2015.08.21
Makerのためのハム入門
Text by Ward SilverTranslated by kanai
Jon Platt(WØZQ)が持っているのはマイクロ波ハンドヘルド放送局だ。送信機と受信機とホーンアンテナがひとつにまとまっている。これを使って、Jonは数百キロメートル先の相手と交信したことがある。電波は雨や温度逆転層などの気象環境の中を反射しながら伝わっていく。(写真:Bruce Richardson(W9FZ)。協力:ARRL)
アマチュア無線、または「ハム」という言葉を、友だちか、じっさいにハムをやっている人から聞いたことがあるだろう。ハムとはいったいなんなのだろうか。何が面白いのだろう?
まず、みなさんはMakerだから、すでにハムコミュニティの人々と多くの共通点を持っている。ハムは天性のティンカラーであり、作る人であり、直す人であり、発明家だ。ケースを開けること(または自分でケースを作ること)が許されているばかりではない。むしろそのように奨励されるのだ。世の中には無線電波を使ったいろいろなを使ったサービスがある。ラジオ放送、CB無線などだが、アマチュア無線は唯一、その機材を自作することが許されていて、あらゆるうチャンネル(周波数)に合わせることができる。柔軟さ、実験的なところ、そしてハッキング精神が、ハムの生き方だ。
大きな局を必要としないポータブルな機材がとても楽しい。Sean Kutzko(KX9X)は、プエルトリコでの休暇中に、ハンドヘルド無線機とビームアンテナを使ってアマチュア無線衛星と交信して楽しんだ(写真:Ward Silver、NØAX)
アマチュア無線にはいろいろな側面がある。1000もの趣味をひとつにまとめたものとも言える。エレクトロニクス、アンテナ、デジタル通信、公共サービス、競技、太陽科学、地球物理学、地球規模の通信、または個人的な通信機器として使うといった、いろいろな楽しみ方がある。そのひとつかふたつに深くのめり込む人もいれば、すべてを楽しもうという人もいる。Makerとして、みなさんはエレクトロニクスに興味があるのではなかろうか。しかし、ひとたびそこに入り込んだなら、その先は自分のスキルがどこでどう活かされるかわからない世界だ。
ところで、アマチュア無線とはなんだろう? ハムは、無線の国立公園にアクセスできる人だ。そこでは商業活動が禁止され、非営利、つまりアマチュアの活動のみが許されている。いくつかの公園(バンド:ハムに開放された周波数帯域)では、ハムと聞いて誰もが連想するであろう短波無線が使われている。ここは非常に活発で、1日に何千何万という交信が世界中で行われている。ほんの数ワットの無線機と電線を張っただけのアンテナでも参加できる。その他のバンドは、地域的な交信に向いていて、公共サービスなどに使われている。さらに、マイクロ波も使われる。
Gonzalo Jara(XE3N)はHF/VHFトランシーバー(送信機と受信機のコンボ)と、地上6メートルに設置したデルタループアンテナで、クィンタナルーのメキシコ人が運営する局と350以上の通信を行っている。(写真:Gonzalo Jara(XE3N)協力:ARRL)
アマチュア無線の交信では、いくつもの信号が使われている。そのうちいくつかは、声を使った通常の会話だ。しかし、モールス信号を使うハムもいる。独自のプロトコルを使って世界中でデータやメッセージのやりとりをしているハムもいる。ハムには、独自の電子メールやネットワークがある。アマチュア無線中継用の人工衛星まであるのだ。国際宇宙ステーションには宇宙飛行士が使うハム局がある。宇宙飛行士もハムなのだ。ハムは、家からでも、車からでも、山のてっぺんからでも、孤島からでも通信ができる。
そんなアマチュア無線の機材はさぞ高かろうと思うだろうが、そんなことはない。自分の家に工房を作るように、簡単に、中古の機材や、あちこちから集めた部品があって、相談できる上級のハムがいれば大丈夫だ。そうしたハムの師匠のことを「エルマー」と呼ぶ。もっともシンプルな入門用セットなら100ドル以下でできる。アンテナも自作だ。難しい信号の処理については、無料のソフトウェアがたくさん揃っている。ハムがCW(無変調連続波)と呼ぶモールス信号も使える。基本的な無線機と、ケーブルが何本かあれば、すぐに始められる。さあ、やってみよう。変わった形のアンテナを見たら、聞いてみよう。きっと親切に話してくれる。相談にも乗ってくれるはずだ。
Anna Veal(WØANT)が、ハムの卵、Matthew Harris(左)とJasper Smith(右)を訓練しているところ。彼らは、数あるハムのコンテストの中のARRL November Sweepstakesに、ダグラス郡のColoradio STEM School and Academyクラブ局から参加する予定だ。彼らのコールサインはABØBX(写真:Byron Veal(NØAH)、協力:ARRL)
おそらく、みなさんはこう考えているのではないだろうか。どのくらいでハムになれるのか? 聞くだけなら誰にでもすぐできるが、本当の楽しみは、自分のシグナルを送って他のハムたちと交信するところにある。送信するには免許が必要だ。これは35題の選択式問題に答える形の試験を受けて、連邦通信委員会から発行される(アメリカの場合)。試験はハムから出されるが、受験講習会を開いているハムもいる。しかし独学でも大丈夫だ。モールス符号を知らないといけないか? ノーだ。もう何年も前にその規定はなくなった。ごく基本的な問題だけが出される。
アマチュア無線の免許は、自動車の運転免許や飛行機の操縦免許と同じぐらい価値がある。訓練を積んで勉強すれば、上級の免許が取れて、楽しみも広がる。そこへ行くまでは、周囲のMakerにいろいろ聞いてみよう。ハムは意外に近くにいる。いろいろ指導してくれるはずだ。Makerの集まりにハムを招いて実演してもらってもいいだろう。家の近所にアマチュア無線愛好家のクラブがあるはずだ。彼らは、みなさんが免許を取得できるよう力を貸してくれる。それが私たちの役目でもある。さあ、いっしょに楽しもう。
参考
ARRLの“What Is Amateur Radio”ウェブサイト には、必要な情報がたくさん揃っている。チュートリアル、資料、解説、アマチュア無線のイベントのリンクもある。
Ham Radio License Manual は、初めてアマチュア無線の免許(テクニシャンクラス)を取りたい人にとって、もっとも詳しいガイドブックだ。免許を取ってからも使える交信のためのリファレンスも充実している。
Ham Radio for Dummies, 2nd Edition は、アマチュア無線とは何かから始まって、アメリカで免許の取り方、その後の基本を丁寧に解説しているデスクトップ「師匠」だ。
現在のアマチュア無線の状況:DX Maps は、アマチュア無線の現在のすべてのバンドの活動をマップに示したものだ。それぞれのコンタクトは周波数帯域ごとに色分けされている。このマップは、20メートル(緑)と15メートル(紫)のバンドが世界中でオープンであることを示している。
画像提供:Image courtesy dxmaps.com
Setting up a radio shack :このウェブページでは、世界中と交信できるHF、つまり短波無線機の設定方法をウォークスルー形式で説明している。この記事 では、Diana Eng(KC2UHB)がアマチュア無線衛星との交信方法を解説している。
よく使われるハム用語
Elmer(エルマー)– ハムの初心者を指導し、ハムの技術を教えてくれる師匠。
DX – 遠くの局のこと。DXing とは遠くの局との交信を試みること。
Band(バンド)– アマチュア無線のような単独の無線のための周波数帯域。周波数(14MHz帯)または波長(20メートル帯)などと言われる。
73(セブンティースリー)– 昔の暗号。「よろしく」の意味。
HF – 高周波数。3から30MHzの間の帯域。
VHF – 超高周波数。30から300 MHzの間の帯域。
MHz – メガヘルツ。1秒間に100万サイクル。
Homebrew(ホームブリュー)– 自家製の機器のこと。
CQ – 「どなたでもいいので交信してください」の意味。
CW – 連続波。オンとオフだけで行われるモールス信号のこと。
ARRL – American Radio Relay League(米アマチュア無線連盟)。アメリカのアマチュア無線の全国的団体。
Call Sign(コールサイン)– アルファベットと数字を組み合わせた、特定の局の名前。
[原文 ]