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2018.12.28

金属を切断可能な“21世紀のバンドソー”Wazerパーソナルウォータージェットが誕生するまでの物語

Text by Nisan Lerea
Translated by kanai

ニューヨーク州リバーデイルで育った私は、子ども時代、よくレゴで遊んでいたが、私の最初のMakerプロジェクトは、高校生になってから作った高さ6メートルの投石機だ。それを、デラウエア州で開かれた2006年のPunkin Chunkin大会に持ち込んだ。私たちは4つのカボチャを531フィート(約162メートル)飛ばし、青年部門でゆうゆう第3位に入った。360キロのカウンターウエイトがカボチャを空に打ち出す様子を見たときに、工学を学びたいと思ったことを憶えている。

勉強レース

私は、将来、Wazerの共同創設者となるMatt Nowickiと、ペンシルベニア大学1年次の説明会の日に出会った。キャンパスの中央通りには、あらゆる部活動が列を作り、新入部員の勧誘を行っていた。その通りの傍らに、F1スタイルのフォーミュラーカーが停まっていた。そのとき2年次だったMattは、そのクラブの部長であることがひと目でわかった。彼らはFormula SAE Teamというクラブで、毎年、新しいレースカーを作って、ミシガン州で開かれる大学対抗レースに出場しているのだと説明してくれた。私は車は好きではなかったが、このクラブこそ、本当に物を作ることが学べる場所だと感じ、すぐに入部した。

私は大学の機械工作室に通いつめ、レースカー用の部品をはじめ、研究室用や自分の課題のためのパーツをCNCで削り出す作業に何百時間も費やした。工作機械には付き物の設定やら分解やらのために、夜までかかって部品を作るのが日課だった。みんなは、時間を食われるCNCをできるだけ避けて、かわりに、ずっと早く作れるレーザーカットに適したデザインを好むようになっていた。レーザーカットの欠点は、アクリルかMDFでしかパーツが作れないことだ。たいていのメイカースペースに置かれているものもそうだろうが、大学のレーザーカッターも、柔らかい素材しかカットできなかったのだ。

卒業製作

私たちは、金属板をカットできるウォータージェットが欲しかったのだが、大きくて高価なため、大学にウォータージェットが導入されることはなかった。そこで、2011年、1年間をかける卒業製作に、小型のウォータージェットを作ってみたらどうかと教授が提案してくれた。私は大賛成だった。その理由は、それが工学的なチャレンジであり、作ることへの私の情熱が掻き立てられ、そのプロジェクトに本物の可能性を感じたからだ。それに私は、ずっと起業したいと夢見ていた。2012年5月、私たち卒業製作チームは、最初の小型ウォータージェットを完成させた。それは1/4インチ(約6ミリ)厚のアルミ板と、1/8インチ(約3ミリ)厚の鉄板を切断できた。


最初のバージョンのデスクトップ・ウォータージェット・カッターを誇らしげに見せるLereaとペンシルベニア大学の製作チーム

そして全員が卒業した。私は、このウォータージェットに大学の課題以上のものを感じていたが、これをひっさげて冒険に出る前に、エンジニアとして働いて実社会での経験を積んだほうが身のためだと考えた。幸運なことに、すでにニューヨークのブルックリンで、BioLiteというスタートアップに就職していたMattから、工学系のエンジニアを探していると声がかかった。私はすぐに入社した。私はそこへ2年間勤め、2つのポータブルなキャンプ用品の製品開発に、最初から最後まで携わるという経験ができた。

2014年のHackadayで、どういうわけか、私たちの卒業製作だったウォータージェットの話がブログ記事となって話題を呼んだ。あの技術を商品化する計画はないのかと尋ねるメールが何百と寄せられた。それが私の目を覚まさせてくれた。なぜなら、メールの送り主はエンジニアだけでなかったからだ。職人、Maker、スモールビジネスの人たちなどなど、幅広い人たちからの要望だったのだ。

突入

2015年までに、私はウォータージェットの会社を起こす準備を整えた。しかし、パートナーが必要だ。幸い、BioLiteを退職したMattが新しい変化を求めていた。共同創設者とCTOになって欲しいと彼を説得するには、時間はかからなかった。

私たちは、私の実家の地下室で市場調査を行い、庭で大学で作ったウォータージェットの試験を行った。そして、「ハードウェアアクセラレーター」をググり、世界のエレクトロニクスの中心地である深圳の、ハードウェアスタートアップを対象にしたアクセラレーター、Haxを見つけた。2016年1月、私たちはHaxに参加し、ペンシルベニア大学のレースカーチームに所属していたDan MeanaとChristian Mooreという2人のエンジニアを雇い入れ、中国に呼び寄せた。


リンカーン大統領の肖像以外の部分をWazerでくり抜いた1セントコイン。ユニークなジュエリー用素材になった。デザインはStacey Lee Webber

私たちは、Haxでのプロトタイピングのスピードと安さに驚いた。Wazerには、ホース、金具、バルブ、ソレノイド、モーターなど、市販の部品が多く使われている。そうした市販品は、深圳ではアメリカのおよそ10分の1の価格で買える。その価格で手に入るものの中には、なんと、McMaster-CarrやDigi-Keyやアマゾンでも売られているのと同じものもある。そしてHaxは、アイデアを話せば忌憚のない意見を言ってくれる起業家たちに溢れていた。

21世紀のバンドソー


金属を素早くきれいに切断するデモンストレーション

8カ月後の2016年9月、私たちはKickstarterでWazerをローンチした。キャンペーンは大成功だった。プロトタイプから製品への移行が簡単ではないことは、よく承知していた。供給業者を選定し、大量生産に適した形にデザイン変更を行った後、私たちはニューヨークのブルックリン・ネイビーヤードにWazerの本社を設立し、ニューヨークの製造業の復興に寄与することとなった。Wazerは、オフィスと機械工作所と組み立て工場を兼ねたこの場所でひとつずつ作られ、出荷前に慎重にテストされている。最初のWazerを、飛び抜けた忍耐力のあるお客さんに届けることができたのは、そのさらに21カ月後。当初の予定の倍の月日がかかってしまった。

高校時代、大学時代にウォータージェットがあって、投石機やレースカーがそれで作れたならどんなによかったかと思う。Wazerは21世紀のバンドソーだ。どんな金属でも切れるので、あらゆる機械工作工房に置かれてしかるべきマシンだ。そもそもの始まりから6年、Wazerのユーザーが製作したさまざまな作品を見て、最高の喜びを感じている。我々自身、夢にも思わなかったような物が作られているのだ。


Wazerのカバーを開けると12×18インチ(約300×450ミリ)のカッティングエリアとノズルが見える

原文