Electronics

2016.04.08

ArduinoがMKR1000を発売:作例公開プラットフォームとクラウド開発環境も発表

Text by Alasdair Allan
Translated by kanai

Arduino Dayの祝賀会で、共同創設者がユーザーに向けて3つの発表を行った。ひとつはArduino MKR1000だ。小型の多機能ボードで、2015年末に発表されていたものだ。それが出荷されることとなった。さらにそれに伴い、より大きなポテンシャルを持つものとして、次世代のコミュニティ・プロジェクト・プラットフォームと、その次世代開発環境を発表した。

Arduino MKR1000

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MKR1000は、Arduinoの伝統的なフォームファクターと、その論争を呼んだヘッダーのオフセットから脱却した。

Atmel ATSAMW25をベースに、省電力化のためにCortex-M0+ 32ビット ARMチップを採用。Wi-Fi、LiPo充電回路を搭載し、オンボードの暗号化に対応している。言い換えれば、これは急成長するIoT(モノのインターネット)市場を真っ直ぐに狙ったものだ。

MKR1000は、米国では34.99ドルで発売されている。それ以外の地域では30.99ユーロ + 付加価値税だ。Genuinoという名前で販売される。

Arduinoは、2015年の12月にこのボードのことを発表し、さらに、hackster.ioとMicrosoftとのパートナーシップで1,000台のボードを提供することを約束した。World’s Largest Arduino Maker Challenge(世界最大のArduino Maker Challenge)というコンテストのためだ。賞品はMaker Faire Shenzen、New York、Parisの旅行と、Adafruitの500ドル分のギフト券。すでに参加申し込みは締め切られている。100をほんの少し下回る数のプロジェクトの中から勝者が決められ、今月末に発表される。

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Arduinoプロジェクトハブ

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Arduinoコミュニティのおかげで、Arduinoは他のボードと大きく差別化されている。膨大な数のコード、コミュニティのサポート、その他、無料でオープンソースのリソースがボード周辺に用意されている。つまり、何か問題に突き当たったら、それに先に突き当たって解決した人から答が聞けるということだ。そうしたサポートとコミュニティによって、マイクロコントローラーやフィジカルコンピューティングを始めようという人たちの、デフォルトのプラットフォームとなっている。

だがそれは同時に、変化が、特にコミュニティの存在を脅かす変化が心配されることにもなる。そのため、今日の新しいコミュニティプラットフォームの発表は、見た目よりも、ずっと大きな前進を意味している。World’s Largest Arduino Maker Challengeと同様に、新しいチュートリアルのプラットフォームは、hackster.ioが提供している。そこではすでに、大量のArduinoプロジェクトが公開されているが、どのようなオフィシャルなサポート、つまりここがプロジェクトを発表する場所だとコミュニティに言える場所が、成長を続ける社会的プラットフォームに何をしてくれるのかが楽しみだ。

Arduino IoT宣言

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しかしこれは、(ネットワーク用にデザインされた)MKR1000でArduinoをIoTの方向へ進出することが今日の発表でわかったというだけの話ではない。数々の新しいウェブサービスのなかには、Arduino IoTがある。これは、IoTを始めたいと思っている人たちのためのチュートリアルやガイダンスをまとめてホスティングするものだ。

とはいえ、このサイトでもっとも重要なのは、チュートリアルやプロジェクト例ではない。それはおそらく、新しいArduino IoT宣言だろう。これには、ArduinoがIoTにどう取り組むかだけでなく、そのためのツールをどのように開発したいか、他社がどのように独自の IoT 関連製品を作るべきかに関する考えを示している。

同じ土地(イタリア)から生まれたスローフード運動にあやかり、Arduinoでも、次の3つの原則を提案したいと思います。この芽生えたばかりの業界の将来に向けて、オープン、持続可能、そしてフェアであること!

そのプッシュの心臓部となるのは、Arduino Cloudだ。新しいMKR1000ボードを中心にデザインされているが、より新しい公式Arduino Wi-Fiシールド(MKR1000と同様にオンボードの暗号化をサポートしている)にも対応している。このクラウドでは、ArduinoはMQTTを使って直接インターネットに接続したり、Arduino 同士を接続させたりが可能になる。

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非常に初期のアルファーリリースである現在のArduino Cloudは、最終製品の「機能の1パーセント」ということだ。今はまだ制限があるようだが、クラウドの可能性がArduinoのコアプラットフォームにベイクされたとき、パーティクルクラウドなどの環境にどのような効果をもたらすのかが楽しみだ。

2015年の半ばあたりに、私は、マイクロコントローラーの市場がある一定の統合に向けて動いているという話をした。この統合とは、デスクトップパソコンの市場のものとは違う。パソコンの場合、モデルの多様性が消え、わずか数種類のハードウェアしか残らなかった。マイクロコントローラーの場合は、ハードウェアのレベルではなく、クラウドAPIやツールのレベルで統合されるのだ。

個人的に私が思うに、Arduino Cloud環境は、そうした論議の次なる部品となるだろう。今回発表された新しいArduino IDEのボード管理機能が加わることで、Arduino開発環境では、すでに対応するボードの統合が起きている。そうしたすべてのボードのデフォルトのクラウドプラットフォームも用意される。

Arduino Create環境

おそらく、Arduinoからの最大の発表は、Arduino Createプラットフォームだろう。開発環境はまだプライベートベータの段階で、ベータテスターたちからのフィードバックを受けて、ウェブベースのコードが微調整されている。今日の話では、ほとんど完成しているという。

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こんな約束もあった。これまで私たちが慣れ親しんできた古い(良い部分も悪い部分もあれこれ引き継いでいる)Arduino開発プラットフォームを、元の形の有線プラットフォームから、新しい柔軟なウェブベースのツールチェーンに置き換えるというものだ。

ブラウザーのプラグインを使うことで、新しい環境は、ブラウザーと直接接続したあらゆるArduinoへのコードの記述やスケッチのアップロードが可能になる。スケッチの保存やサービスへの接続もクラウドで行えるようになる。

まとめ

以上の話をばらばらに聞けば、今日の発表は散漫なものだったように聞こえるかもしれないが、これらをひとつにまとめると、1本の道筋が浮かび上がる。そして、Arduinoプラットフォームの未来の姿が見えてくる。

Arduinoにはもともと、マイクロコントローラーを普通のMakerの手に行き渡させるという考えがあり、それは驚くほどの成功を収めた。これが最初のボードではないが、ArduinoがフィジカルコンピューティングとMakerムーブメントの火付け役であったことは確かだ。

この数年のESP8266の成功は証明されているが、フィジカルコンピューティングの未来とは、ネットワークそのものだ。昔、机の上のコンピューターは独立していた。今は、ほとんどの人にとって、ネットワークにつながっていないコンピューターは、スイッチの入っていないコンピューターと同じ意味しか持たない。

私たちの生活はネットワークとクラウドとに結びつけられている。そして間もなく、そこへモノもつながるようになる。Arduinoが自らを生まれ変わらせることができれば、そしてネットワーク化されたモノを、マイクロコントローラーをすべてのMakerの机の上に届けたときと同じ程度にまで民主化できれば、たくさんのことが良い方向へ変化するだろう。

原文