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2016.02.26

Mini Maker Faire Barcelonaレポート(2)— バルセロナの音楽系メーカーたち(1弦デジタルシンセベース、デジタルハンドパンほか)

Text by Toshinao Ruike

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Rockin’ Tech ProjectsはÒscar Carmonaによるプロジェクトで、数年前から1弦のデジタルシンセベースギターUnostringをMaker Faireなどに出展している。たった1弦のベースだが、Softpotによる位置接触センサーを用いたデジタルシンセなので、通常のベースと違い各フレットに割り振られる音階が半音階ずつスライドしていくのではなく、手元のコントローラーでスケールやチューニングが自由に変化させられる。

TeensyとTeensy用のオーディオボードと音関係のライブラリを利用し、コントローラー部分は自分でデザインした基板を使っている。上の動画ではAbleton Liveが動いているPCとUSBで繋がっている。いくつかの試作を経て、今回はさらにTeensyを使って超音波センサーによるエフェクトが付いたリズムシーケンサーVoidも合わせて出展。将来的にはクラウドファンディングなども視野に入れて、ユーザーにこれらの楽器を提供する機会があればしたいと思っているそうだ。

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バルセロナ在住のハンドパン奏者、Ravid Goldschmidtがインタラクティブアートの専門家Alex Posadaとともに開発したデジタル版ハンドパンOval。ハンドパンはスイスで開発された中華鍋のような形の打楽器だが、これはそのデジタル版でPCやモバイルアプリと接続して音の組み合わせを自由に変えることができる。

中華鍋をひっくり返したような形をした打楽器ハンドパンは近年スイスで開発されて人気を博していたが、オリジナルの製作者が昨年生産が中止してしまった。今は人気に供給が追い付かず、コピーも多数出回っているが、製作が大変難しい楽器のためクオリティーにばらつきがあり、オリジナルのハンドパン、Hangは現在オークションで価格が高騰している。そういった背景の中、Ovalは昨年Kickstarterで目標額の300%を達成、バルセロナから生産・販売が開始された。デモンストレーションを行ったRavidはスイスでHangの製作を学んだ後、Ovalの開発を始めたが、本人はミュージシャンでもあるため、日本でのデモンストレーションを兼ねたライブやワークショップも行いたいそうだ。

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432 Risingは楽曲で用いられる完全五度・完全四度の周波数の倍率4:3:2にこだわってデザインされたDJセット。端子の数が4だったり、ターンテーブルの寸法がその割合でデザインされているらしく、数字にこだわって制作されている。プロモーションビデオはかっこいいが、音楽性より音楽知識に偏ったアイデアから生まれた変態度の高いプロダクトだと言えよう。こちらもバルセロナ発。

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会場にはワークショップのスペースが設けられ、段ボールで作るシンプルな義手やオープンソースの巾着袋Taskaなど制作時間1時間ほどのワークショップが行われていた。

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段ボール製の義手でブースの中の出展者と拳を合わせる子ども

前回から2回にわたってMini Maker Faire BCNの模様をレポートしたが、地元の教育関係者が集まったシンポジウムが行われたり、前回の記事で取り上げたような教育と結びついた出展も多く、地元の小中高生が集まり、会場のかなりの部分がワークショップのためのスペースで占められている。ヨーロッパ一大規模なローマのMaker Faireには及ばないが、地域で教育にこれから注力していく姿勢が伺えた。地元の関係機関と協力関係を築きながら、今後日本のMaker Faireで教育プログラムを行う上で参考にできる部分もあると思う。

また他所や過去のバルセロナでのMaker Faireと比べても、音楽系の出展が目立って多かった。バルセロナは日本の音楽企業と共同で研究を行っている大学もあり、元々音楽テクノロジー系の研究者は他より多い場所だが、今回取り上げたMakerたちはそういったアカデミックな方面との繋がりはほとんどなく、個々に制作を行っている者がほとんどのようだった。バルセロナは夏場の音楽フェスティバルを除いてそれほど音楽文化は華やかな町ではないが、音楽系のものづくりに向かわせる何かがこの町にはあるのだろうか。