2012.03.24
新刊『Making Things Move』
動く機械を自分の手で作りあげることには、大きな満足がともないます。本書は、デザインやアートを学ぶ学生向けの講座がもとになった、動くモノを作りたいと考えている方のためのメカニズム入門書です。機械に関する知識がほとんどない読者を対象に、ネジや歯車など基本的な機械要素とその背景にある物理法則、材料の特性、部品の結合方法、トルク、エネルギーなどについてわかりやすく説明し、その後、モータの制御や各種の要素を組み合わせたメカニズムについて解説します。解説を読み、実際に手を動かしてネズミ捕り動力自動車やDIYモータなどの作例(プロジェクト)を作ることで、メカニズムの基本を身に付けられるでしょう。
O’Reilly Japan – Making Things Move
以下は「はじめに」からの引用です。
この本が目指すこと
MakerBot Industries(http://www.makerbot.com)社でCupCake CNCの開発に携わったBre Pettisと雑談をしていたとき、開発グループに機械技師として教育を受けた人がいるかを尋ねました。すると彼は、「ノー。もしいたら、開発できなかっただろうね」と答えました。CupCake CNCとは、小さな3Dプリンタです。コンピュータで作った3Dモデルを、溶かしたプラスティックを使って、カップケーキほどの大きさの立体に成型するという装置です。MakerBotの開発チームはこれを、普通に店で売られている材料で、手持ちの工具を使って作り上げました。教育を受けた機械技師だったら、このプロジェクトがどれほど高度なものであるかがすぐにわかります。なので、材料や資金がしっかり揃わなければ手を出そうとしないでしょう。しかし、MakerBotの開発チームには、この計画がどれほど突飛であるかを認識するだけの経験がありませんでした。ひたすら目標を見つめ、実現への道を探っていったのです。私はこの本を、動く物を作りたいけど機械工学の正式な教育をまったく受けていない、または少ししか受けていない人のために書きました。Breが言っていたように、むしろ工学の教育を受けていないほうが受け入れやすいかもしれません。
この本では、動く物を、ちゃんと動くように作るための方法をお教えします。難しい技術用語に頼らない解説で、実例を示し、自分で作ること(DIY)を通して学んでいきます。もしかしてあなたは、動く作品を作ってみたいと考えている彫刻家でしょうか。メカの分野に挑戦したいコンピュータ技術者でしょうか。製品に動きを加えたいと思っているプロダクトデザイナーでしょうか。これまでに動くプロジェクトに挑戦したけど、うまくいかなかった人でしょうか。それとも、これまでに動くものは作ったことがないが、動かし方を学びたいと考えている人かもしれませんね。私がニューヨーク大学(NYU)のTischスクール・オブ・アートで教えるITP(インタラクティブ・テレコミュニケーションズ・プログラム)の学生も、そんな人たちです。彼らと出会ったことで、私はこの本のアイデアを思いついたのです。
私の講座は、「Mechanisms and Things that Move」(動くメカニズムと物)という名前です。これは、学生たちがすでに学んでいること(基本的な電子技術、インタラクションデザイン、ネットワーク・オブジェクト)と、彼らが作りたいもの(自動的に階段を上り下りできるベビーカー、木のメカニカルなおもちゃ、テレビに電気を送る静止自転車など)との間を埋めるための授業です。目標は、とうてい不可能に見えるプロジェクトのコンセプトに、基礎的な機械工学のノウハウを注入して、びっくりするほど元のコンセプトに近い実物を作ることにあります。そんな学生たちのプロジェクトは、私たちのクラスのサイト、http://itp.nyu.edu/mechanismsに公開されています。教壇に立ち始めた最初の1年で、私は、機械工学の設計で培った自分の実戦経験が、工学技術者ではない、まったく畑違いの人たちにもそのまま役に立つことを知りました。ある学生からは、「このクラスでまったく新しい世界に出会いました」と言われました。また別の学生からは「動く物を設計して作ることには、信じられないぐらい満足感がある」とも言われました。そうした満足感を、機械工学を学びたいが何から始めてよいかわからないという、もっと大勢の人たちに味わってもらえるようにと、私はこの本を作りました。
電子工学プロジェクトでは、メカニズムが貧弱で目的の仕事を果たせなければ、せっかく電子回路を作っても役に立ちません。機械の構造と材料に関する基本的な知識があれば、無駄に大金をかけてしまうことも避けられます。そこで私は、モータにカプラやシャフトを接続する方法から、回転運動を直線運動に変換する方法まで、できるだけ幅広いトピックを網羅し、すべての章に、プロジェクトに使用する部品やシステムの写真、解説図、配線図、三次元モデルの画像を入れました。すべてのイラストは、難しく聞こえる理論やグラフなどを極力排除するために、技術系ではない普通のイラストレーターに頼みました。その結果、技術的な理論も、親しみやすく楽しいスタイルで表すことができました。また私は、できるだけ店で普通に売られている部品を使うことを推奨しています。本書のプロジェクトでも、すぐに使える形で市販されている金属、プラスティック、木、厚紙などの素材を使い、組み立て方でも、特別な道具や材料をなるべく使わないようにしました。どの章でも、そこで解説されている技法をその場で実験できるよう、ごく簡単なプロジェクトを紹介しています。
また巻末には、複数の技術を組み合わせた複雑なプロジェクトも紹介しています。この本で、機械の仕組みに関する基礎を身につければ、想定どおりに動くメカニズムの設計ができるようになり、時間とお金とイライラを削減できるようになります。本格的な工具や工場なんてなくても、機械作りは誰にでもできるのです。