Crafts

2018.04.20

街の菜園を耕してコミュニティのハブにする

Text by Sophia Smith
Translated by kanai

ニワトリがコッコと歩き、アヒルがガーガーと鳴き、道の向こう側の校庭では子どもたちがボールを蹴って遊んでいる。そんなBottom’s Upコミュニティ菜園にいると、そこがカリフォルニア州ウェスト・オークランドのローワー・ボトムズという街のど真ん中であることを忘れてしまう。

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サンフランシスコのベイエリア(湾岸地区)には、裕福な地域と、恵まれない地域がパッチワークのように混在している。ウェスト・オークランドは後者だ。この菜園を作った中の一人、Jason Byrnesによれば、食料の調達に関するかぎり、ローワー・ボトムズは砂漠だと言う。この街に食料品店はない。わずかに食料品を扱っていた99セントショップも撤退してしまった。菜園の運営者の一人、Seneca Scottは、ウェスト・オークランドの状態をこう語る。「荒廃しています。ウィンドウが割られた車をよく見かけますし、家の窓にもテープが貼られています」

この菜園が提供しているのは、食料とコミュニティだけではない。そこは避難所なのだ。「私たちは、この地域に大いに貢献していると自負しています。みんな、安全な雰囲気になったと話してくれます」とScottは言う。

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目的を持った植物

Byrnesは、Bottom’s Upを3年前に立ち上げた。最初は放置された畑を寄せ集めたものだったが、今ではおよそ325平方メートルの畑に作物があふれている。彼は、この他にもいくつかのコミュニティ菜園を持ち、そこでヤギやニワトリやアヒル(それらは人が食べないものを食べてくれる)、そしてミツバチも飼っている。彼らは毎週、地元のレストランに農作物を販売している。The Cook and Her Farmer、Swan’s Market、Desco、Floraなど、すべてオークランドの店だ。

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やらなければならなかった、と彼は言う。「選択の余地はありませんでした。何かを作らなければ、自分が許せませんでした」。Byrnesは菜園の中で育った。しかし、コミュニティ菜園には「コミュニティ」がないと感じることが多かった。「畑の区画が点々とあるだけで、コミュニティ菜園とは真逆のものでした」。サンタローザに住んでいたころは、自分の畑で採れすぎた野菜を近所に分けていた。「1年か2年が経つと、近所の人全員が畑をやるようになり、お互いの名前を覚えるほどになりました。これは、単なる菜園以上のものになると感じました」と彼は話す。「しっかりとしたコミュニティがあれば、すべての菜園はコミュニティ菜園になります」

一方、Scottは、労働組合「SEIU 1021」のイーストベイ支部長だった。農業の経験はまったくない。ただ、料理が好きだったので参加するようになった。「自分を植えて自分の根を伸ばす、というのが私たちの哲学です」とScottは言う。それは、継続的に自分の時間を割くことであり、自分を嵐にさらして鍛えることでもある。一朝一夕にはいかないが、かならず実現する。

文化を耕す

ScottとByrnesは、菜園に関してルールをほとんど設けていない。階層構造ではないため、組織図もない。だが、参加の度合いに違いがある。この2人はメインの運営者だ。その他に、5人ほどの常連のボランティアがいて、彼らのFacebookページには317名の会員がいる。そして、近所の人たちは、彼らの活動によって直接的または間接的な利益を受け取っている。

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Bottoms Upコミュニティ菜園:私たちの使命は単純。生き残ること。私たちは、現在の工業的な農業システムを、地元に根ざした食料需給システムを確立することによって非植民地化し、コミュニティの健康、栄養、意識、生物学的多様性を高めることを目指しています。創造性、教育、効率性、回復力が私たちの柱です。愛が原動力です。5歳から75歳のボランティアが活躍しています。参加したい方は、とにかく来てください。誰でも歓迎します。経験は不問。私たちの活動の様子は、FacebookページのBottoms Up Community Gardenでご覧いただけます。

「誰かが何かを植えると、みんなでその投資を守り、努力の結果が必ず得られるようにします。しかし、それは個人の所有物ではありません。みんなのものです。この土地の所有権が、コミュニティより優先されることは決してありません」とScottは説明している。

この菜園での活動は、すべての人の公益のためのものだ。彼らはワークショップを開くこともある。特別に教えたい知識があれば、ボランティアが行うこともある。菜園に関することとはかぎらない。なんでもありだ。「可能性は無限」というのがByrnesとScottの考え方だ。誰でも参加できて、好きなことがやれる。ヨガのワークショップであったり、詩の朗読であったり、いろいろだ。

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ニワトリとアヒルの無料ワークショップ。1月9日土曜日1時から。ここで!

しばらくの間、菜園では毎日、朝の7時からカフェを開いていた。Scottはそれを、近所の人たち全員が参加するための起点になると考えていた。「人々がお客さんとしてやって来るようになりました。そしてパーティーを開くようになり、そこはコミュニティのハブとなったのです」と彼は話してくれた。

そこは大変な人気となり、今でもBottom’s Up Caféで検索するとジオタグが出てくるはずだ。ただし、現在は営業していない。市から営業許可を取っていなかったため、警告を受けたのだ。それからは、DIYヒップホップ音楽フェスティバル「Oakhella」が、畑の中で開かれるようになった。2016年から、もう6回も開催されている。

「この場所が素晴らしいのは、すべての人の才能を拡大してくれるところです。カフェは、空き地ならどこでもよかったわけじゃない。Oakhellaも他の場所では成功しなかったでしょう」とByrnesは言う。Bottom’s Upに参加する人々のエネルギーとビジョンがなければ、それは成立しなかった。Scottは、すべての人が互いに恩恵を受けていること、つまりすべての人が価値を高めていることが、どんなに特別なことかを強調する。「しかし、みんなには責任感があります。気の弱い人には難しいでしょう。決して互いに無礼を働かない。でも、同意を強要することはありません」

異議を唱えてもよい。そのほうが、むしろ建設的だ。ByrnesもScottも、非常に意志が固い。彼らは菜園のずっと向こうを見ている。Bottom’s Upのやり方は昔のままだが、考え方は未来的だとScottは言う。彼は「宇宙家族ジェットソン」と「原始家族フリントストーン」を引き合いに出して説明してくれた。自分たちにとって有益な技術を採り入れて、持続可能な方向に進む。技術は我々の働き方と、仕事の見方を変化させると彼は言う。「技術は動きます。技術には魂もなければ感情もない。その責任は私たちにあります。だからもし、世の中から仕事がなくなって、人が働かなくてよい未来へ進んでいったとしたら、どうします? コミュニティのために働く。アートに、自己表現に専念する。一日中それができるのです。ゴールは利益ではありません。農業システムをこの土地に定着させることです」。そう、農業システムだ。Scottにとって、それは単に植物を育てることを意味しない。より大きなことを目指しているからだ。

オーガニックに組織する

静かな水曜日の午後、この小さな菜園で照りつける日差しの下に座っていると、4月30日に、この場所のぐらぐらするステージのまわりに500人もの人たちが詰め寄せてOakhellaが開かれたことなど、まったく想像できない(だが、Instagramにその証拠が残っている)。畑には大きな被害はなかった。地元の同意も得ている。

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「運営者として、私たちは音楽フェスティバルを開くことで、コミュニティ菜園に何ができるかを示したかったんです。それは、人々がコミュニティ菜園に抱いているイメージの幅を広げることになります」とScottは話す。

Scottは、この菜園でいろいろ学んできたと話している。植物の育て方、テーブルの作り方、運営の仕方。運営には、単純に人を集めることから、いろいろな社会的プログラムの失敗例や成功例を学ぶことも含まれる。彼は「The Village」のことを話してくれた。グローブ・シャフター公園にあった草の根のホームレスキャンプだ。そこでは多くのホームレスが恩恵を受けていた。しかし、オークランド市は、これを違法として、年の初めに取り壊してしまった。その後、市は独自にホームレスキャンプを設置したが、5月1日に焼失してしまった。これは、コミュニティが求めているものは行政ではなく、自分たちの中から生まれた代表者であるということを厳しく示している。

オークランドにも、政治や行政とコミュニティの代表者との衝突の長い歴史がある。ブラックパンサー党とその無料朝食支給活動は、ウェスト・オークランドでの都市農業の確立に大きな影響を与えた。「(政府が)農作物を管理するかぎり、彼らは人々も管理しています。なので、農作物の管理権を持つ活動には、どんなものであれ価値があります。ブラックパンサー党が結成されたときから、この地域は、今と同じ場所にあったのです」とScottは言う。

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ScottとByrnesは、次に何を考えているのだろう?「人を集めると力が生まれます。もっと多くの人を集めたい。しかし、私たちがみんなに望むことは、自分で菜園を作ることです」とScottが言うと、「そこのOakhellaに行きたいからね」とByrnesが口を挟む。「私たちも協力はできますが、まず、自主性を持つことです。なにより、動機を考えることです。自分は何がしたいのか、それはなぜか。次に、技術を揃える必要があります。(Byrnesと私)は、10人ほど人を集めて、それぞれ何が得意なのかを探りました。最初のころ、私はここで何をしていたと思います? 片付けや水やりや掃除です。みんなで集まって、何が得意かを探して、そしてエゴを捨てる。私たちも大きなエゴを持ってます。ここで大げんかをしたこともありましたよ。でも、それだけここを大切に思っているということです」とScottは話す。

ByrnesとScottは、近所で窓ガラスが割られた車から巨大な富の集中と、不条理をたくさん見てきた。すべてはつながっている。世界は恐ろしい場所だ。次に何が起きるかわからない。「それまで、私たちはこれを続けます。パーティーを開いて、地元に投資します。浮かれ騒いで、人生を生きて、野菜を育てます」とScottは言っていた。

詰まるところ、人は食べなければ生きてゆけないのだ。

原文