Electronics

2012.08.31

Soapbox:学びへの回帰 ─ ハードウェア企業が技術を教える時代に

Text by kanai

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変革の時代だ。ハードウェアメーカーがMakerやホビイストや事業者に物を売るためには、教えて刺激を与えることも必要になってくる。物を売るだけでは十分ではない。そこで今週のSoapboxは、ハードウェアメーカーが、物を提供するだけでなく、オンライン教育に力を入れだしたという大きな流れについて語りたい。質の高い情報は宣伝になる。質の高い情報の提供は、現代のハードウェアメーカーにとって、注目度と売り上げを伸ばすために必要なものとなる。
もしあなたがハードウェアメーカーか、これからハードウェアを売り出そうとしているなら、質の高い情報の資料を用意することが大切だ。あなたが客の場合、どこのチュートリアルやサポートが充実しているかが製品を選ぶポイントになる(価格は当然のこととして)。ここに、現在、製品販売の一貫として学習用資料を提供しているハードウェアメーカーを列挙し、その後、将来の話をしよう。
ここに紹介するのは、独自の学習情報や製品情報を提供しているメーカーの一部だ(アルファベット順)。
Adafruit 240
Adafruitにはチュートリアルセクションがあり、現在、learn.adafruit.comを準備中。(情報開示:私はAdafruitのスタッフだ)


Adafruit 239-1
Arduinoのチュートリアルページには、基本機能のチュートリアルが山ほどある。さらに、充実した基礎知識のページハッキングのページもある。


Adafruit 241
Digi XBeeのexamples.digi.com:Rob FaludiがDigiに加わってから、Tumblrと学習サイトが開設された。MAKEのMatt Richardsonによる作例集もある。これは非常に役に立つ。


Adafruit 242
DIY Dronesのcode.google.comによるArduCopterArduPlane


Adafruit 243
Evil Mad Scientist(EMSL)のキット製品に関するオンライン資料は非常に充実している。コミックスタイルの解説書も楽しい。彼らのwiki作例も必見。


Adafruit 244
iFixit:即日分解写真だけでなく、iFixitにはApple製品(やその他の製品)の完璧な修理ガイドがどっさりと掲載されている。もちろん、分解、修理、部品交換のためのツールも販売している。彼らは、Dozukiという資料製作用システムも開発している。これは、Make: Projects でも採用している。


Adafruit 245
littleBitsにはコミュニティサイトがあり、教室やプロジェクトのページもある。


Adafruit 246
SparkFunにはチュートリアルセクションと、新しいlearn.sparkfun.comサイトがある。現在、新しいチュートリアルシステムを開発中。


Adafruit 247
Sparkle Labsのlearn.sparklelabs.comは、私の大好きなハードウェアメーカーが提供する情報ページだ。Arduinoの学習コーナーなど盛りだくさん。


Adafruit 248
Make: ProjectsはMaker Shedで販売されているキットに関する情報や、MAKE本誌や広大なMakerコミュニティから寄せられたプロジェクトに関する資料が山ほど揃っている。iFixitのDozukiプラットフォームで作られている。(情報開示:私はMAKEの仕事をしている)


Adafruit 249
MakerBotの巨大なwikiには、説明書などの資料がある。彼らの資料サイトはこちら


Adafruit 250
Parallaxのlearn.parllax.comは、資料ページのお手本とも言うべきページだ。ホビイストの市場で物を売りたいと考えている人は、全員がここに見られる技術や接客方法などを参考にすべき(ぜひ見てね。膨大だから


Adafruit 251
Wayne and LayneはMakerシーンに新規参入した企業だが、なかなかの強気だ。私は彼らのキットと、彼らが提供する資料彼らが提供する資料が大好きだ。


特筆すべき面白い傾向として、いくつかの企業のサイトのURLにはLearnという文字が使われるようになっている。learn.adafruit.comlearn.sparkfun.comlearn.sparklelabs.comlearn.parallax.comなどがそうだ。将来、私たちは、企業のURLの先頭に、本能的にLearnの文字を探すようになるだろう。Googleにはcodeがある。次に私たちが多く目にするようになる言葉は、Learnかもしれない。
上には掲載しなかったが、触れておくべきサイトもある。BildrInstructablesだ。どちらも上で紹介したかったのだが、彼らは(まだ)一般向けに製品を販売していない。それでも、情報提供の形が素晴らしい。多くの企業がInstructalesを自社のハウツー作成に利用している。

Maker のためだけか? 優れたチュートリアルを提供するところが勝つ

別に、今に始まった話ではない。事実上、修理の文化は失われてしまったが、学ぼうという欲求は消えていない。新しいテクノロジーが次々と現れる今、顧客に教え、訓練し、力を与える企業が発展する。すぐに壊れる安物を販売する企業も、一度獲得した顧客にいろいろ教え、時間を惜しまず対応し、力を与えることで、その顧客と一生の付き合いができるようになる。
もしあなたがカメラか携帯電話機のメーカーで、すべての機能を顧客に教えることができれば、顧客は別のブランドに乗り換えることはしないだろう。新しいOSの機能やデバイスの数百種類にも及ぶ設定をすべて習得するのは、並大抵の努力では不可能だ。
安いものをさっと売り抜けるのは簡単だ。しかし、顧客を助け、製品のすべての機能を最大限に活用してもらうためには何をすればよいか、さらに、その知識や助言をみんなと分かち合うにはどうすればよいのか? チュートリアル、ビデオ、充実した説明書、パブリックなフォーラム、GitHubのレポジトリと顧客のために開発した自作のコードなど。これらを準備しながら、あなたの物作りのやり方をブログに書いたり、技術的な話を定期的にビデオにして公開することも大切だ。
これは、Maker生態系の中だけに収まる話ではない。10年以上も前、私は企業の販売や技術の分野の問題をクリエイティブに解決するための会社に勤めていたのだけど、ソニーとニコンにカメラの使い方を学ぶためのサイトを作ってはどうかと持ちかけたことがあった (ちなみに、先方のある人から「ネットで写真をシェアする人なんていないよ!」と言われた)。どちらの会社も、同じ問題を抱えていた(いまだに変わらないが)。ほとんどのユーザは、カメラのほとんどの機能を使いこなしていない、取り扱い説明書が悲惨なほどわかりづらい、顧客離れが激しい、といった問題だ。ハードウェアを売る者にとって、これは共通の問題だろう。RadioShackは以前、こんなスローガンを掲げていた。「あなたの疑問に私たちが答えます」──これが第一歩だ。このスローガンを取り戻してほしいと私は願っている。一方、Appleにはジーニアスバーがあり、こちらは朝から晩まで超満員だ。過酷なレースだ。
Googleとマイクロソフトも自社製ハードウェアの販売を始めたときから(パートナーとの提携を別として)、同じ問題に取り組まなければならなくなった。私に言わせてもらえば、Makerムーブメントは常に動きが速く、大企業の前を進んでいる。だから、製品の一部として、充実したチュートリアルやトレーニングを提供する賢い企業が現れてきたのだと思う。そんな企業の多くはオープンソースハードウェアを扱っているわけだけど、優れた説明書は生命線でもある。物理ビット、とまではいかないまでも、そのうちのいくつかは商品になる(20ドルのArduino互換ボードなどを見ればわかるでしょう)。
世界最大の企業のひとつ、イケアは、説明の提供の上に成り立っている。私はこの記事を、将来、時代を振り返り、誰が参入し、誰が退散したかなどの変化を見るためのスナップショットになればと考えている。
そこで結論。企業はこれから、より多くの説明書やビデオや学習情報を提供するようになるだろう。それは客のためだけでなく、企業の競争力も増加させる。
ではみんなの番だ。みんなが学習に利用している企業やサイトを教えてほしい。私が紹介したもの(Adafruit、Arduino、Digi’s XBee、Evil Mad Scientist、iFixit、Instructables、littleBits、SparkFun、Sparkle Labs、Make: Projects、MakerBot、Parallax、Wayne and Layne)でもかまわない。
– Phillip Torrone
原文