クッキーやクラッカーのように焼いて作ったブレッドボード。歯を食いしばると動く車椅子。鍵盤に指を置くとカラフルな虹色になったり星が映し出される電子ピアノ。機械式大豆分類機。手の平サイズながら本当に乗って走れるオートバイ(下のビデオ)。ビー玉が落ちることなく必ずバスケットに入る手彫りのミニチュアマーブルマシン。そしてもちろん、Pepperを始めとするロボットたちがコスチュームを身にまとったりバトルをする。日本のMakerたちは本当に遊び好きで、しかし非常に真剣だ。そんな彼らが、8月の最初の週末、Maker Faire Tokyoに集結した。
Maker Faire Tokyo 2015は、東京ビッグサイトにて土曜日から始まった。出展したMakerは350組以上。去年よりも会場を40%も拡張して行われた。O’Reilly Japanの責任者、田村英男によると、初日の来場者数は7,000人を超えたという。
Maker Faire Tokyoに集まった日本のMakerのプロジェクトは、素晴らしく独創的であり、よく考えられて、細かく作り込まれている。音楽、ロボティクス、デジタルファブリケーション、食品、モノのインターネット。たくさんありすぎて1日では見て回れないと話す人たちの声を、朝、私は聞いた。いいものがたくさんある。新しくて新鮮で素晴らしいものがたくさんありすぎて、私も歩調を速めざるを得なかった。
日本自身がそうであるように、Maker Faire Tokyoの物理的スペースは他のMaker Faireに比べると狭い。しかし、今回のMaker Faireは日本では最大規模となった。Makerたちは狭いブースに押し込められ、テーブルの上は隙間なくモノで埋められていた。多くのMakerは、そこで「小さいことは美しい」という理念を体現しているようにも見えた。
ブレッドボードを焼いて作るというのは、アーティストのスズキ・エリコと、そのパートナーのカシワギ・エミコが考え出した。クッキングの革命とまでは言えないが、エレクトロニクスの楽しいブレイクスルーだ。クッキー、クラッカー、カップケーキなどのお菓子は配線で結ばれて回路として働くようになっている。エリコは、焼いたクッキーを取り出して、配線を突っ込み、下に敷いてあるアルミホイルに接続する方法を見せてくれた。
スズキ・エリコとカシワギ・エミコ
彼女たちの活動は、FacebookのBreadBoardBaking でフォローできる。
ピアノのインタラクティブ・プロジェクション。
faithroomのタクマ・シンスケのピアノ・インタラクティブ・プロジェクションは美しかった。ピアノを弾くのが好きだが、演奏家としての腕に自信が持てなかった彼は、プロジェクションマッピングを使ってショーを演出しようと考えたという。ピアノはコンピューターに接続されていて、そこで演奏に合わせて画像が生成され、上からピアノの上に置かれたテーブルにそれを投影している。
ピアノのインタラクティブ・プロジェクション
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
大豆選別機
はらっぱ技術研究所のサトウ・アキヒラは、昼間は電子計測器のメーカーに勤めている。その彼がDIY農業の実験として機械式大豆選別機を作った。ホッパーに豆を入れると、スクリーンで大、中、小に選別されて、傾斜台を通りそれぞれのバケツに分けられるというものだ。
サトウ・アキヒラは、木製の手回し式大豆選別機を作った
車椅子の新しい操作方式
Assistech Design Labを経営するスギモト・ヨシミは、車椅子を展示していた。脳波でコントロールする仕組みなのだと、頭に装着したヘッドバンドを指指して話してくれた。しかし、私が実際に試そうとしたとき、彼は歯を使えと教えてくれた。上下の前歯を合わせると車椅子は前進する。右の歯を食いしばると右に曲がる。その方法でビックリするほどうまく運転できた。
Maker MediaのCEO、Gregg Brockwayが歯でコントロールする車椅子を試そうとしているところ
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
超小型バイク
Haseckは長谷川製作所 を経営している。彼が作ったマイクロバイクは、超小型のオートバイだ。これが、ぎこちないながらも、大人を一人乗せて走ることができる。その職人技には驚かされた。
長谷川製作所のHaseck
Maker Faireの会場でデモンストレーションはしなかったが、彼自身が運転している下のビデオを見せてくれた。
VIDEO
音も一人前のオートバイだ
超小型ドローン
ドローンもたくさん展示されていたが、ほとんどがごく小さいものだった。プラスティックのフードコンテナに入ってしまうほどのサイズだ。下のビデオは、ポテトチップスの筒に仕込まれたドローン。
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
インタラクティブ・ベッド
マットレスでゲームを操作しようなんて、今まで誰が考えただろう。次なる大きな波になるかも。Oculus Riftはもういらない。作者はこう思った。寝るとき、または起きるときにゲームがプレイできたら。ベッドに横たわり、体を動かすことで自分のアバターを動かしてみたいと考える人はどれくらいいるだろう。それは誰にもわからない。見た目は馬鹿馬鹿しいが、真剣に考えてもいいシステムだ。センサーやインタラクションにベッドを使う意味って何だろう。何らかの理由で寝たきりの人の役に立つかもしれない。
インタラクティブベッドで上に置かれた画面のゲームをコントロール
インタラクティブベッドに関する詳細はentermaker.com を見てほしい。
楽器あれこれ
Maker Faire Shenzhenで明和電機とのパフォーマンスを見せてくれたKIMURAに会えたのはうれしかった。今回彼は、ミュージカル・メカニカル・インストトゥルメンツ(MMI)を展示していた。
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
何体ものロボット大道芸人が音楽を奏で、下のドラマーのように人々の気を惹こうとする者もいた。
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
CRT回路
これは大変に珍しい、CRTのインスタレーションだ。Electronicos FantasticosによるBraun Tube Jazz Bandという出し物だ(Braun Tube[ブラウン管]とは、ドイツ人発明家カール・フェルディナンド・ブラウンが開発したカソードレイチューブの名前をとった)。3つの画面があり、その背後に人がいて、手を出すように言う。彼女の手を握って、もう片方の手で画面に触れると、回路が通じて音が出る。
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
炎のエフェクト
Airphony という名のMakerは、フレーム・マニピュレーターと呼ばれる美しいシステムを暗室で展示していた。何本かの管から少しずつ放たれる炎が霧に映し出されるというものだ。インタラクションによって形や色が変化する。
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
R2-D2ビルダーズ
「Maker Faireがなければ、これを作ろうとは思わなかったでしょう」と、R2-D2ロボットの前に立ったRichard Inoueは話してくれた。彼は、やはり自分でR2-D2を作ったJonathan Reinfeldsに手伝ってもらっている。彼もMaker Faire Bay Areaでそれを見て刺激された口だ。子どもたちがスター・ウォーズの大ファンなので、彼らに作ってやったらさぞ楽しいだろうと考えたのだ。「R2-D2ビルダーのコミュニティの地図に日本も加えたかった」とRichardは話している。
Jonathan ReinfeldsとRichard Inoueは協力してR2-D2を作っている
アニメーションボックス
猫が歩くシンプルなストロボアニメーションが気に入った。箱の中には、上に2つ、下に2つのライトがあり、猫が歩く姿を4ステップで描いたフィルムが入っている。その結果、素晴らしい影絵が映し出される。
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
ダンシング・ワイパー
そんだけ? もちろん違う。作者のMichael Cohenは、車のワイパーを音楽と同期させたいと考えたのだ。
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
ある意味、クレイジーで、常識を覆すものでもある。想像力を刺激してくれるものでもある。Michaelは、カーラジオをワイパーをつなげたらどうなるかと問いかける。考えてもみなかったことを考えさせてくれた。真剣に考えたら、特殊な才能を持つ天才だ。クレイジーなほど頭がいい。そして単純に楽しくもある。
未来的なイヤホン
このイヤホンは、楽しさと機能を一体化した日本らしい作品だ。この女性が何を頭に装着しているのか見当が付かなかった。しかし、非常に高機能なイヤホンで、形も未来的なものであることがわかった。一部のファッションサークルで注目を浴びること間違いなしだ。
Makerスタートアップ
これほど多くの創造的なMakerが日本にいながら、商業的な成功を収めたMakerは、他国よりも比率的として少ないように見える。プロジェクトからプロダクトへの移行が日本では難しいのか。または、日本のMakerは商業的な成功を目指していないのか。いずれにせよ、日本のMakerにはもっとがんばってリスクを冒し、プロジェクトの商品化へのチャレンジをしてほしいと願わずにはいられない。
Maker Faire Tokyoで私たちが見たものは、世界を変えることができるのか。あるいは日本の未来を変えることができるのか? IAMASの教授で長年日本のMakerムーブメントの象徴的存在である小林茂は、そう信じている。小林は、ハードウェアスタートアップのパネルディスカッションを主催した。集まったのは、Rapiro の開発者、石渡昌太、オープンソースのWi-Fi対応赤外線リモコン、IRKit を開発した大塚雅和、Fun’iki Ambient Glasses(雰囲気メガネ) を開発した白鳥啓だ。Fun’IKI(雰囲気メガネ)は、レンズをいろいろな色で光らせて情報を伝えるというもの。メガネメーカーと共同開発された。この3人のMakerは、実際に製品を開発して販売している。
小林茂、大塚雅和、白鳥啓、Dale Dougherty、石渡昌太 (写真:高須正和)
石渡によれば、人型ロボット開発の最大の難関は製造だったという。大変に経費がかかる。彼のロボットのパーツは30もあり、それぞれに異なる金型が必要だ。金型も金がかかる。彼はKickstarterで1,700万円を獲得したが、そのうち1,000万円は金型に消えた。しかし彼は、日本の射出成型業者に満足している。大塚は、IRKitを自己資金で開発したが、コストはそれほど問題ではなかったと言う。IRKitは、たったの2つの部品と基板だけでできている。彼が困難に感じたことは、すべてひとりでやってきたことだ。「考えなければならないことが山ほどあり、決断しなければならないことも多く、精神的に疲れました」と彼は言う。白鳥の場合は、メガネの専門家にエレクトロニクスを組み込んではいるが、それでも人を惹きつける彼のデザインを理解させることが困難だった。もうひとつ彼を悩ませたのは、メガネメーカーが一部の主要人物を除いて、旧態然としていて保守的であったことだ。彼がクラウドファンディングを使った理由は、資金を集めることではなく、社外の人々の興味の高さを示すことで、プロジェクトを前に進めようと考えたからだ。
石渡昌太のRapiro
大塚雅和のIRKit
この3人のMakerは、日本にハードウェアスタートアップのエコシステムを確立させたパイオニアだ。「プロジェクトを開発するのは、今でも難しい。しかし、私たちが道を切り開いたので、選択肢が増えました」と白鳥は言う。大塚はこう話す。「私は誰にでもできることをしています。スーパーヒーローになる必要はありません。こうしたモノ作りの方法は、私たちの社会に広がっていくでしょう」
金本茂は、7年前にArduinoをイタリアから輸入するためにスイッチサイエンス を立ち上げた。「私の会社は、私の部屋のなかの小さな箱でした」と彼は振り返る。今では11人の正社員と20人のパートタイムを雇う大きな会社となり、石渡のRapiroなどのさまざまな製品を日本のMakerに届けている。
スイッチサイエンスの金本茂
もちろん、Maker Faire Tokyoはこれだけではない。IoT製品を展示する企業スポンサーも多く参加していた。NTT、東芝、富士通、ソニーなどの日本企業も出展していた。3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーションツールもたくさんあった。私が特に気に入ったのは、Original Mindの小型CNCマシン、KitMill だ。香港3Dプリンター協会 のLaw Yee Pingたちにも会えた。その中のひとりは、とてもユニークな3Dプリンターを出展していた。
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
たくさんの子どもたち
去年のMaker Faire Tokyoからの大きな変化のひとつ、私を大変に喜ばせてくれたことに、家族連れが増え、子どもたちが会場を走り回り、Makerに話しかけ、展示物をいじっていたことだ。
(編注:動画は原文 にてご参照ください)
ミズノ・ヒトミは、私のFacebookに、息子のユーキと、その友だちといっしょにMaker Faire Tokyoを見に来られた良かったと書いてくれた。「最高に楽しかったです! 小さなMakerたちが楽しんでいました」
ミズノ・ユーキとその仲間たちと(写真:ミズノ・ヒトミ)
子どもたちの好奇心とはしゃぎようを見ると、Maker Faireの精神を思い出させてくれる。そして、驚くべき創造的才能で私たちを刺激してくれることに感謝の念がわく。
[原文 ]