Electronics

2012.04.27

Soapbox:偽オープンソースハードウェア ─ 偽物を掴まされないために

Text by kanai


Pt 699-1
上の写真は偽Arduino。
ニューヨーク市内の、私が住んでいるところから歩いて15分ほどのところにあるカナルストリートでは、あらゆるものの偽物が売られている。世界中から集まってきた男女が肩を寄せ合いながら街頭に立ち、「ルーイビトーン、DVD、ローレーックス」と声を張り上げている。観光客が彼らに群がり、財布や腕時計の安物の贋物を買っていく。本物だと信じて買う人たちもいるが、たいていの人はただ安いから買っているだけだ。価値のあるブランドを築き上げれば、かならずその偽物が現れる。新しい物を作る人間にとって、それは有名税だ。
前回のコラム「Soapbox:オープンソースハードウェアの{暗黙の}ルール」で、私たちはコミュニティの中でハードウェアを作る人間として、偽物を作るのはやめようと書いた。ただコピーするのではなく、改良を加えたり新しい機能を追加するという、美しい暗黙のルールがあるのだ。

クローンはクールじゃない
またArduinoを例に使おう。オープンソースハードウェアのイメージキャラクターだからね。プロジェクトの目標がArduinoのクローンを作ることで、コードにもハードウェアにも改良を加えないつもりなら、別のものを作るべきだ。私は、そのまんまのクローンを作っている会社をいくつか知っている。まぎらわしい名前をつければ、社会的に認知されると思っている。そうはいかない。初心者は、どれが本物の、品質もサービスもサポートもしっかりしたArduinoなのかがわからず混乱する。たいていの場合、それらの点でクローンは劣る。世界中の「Arduinoキラー」を箱一杯持ってるが、どこにも付加価値がないものばかりだ。まったく身勝手な製品だ。私は、ニセArduinoを買ったパートナーや子供たちから、毎週数十通のメールを受け取る。正常に動作しない。eBayの出展者やインチキなショップがサポートもしてくれないといった苦情だ。そうした業者は、さんざんクローンを作られたあげくに、まともな神経の持ち主なら、サポートがどれほど大変かを思い知ってオープンソースから手を引いてしまう。

普段、私が関わっているハードウェアの世界では、「クローン」は、ロゴなども真似をした偽物を意味する。クローンは人を騙すために作られたものだ。クローンには「偽造品」も含めるべきかもしれない。スラッシュドットでは、クローンと偽造品との違いで混乱している人たちがいたからだ。この問題は、私がここで訴えたいことを簡単に説明してくれる材料になりそうだ。
というわけで、今週は、Arduinoやその他のオープンソースハードウェアの偽物に手を出してしまわないように、偽物とは何かについて考えたいと思う。

オープンソースハードウェアの偽物って問題ありなんだろうか?

そうとも言えない。みんなが儲かる方向に動くからだ。それによって新しいものがもっと作られるようになる。しかしながら、偽物はOSHW(オープンソースハードウェア)がより大きな注目を集めるようになるにつれて、多くのイベントやメーリングリストで問題視されるようになる。私の予測では、Arduinoは今年100万ユニットを売り上げるだろう。そうなれば、いい人も悪い人も、この巨大なエコシステムに入ってくる。私もまた個人的に、いろいろなサイトのカスタマーサポートのフォーラムでそうした実態を見てきた。たとえば、本物のArduinoだと思っていたのに、じつはジャンクだったなどという話だ。ロゴも登録商標マークも(TM)も入っているのに、本物のArduinoではなかった。まともに動かない。2、30ドルを騙し取られた。何より悲しいのは、それで彼らが電子工作そのものに失望してしまうことだ。
自分のハードウェアをオープンソースハードウェアとして売り出していいものかどうか迷っているMakeにとっては、これは精神的なブレーキになる。あるMakerは、「Arduinoがどんどん真似されるように、自分の製品のクローンが作られるのは見たくない」と話していた。それは困ったことだ。もっと多くのMakerにOSHWに踏み切る勇気を与えることがでなければ、我々は沈没してしまう。しかし、今はまだ、それほどの問題にはなっていない。
主要なオープンソースハードウェアを販売している信頼性の高い企業は、絶対にクローンなど作らない。そっくりそのままのボードに自社のロゴを入れただけの製品を作ったり、ボードを売るだけでMakerと関わりを持たないなんていうことは、優良な企業ではあり得ない。ハードウェアには基本的にプロテクトがかけられないし、私たちはみんなで協力してやっていこうと決めた。完全ではないにせよ、うまく回ってる。だからクローンを作る必要性がないのだ。ここに、初心者Makerのみなさんでも安心できるオープンソースハードウェアを開発販売している企業を紹介しておこう。MAKE、SparkFun、Seeed、Freetronics、Adafruit、EMSL、MakerBot、Arduino、Parallax、Wayne and Layneなどなどまだまだたくさんある(ウチもだ、という方はコメントに書いてね)。これらの企業は、何らかの形で競争をしているが、よりよいハードウェアを開発するために協力もしている。ここで働いている人たちは、みな自分の仕事に誇りを持ち、単なるコピーではなく、新しい価値を付け加えているのだという自負がある。商標や著作権で不正を犯すような人たちはいない。みなで力を合わせているのだから、そんなこはできないのだ。互いを盛り立てることをせず、誰かの足を引っ張るようなことをすれば、このムーブメントは空中分解してしまう。
実例で見てみよう。RadioShackは、Arduinoのように見えてArduinoのように動くボードを販売するために、わざわざArduinoチームと協力態勢を作る必要はなかったのだが、彼らはそうした。Arduinoチームと手を組むほうが大きな意味があると思ったからだ。Arduinoの名前には価値がある。だからRadioShackはArduinoチームと協力して、本物の Arduinoだけを店に置くようにした。オープンソースハードウェアを販売しようとしたときに、大企業が近づいてきても恐れてはいけない。少なくとも大企業は、あなたの製品のクローンや偽物を作ったりはしない。

クローンと偽造品の例

ここで3つの例をあげるが、いずれもArduinoだ。これでほとんどすべての実例をカバーできると思う。それから、私がAdafruitを手伝うようになってから現れたAdafruitの製品の偽物を紹介する。現在はオープンソースハードウェアのArduino、SparkFun、Adafruitは、あくまで私が集めたデータに基づく意見なのだけど、もっとも多くのクローンや偽物が作られている。これについてはみんなの意見も聞かせてほしい。調査報告書もどこかにあるはずだ。私が偽物と呼ぶのは登録商標やロゴを不正に使っているもので、クローンと呼ぶのはボードをコピーしたものだ。ライセンスうんぬんよりも、ここでは登録商標やロゴの不正使用に焦点を当てたい。
Pt 699
上の写真はArduinoの偽物。
これは偽Arduinoだ。eBayやAmazonを通して売られていることが多く、専門店では見かけない。現在のところ、とくに初心者がArduino関連の電子製品を買う場合に、eBayはもっとも危険な場所だと言える。電子製品の偽物を売っても罰則はないし、eBayのいたるところでArduinoの偽物が売られている。Arduinoチームはこれを止めさせようと働きかけているが、本当の犠牲者は、それを本物のArduinoだと騙されて買ってしまった人たちだ。
Pt 922
上の写真は偽Arduino。
この販売者が逮捕されたあと、彼らは写真を修正してArduino™のロゴを消し去ったのだが、偽Arduinoを売り続けた。
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上の写真は偽Arduino。
これも別の偽物。最初は”Made in Italy”を謳っていたが、”Made in China”と変更された。それでもArduinoの名前を使っているから完全に白とは言えない。最近は、”Made in Italy”を使わないのがトレンドのようで、どの偽ボードからもこの文字が一斉に消えた。Arduino™の商標を不正使用するより、イタリア製と偽るほうが罪が重いからだと私は推測する。
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上の写真は偽Arduino。
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上の写真は偽Arduino。
Arduinoの名前は使わず独自ブランドで作るところもあるが、Unoという名前を使っているから、これもアウトだ。しかし、あからさまな商標違反とはならない。
私がこれらを選んだのは、明らかに悪だからだ。本物そっくりの偽物を見たこともある。流通業者に聞くと、「中国で大量に売れ残ったものを格安で仕入れた」と話していたが、彼らも騙されて偽Arduinoを掴まされたのだ。
販売業者にどこから仕入れたかを聞いて、ボードの裏表の写真を見せてもらい、安物のインチキ品ではないか確かめ、もし偽物とわかったら、eBayやPaypalなどの取り扱いサイトに通報して反撃しよう。今は、オーガニックの食品やら工場の労働環境など、製品がどこでどのように作られたかをみんなが気にする時代だ。本物のArduinoを買うことには意味がある。オープンソースハードウェアやソフトウェアを支持したいと思うなら、その本当の開発者を尊重して、本物を買うことこそ、彼らをサポートすることになる。
Img 0909
上の写真は偽のAdafruit Protoshield。
上はちょっと微妙な例だが、Adafruit Proto Shieldの偽物だ。単にボードをコピーされて、クレジットを消されて、ライセンスに従っている(このボードではこのパターンが非常に多い)ことを言っているのではない。Adafruitのロゴと名前を無断で使って、Adafruitとして販売していることだ(これはAmazonで、Adafruitの名を騙る者によって売られていた)。
こんな例は山ほどある。私は、サイトも仕入れ先も会社の手がかりも掴めないものは排除した。そんな連中は相手にするだけ無駄だ。

私たちにできることは?

もしあなたがMakerなら、冷静に物作りを続けてほしい。偽物のことは気にすることはない。善良な企業は、みな、Makerと直にやりとりしながら、販売、再販、ライセンスを行うからだ。
あなたがMakerなら、商標を登録しよう。特許を取らないかぎりハードウェアはプロテクトできない(それに特許の取得は非常に難しい)。だから、ロゴと名前と著作権を確立しておくのが得策だ。おかげでAdafruitでは、必要なときにいつでも、eBayから偽物を追放できるようになった。Arduinoも同じ方式をとっている。彼らが相手にしている偽物の数は、我々の比ではない。
Open Source Hardware Association(オープンソースハードウェア協会)がやっと設立された。こうした問題を抱えるMakerや企業の相談に乗ってくれるはずだ。理事会はOSHWのトップ企業の人たちが務めている。会長はOpen Hardware Summitの議長でもあるAlicia Gibbだ。だから100%善意の団体であると断言できる。彼らに期待しよう。
Makerが作った本物のオープンソースハードウェアを買おう。MakerShedのようなショップを応援して、本物のArduinoや正規の互換性品(やその他のオープンソースハードウェア製品)を買おう。
コミュニティの仲間にも、オープンソースハードウェアを作って販売しているMakerの中から、好きな製品を買うように勧めよう。その価値はある。
ハードウェアに関して言えば、Google、Apple、Samsungといった巨大企業が抱えている問題も、みんな同じだ。これは戦争なのだ。オープンソースハードウェアでは、ハードウェアのデザインを守れないと最初から言われてきた。私たちは、私たちが持っているのは、自分たちの知恵と、協力関係だけだと知っていた。次にどうなるかは、すべて私たち次第だ。あなたがハードウェアのデザイナーでなかったとしても、このリスクを承知でハードウェアを開発して、みんなにデザインを公開しているMakerをサポートすることはできる。
みんなの意見を聞かせてほしい。なるべく答えるようにするからね。
– Phillip Torrone
原文