Electronics

2013.12.11

フィジカル世界とデジタル世界の二重性

Text by kanai

フィジカル(物理)世界とデジタル世界との隔たりが小さくなっている。それを促している大きな要因は、3Dスペースで活動する我々の多くの仲間が3Dツールへのアクセスを一般に広げようと努力していることにある。そのツールとは、フィジカルをデジタルに簡単に変換するもの、あるいはその逆を行うものだ。こうしたツールが広く普及したことで、Makerも製造業者も同じように、より俊敏に、よりクリエイティブに、より反応が早くなっている。

School children watch the Cube 3D printer at work.
Cube 3Dプリンターが動く様子に見入る生徒たち。

ものづくりの民主化は、3Dプリントが家庭に持ち込まれたことで現実のものとなった。CubeCubeXのような安価なマシンの登場で、それまでは作るのに長い時間がかかった複雑なデザインが、実質上誰にでも作れるようになった。こうした3Dプリンターは、クラウド3Dプリントサービスも含め、より多くの人に、コンピューターの中に作ったものを実体化する機会を与え続けている。3D 技術がさらに一般化して質も向上すると、超ローカル製造ムーブメントの道が拓かれるのではないかと私は考えている。必要なものが、より環境にやさしく、より社会的責任のあるかたちで作られるようになるのだ。

今足りないものは、データだ。作る手段は手に入ったし、簡単にもなった。それでも私たちは積み木を欲している。プリントするデザインがなければ、3Dプリンターは華美なドアストッパーみたいなものになってしまう。誰かが作ったデータをダウンロードしてプリントすることもできるが、それでは本当の意味での民主化にはならない。自分自身に3Dコンテンツが作れる力を付ける方法が必要なのだ。おばあちゃんも小学生も、みんなが3Dプリントできるデザインを、一から作れるようになることが大切だ。

ずっと長い間、CADシステムは、怖くて難しくて高いものだった。しかし3Dデザインソフトウェアの世界は、状況が変わってきた。多くの企業が、パワフルながら簡単に使えるデザインソフトウェアを安く提供するようになってきた。とりわけ、ゲーム感覚で使える3D製作アプリや3Dスカルプチャーソフトウェア(Cubify Sculptなど)が数多く登場し、3Dデザインツールを主流に押し上げる役割を果たしている意味は大きい。

Cubify Sculpt digital sculpting design software
デジタルスカルプトソフト、Cubify Sculpt。

簡単に使える3Dプリンターと3Dソフトウェアのおかげで、すべての人に自信を持ってものが作れるツールを与えることができるようになってきた。それでも、まだほとんどの人には、ひとつのものが欠けている。フィジカルなものをデジタル化する能力と、相互交流を完結させる能力だ。この2つは表裏一体となることで、影響を与え合うことが可能になる。

だが、それも解決し始めている。うれしいことに、3D SystemsがSenseスキャナーが発表された。誰にでも使えるポータブルなスキャナーだ。Senseの開発現場で私たちは、安くて柔軟で直感的に使えるWYSIWIG(What You See Is What You Get)の3Dスキャナーにこだわってきた。

つまり、Senseの登場で、安くて直感的に使えるツールで、スキャン・デザイン・メイクというプロセスの本当の民主化の扉が開いたと言える。Senseは現実を取り込むことができるのだ。それが、私たちにどんな力を与えてくれるか見てみよう。

  • 瞬間をキャプチャーする ─ 私たちは当初、SenseをCubeの周辺機器と考えていたのだが、使う人によってその用途がさまざまであることを知って驚いた。Senseは「フィジカル・フォトグラフィー」をもたらした。そしてそれによりフィジカルとデジタルの間の壁が一気に崩壊し、デスクトップやタブレットで、この世界を簡単に3Dで見ることができるようになった。Senseは、家庭でも、パーティーでも、ナイトクラブでも、ダンスフロアーでも楽しいツールとなる。Senseはエンターテインメントとテクノロジーをブレンドしてくれる。

    3D Systems' brand new Sense scanner
    3D Systemsの新型スキャナー、Sense

  • 修理 ─ 私たちのチームメイトに、厳しい天候にさらされたり激しいバスケットボールのために壊れたアウトドア用の懐中電灯をいくつも直した人間がいる。すでに交換部品は製造されていなかったのだが、彼は部品をスキャンして、CADで修正して、一式をプリントしてしまった。
  • 改良 ─ 4本入る歯ブラシホルダーがあるが、家族は5人。しかも、普通の歯ブラシ用で、家族で使っている電動歯ブラシのヘッドが入るようには作られていない。こうした難題に直面した3D Systemsのあるエンジニアは、歯ブラシホルダーをスキャンして、5本の電動歯ブラシ用ヘッドが入るようにデザインを変更し、Cubeでプリントした。今にいたるまで、彼の家族はそれに満足している。
  • 組み合わせ ─ 大好きなアクションフィギュアに自分の頭をくっつけたければ、フィギュアと自分の顔をスキャンして、Cubify Sculptでそれを合成する。友だちの顔はクリンゴンみたいにしちゃえ。友だちの顔をスキャンして、Cubify Sculptでデジタルクレイに変換してモデリングする。
  • アーカイブ ─ スキャンには、単なる写真を遙かに超える能力がある。記念すべき瞬間を3Dでキャプチャーできる。思い出の品を3Dでデジタイズして、複製を作ることもできるのだ。
  • カスタマイズ ─ 新郎新婦にそっくりのウェディングケーキの上の人形を作ることもできる。自分の腕にぴったりの手首の固定具も作れる(実際に作ったエンジニアがいる)。スキャンは、フィジカルなものをデジタルデザイン環境に送り込むことで、こうしたいろいろなことが可能になる。現実を自分の好みに作り変えることができるのだ。

「スキャン・デザイン・メイク」のシステムがもっと普及して、もっと便利で簡単になったら、みんなは何を作るだろう。フィジカルとデジタルの両方の世界が今や自分の手の中にある。さあ、なにをキャプチャーする?

– Ping Fu

原文