2016.03.25
「ソルダーダンス」はリズムで覚えるハンダ付け
数年前、私は、私の著書『Absolute Beginner’s Guide to Building Robots』の一部の記事を改訂してこの「Make:」に掲載したのだが、それは数年間にわたって多くの人に見てもらえることとなった。そして、別のサイトである人がこんなコメントをくれた。私の「ソルダーダンス」が「妙に便利」だというのだ。そこで、もう一度、掲載しておこうと考えた。
ハンダ付けを習うのはとても難しいことだと考えている人が多いようだ。たしかに、難しい面もあるが、それは、必要な道具が揃っていなかったり、基本の手順を間違えている場合だ。それに、練習も必要だが、ほんの少しで済む。とにかく、やってみることが大切だ。私が習ったときは、どこに何を、どのように当てるか、つまり、ちょうどいい動作のタイミングを、リズムで覚えさせられた。それは、1950年代のイラストにあった、1、2、3のダンスステップのように思えた。だから、「ソルダーダンス」(ハンダ付けダンス)なのだ。
まずは、これから机の上で踊るランバダを見てみよう。そのあと、ダンスに必要な道具を紹介しよう。
メモ:この記事のイラストは、誰あろう「Make:」創刊時の編集長であり、Boing Boingの共同創設者であるMark Frauenfelderによるもの。サイドストリームのメディア王である以外に、彼はアーティストでありイラストレーターなのだ。
ソルダーダンスを踊ろう!
人生で大切なものはたくさんあるが、ハンダ付けに関して言えばタイミング、リズムが大切だ。作業を正確なタイミングで行うのは、ダンスと似ている。そして、ダンスと同じように、うまくなるにつれ、不器用な動きが楽しいグルーブに変わっていく。そこから本当の喜びや自己表現が現れてくるのだ。プリント基板にたくさんの電子パーツをハンダ付けするとき、何物にも代えがたい楽しさがある。波に乗って、精密なハンダ付けロボットになったかのように、次々とほぼ完璧なハンダの玉を基板に溶かしていく。何もついていないプリント基板と山のような電子パーツを見て、うんざりするのではなく、すぐにハンダ付けを始めたいと興奮したとき、人はハンダ付けの上級者になったことを自覚する。税金の還付の手続きをするときぐらい楽しい。
ハンダ付けの手順やタイミングをわかりやすくするために、ダンスのようにイラスト化してみた。さあ、ついてきてくださいな。1・2・3、1・2・3。
ステップ1:炎のスティックと溶けた合金のルンバの最初のステップは、プリント基板の穴から出ている電子部品の足と、基板の銅のパッドの両方を、熱くした、きれいな(ハンダごてスタンドにある湿ったスポンジで拭いておく)ハンダごての先で温めること。ハンダが溶ける温度になるまで、その両方を熱することが大切。
サイドステップ:ここでちょっとしたコツ。パッドと部品の足を熱したら、ハンダ線の先端をハンダごての先端に当てて溶けやすいムードにしておく。ほんの少し、素早くタッチするだけでいい。
ステップ2:では、温めたハンダ線の先端を部品の足の向こう側に当てよう(ハンダごての反対側)。つまり、ハンダ線とハンダごてで足を挟むかたち。ハンダが溶け始めるまでは、ほんの数秒だ。重要なのは、ハンダごての先端が熱くて、きれいで、足とパッドの両方を同時に熱していること。
ステップ3:ハンダが溶けるとすぐに、小さくてきれいな膨らみができる。そうしたら、先にハンダを離して、あとからハンダごてを離す。先にハンダごてを離してしまうと、ハンダが急速に冷えて、ハンダ線が基板にくっついてしまうことがあるからだ。それは困る。このワンツーステップを、順番を間違えずにやることがダンスを習得する上で大切だ。ハンダ線がくっついてしまっても、あわてることはない。もう一度ハンダごてを当ててやればすぐに取れる。そして、またやり直せばいい。
基本的にはこれだけ! あとは、ハンダ付けの準備と仕上げに必要なそのほかの要素を教えていこう。
ハンダ付けをする部品の準備をしよう。部品の足を、決められた穴に正しく通す。部品は基板のプリントされている側から通して、ハンダパッドのある裏側に足が出るようにする。部品が抜け落ちてしまわないようにする方法のひとつに、上の図Aのように、足を開くというやり方がある。これには、足とハンダパッドの距離も縮まり、ハンダが付きやすくなるという利点がある。足が長すぎて作業の邪魔になるときは、図Bのように、先に足を短く切ってしまおう。作業に支障がないなら、足は切らなくてもいい。きれいなハンダ付けに仕上げるためには、部品は基板にぴったり付いていて、基板と平行になっていることが大切だ。きれいにハンダ付けができたら、最後にハンダの山から飛び出している足を切る。
上の図Aは、ハンダ付けするときのハンダごて、足、ハンダ線の正しい角度を示している。図Bは仕上げの状態だ。少し盛り上がって、ピカピカに輝いていて、足の周囲とプリント基板にしっかりと密着している状態がいい。ハンダが曇っていたり、黒い点が混じっていたり(不純物が入っている)、穴やへこみがあったり、足と基板がしっかりと密着していないような状態は、「コールドソルダー・ジョイント」と呼ばれる。そんなときは、下で紹介する器具を使ってハンダを取り除き、やり直す。接触不良の原因になるからだ。
正しい道具
持っているのに道具を使わずにやってしまったり、道具をきちんと揃えない人が多いが、それはいけない。基本の道具は、そんなに高価ではないし、それほど多くもない。ここに必要な道具を紹介しよう。
ハンダごて:電子部品のカタログに載っているような高級なハンダステーションなどは必要ないが、上等なハンダごては必要だ。できれば、温度調節機能付きのものがいい。私はXtronicの16〜30ワットのものを何年間も使っていて、とても気に入っていた(今はより高機能なワークステーションを使っている)。値段は30ドル以下だった。熱いこては幸せなこてだ。ハンダ付けは、できるだけ素早くやりたい。電子部品の小さな頭脳が焼けてしまうからだ。単機能半導体は熱に耐えられるようにできてはいるが、油断してはいけない(焦げたプリント基板ほど醜いものはない)。そこで、ハンダごては、ハンダが溶ける温度に高めておくことだ。ただし高すぎてもいけない。ハンダごてのチップも、必要に応じて交換する。込み入った回路でたくさんのハンダ付けを行う場合は、先の細いチップを使うとよい。
ハンダごて台:安いハンダごてについてくる片打ちした金属片に頼ってはいけない。不安定だし、危険だ。本気のハンダ付け作業には対応できない。やはり、ホルスタータイプのハンダごて台が欲しい。火傷の心配もないし、いつでもすぐに使える状態で置いておける。
クリーニングスポンジ:きれいなこて先は信頼の証。たいていのこて台にはスポンジと、それを入れるところ(上の写真を参照)がついてくる。さらにいいものは、「ソルダージニー」と呼ばれるクリーニング用品がある。灰皿のような容器に真鍮製の金たわしが入っているものだ。こて先を冷やさないため、これはスポンジよりも優れているが、最初はスポンジでも十分だ。それに、たいていの安価で使い勝手のいいハンダごて台にはタダで付いてくる。100円ショップで金たわしを買って、自分でクリーナーを作ってもいい。
ハンダ吸引器:これは、バネの力でピストンを動かすポンプだ。トリガーを引くと溶けたハンダが中に吸い込まれる。ハンダやハンダ付けされた部品を取り除きたいときに必要な道具だ。初心者の場合は、ハンダ付けのやり直しの回数も多いだろうから、この道具の使い方に慣れておくことが大切だ。ハンダウィック(ハンダ吸い取り線)というものもある。真鍮の線を編んだもので、溶けたハンダを吸着してくれる。私はポンプのほうが好きだが、ポンプがうまく入らない場合などのために吸い取り線も用意しておくとよいだろう。両方使ってみて、使いやすいほうを選ぼう。
ハンダ:当然のことながら、ハンダがなければハンダ付けはできない。ハンダは、とても低い温度(450℃ほど)で溶ける合金だ。金属同士をくっつけるために使う。電子工作用のハンダは、一般的に錫60パーセント、鉛40パーセントの製品が多い。これは190℃以下という低温で溶ける。ただし鉛を含んでいるので環境にはよくない。ミートボット(つまり、みなさん)の体にもよくない。銀のハンダもよく使われるが、これは銀と錫の合金。それから、ヤニ入りハンダを選ぶことも大切だ。ハンダ線の中央にヤニが入っている。ヤニ(ペースト)とは、接合面の不純物(とくに酸化した金属など)をきれいにしてくれる化合物のこと。不純物や酸化物は、通電性のよい優良なハンダ付けの敵だ。すべてを(ハンダごての先端やパッドも)きれいにしておかなければならないのだが、ヤニはそれをやってくれる。私は64-025鉛フリー銀入りハンダのチューブを何本か持っている。RadioShackで売っている。直径約8ミリの持ちやすいチューブに入っている。7グラムで3ドルほどだ。このごろはあまり大量にハンダ付けをしなくなったので、これだけでしばらくは持つ。
ハンダペースト:絶対に必要というものではないが、ハンダペースト(フラックス)は、持っていて損はない。ハンダがうまく載ってくれないとき、特に、電子部品を再利用するときや、古い基板の修理を行うときなどは、埃や酸化物が邪魔をしている。ハンダ付けを行う前に、ペーストできれいに清掃しておくとよい。
ヘルピングハンド:電子工作を始めると、ハンダごて、ハンダ、部品、基板などあれこれ一度に支えなければならず、手が足りないことをすぐに感じるだろう。少なくとも4つのものを持たなければならないのに、腕は2本しかない(足がめちゃくちゃ器用なら別だが)。口を使うのはお勧めできない(まあ、昔にやったことがないとは言わない)。同居人やものすごく従順なペットを使うことも可能かもしれないが、相手はすぐに不機嫌になり、労働組合みたいなことを言い出すに決まってる。正解は、ヘルピングハンドというちょっとした道具だ。サードハンドと呼ばれたりもする。調整可能な腕が(普通は)2本あり、先端にワニ口クリップが付いている。電子工作用品の店へ行けば数ドルで買える。私は、これを2つ使うことをお勧めする。または、太くて折り曲げ自由な針金の先端にワニ口クリップを付けて、その反対側を机などに釘で固定すれば、即席のヘルピングハンドが作れる。ただ、もともと安いものなので、2つ買ってもそう財布は傷まないはずだ。
ラジオペンチ、ニッパー、ワイヤーストリッパー:電子工作に使う工具として揃えておくとクールなものがある。たとえば、ドイツ製のミニドライバーセットやデジタルマルチメーターやオシロスコープなど。しかし、なかでもどうしても必要になるものが、ラジオペンチ、小型のニッパー(ハンダ付けのあとに足を切るのに使う)、皮膜線の皮膜を剥くのに使うワイヤーストリッパーだ。高価なものを買う必要はない。私は、20年前に買ったコンピューター修理セットに入っていたものを使っている。ほぼ毎日使っているが、壊れたためしがない。以上、ハンダごてからその他、ここに列挙した道具一式揃えても、私の場合35ドルだった。
その他にあるといいもの:なくてもいいのだが、あると便利なものがある。ナイロンたわし(接点、パッドなどを掃除する)、熱収縮チューブ(電線同士をつないだり、モーターの接点などの部分を絶縁するために使うプラスティックの管)、絶縁テープ、ひっつき虫(ものを仮に固定しておくのに使う)、二液性エポキシ、瞬間接着剤(ハンダが使えない部分を固定する)だ。
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