Other

2017.10.25

Maker Faire New York 2017 #3 アマチュア無線、ビデオシンセ、ベクタースキャン… レガシーメディアを遊び尽くす

Text by Toshinao Ruike

アマチュア無線やラジオ、モジュラーシンセサイザー、8mm・16mmフィルムやブラウン管のモニターなど、愛好家を除いて現在ほとんど使われなくなったが、30代以上の世代の多くのメイカーにとっては、それらをバラしたり組み立てたりして電子工作に慣れ親しむきっかけになったのではないだろうか。

今年のMaker Faire New Yorkには、既に多くの人々が使うものではなくなったレガシーメディアの部類を今日の技術でアップデートした作品にいくつか秀逸なものがあったので紹介しよう。

Taezoo ParkによるTV Beingは積み重ねられた古い小型のブラウン管モニターにArduinoや円や線など単純な図形をベクタースキャンで描いたり、Raspberry Piから惑星の映像を出力している作品。昔のメディアアート、特にTVを多用したナム・ジュン・パイクの作品を思い出させるが、このTV Beingは既に過去の遺物になってしまったブラウン管のTVを現在の視点から振り返って、TVモニターを使った作品として再構築している。ブラウン管TVが既に現在の生活から切り離された今だからできる作品だが、HP上での作者本人の解説によると、打ち捨てられたテクノロジーから形のない生き物が生まれて交信し始めるというストーリーを持っている。

同じブラウン管を使っているという点で和田永率いるエレクトロニコス・ファンタスティコスによるブラウン管を使った楽器を思い出すが、こちらは人間から切り離されて機器が一人立ちしているような印象があり、別種の面白さが感じられる。

img_20170924_105523

大量のコードが絡まっているTV Beingの背面。高電圧を用いているため床には立入禁止のラインが貼ってあったが、電源は5V・9V・12Vと3種類の電圧で分岐されていて、 TVとRFモジュラーとArduinoとRaspberry piそれぞれの各機器に接続してある。

Jonas Bersによるビデオミキサーとモジュラータイプのビデオシンセサイザーを使った作品。90年代前半に発売された2台のPanasonicのビデオミキサーWJ-MX50と70年代に開発されたビデオシンセサイザーRutt/Etraと最近発売されたLZX industriesのユーロラックに収まる映像のモジュラーシンセサイザー、そしてJonas本人がデザインして制作したシンセサイザーがつながっている

dscn4947

さらにAxolotiを使って手前のキーボードをコントローラーとして用いて生成したリサジュー図形の3D映像をベクタースキャン型モニターに描画、そして上の画像の右奥にあるモニターの画面を小さな囲われた暗室のようなスペースの中にあるカメラで撮影してプロジェクターで壁に投映している。

モジュラーシンセサイザーというと映像よりも音楽で用いられるシンセサイザーの方が一般によく知られているが、+/-12vの消費電流で繋げられた各モジュールのオシレーターが発しているのビデオ信号だけではなくオーディオ信号やLFOも含まれるが、それらが最終的に映像として出力されている。音楽用のシンセサイザーでつまみを捻ったりパッチングして音を歪めたりするような感覚と近い感覚で映像を歪めたり、色調や大小など様々変化させられる面白さがあり、またデジタルで作られる映像作品にはないテクスチャーを持った作品を作れそうだ。

dscn5112

Raspberry Piとカメラモジュール、あるいはデジタル一眼レフカメラを使い昔の8mm・16mmフィルムを低価格で保存するオープンソース・プロジェクト、DIY Vintage Film Restoration with a Pi or DSLR。PythonベースのソフトウェアでRaspberry Piからカメラをコントロールして毎分30~120フレームのイメージをキャプチャー、またはヴィンテージのフィルムをさらに高画質で残したい場合にはCanonのデジタル一眼レフカメラを使いメモリーカードから読み込めるGPLライセンスのソフトウェア、Magic Lanternを使ってキャプチャする(カメラのファームウェアには手を加えず、あくまで拡張アプリケーションとして機能する。)

dscn5176

Hall of Scienceのアマチュア無線クラブによるAM電波を使ったデータ通信のデモンストレーション。インターネットが普及した今、アマチュア無線は一部の愛好家のものだろうと思ってしまうが、今夏アメリカでハリケーンに相次いで見舞われ通信網が寸断された際も、AM電波によるデータ通信は可能で、デジタル画像を送信して被害状況についてやり取りするために役立ったそうだ。AM電波なので暗号化はされていないためプライバシーは保てないが、電気さえあればかなり広い範囲に電波を飛ばして交信することができる。何かと災害の多い日本でもアマチュア無線の技術は役立ちそうだ。

今回紹介した内容は生まれた時から日常的にデジタル機器に触れているデジタル・ネイティブ世代にとってはまるで原始時代の道具を発掘して紹介しているようなものかもしれないが、単なる考古学的な意味や懐古趣味だけではなく、「Maker」という言葉が使われる前の時代の電子工作の原点に戻って、今の時代における新旧の技術の価値や意味を改めて見直しているように思えた。