2013.06.27
[NUC HACK]Rhizomatiks 堀宏行のインタラクティブアート『laser drawing』
2013年6月15日に開催されたMaker Conference Tokyo 2013(MCT2013)では、Makerたちのものづくりを支援するインテルが、「NUC HACK」と題して、手のひらサイズで驚異的なビジュアルと高性能を実現するPC、インテル(R) NUC を使ったアーティストたちのバラエティー豊かな作品を公開しました。本ブログ記事では、Makerたちの創造力をかきたてるアーティストたちがつくった作品を紹介していきます。[登場アーティスト]Rhizomatiks/高橋隆雄/岩崎修/森翔太
MCT2013の会場となった日本科学未来館の、照明を落とした一室。うす暗がりの向こうには、小さなボールで作られたマトリックスが浮いている。手前にぽつんと立っているカメラに手をかざすと、抽出された像が光のつぶとなってボールのマトリックスに投影され、手の動きにつれて揺れ、さざめき、色を変えて、消えていく。
このインタラクティブアート『laser drawing』は、カメラが捉えた観客の映像から「ドット絵」というエッセンスを抽出し、レーザープロジェクターから、スクリーンとなるボールのマトリックスに投影する仕組みだ。カメラにはKinectを使用しているが、そのスタンドにさりげなく取り付けられた手のひらサイズのPC・インテル(R) NUCが、この作品の核心となるプログラムを動作させ、観客の映像からドット絵を抽出し、プロジェクションを制御している。
その場でしか体験できないアート
「たまたま床に落ちていたボールを拾い上げて、手近にあったレーザー光を当ててみたらきれいだった」――メディアアーティストでプログラマーの堀宏行さん(Rhizomatiks)に、作品のアイデアが生まれた瞬間だ。
自由な発想のメディアアートの世界に惹かれ、プログラミングを映像や音楽などに活かしてイベントの展示や舞台演出を手がけるようになった堀さんには、その場でしか体験できないものを作りたいという思いがあった。あらかじめ作りこんだものを再生するのではなく、インタラクティブなもの――その場で何かしたら何かが起こるようなものにしたかったのだ。
レーザープロジェクションは、一条のレーザー光をプロジェクターが内蔵している小さなガルバノミラーの回転によって広範囲のスクリーンに走査させ、実現している。極めて高速に移動する照射点がボール中央できれいな光を結ぶようにするためには、プログラム側からの照射点の移動、光のオン/オフや色の制御に、精緻なチューニングを必要とする。
フルカラーの映像マッピングを実現するため、展示会場ではぎりぎりまで調整が続けられた。
システムにとけこむPC
展示やイベントの演出では、ネットワークへのデータ送出、映像・音響などの周辺機器のコントロール、周辺機器を利用するためのアナログ/デジタル信号変換、というように、システムの構成要素として小型のPCを多用する。堀さんにとって、NUCとは思った以上によい出会いになったようだ。
「展示やイベントではスペースに制限があるため、必ず機材置き場の問題が生じます。展示物の制作を日常的に仕事にしている僕らにとって、NUCはコンパクトなのがうれしいですね。それに、存在を強く主張しないデザインになっているのもいい。ケースにロゴを付けなかったのは、相当に思い切った判断だったのではないでしょうか。特に重たいCG処理・画像処理でなければ、性能もたいがいの用途に十分です」
ほとんど例のなかったボールのマトリックスへのプロジェクションマッピングに挑んだ堀さんは、さらに次の構想に意欲を見せる。
「真っ暗にすると、さらにきれいですよ。光点を増やせば表現力は増しますけど、それだけではただの映像装置です。ローファイ感のあるつぶつぶの面白みを活かしたうえで、映像からトランジションした演出効果をひとひねりしていきたいです」
この作品の成長形を目にする日も遠くはないだろう。
[企画・開発 堀宏行 / 什器設計 元木龍也・坂本洋一]
【DATA】堀宏行:メディアアーティスト、プログラマー。Rhizomatiks所属。プログラミングによる映像、音、周辺デバイス制御を活かした、広告、舞台演出、映像の制作を得意とする。
【制作メモ】直径1インチ(25.4mm)の樹脂製ボール616個を、ワイヤーで吊るしてスクリーンを構成。NUCで動作するプログラムが、Kinectの前に立った来場者の映像から「ドット絵」を抽出し、レーザープロジェクターへの制御データを送り、スクリーンにドット絵をプロジェクションマッピングする。今回は別機材だったが、今後はレーザープロジェクターへのアナログ信号への変換にもNUCを使用予定。