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2017.05.08

米国最大の教育イベント SXSWeduレポート #1 – 米STEM教育の立役者たち

Text by Toshinao Ruike

SXSW(South By South West)フェスティバルはアメリカのテキサス州の州都オースティンで開催される30年ほどの歴史がある音楽フェスティバルだが、近年は映画やインタラクティブ・アート、そしてテクノロジー系の出展など多様な内容を2週間ほどの期間に集約するようになった。SXSWeduは元々SXSWとは別に開催されていた教育イベントをSXSWの一部として2014年から開催するようになったものだ。教育に関する各種講演やワークショップ、ミートアップ、そして教育のためのテクノロジー(Edtech)の展示などが行われる。アメリカの教育の現状を反映しているという点で興味深いだけでなく、アメリカでテクノロジーや科学に関する教育がどのようにどこまで進められているか興味を持ち、訪れた。

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オースティン中心部の会議センターと有名ホテル会議場が会場として使われていた。4日間に渡って多数のセッションが行われ、Makerムーブメントに関するセッションも多数あったが、教育関係者向けに現状やその内容を簡単に紹介するものも多かった。その中から今回はSTEM教育のプログラムとして、日本でも参考にできそうなものを特に取り上げる。

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レスリー大学(Lesley University)によるプロジェクト、Lesley STEAM。子ども向けコーディング学習の入門向けの定番ソフトウェアと言えばScratchだが、ブラウザ上でScratchの機能を使うことができるScratchXを用いたワークショップを行っていた。Scratchをインストールせずに、ブラウザからログインなしにすぐに試行できることが利点。ブラウザベースだが外部機器にも対応していて、この日はlittleBitsとBluetooth接続したり、adafruitのCircuit PlaygroundとUSBで接続していた。

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MIT メディアラボのLifelong Kindergarten GroupでScratchXを開発しているKreg Hanningもこのプロジェクトに参加していて、この日も講師を務めていた(上画像右から2番目、参加者たちのテーブルを回って指導している)。ワークショップの対象は教員を中心とした教育関係者。

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この日はlittleBitsの音のコントロールを行ったり、Circuit PlaygroundでLEDを明滅させたり、Spotifyで再生した曲に合わせてScratchX上のキャラクターを動かす、といった活動を2時間ほどかけて行っていた。1つのテーブルに5~6人ほどが座り、各自が持ち込んだコンピューターですべて試し、うまくいった後は同じテーブルのほかの人のコンピューターでも接続を試みる。各自マシン環境が異なっているが、ブラウザさえ入っていればほとんど同じ操作感で学習が行えることがわかる。

講習終了後にかなりざっくりした質問ではあったが、講師のKregにこれからのSTEM教育はどのようになっていくと思うか尋ねてみた。彼は「これからは科目に囚われず、個々の関心に応じた”関心ベース の学習 (interests based learning)”になっていくだろう」と話していた。例えば科学と数学と歴史あるいは音楽、という風に教科を組み合わせるのではなく、関心テーマに応じて、学ぶために何と何が必要になるのか、と考えるところから始める学習になる時代だと言っていた。ちょうど国際学力比較調査で上位のフィンランドがこれまでのような科目の枠組みをなくすというニュースが最近あったばかりだったので、時代の要請というか、彼もまたSTEM教育でもそれは同様に必要だと感じているとのことだった。

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SXSWフェスティバルの展示スペースでSparkfunが行っていたワークショップは彼らの製品Roshamglo Badge Kitを使い、マニュアルに従ってハンダ付けを行い、その後完成したボードを使ってゲームを行う。

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ボタンを押して赤外線通信でグーチョキパーを出して勝敗を決めるだけというゲーム自体は至って簡単な仕組みだが、リングに上がって試合して勝敗が決まるとリングが光ったり、ランキングのチャートやチャンピオンのためのガウンまで用意してあったりと、盛り上げのための演出に工夫があって面白かった。実際子どもも大人も熱心に作業をしている様子で、ワークショップで作ったものに満足するだけでもいいが、その後にさらに盛り上げる工夫がある方がより効果的なのは間違いない。地味で時間がかかるハンダ付けのような作業であれば尚更だ。Sparkfun社は教育向けのウェブサイトを持ち、すでに米国内で学校の課程の一部、授業やメーカースペース向け、単発の講座といった様々なスケールでの教育プログラムを展開している。

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これでもかとバナナを置いていたのはMakey Makeyのブース。もちろんMakey Makeyとつないで、バナナをスイッチにする定番のデモを行うためだ。並べられたバナナを触って音を鳴らす。

上の動画のデモでは観葉植物と手すりを使って触る葉っぱや手すりの位置によってさまざまなサンプル音を鳴らしているが、Makey Makeyは単純にマウスやキーボード代わりのデバイスとしてさまざまなものをコンピューターとつなぐといった用途に向いていて、入門者にも取っつきやすい。そのため現在アメリカではMakey Makeyによる教育プログラムが多くの州で採用されている。この日は副社長で教育プログラム担当のTom Heck氏が自らブースに立っていたので、例えばArduinoなど他社の教育プログラムとどのように違うのか聞いてみたところ「Makey Makeyはコーディングには入り込まず、マウスやキーボードの入力を行うシンプルな機能を担っている。Arduinoのような製品の教育プログラムと競合するというよりも、Aruduinoなどの前に入門用としてMakey Makeyは役に立つと思っている。その意味でお互いに補い合える関係だ」と語っていた。