavid Cuartiellesによる基調講演から始まり、地元教育者によるカンファレンスや教育プログラムを受けた子どもたちの成果の発表などが行われた。今回はIoTで家の状態をモニターする装置を発表していたが、以前にScratchやProcessingの学習を経ていると話していた。

バルセロナのMakerスペース、Made BCNによる毎分ごとに砂に時刻を書き出す砂時計。これまでもホワイトボードに時間を書き出す作品や最近話題になったおもりによって歯車が回り磁気ボードに時刻が書き出される作品があったが、一般的な砂時計とは違う方法で砂を活用している点が面白い。

Instròniksはカタルーニャの山奥の村Navasで公立中学校・高校で技術科の教師をしている2人組。Instròniksはクッキー缶や卵のパッケージ、IKEAのランプなど、身の回りのものを何でも楽器にすることを得意としている。上の動画ではIKEAのランプにつまみを付けて、音と光の周波数を変化させている。

今回は3Dプリンターがプリントする際に出すノイズを使ってリズムをシーケンスさせていた。上の動画では音が十分拾えていないが、「ジー、ジー」という3Dプリンター特有のノイズをリズムパートにしてQueenの「We will rock you」を演奏している。ボタンを配置したクッキー缶にArduinoを入れて作った自作楽器でメロディを奏でている。

上の動画は、家庭用の分電盤を改造してパーカッシブな音を出すようにした楽器と、洗濯物干し(ヨーロッパでは一般的なタイプ)の洗濯物を吊る線の部分を導電性の素材にした楽器、Sisitronikを合奏させてみたものだ。

演奏そのものの音はチープなもので、音楽表現的にもかなり限られたものだが、重要な点は彼らが教育者という立場で身近な雑貨などに手を加えて制作しているという点。いつでも入手できるようなものであれば、他所で教育プログラムを行う場合もその真似をしやすいのだ。Instròniksはバルセロナから車で1時間半ほどかかる人口6千人弱の小さな村、Navasを拠点にしているが、つまり彼らが山間ののどかな村で考えたIoTの教育アイデアはスペインだけでなく、日本でも世界のどこでも実践を行いやすいものなのだ。

彼らはNavasでTICdateというメーカーのためのイヴェントを開催したり、ローマまで出向いてMaker Faire Romeの音楽ステージに出演したり、かなり精力的に活動している。本業の学校教育の方でも既にIoTを活用した授業を行ったり、生徒を集めてInstròniks Quartetを結成し、近隣の町村のイヴェントに出演している。

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こちらの楽器はコロンビアのボゴダで開発されたオールインワン教育用楽器(弦楽器+打楽器+管楽器)。ラテンアメリカ開発銀行CAFの助成を受けたプロジェクトLudófonoの一部。

斜めに張られた弦を琴のように弾く楽器で、胴体はパーカッションにもなり、プリマイクを取り付けるための穴も用意されている。また埋め込まれた縦笛は演奏だけでなく、調弦の際にも役立つ。さらに発表会などのためにマイクやミキサー、アンプなどの機材とマニュアルを1クラス分をパッケージ化。とりあえずこれが1台あれば楽器の種類やその特性を学ぶことができるし、合奏にも便利ではないだろうか。日本の音楽授業にも十分に活用できそうだ。

地域によって経済格差が激しく、音楽教育を行き渡らせることが容易ではない中南米の国で、様々な状況での音楽授業を想定してデザインされたものだが、現在ヨーロッパにもこの音楽教育用パッケージを普及させようと試みているそうだ。

昨年10月のMaker Faire Romeでも制作方法がオープン化されたワインを入れる木箱などの廃材を利用したギターがアルゼンチンから出展されていたが、こういった経済的に低迷しているスペインや中南米の国から限られたリソースで教育を行うためのアイデアが提案されている。また日本にもいわゆるへき地と呼ばれるような音楽教育の行き届かない地域の問題があり、単に興味深いというだけでなく、日本にとっても何かしら参考にできる点はあるのではないだろうか。