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2014.07.24

「Makerは究極のリア充。見ているだけでおもしろい」電子工作漫画「ハルロック」著者 西餅さんインタビュー

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「ハルロック」は、マンガ週刊誌「モーニング」誌上で連載中の電子工作漫画だ。主人公で電子工作&分解マニアの天然女子大生「はるちゃん」と、その周囲の人々が織りなすドタバタコメディ漫画なのだが、一方で作中に登場する電子工作の設計や使用している部品のリアリティの高さが、多くのMakerたちの共感を得ている。どのようにしてこのマニア心をくすぐる作品が生まれたのか。7/23に単行本第1巻が発行された「ハルロック」作者の西餅さんにお話を伺った。

作中の電子工作は「実際に動くもの」にこだわって発案

──モーニングというメジャーな漫画週刊誌上で、電子工作というテーマの漫画を連載されているわけですが、どのようないきさつでこのコンセプトにたどり着いたのでしょうか?

西餅:連載の案を練ってたころ「女の子とメカの組み合わせ」「理系の女子」をテーマにしたいとぼんやり考えていました。でも、それではあまりにも漠然としていて、どうしようかな…と思っていたところ、IT関係の仕事をしている夫に突然「電子工作は?」と言われまして。

──ずいぶん唐突でしたね。

西餅:そうですね(笑)。でも、私にとって電子工作はあまりになじみがない世界だったので、その時は聞き流していたんです。ですが、夫の同僚で「電子工作については何を聞いても間違いない」というようなすごい方が力を貸してくださるということになりまして…彼はハードウェアはもちろん、あらゆるジャンルについて博識な方で、発酵物とか、漆とか…、なんでも「作る」に関わることを極めていて、究極のリア充というか…。それで、その方がアドバイザーとしてサポートしてくださることになって、とりあえず読み切りを一本書くことになりました。

──それが好評で、連載がスタートしたんですね。

物語の中には「一人ぼっちの人のツイートを可視化する『ぼっち・ザ・LED』や「ネガティブな考えに反応して募金をする脳波測定器」など、さまざまな電子工作が登場しますが、どのように発想されるのですか?

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西餅さん一押しの電子工作「飼い猫が何をしているかツイートする工作」のシステム構成図。本気です。(©西餅/講談社)

西餅:キャラありきか、発明物ありきかの2種類があります。キャラが優先のときは、主人公のはるちゃんや、その周りのキャラクターを立てていって物語を組み上げていく中から電子工作のアイデアが生まれます。逆に、発明物ありきの場合は、たとえば生活の中の問題などからアイデアが浮かんで、その電子工作をつくるような話を組み立てます。

発明物のアイデアがまとまったら、素人意見ですが「こういう発明物なら、光センサが使えるのでは?」とか「ここで何かのマイコンを使うとよさそうだ」というのを考えて、アドバイザーさんに相談します。そのままOKが出るものもありますし、「そのパーツよりこっちの方が工作として面白いよ」とか「こっちの方がマニアに喜ばれるよ」というアドバイスを受けながら形にしています。

作中に登場する発明物は実際に動くものを目標としていて、曖昧な表現をなるべく無くすようにしています。とはいえ実証するのは難しいので、少なくとも「これならできるでしょう」という、論理的な実現可能性を判断基準にしています。

──Raspberry Piや、Arduinoだけでなく、ICやセンサの形状や型番まで正確に書かれていて、そのあたりのリアリティがMakerたちにも喜ばれている理由なのかもしれませんね。

リアリティといえば、工作物だけでなく、ジャンク屋の閉店セールでジャンク品を買いあさるはるちゃんの心理描写など「ものを作るのが好き」な人たちへの理解も本作が共感される理由のような気がします。

西餅:ジャンク屋の閉店セールの話は、ネットでジャンクを熱く語る方々のサイトをいくつか読んでいてその面白さに感動して物語にしました。「にわか」なので、あたかもジャンクが好きな人の気持ちがわかったかのように物語にしたのは、少し恥ずかしかったのですが…。あとで人に聞いてみたら「だいたいそれで合っています」ということだったので、ほっとしました(笑)。

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電子工作をもっと多くの人にしてもらいたいというはるちゃんの気持ちが詰まった伝説の一コマ。(©西餅/講談社)

──西餅さんご自身は理系ではないということですが。

西餅:はい。前職の業務の中でグラフィックボードの検証やパソコンの組み立てなどを経験したことはあるのですが、基本的に電子工作の知識はない状態からスタートしています。私自身は理系ではありませんが、何かに打ち込んでいる人たちを観察するのが好きなんです。アドバイザーさんもそうなのですが、彼・彼女らは、究極のリア充ですよね。専門知識を持っているから、厚みもあるし、年月の積み上げもある。一つのことに没頭できる人に対して、私は強く憧れていて、常々うらやましいと感じています。

Maker Faire Tokyoは、とにかくみんな楽しそうだった!

──連載開始前にはMaker Faire Tokyoにも取材にいらっしゃられたそうですが、いかがでしたか?

西餅:夫とアドバイザーさんに、こういうのがあるから行こうと連れていかれたのですが、行ってみたら、もう、あれも描きたい、これも描きたい…って…描きたいモノや人だらけでした(笑)。

例を挙げると、男性のズボンのチャックが開きっぱなしかどうかを感知する装置を3種類の方法で実装している展示は強烈でした。磁力とか、光センサとか、おもりとか…。こういうのを漫画で描きたい~~!と思いました。

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Maker Faire Tokyo 2013より、ヤマムーさんの「イージスファスナーシステム」。

西餅:私は技術についてはあまり詳しくないので、つい実用方面に目がむいてしまいましたね。トースターをハックして、納豆の発酵にちょうどいい温度にしている作品とか、身体に悪いカレーを作ろうという企画も記憶に残っています。わかりやすいものだと人の動きを増幅させるロボットのような…。

──スケルトニクスですね。

西餅:それですそれです。あと、トースターを使って食パンに8ビットの絵を描こうというのもおもしろかったです。「おもしろそう!」と思ってみてみたら、失敗してなんだか絵がぼんやりしていて。「すみません、間に合いませんでした…」と作者さんたちが申し訳なさそうに言っているのも、ほほえましかったです。

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Maker Faire Tokyo 2013より、大網 拓真さんのToaster Printer

西餅:オリジナルの基板を名刺代わりに配布されている方もいますよね。もらっても私はよくわからないのですが、とにかくみんなとても楽しそうにしている。会場に行く前は、もっと小規模なイベントかなと思っていたのですが、実際に会場に行ってみたら行列はしているし、出展者さんと来場者の方が思いのほかたくさんいて「こんなに熱いんだ!」とびっくりしました。

マニアックさと一般ウケのバランスを取っていく

──今後「ハルロック」の物語はどのような方向に行くのでしょうか?

西餅:ストーリーラインというのは決めていなくて、一話完結で、一話一話を楽しく読んでいただければいいなと思っています。

担当さん:登場人物のちょっとした成長だとか、登場人物の意外な側面を物語を通じて出していきたいですね。

西餅:悩ましいのは、モーニングの読者層が、技術のことがわかる方ばかりではないので、あまりマニアックに振り切れてしまうと、読者を置いてきぼりにしてしまうことになりかねないということでしょうか。工作の仕組みはある程度読み飛ばしても、漫画としておもしろく読めるようにはしていきたいと思っています。

──Make読者の方に向けてコメントをお願いします。

西餅:ある意味みなさん、本当のリア充ですよね。好奇心を満たすのが楽しくて仕方がない。そういう人を見ているだけで私は面白いなあと思いますし、本当にうらやましいです。

アメリカ発で、大きなものづくりのムーブメント(Makerムーブメント)が起きているという話を以前から聞いてはいたのですが、私はいまいちぴんと来ていなかったんです。でも、実際Maker Faire Tokyoを見てみて「きているのかも!? 」と感じました。もともとこういったモノづくりは、日本人の性格に向いていますし、もっとこのムーブメントが大きくなるといいなと思います。そして、こういった世界をもっと多くの方に知っていただけるといいですね。

実は今私も、回路の基礎の基礎を勉強しているんです。初心者が絶対読むべきという本を2冊読んでいて、キルヒホッフの法則から勉強しているところで。連載をやっている間中に、工業高校で勉強するような基礎知識を学んで、回路が組めるぐらいになりたいなと…頑張っています…(笑)。

──いつか西餅さんが作った作品がMaker Faire Tokyoで展示される日が来るかもしれませんね。楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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