2008.12.03
最後の『ビリジアン・ノート』
ブルース・スターリング(SF作家、未来学者、非凡なるデザイン評論家)が、最後の『ビリジアン・ノート』を発表した。そこに彼は、ボクたちMakerにとっても意味深いアドバイスを数多く載せている。そこからボクのお気に入りを抜粋……
高級な工具や電化製品を使おう。いい加減な安物を大量に使うのはよくない。本当にいいものを選ぶことだ。真剣にね。くれぐれも勘違いしないように。自分は心やさしい”非物質主義者”だなどと夢想して、この問題を無視するのは間違っている。道具がヘボいために同じ家事作業を5回繰り返すことほど”物質主義的”なことはない。いたずらに時間の浪費を招く機械的不能のブラックホールに吸い込まれないことだ。それは文明人のやり方ではない。
ではここで、特別にビリジアンが興味を抱いている工具と電化製品に関して、ちょっと語らせてもらう。それは、実験的な製品だ。世の中には、複雑で、時間のかかる、まとに動かない出来損ないの機械に満ちあふれている。それに翻弄されるのを楽しんでいる人たちもいる。たしかに人生を楽しむのはいいことだ。物好きな人間もいる。物好きは悪くない。まともに動かない道具を熱心に集めるわけは、それらがピカピカに見えるからだ。この行為を世界でいちばん悪いものとは言えない。しかし、これが悪に転ずることがあるのだ。もし、不安定で、なんだかよくわからない、前衛的な技術製品を批判しようとするならば、心底、本気で批判しなければならない。それに長けなければならない。
良い実験とは、入念にデザインされた実験だ。本当の実験には仮説が欠かせない。何かを証明したり、否定したりすることが目的だからだ。実験は、より大きな研究の流れの一環であるべきもので、その結果は、他の実践者たちに伝えられるべきである。そうすることで、それが本当の意味での”実験”となり、そうでなければ、個人的な盲目的物質崇拝に終わる。
風変わりな技術製品の購入を考えているなら、それで何を証明したいのかをハッキリと認識しておくことが大切だ。また、その製品の有用な点を、他の人たちに伝えることも重要だ。本当の実験をしている人は、称賛されるべき行為をしていると言える。自分の時間と空間を多少無駄にするかもしれないが、それが、冒険心の少し足りない他の人たちの時間と空間を節約してやることになるからだ。それは良いことだ。
そして、彼がみんなの協力を求めるエキサイティングな新しいプロジェクト……
私のこの新しい試みは、物質文化、利用価値、倫理観、物質性と想像力との関係を研究する学術的な作業だ。しかし、こうした巨大で仰々しい話題に簡単に興味を覚える人がいないため、私はこれをお洒落で魅力的なガジェットの本に偽装させることにした。タイトルは”The User’s Guide to Imaginary Gadgets”(想像上のガジェットのユーザーガイド)にしようと思う。
– Luke Iseman
訳者から:ウィリアム・ギブスンと並ぶサイバーパンクの立役者。技術的デザインについて考えるViridian(ビリジアン)というサイトを運営している。そこに彼は、ビリジアン・ノートと題する文章を、これまでに5本掲載している。
文句を言う人は多いけど、本当の批評をするには努力と責任感が必要だよね。少なくとも、Makerを自認する我々は、匿名で文句言いっぱなしみたいな無責任な態度はとらないようにしたいね。
[原文]