Electronics

2022.05.23

Maker Faire Tokyoでおなじみの「クレープロボットQ」がメイカー同士のコラボレーションで小型・軽量化。サザコーヒー新橋SL店で稼働中!

Text by Noriko Matsushita

株式会社モリロボの開発する「クレープロボットQ」の小型モデルが2022年3月24日に新橋駅にオープンした「サザコーヒーエキュート新橋 SL店」に導入。新橋店限定メニューとしてSLをイメージした黒い竹炭クレープを販売している。「クレープロボットQ」は改札口に面したカウンターに設置されており、通勤客の目に留まりやすく、コーヒーを買うついでに注文されることも多いようだ。


小池 誠さんと株式会社モリロボの森啓史さん

サザコーヒーが「クレープロボットQ」を導入するのは初めてではなく、2年前の2020年末からミルクレープの製造部門で2台が稼働している。クレープを何層にも重ねて作るミルクレープは、同じ大きさのクレープを均一に何枚も焼かなくてはならず、技術も時間もかかる。このクレープ製造の自動化実績から、今回の新橋SL店オープンに向けて新メニューに使いたい、と声がかかった。

しかし、新橋店の店内は車両さながらに細長く、カウンターの奥行きが非常に狭い。従来の機体は設置できず、小型化を図ることに。新開発の小型モデルは、奥行き30センチとコンパクト。生地を入れるタンクも従来の大きく重厚なステンレス製から小さな樹脂製ボトルに変わり、小さくて軽く、取り扱いやすい。

この小型・軽量化は、AIを用いたキュウリ選別機を開発する小池 誠さんとのコラボレーションによって実現したものだ。


ボトルは、市販品がなかったため、成型機でオリジナル品を製作。ハンドル付きで軽いので、洗浄やクレープ液の継ぎ足しもしやすい


竹炭入りのもちもちした極薄クレープに、ほろ苦いカカオと北海道産の生クリームのシンプルな味がコーヒーによく合う。店長の藤田さんによると、1日30~40食を売り上げるという。

タンクからクレープ液を落とすバルブ制御の開発にAIキュウリ選別機の小池 誠さんが参加

「クレープロボットQ」のバルブ制御機能のソフトウェアを大幅向上することになったのは、くら寿司の依頼でカラフルクレープ用のモデルを開発したのがきっかけだ。くら寿司の担当者よりMaker Faire Tokyo 2019でのYouTube動画で3色のクレープを焼く「レインボークレープロボットQ」を見て、問い合わせがあったという。森さんが大阪の本社に出向いて話を聞くと、原宿にグローバル旗艦店をオープンするので、見映えのするカラフルなクレープを作りたい、とのこと。

しかし、Maker Faire Tokyoで展示していたものはまだ試作機で、1枚焼くたびにクレープ液を落とす量の微調整が必要だった。注文数の多い店で使うには、簡単な操作で安定した品質のクレープを焼き続けらなければならない。それには、マイコン制御などでより繊細で適切な量の生地を落とすような機能が必要だ。

森さんはハードウェアが専門。自力でのソフトウェアバージョンアップ開発に限界を感じ、Maker Faire Tokyoのイベントで知り合った、AIを用いたキュウリ選別機を開発する小池 誠さんに相談。制御装置の開発に小池さんが協力してくれることになった。

制御機能のソフトウェアを大幅に向上した改良モデルは、バルブの開閉を自動で制御し、一定量の生地を落とすことを実現している。

従来のモデルは、滴下量を安定させるために大きく重い部品を使った複雑な構造で、タンクだけで10キロ以上の重量だったが、制御機能ソフトウェアを向上させたことでシンプルな構造になり、タンクの重さは5キロと半分以下に軽量化されている。

小池さんにとっても、クレープロボット開発への参加は興味深い体験だったようだ。「お客さんに納めるものは、そばにいてメンテナンスができるわけではないので、使い勝手がよく、故障がなく、安定して動かせないといけない。キュウリの選別機もいずれはみんなに使ってもらいたいので、問題解決の仕方、お客さんとの付き合い方など、とても勉強になっています」と小池さん。

より高度なソフトウェアが搭載できれば、これまでまであきらめていたことも実現できる。森さんはバージョンアップのアイデアが次々と浮かんでいるそうで、引き続き小池さんと一緒に開発を進めている。

クレープロボットQは、1台1台、森さんの手づくりだ。これまで福島のグランデコリゾート、沖縄のしまねこクレープなど全国に導入されており、打ち合わせから納品、サポートやメンテナンスまで、森さん自身が頻繁に現地へと足を運んでいる。移動にかかる時間や労力は相当なものだが、すぐに現場に駆けつけて、故障原因を吸い上げることで、次の品質改善につながる。

こうした地道な活動は着実に売上に結びついている。2021年度は、くら寿司やサザコーヒーのほかにも複数社から問い合わせと導入を実現し、起業後最高額の売上を達成。売上は順調に伸びており、さらなる完成度向上と海外展開のため、VCからの資金調達にも挑んでいる。一緒にクレープロボットを作って行けるメイカー仲間を募集中だ。

「ただ“作るのが好き”で終わらせずに、自分が作ったものを世の中にきちんと届け、喜んでもらうことで会社を大きくしていく、という理想的なビジネスのロールモデルをつくっていきたい。僕はメカ屋だけれど、小池さんに協力してもらったことで、作れるものがぐんと広がった。分野ごとのプロフェッショナルがつながると、大企業が驚くようなものも作れる。メイカー同士がつながって、面白いものがどんどん生まれる世の中になってほしいです」と森さん。

2021年12月にオープンしたくら寿司原宿店は、テレビやメディアでも取り上げられ、予約しないと入れないほどの人気だ。映えるカラフルなクレープはTwitterやinstagramに数多く投稿されている。

次のアイデアとして、クレープ生地を焼いた後に、下の天板の余熱で調理がしやすい構造にできないか、との要望が出ているそう。温かいクレープにチーズがとろける塩味のクレープはおいしそうだ。

将来的には、100Vで動く小型モデルをメイン商品として展開していくのが目標。全自動コーヒーマシンのように、ホテルビュッフェやファミレス、ファストフードに、どこにでもクレープロボットが置いてある日がくるかもしれない。