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2017.08.23

Maker Faire Tokyo 2017レポート:Prototype to Product—プロダクトをつくるということ

Text by guest

これはMaker Faire Tokyo 2017の特別企画として2017年8月6日に行った80分間のセッションを記事として再構成したものです。(モデレーター・原稿執筆:小林茂[情報科学芸術大学院大学[IAMAS]産業文化研究センター 教授])

現在、さまざまな変化が起きている。例えば、人々の好みの多様化が進み、年代や性別、収入などの属性で人々をカテゴリーに分けて捉えるマーケティングやプロモーションの有効性は低下している。その一方で、インターネットや3Dプリント、AIなどさまざまなテクノロジーの「民主化」は進み、誰でも低コストでアクセスできるようになっている。さらに、そうしたテクノロジーを活用して新しい何かを自らの手で創り出すメイカーと呼ばれる人々も増えている。

さまざまなテクノロジーが「民主化」されたことにより、プロトタイピングを通じてアイデアを発展させ、コンセプトプロトタイプをつくることは以前と比べると容易になってきた。しかしながら、プロダクトとして世の中に送り出すためにはさまざまなハードルが待ち構えている。アイデアからプロダクトまでのプロセスの一例を図にすると次のようになる。このような図にしてしまうと順を追っていけばアイデアがプロダクトになるという簡単なものに見えてしまうかもしれない。実際にはそれぞれの段階を繰り返したり、前の段階に戻ったり、途中でプロジェクト自体が中止されたり、といったさまざまなことが起きる。

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このように、プロダクトをつくることはリスクを伴う大変なことであると同時に、自分たちのつくったものを世の中に送り出すという楽しいことでもある。メイカームーブメントと呼ばれる時代において注目すべきは、メーカーと呼ばれる製造業の人々が決められたプロセスで組織的に行っている領域ではなく、新しい挑戦が次々と行われている「辺境」(フロンティア)である。この中には大きく2つある。まず、メーカーの中でメイカーとしてのスピリッツを持ち、メイカーらしいやり方で取り組んでいる人々である。例えば、以前のインタビューの中でとりあげたambieの三原さんtoioの田中さんである。次に、草の根的に何かのきっかけでものをつくることを始め、プロダクトとして世の中に送り出すことに挑戦している人々である。例えば、以前のインタビューで取り上げたOTON GLASSの島影さんである。

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このセッションは、後者のメイカーたちに着目し、さまざまなハードルを乗り越えた(あるいは乗り越えようとしている)メイカーとの議論を通じてプロダクトをつくるということの実際の姿を描くことをゴールとして開催した。はじめに、大谷宜央さん(株式会社電玉 代表取締役)、 島影圭佑さん(株式会社 OTON GLASS 代表取締役)、 豊田淳さん(チーム・べゼリー 代表)から、それぞれのプロジェクトについて紹介していただいた。

スマートフォンと連携する剣玉3.0「電玉」

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「剣玉は日本の広島市発祥のもので日本古来の伝統的な遊びとしてよく知られています。最近ではかっこよくてクールでエクストリームな遊びとして日本のみならず世界中でブームになってきていて、若者を中心に爆発的にムーブメントになってきています。一人で遊ぶものではなくて競技スポーツになって来たことによって、もっと競争して大会のような遊び方をしたいとか、自分がどれくらい上手くなっているかとかランキングを知りたいといったことが起きています。でも、そういうことができるサービスはないし、そういうことができる剣玉もないんです。では我々がつくってしまおうということでつくったのが、剣玉のさらなる発展系『電玉』です」

電玉は中に6軸のセンサや近接センサが入っていて本体の姿勢や玉が接触している位置を検知できるようになっており、スマートフォンのアプリと通信して遊べるようになっている。これにより、どちらが早く技を決めたかを競う、襲ってくる敵を協力して倒す、インターネットを通じてアメリカと日本で一緒に遊ぶ、といったさまざまな遊び方ができる。くわえて、剣玉は集中力アップや認知症予防にも効果があるといわれており、高齢者と子どもたちのコミュニティを電玉のプラットフォームでつなげることも可能だという。

「例えば、老人ホームと児童館で一緒に1日1回遊べるようなクエストを発行して一緒に遊べるようにすれば、運動も楽しく、生活も楽しくなるような楽しい剣玉生活をつくれるんじゃないかなと思います。自転車が発展してきたように、剣玉も同じような発展の仕方ができるのではないか、と思っています」

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大谷さんが示した剣玉3.0という考え方

この電玉の原型は、2015年8月8日から23日にかけて開催されたau未来研究所ハッカソン「BE PLAYABLE」の中で生まれた。当時「エスパーけん玉」と呼ばれていたこのコンセプトはどのように生まれたのだろうか。

「自分たちのチームでは『高齢者の人にとって楽しいものをつくろう』というテーマでハッカソンの1日目に取り組んだんですけど、その時に出てきたのは『勝手にお散歩に連れて行ってくれる杖』という剣玉とは全然関係の無いものだったんです。つくる上でのハードルであったりとか、本当に求められているのかを検討する中で、上野公園などに行ってその辺のおじいちゃんと話したら『昔のオモチャで遊びたいよね』という声を割と聞いたんです。昔のオモチャにゲーム性やより楽しめる要素を付け加えたら、子どもや孫も一緒に遊んでくれて、孫にとってはゲームとして、高齢者の人にとっては昔懐かしいオモチャとして特に意識しないでも一緒に遊べるようなものがつくれんじゃないかなと。そこで動き回る杖から剣玉に思いっきり変わりました」

こうして生まれたエスパーけん玉は、KDDIの事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo」の第9期に応募して採択されたことで、イベントとしてのハッカソン終了後も開発を継続して発展させ、ハッカソンからわずか6ヶ月後の2016年2月から5月までの期間にクラウドファンディングを実施、その後の開発期間を経て2017年3月に支援者向けに出荷、現在はオンラインで販売するほか、ASCII STARTUPとのコラボレーション企画での海外展開も準備中である。

文字情報を音声に変換することで「読む行為」をサポートするスマートグラス「OTON GLASS」

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OTON GLASSは、文字を読むことが困難なディスレクシア(読字障がい者)や弱視者、海外渡航者を対象とした、文字情報を音声に変換することで「読む行為」をサポートするスマートグラスである。

OTON GLASSに関しては2017年5月の時点でのインタビュー記事で詳しく紹介したが、その後さらに発展している。

「現在のモデルで受注生産を始めていて、視覚障がいや読字障がいを持っている個人の方、病院の眼科とかリハビリテーション科、視覚障がいを持っている学生が通う大学にこのモデルを発売し始めています。ユーザーが撮影した文字のライフログデータを活用してユーザーの求めている情報を提供するサービスというのを展開するなど、売り切りじゃないハードウェア、サブスクリプションで収益化できるモデルというのを実現したいと思っています。今年は、新型のモデルを開発して販売するための協業体制を構築したいと思っています。次のステップとして海外での販売も視野に入れていて、シェアを拡大していって最終的には誰もが文字を読める世界を実現したいなと思っています」

大学でプロダクトデザインを勉強していた島影さんは、父親が病気になったことをきっかけに卒業研究としてOTON GLASSというプロジェクトを始めた。父親に対して行動観察をしてどういうところで困っているかを調べつつ、現在利用できるようになっているテクノロジーについても調査し、スケッチをすることを通じて発想していった。そして、実現したらどんなインタラクションになるのかを映像でプロトタイピングし、エンジニアやデザイナーを巻き込んで実際に体験できるコンセプトプロトタイプをつくり、フィードバックを基にブラッシュアップして次のモデルをつくる、ということを繰り返して現在のモデルに至っている。

コミュニケーションロボットをつくれるキット「ベゼリー」

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ベゼリーはRaspberry Piなどと組み合わせることで手軽にコミュニケーションロボットをつくれるキットである。3つのサーボモーターが身体の外に付いていて首の付け根を動かすというユニークな構造により、身体全体を揺り動かすことができコミカルに楽しく動く。さらに、頭部が空洞になっていることによりRaspberry Piのカメラを頭の中に入れることもできる。くわえて、GitHub上でさまざまなPythonのプログラムが公開されているため、それらを順に試すだけでもさまざまな可能性を感じることができる。

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このベゼリーはどのように生まれてきたのだろうか。au未来研究所ハッカソンに参加したことをきっかけにしてメイカーの世界にやってきたという豊田さんは、ベゼリーが生まれた経緯について次のように語った。

「チームベゼリーは、ハッカソンという短期間ではなく量産も視野に入れた長いスパンでプロダクトに挑戦しようという呼びかけで始まったEngadget先端研究所の中で生まれました。第1回目には自分のやりたいことを順番に発表するということが決まっていたので、何をつくろうかというのをその時点で考え始めました。ちょうどその時、会社の業務で使っていたロボットにイライラすることがあったので、そうではないロボットをつくりたいと思ったんです。でも、それって凄く技術的に難しいことなので、現実的に自分たちの技術力でもできることは何かなと考えたときに、テレビの上に乗るような小さなロボットをつくろう、ということを考えて発表したというのがきっかけです」

豊田さんのアイデアに共感して集まったチームメンバーの中にはプロダクトデザイナーや機構エンジニアがいなかったため、Autodeskが無償で提供していたCADツール「123D Design」を使って設計し、ソニーのファブスペース「Creative Lounge」の3Dプリンターを使ってつくり始めた。習作としてAndroidのマスコット「Bugdroid」(通称「ドロイド君」)をつくり、サーボモーター1個で動かしてみたところ、身体をぐるぐると回すことで手がぶらぶら動くのが面白いということになり、プロダクトが段々形になっていった。その後は東京や深圳、ベイエリアのMaker Faireなどに出展する度に新しいデモを作りながら発展させ、Maker Faire Tokyo 2017では顔を認識して鼻、口、顔の配置を見てその人の戦闘能力を判断して結果をプリントアウトするというデモを行っていた。

このベゼリーは、あるイベントに来場していた上海問屋の担当者から実験的に販売してみたいという提案があったことをきっかけに、3Dプリンターで製造することで数ヶ月おきにさまざまなタイプを出すという少量生産の多品種展開を行っている。

それぞれのプロジェクトにおけるチャレンジ

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電玉、OTON GLASS、ベゼリーという3つのプロジェクトにはそれぞれのチャレンジがあった。電玉は最初のコンセプトプロトタイプが2週間という短期間で生まれた後、幸いにして剣玉が大好きなエンジェル投資家が見つかったことにより試作と量産は進められた。しかしながら、プロダクトとして世の中に送り出すまでにはさまざまな課題があったと大谷さんは語ってくれた。

「我々の電玉はセンシングにいわゆる6軸のセンサと金属探知機のような仕組みを用いていて、最初は玉にアルミホイルを巻いてセンシングしていたんです。アルミホイルで実現できるくらいだから簡単に蒸着のメッキとかでも反応させられるんじゃないかなと思っていたんです。ところが、量産試作での蒸着だとアルミの膜厚が薄すぎて全く反応しなかったんですよね。それで、これはもう実現できないんじゃ無いか、というところまで来て…。でも、クラウドファンディングが成立してしまっているので、なんとかしなければならない…。その時が心理的にも結構『来ました』ね。幸いに対処法はいろいろあって、鋳型にするか、どぶ漬け型の膜厚を稼げるメッキにするか、というところを試行錯誤して、今はどぶ漬け型のメッキになっています。あとは温度特性で、温度が低くなったときにいきなり反応し始めてしまう、という問題があったので、アナログ回路で対処する、といったことをやってきました」

OTON GLASSについては、ソフトウェアと異なり製造物責任のあるハードウェアを草の根的に進めてきたメイカーが世の中に送り出すためには、生産者と消費者という関係ではない新たな関係が必要になるのではないかと島影さんは語ってくれた。

「OTON GLASSでは、量産に対応した次のモデルをつくるということも大切なんですけど、現在のモデルを実際に売って使ってもらうということが非常に重要だと思っています。ユーザーさんから意見をもらうというのも重要なんですけど、これが本当に売れることを証明するというのが重要なんですね。僕たちは、仮説として『これが世界を変えるんだ』といっているんですけど、本当にいくらでお金を出して買ってくれるのかが分からないんです。そうした時、ソフトウェアだったら『一回リリースしてみて、ダウンロードしてこういう反応でした』というやり方ができますがハードウェアは売って怪我とかしたら非常に大変です。僕らみたいな草の根でやってきた人たちがどこまで保証できるのかというと、限界もあります。そこで、外部の方の協力を得てOTON GLASSの利用規約をつくる、ということをやっています。その利用規約では、作り手と使い手という関係で対価に対して製品をお渡ししてこれだけのことを保証しますよ、という製造物責任法が前提としているような関係じゃなくて、まず、お互いをフェロー(同志)だと位置付けようと思っています。気軽な仲間から始まって、いろいろ保証できないこともあるけど、まずこれを一緒に良くしていく仲間にならないか?という関係を想定した利用規約です。この関係性での契約を結ぶことによって、まずは売ってみる、ということを今始めているところです。この成果についてはいつかまとまった形で公開できればと思っています」

ハードウェアの製造物責任は、新たに挑戦しようとするメイカーのみならず、既存のメーカーで新規分野に挑戦しようとする人々にとって大きなハードルである。1994年に制定された製造物責任法は、多くの製造物が高度なテクノロジーを応用して製造されるようになる中で、製造業者と被害者の間に情報の格差があることを背景の1つとして、被害者・消費者保護の観点から、製造物による被害についての損害賠償責任を定めたものである。製造物に関するリスクにはこの法的責任にくわえて訴訟リスクと評判リスクがあり、特にブランドの確立したメーカーにおいては評判が傷つくのを恐れるあまり新規事業に踏み出せないという話をよく耳にする。メイカームーブメントの時代における製造物責任の在り方については、筆者も検討会メンバーの一人として参加した総務省の「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」において 、個人レベルでプロダクトをつくれるようになる世界になることを想定して現行制度上の課題を整理すると共に留意点等をまとめた手引書を作成した(「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」 報告書)。製造物責任の在り方については、短期間で簡単に結論を出せる領域ではない。しかしながら、メーカーと消費者という非対称な関係でなく、メイカーと来場者、あるいはメイカー同士というフラットな関係で対面販売できるMaker Faireはハードルを下げて挑戦できる場として機能しており、新しい挑戦を促進してきていると感じている。島影さんたちのような挑戦が新たな道を切り開いていく可能性に引き続き注目したい。

ベゼリーについては現在のところまでは自分たちの資金で進めてきているが、次の段階に進もうとすると資金的な問題が予想されると豊田さんは語ってくれた。

「資金に関しては今後課題になってくると思います。ベゼリーが抱えている最大の課題というのは3Dプリンターでつくっているところです。少量多品種展開をやっている分には良いんですけど、マスに手を出そうとするとやはりやはり射出成形が必要になって、そうなるとパーツ数が問題になってくるんですよね。ベゼリーには20個近くのパーツがあるため、それらの全てについて金型をつくろうとしたら部品点数×数十万円という金額になってしまいますので、やはりそこは大きな問題になると思います。もっと簡単に射出成形ができるデータを自分でつくって、金型も3Dプリンタでつくって、自分の家で射出成形もできるようなそういう環境がきっとすぐ近くにやって来ると思っていまして、それまでにやれることをやっておこう、というのが今のステータスです」

豊田さんのような発想ができるようになった背景にはメイカームーブメントがある。Maker Faire Tokyo 2017に来場した人々は実感したと思うが、メイカーを対象にしたさまざまな部品やツール、プラットフォームが用意されており、誰でも簡単にアクセスできるようになりつつある。単なる趣味からプロダクトを生み出そうとする人々までの幅広さが特徴だ。豊田さんが課題としてあげた射出成形についても、以前からMaker Faireではおなじみの株式会社 オリジナルマインドが小型で低価格の射出成形機を参考出品するなど、確実に豊田さんの思い描く世界は近づいてきている。

メイカームーブメントの時代だからできる挑戦

ベゼリーをつくるまで意匠設計や機構設計の経験がなかった豊田さんは、自身の経験を振り返って語ってくれた。

「この場を借りてみなさまに感謝をしたいです。便利に使えている無料のCADであるとか、ソニーのCreative Loungeのように高価な3Dプリンターを一般市民が使える場というところがなかったらベゼリーというものは生まれていないと思うんで、本当にありがたい気持ちで一杯です」

豊田さんがベゼリーを世の中に送り出すとき、最初は100個という目標があった。

「品モノラボの中から生まれた『100品ラボ』という考え方があります。まずは100個を目標にしようというメッセージが僕にとってはすごく響きました。ベゼリーはまずは100個を売ろうということを目標にしてやって、上海問屋さんのご協力を頂いて100個売れたときには一つの壁は越えたな、という感じを抱きました。100個という数は大量生産でもないし、かといって友達に配るレベルの少数でもないし、ということで最初の目標として設定するのは凄くいいかなと思います」

OTON GLASSにおいても、さまざまなテクノロジーが「民主化」されて誰でも簡単にアクセスできるようになったことが大きい、と島影さんは語ってくれた。

「Raspberry Piとか今使っている画像認識APIのように『民主化』されたテクノロジーというのを使って全く利害関係を持たないで勝手につくってしまい、その後で頭の硬い大人たちを説得して感動してもらうとか、巻き込んでいく、とかそういうことができるようになってきていることが重要なんじゃないかと思います」

メイカーがプロダクトをつくることで「辺境」から世界を再構築する

前掲した図に示したように、こうしたメイカーたちの活動は市場全体の規模から見るとまだまだごく一部に過ぎない「辺境」である。しかしながら、確実にそうしたメイカーたちは増えていて、変化が起きつつある。こうした活動において鍵となるのがコミュニティである。それぞれのプロジェクトにおけるコミュニティについて、大谷さん、島影さんは次のように語ってくれた。

「電玉をやる人のコミュニティをつくろうと動いていて、剣玉をやる人のための電玉イベントとか、IT好きな人のための電玉イベントなどを月に1回くらい開催しています。そうしたイベントを通じて電玉のことを徐々に知ってもらって、その中で知り合った人たちでゲーム内でフレンド申請して一緒に遊べるとか、そういうO2O的な、オフラインで知り合って、オンラインでも遊んで、さらにコミュニティができて、コミュニティ同士でチーム作って、さらにチーム同士で対戦して盛り上がったり、という拡げ方ができたら面白いなと思っています」

「Maker Faireもそうですが、コミュニティがものすごく大切だと思っています。先月まで、金沢21世紀美術館のある一角を使ってOTON GLASSの実証実験的な展示をさせてもらっていたんです。そこにはOTON GLASSを応援してくれるコミュニティが生まれていて、当事者の人や支援する人も勿論ですけど、いろいろな人がOTON GLASSを応援してくれたんです。いわゆる大きなメーカーが製品発売後に後発でつくっていくのではなくて、そういうコミュニティを最初から一緒につくっていくのが凄い大切なのかなど思っています。まずつくる、かつそれを応援してくれるコミュニティを増やす、というのが後で価値になってくると思うので、それを今をやっているという感じです」

メイカーがプロダクトをつくって世の中に送り出すという取り組みはまだ始まったばかりであり、現時点で未来を予測するのは難しい。しかしながら、5年後、10年後には今回登壇していただいた3人のようなメイカーがさらに増えることで、「メーカー」と「消費者」の間に「メイカー」が入ったグレースケールができ、新たな挑戦が次々と行われるような状況ができるのではないかと期待している。そうした意味もあり、メイカーたちのチャレンジには引き続き注目し応援していきたい。最後に、大谷さん、島影さん、豊田さんからメッセージをいただいた。
「電玉は剣玉が苦手な人でも練習できて楽しめるので、ぜひ購入していただけるとありがたいです」

「僕のような『どこから出てきたんだ?』という草の根みたいな奴がハードウェアのスタートアップをできるという事例ができると、一気にメイカームーブメントが次のフェーズに行けるかな、と思ってがんばってます。引き続き、僕のことも、OTON GLASSのこともフォローしていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします」

「私のように、何の経験も技術もない者でも少量多品種展開とはいえ製品を売るところくらいまではできる時代がやってきました。ぜひ、みなさんもいろいろな障害はあると思いますが、諦めずにやれるところからどんどんやっていく、というのをぜひ挑戦して欲しいなと思います」