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2017.05.12

米国最大の教育イベント SXSWeduレポート #3 – ARゲームによる新たな学びの可能性

Text by Toshinao Ruike

4日間に渡り500以上のセッションが行われ、プログラムに目を通すだけで大変なアメリカ最大の教育イベントSXSWeduだが、今回はAR/VRについてテーマとして取り上げるセッションが多かった。あまりに数が多かったので結局一部しか見ることができなかったが、流行っているというより、まだ出始めのため、その可能性を探っている段階ではないかと思われた。ミーティングがあり、参加者同士が話し合う機会もあったが「結局実際に出回っているソフトがそれほどないから、特に教育でまだどんな可能性があるのかも議論しにくいんだよね」といった話も聞くことがあった。

そんな中SXSWの出展で一際目を引いたのは、3段重ねになったブロック状のパーツを組み合わせてAR上でロボットを戦わせるSwap Botsだ。

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昨年のPokemon Goの世界的ヒットの後、アニメーションやARなどの専門家が集まって開発されたSwap Botsは現在Kickstarterで出資募集中だ。イギリスで開発されたそうだが、電子回路からインスパイアされたキャラクター・デザインが斬新だ。

スマホまたはタブレットで組み立てたロボットの各パーツを認識させると手の中に入っていたロボットから触手のようにケーブルが現れたりAR上で現実の景色の中でロボットが変形して戦う。ARによるテクノロジーと遊びの幸せな出会いとでも言おうか、これまでのゲームにはおそらくない感覚だと思う。子供だけでなく、大人にも楽しんで受け入れられるように作られているそうだが、面白いだけではなく、電子回路のようなデザインを取り入れるなど学びに繋がる要素もあり、こういったゲームは学習活動に用いるツールを開発する参考にできそうだ。

SXSWeduとその後2日間だけSXSW本編のフェスティバルの方も楽しむことができたので、そちらで印象に残った内容を最後に何点か紹介したい。

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ワコムがSXSWとSXSWeduの両方に出展していたのは、文章をタブレットに書いている時にどういった精神状態だったかを脳波を測定することでグラフィカルに表示するツール。測定した脳波を分析して、文章のどういった箇所でプレッシャーを感じているのか、満足感などをグラフで見ることができる。また筆跡をプレイバックして見ることもでき、幸福感や興奮などを感じながら書いている箇所にはキラキラしたエフェクトがかけられている。

筆跡鑑定の専門家が筆跡をプロファイリングするとある程度精神状態が把握できるそうだが、脳波を測定することで、どこまで人の精神状態を分析できているのか、筆跡とどこまでシンクロしているのか照らし合わせて見ることができるのが面白い。脳波の分析はまだ発展途上の分野なので、言葉の意味だけでなく筆跡を追うことでコンテクストとどう対応しているのかよりわかりやすいということが言える、そういった意味で筆跡と脳波を分析することは様々な分野の産業で可能性があるのではないかと思っている、と開発チームの苅谷花子さんは語っていた。

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学習をデザインするモバイルアプリを開発するLearning Design Principlesのワークショップでは、個人のバックグラウンドが書かれたプロフィールのカードとどういった問題に対処するのかについて書かれたカードが配布され、それらのカードを配置し、誰がどのようなもくてきのためにどのように学習するためのアプリが必要かグループで議論していた。

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教育用アプリのデザインをどのように行うのか、ユーザーのニーズにも多種多様なケースがあり、それらにどう対応するのかアイデア出しを行うために面白い方法だと思った。

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栄養バランスが取れるように様々な素材を組み合わせて中東の料理フムスのペーストを作る食育に関するワークショップも行われていた。

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SXSW Createというメイカー系のスペースがあり、Make Faireにヘボコンでいつも参加しているデイリーポータルZの林さんとべつやくさんが「顔が大きくなる箱」で出展。現地調達した材料で制作。フェスティバルでの出展が終わった後もオースティンの繁華街の路上でゲリラパフォーマンスを行っていて、現地の人が喜んで参加して頻繁にスマホで写真を撮っていた。

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「セサミストリート」「マペットショー」で有名なThe Jim Henson Companyの人形遣いたち(muppeteer)のこれまであまり表舞台に出ることがなかった素顔を取り上げたドキュメンタリー映画のプレミア上映。上映後のトークと質疑応答で、アメリカの観客に「子ども時代からずっと見て育ちました。素晴らしい番組を本当にありがとうございました。」と繰り返し言われていたのが印象的だった。

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会場で目を引いたのは、宇宙・軍事産業の会社Lockheed Martinによるパワードスーツ。重さのある機器を伴った肉体作業の負担を軽減するための製品。5分ほどで装着可能。数千ドルで発売する予定とのこと。

今回SXSWeduに行く前は音楽で有名なSXSWに付随する教育イベントということで、もっと音楽やマルチメディア系のよった出展を期待していたが、4日間で500以上あったセッションや出展の中で特別にメディア系や芸術系の内容が多いわけではなく、教育全体を広く浅く網羅する内容だった。中には教育系のサービスを提供する会社の代表が自社のサービスを宣伝するセッションも多数あり、500以上あるのでしょうがないといえばしょうがないが、質にバラツキがありどちらかと言うと質より量を重視しているような印象を受けた。

テクノロジーとの関わりということについていえば、特別に熱心にテクノロジーを教育現場に取り入れようとしているわけではないと思ったが、テクノロジーと教育に取り入れる、あるいはテクノロジーをどのように教えるべきなのか、身構えるのではなく必要なものとして受けいれるような自然な態度が現地で知り合った教育関係者からは感じられた。スマホを使ってプログラムをチェックしたり、カンファレンスではスピーカーにsli.doのサービスを使ってアプリから質問する。

現地の関係者から教育を語る際に頻繁に出ていたのは「engagement」という言葉だった。日本語では何かに関与する結びつくといった意味でそれ自体は特別な意味を持った言葉ではないが、ある学習活動をすることでどういった結果に結びつくのかをその成果を重視する合理主義的な考え方が背景にあるように思えた。Makerムーブメントについての議論も具体的で、「単なる工作とMakerの違いはどのように目的を持つかによる」「Makerムーブメントに必要なのは教育者を育てるリソースだ」といった声も聞かれた。

SXSWeduは教育とテクノロジーに特化したイベントではないが、かなりの規模の教育イベントではあるので、様々な分野をまたいで興味深い教育関係者と出会える機会ではある。また近年SXSWを見習ってか、音楽フェスティバルが教育やメディアアート、ゲームなどさまざまな分野のイベントを組み合わせる例が世界的に増えている(ちなみに今年バルセロナでのMaker Faireはエレクトロニック・ミュージックの音楽フェスティバルの元祖Sonarにホストされる。)集客面のメリットだけではなく、異分野交流による効果も期待でき、今後こういった動きは増えていくのかもしれない。