Fabrication

2017.05.25

八ヶ岳のパン工房をDIY #1 — ガレージ+物置小屋の基礎作り

Text by Noriko Matsushita

編集部から:新刊『マイクロシェルター』に関連して、このmakezine.jpに記事を書いていただいている松下典子さんが実際に工房を作った際の経験を3回シリーズの記事として寄稿していただきました。

筆者は、コンピューター関連書籍の編集者/ライターを生業としているが、2015年秋に八ヶ岳にペロンタというカフェをオープンした。それは11年前、八ヶ岳の別荘地と東京のマンションの2拠点での生活を始めたのがきっかけだ。別荘地内にも光回線が開通し、スマホの電波も届く。仕事には不自由はしないが、困るのは近くにカフェがないこと。都心ならスターバックスやドトールがどこにでもあるが、ここでは一番近い喫茶店まで車で40分かかる。

ならば、自分でカフェを始めようと思い立った。近所の仲間が集まって情報交換できるような場になるといい。趣味のパン作りを生かして、自家製のパンでバーガーを出そう。

しかし、調べてみると、カフェで自家製のパンやお菓子を提供するには、専用の工房が必要だという。そこで、母屋に隣接する物置小屋を片づけて、保健所の営業許可が取れるパン工房に改装することになった。菓子製造業の営業許可があれば、イベント出店もできる。

物置小屋の大きさは、幅4×奥行き2メートル。要は、床としてコンパネ4枚を並べたサイズだ。切妻屋根で、最も高い部分は約3メートルになる。ガレージと一体になった構造で、2007~2008年にかけてパートナーがほぼ一人で手作りしたものだ。DIYの参考になる点もあると思われるので、ガレージ+物置小屋の製作開始から話を始めよう。

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ガレージ+物置小屋の外観。

山荘は森の中にある小さなログハウスで、冬になると膝のあたりまで雪が積もる場所にある。車の出し入れを考えると、屋根があって雪をしのげるガレージがあると便利だ。そこで出入りに使っている道路に面した斜面の一部を掘り下げてガレージを作り、残った部分に物置小屋を設置する計画を立てた。なお、ガレージは建築基準法上、建築物に該当する。防火地域や準防火地域、または10平方メートル以上の建造物では建築確認申請が必要になるので、建築を始める前に各自治体へ申請しよう。

建物の正確な位置を決める

まずは、ガレージ+物置小屋の予定地の周りに「遣り方」を作る。遣り方は、地面に打った杭を板でつないだもので、角は直角、板の上辺はすべて同じ高さで水平になっているものだ。ここに水糸と呼ぶ糸を張って、建物の正確な位置を決める。板を水平に張るわけだが、距離が長いため、小さな水平器ではズレが生じてしまう。そこで、建築ではホースに水を入れ、両側の水面に合わせて杭に印を付ける方法がよく使われる。今回は、ご近所さんからシンワ製の電子水もり管を借りた。電子水もり管は、装置を基準の杭に固定して、もう一方の離れた杭でホースを上下に動かすと、水平の位置でブザーが鳴る。回り込んで装置が見えない場所でも音で知らせてくれるので、簡単に作業を進めることができる。一人工事には便利なアイテムだ。

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遣り方。下のホースが電子水もり管

遣り方ができたら水糸を張り、それに合わせて斜面を掘り下げて整地する。

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水糸を張り、ひたすら掘る

パワーショベルがあれば楽だが、ごく普通のショベルでの手掘り作業。掘った土は敷地のほかの場所へ一輪車で運ぶ。かなりの重労働で、今回のプロジェクトの中では唯一、2度とやりたくない工程だ。

基礎を立てる

次は、基礎代わりの束石の固定。このあたりは冬に土が凍って盛り上がり、地表の形が変わってしまう。また、凍結した土の力は強く、束石を地面に置いただけでは簡単に持ち上がってしまう。そのため、凍結深度(冬に土が凍る深さ)より深い穴を掘って、砕石を入れて突き固め、その上に束石を置くという作業を行う。

このあたりの凍結深度である80センチまで穴を掘り、砕石の上に硬めに練ったモルタルを乗せた。はじめのうちは、ショベルを使っていたがなかなか掘り進まない。ホームセンターで「ポストホールディガー」という器具を見つけ、これを使ってみた。2本のショベルを地面に突き刺し、土をつかみ出せるので、効率よく細く深い穴が掘れる。

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ポストホールディガーを使うと穴掘りがはかどる

穴ができたら、水糸を基準に「下げ振り」(糸のぶら下げたおもり)を下ろして束石の中心を決め、水平器を使って上面を水平にする。モルタルを入れておくと、束石の動きに合わせて変形してくれるので、水平をとる作業がやりやすい。

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底にモルタルを少し流し込んでおく

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束石を水平に固定する

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ガレージに6本、小屋部分に6本の計12箇所に設置した

石で土留め

土が流れてこないように、石で土留めをした。小屋部分は一段高い場所に建てる。別荘地は岩の多い区画もあり、建設時に出た石を集めている石置き場があり、軽トラを借りて3往復くらいして運んできた。パズルのように積み上げる。崩れないか心配だったが、10年目の現在も無事だ。

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石を積んだ土留め

根太枠を作る

次に小屋の土台となる根太を組む。4メートル近い2×6材を切ることになるが、作業台には乗らないので、片側をウッドデッキに置き、脚立を活用して台にした。

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まず、基準にする一番奥の2×6を組み、残りの枠を順に固定していく。コーススレッド1本で4×4を切った束柱に仮固定し、柱の垂直と各辺の水平を確認しながら、コーススレッドを追加、束柱を羽子板に固定する。

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枠の板の上に水平器を置き、水平を確認しながら固定していく。直角は対角線の長さで確認する

続いて、長辺の中間の束柱を取り付ければ枠の完成。

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長い束柱に筋交いを入れ、余った4×4を挟んで補強した。

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根太の固定はシンプソン金具のLUS26を使用。これでがっちり固定できる。

小屋のステージ作り

束柱を塗装し、根太の上にサブロクの合板を張る。コーススレッドで留めていくが、どの板も留める位置は同じなので位置をマークした棒を用意した。棒を合板の上に置き、マークの位置にドリル刃をつけたインパクトドライバーで下穴を次々に開け、ドリル刃からドライバーに変えて51ミリのコーススレッドを打ち込む。

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写っているのは、ビットの先に別のビットをつけられるアダプター。これに下穴を開けるためのドリル刃をつけておくと、ドリルとドライバーを素早く切り替えられて便利

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4枚張ってステージが完成

ウッドデッキなら、ここまでの工程で完成だ。壁と屋根を付ければ小屋になる。次回は、ここから小屋とガレージに仕上げていく工程を紹介しよう。