Fabrication

2017.02.24

初心者のための鍛冶の基本

Text by Barett Poley
Translated by kanai

鍛冶屋は、すでに死んだ職業だが、「Forged in Fire」のような番組を見れば、ふいごとハンマーの鍛冶屋から分化した現代風の鍛冶屋がたくさんあることに気づかされる。私がその世界に入ったときは、物事を現代風にしたいと考えていた。「常に前進していれば、この職業はなくならない!」と私は思っていた。しかし、自動式の動力ハンマーを使ったところで、よい職人になれるわけではない。また、エレクトロニクスを使って完璧に炎を調整できたとしても、それでは自分が何をしているのか理解できなくなる。そこでここでは、正しく鍛冶屋を始めるために必要な知識を紹介する。

私は最新のツールを使う人を否定しているわけではない。自分で物を作ろうとする人を私は尊敬する。しかし、現代技術に追いやられて失われたもの、なかでも鍛冶の技が、私は個人的に好きなのだ。私は自分の欲求を満たすために、煤と炭にまみれて、鉄をハンマーで叩きまくりたいという気持ちを満足させるために、昔ながらの、年季を重ねた技術を学び始めた。ここまで来たら、もう振り返らない。さらに「オールドスクール」(昔ながら)のいいところは、自宅の庭で、限られたスペースと予算で鍛冶をやろうという人に向いていることだ。つまり、この記事を参考に自宅の庭に鍛冶場を作れば、プロ用の製造工房よりも安く上がるということだ。

わかってもらいたいのは、誰でもドラム缶にガスバーナーを突っ込めば金属を曲げることは可能だが、正しい方法で行わなければ、苦労しただけの価値は得られないし、気に入った作品も作れないということだ。ここでは、自分の鍛冶工房を作ることに焦点を当てたい。つまり、何が必要かと、その理由を解説する。いろいろな鍛冶場があるが、大きく2つに分かれる。固形燃料を使うか液体燃料を使うかだ。私たちは、固形燃料を使う。固形燃料とは石炭やコークスだが、鉄器時代には木材も使われた。固形燃料は、長い間鍛冶屋のツールとして愛用されてきた。これから先もそうだろう。だから、ここに注目する必要があるのだ。

面倒を避けるために、ここに必要な道具を紹介する。

ハンマーと鍛冶用の取っ手の長いやっとこ

言うまでもないことだが、大工用のハンマーでは白く焼けた金属を曲げることはできない。それには工業用の重いハンマーが必要だ。少なくとも、丸頭ハンマーと平頭ハンマーを1つずつは欲しい。金床や万力で叩くときに大変に重宝する。さらに、2つの金属を叩いて融合させる(後述)場合には、両手で扱う重い大ハンマーが必要だ。

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ハーディーログ

「ツールログ」とも言う。ハンマーを引っ掛けておくための金属のフックを取り付けた太い丸太だ。鍛冶場の中心的存在だ。金属製の洒落たツール棚を用意してもいいが、丸太は森に入って切り出してくれば、うんと安く手に入る。道具の収納を考えるとき、私は真っ先に丸太を思い浮かべる。炉の熱にもよく耐えてくれるからだ。

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鍛冶用金床

金床は、Craigslistや古道具屋などで驚くほど安く手に入る。最悪の場合は、農家の友人に聞いてみるといい。古い農家には個人で蹄鉄所をやっていたところもあり、金床が眠っている可能性がある。金床にもいろいろな種類があるのだが、私は蹄鉄用の金床が金属を曲げるのに最適の形をしていると思っている。平らな面もあるし、金属を曲げるのに適した突起もある。鉄と鋼を打ち延ばすのにちょうどいい台となる。また、必要に応じて金型を入れて使えるように、穴が開いているものもある。

下の絵はドイツの版画だが、金床がどんなものかわかるだろう。金床の他に、床に置ける脚付きの万力もあるといい。素早く閉じることができるものだ。これがあると金属を楽に曲げられる。ウソじゃない。溶けかかった金属を素手で触りたくはないだろう(私は経験上よくわかる)。

余談だが、伝統的に鍛冶屋は蹄鉄は作らない。それは蹄鉄専門の蹄鉄屋の仕事だ。鍛冶屋は広く何にでも対応できるが、蹄鉄屋は足の専門家だ。しかし、鍛冶屋は蹄鉄屋の金床が大好きで、多くの人がそれを真似て作っている。

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炉は耐火レンガで作れる。耐火レンガを買うなら、信じられないだろうがホームセンターがいちばんだ。窯の中に入れるレンガだと言えば、鍛冶用のレンガよりもずっと安いレンガが手に入る。性能は同じだ。必要な機能を備えていれば、炉の形状は自由だ。羽口からファイヤーポットまで空気を送る送風機は必要だ。火はコークス用炭で起こすが、温度が上がるまで少し時間がかかる。瀝青炭はもっとも手に入りやすく安い石炭だが、無煙炭よりもずっと温度が高い。

もう1つ、この手の石炭の利点は、燃やすとコークスになることだ。火を熾すときにとても役に立つ。買うとなるとかなり高価だ。炉は、空気の通りをよくしておく必要がある。煙突を取り付けて、煙を逃がしてやろう。石炭の屑や、とくに燃えたときにできるガスは、長時間吸い込まないようにするべきだ。いろいろな問題を引き起こす。ともかく、鍛冶工房全体の換気をよくしておくことだ。

送風機はふいごである必要はない。今はいろいろな電動送風機があるのでそれが使える。しかし、手動のふいごは、炎を適正な温度に保つためには、意外に都合がいいのだ。鍛治を始めて炉と向き合うようになると、空気の流れが大変に重要だとわかるようになる。月に何百ドルもの費用を石炭に費やすほどの余裕があるなら別だが、ハンマーで叩いている間は火を小さくしておき、必要はないときにだけ金属が溶ける温度に上げられる手動のふいごが便利なのだ。

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相棒

鍛冶屋は、そういう職業が始まったときから2人で行うことが多かった。たいていは、師匠と弟子のニ人組で、弟子がふいごを操り、師匠が金属を熱して叩いていた。2種類の金属を叩いて合わせる鍛接技術が普及すると、ニ人組態勢はさらに一般的になった。1人が金属をしっかりと抑えておき、もう1人が大ハンマーで叩くことが必要だからだ。鍛接を行わなくても、安全性の理由から相棒と組んで作業をするのはよいことだ。それに、作業中に話し相手がいることは、いつだって楽しい。

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冷却用バケツ

読んで字の如し。高品質な鋼を叩き出すのでなければ、油や湯を使う必要ははない。木製でも金属製でも、普通のバケツに水を入れておき、焼けた金属を素早く冷やすことができればよい。素早く冷やすことや、冷やし方などは、この際あまり関係がない。むしろ重要なのは、作業を終えたばかりの高熱の金属による事故を防ぐことだ。しかし、小さくて複雑な形状のものは、成型後に素早く冷やして固めることが大切だ。

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その他の重要なあれこれ

・無水ホウ砂:鍛接に使用する。
・大きなヤスリ:バリを取る。最初は必要はないが、作業が進むにつれて役に立つ。
・火かき棒:石炭を動かしたりするときに使う。単なる柄の長いレーキ、つまり鉄の棒だ。ファイヤーポットの石炭を掘ったりできる。
・クリンカー・ブレイカー:鍛冶ではあまり使われないが、とても大切な道具だ。これは、炉の底にこびりついた金属の塊(クリンカー)を掃除するためのものだ。インターネットで購入できる。炉の羽口やファイヤーポットをきれいにしておくためには重要だ。
・防護用具:少なくとも、鍛冶屋用のエプロンは上等なものを使ってほしい。溶けた金属や火の粉や燃えた石炭から体を守ってくれる。体の大切な部分にそれらが触れたら大変なことになる。

原文