Crafts

2018.01.15

PancakeBotは、単なる鉄板にパンケーキの生地を落とすだけのCNCではない。子どものひらめき、技術と人間性の調和が形になったものだ

Text by Chiara Cecchini
Translated by kanai

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シンガポールからアメリカ、そしてヨーロッパ全体に向けて、Edible Innovations(食べられるイノベーション)は、生産から流通から販売までのあらゆるステージで世界の食料システムを改善しようと考えるFood Makerたちを紹介しています。私たちといっしょに、この産業の大きな流れを、Makerの視点で探ってみませんか。優れた教育的な核を持ち、未来への偉大なる挑戦のための主要なツールとしてフードイノベーションを推進するFood Innovation ProgramのChiara Cecchiniが、世界のFood Makerたちの顔、話、体験を紹介します。


今日は、去年出会った中でもっとも刺激的だったFood Makerに会えることになった。Miguel Valenzuela (ミゲル・バレンツエラ) だ。メキシコで生まれてアメリカに移住し、子ども時代はアメリカ全国を渡り歩いた。父親が軍人だったのだ。彼はこう話している。「子どものときからずっと、紙やハサミやノリといった身の回りのもので何かを作ることばかり考えてきました。家が貧しかったわけではありませんが、私はものを作るためのツールが欲しくてたまりませんでした。しかしツールは手に入らないため、問題の解決方法を違う角度から考えるよう強いられたのです。そして、カリフォルニア・ポリテクニック州立大学の工学研究室を訪れ、鋭い刃物と空気圧シリンダーでイチゴのヘタを取る機械を見たとき、食べ物とテクノロジーに興味を抱くことになりました」。それがきっかけとなり、彼は農業工学プログラムを専攻し、食べ物とメイキングの合体に没頭することとなった。

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PancakeBotについて聞かせてください。このアイデアをいつ思いついたの?

「Make:」英語版のVolume 2を読んでいたとき、娘のLilyが何をしているのかと聞いてきました。私は、レゴでPancake Stampingを作ったAdrian Marshallという人の話を読んでいると答えました。その他にも何か言ったみたいです。するとLilyは妹のMaiaに大声でこう言ったのです。「パパがレゴでパムケーキロボットを作ってくれるって!」(パムケーキではなくパンケーキですが)。Maiaは踊り出しました。そしてPancakeBotが生まれました。

それが実際に機能すると確信できたのはいつ?

絶対に成功すると確信してましたが、レゴで作った場合にうまく行くかどうかは自信がありませんでした。私はレゴでケチャップのボトルを再現しようと思いました。ケチャップの口にはバルブが付いてませんが、流量をコントロールすることは可能です。なので、レゴだけで流量をコントロールする方法にチャレンジしたのです。そして4カ月後、レゴの空気圧シリンダーとバルブを使ってパンケーキの生地の流れを止める仕組みを開発しました。素晴らしい出来でした!

PancakeBotのことをもっと教えてください!

PancakeBotは、単に鉄板の上にパンケーキの生地を落とすだけのCNCマシンではありません。これは、子どものひらめき、自制心、常に否定的な目で見られる中で前に進もうとする衝動など、多くのものの頂点に存在しているのです。私と私の家族は、食べられるものを創造するマシンを作ることで、技術と人間性の世界に入ることができました。それは、大金をかけずに3Dプリントの技術を学べるようにするという突拍子もないアイデアです。それは、世界中の起業家が顧客に特別なごちそうを振る舞うのに利用できる、ちょっとした技術です。それはMakerムーブメントの落とし子であり、ひらめきの製品であり、自分が欲しいものを自分で作る能力を与えてくれるエネルギーなのです。

それは微笑みであり、くすくす笑いであり、自分のアイデアが現物になることに驚いて目を見開いた子どもたちそのものです。

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最初のプロトタイプはどんなものでしたか?

最初はレゴで作りました。7カ月ほどかけて、13回作り直しました。

作り直すごとに、まず、レゴ NXTを使っていかにレゴを動かすかを考えなければなりませんでした。そして、コーディングの手間を最小限に抑えるために、外部のファイルを読み込む方法を見つけ出さなければなりませんでした。さらに、レゴだけを使ってパンケーキの生地の流れをコントロールする方法を考え出さなければなりませんでした。結局、いつも最初からやり直すことになります。

どの時点でレゴをあきらめたのですか?

PancakeBotを次の段階に進めるためには、レゴ以外の部品で作らざるを得ませんでした。それには3Dモデリングを学び、レーザーカッターを使い、マイクロコントローラーをプログラムし、ユーザーが絵を描いて、それをロボットが認識できる座標値として出力するためのソフトウェアを開発し、さらに、あればの話ですが、保護すべきものを決めて、すべてを世界に送り出すことが必要でした。

このプロジェクトを開始する動機となったものは? さらに、これをやり遂げるうえでもっとも助けになったものは?

思いついたアイデアを実行しなければ、後悔するだけです。私が子どものころは、たくさんのアイデアはあっても、それを実現できる技術には手が届きませんでした。私の住んでいる地域では、教えてくれる人もいませんでした。なので、Lilyが生まれたときに、娘が思いついたアイデアをすべて実現できるように手助けしてやろうと決めたのです。下の娘にも同じことを考えています。それが私の原動力です。もうひとつ助けになったのは、世界のMaker Faireでこれを披露したときの、人々の笑顔と笑い声です。

じつは、何度も中断しました。中断するときはタイミングが重要です。中断は、あきらっめるのとは違います。中断とは、ただ作業を止めて、そこから離れて、頭を休めることです。すると、何かの拍子に再開して、それまでには思いもつかなかった解決策が浮かんだりします。考えないことは、考えることより有効なときがあるのです。

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他のMakerたちは、あなたの製品をどのように利用できますか? そんなMakerへのアドバイスは?

ソフトウェアとファームウェアはオープンソースです。どちらもGitHubで公開しています。ハードウェアもオープンにしたいと考えていますが、部品の調達方法を検討中です。使っているチップは、Arduino Megaと同じMicroChipです(以前はAtmelでした)。

アドバイスですが、第一に、クレイジーであることが挑戦しない理由にはならないということです。第二に、子どもの意見を聞くこと。彼らは宇宙への扉だからです。だから、あなた自身の内なる子どもの声も聞きましょう!

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原文