Electronics

2021.09.29

おとでん通信 #14|こての選び方から使って便利なツールまで、はんだ付けがはかどるテクニックをHAKKOさんに聞く

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こんにちは、乙女電芸部です。今回のおとでん通信ははんだ付け特集。乙女電芸部で愛用しているはんだこてのメーカー白光株式会社(以下、HAKKOと表記)さんに、はんだ付けにまつわるアレコレを質問しました!

これからはんだ付けを始める方にも、もうはんだ付けはプロだよという方にも、きっと発見があると思います。実際、普段はんだ付けに触れることが多い私たちも知らないことがたくさんあり、気づきの多いインタビューとなりました。

今回は、HAKKOの入中さん、真砂さん、篠原さんにお話をお伺いしました。入中さんはMaker Faireでの修理ピットなどを担当されているのでなかには見覚えのある読者の方も多いのではないでしょうか。Maker Faire KyotoでもYouTube Liveでご出演されていました。真砂さん、篠原さんは、はんだ付けの楽しさを伝えるためにHAKKOの女性社員で結成された「はんだづけ小町」のメンバーです。FacebookページTwitterで活動の様子をアップされていますので、そちらも合わせてぜひご覧ください!

最初にお知らせしておくと、今回はかなりの長文です(笑)

初心者向けの質問から、だんだんニッチな質問になっていきますので、知りたいトピックを目次から選んで読んでみてください。はんだ付け猛者の方はこれが上級??と思う内容かもしれませんが、便宜的にわけておりますのでお許しください……。はんだ付け関連で困ったら「そういえばあそこに書いてあったかも?」と戻ってきてもらえるような記事になると嬉しいです!

目次

初級編

• まずこれを買うべき!初心者におすすめのセット
• はんだこての選び方
• 火傷をしないために

中級編

• 温度の設定
• こて先クリーナーのスポンジとワイヤー、どう違うの?
• ケミカルペーストってどのくらいの頻度で使うべき?

上級編

• こて先の交換頻度と色々な形状
• フラックスって塗ったほうがいいの?

番外編

• はんだこてでできる意外なこと
• はんだづけ小町の思い描く未来

乙女電芸部と一緒にはんだ付けをしよう!

• 乙女電芸部のはんだ付け講座
• はんだ付け挑戦キット

初級編

まずこれを買うべき!初心者におすすめのセット

よく初心者の方と話すと「何を買えばよいかわからないから一番安いはんだこてを買った」、という話を聞きます。安いはんだこて=悪いものというわけではないのですが、温度が上がるのに時間がかかったり、使うのにコツが必要だったりするとうまくはんだ付けできず、はんだ付けに苦手意識を持って終わってしまう、ということがあります。はんだ付けが苦手な人を増やさないために、最初に買うべきはコレ!というおすすめの決定版を聞きました。ここでは電子工作用のおすすめを聞いています。

おすすめセット①FX650-84

FX650-84は、はんだこてとヤニ入りはんだ、簡易こて台のセットです。まさに初心者のために用意されたエントリーモデル。初心者向けですが、約90秒で340℃に達してとても使いやすいそうです。これで定価が1,870円(税込)ですから、軽い気持ちで買えそうですね。こて先クリーニング用のスポンジはついていないので、別途スポンジは買いましょう!

おすすめセット②FX600-02、こて台FH300-81、鉛フリーはんだFS601-03

長く使うつもりがあるなら、FX600-02が一番! 温度調節ができて、交換できるこて先の種類も豊富です。初心者目線で便利なのが、LEDランプがついていること。任意の温度に温まったことが一目でわかるのではんだ付けの失敗が減ります。青が定番カラーですが、はんだづけ小町からはピンクゴールドシルバーの3色が販売中です!

こて台は安全で安価なFH300-81がおすすめ。このようにこて先全体が覆われるタイプだと火傷のリスクが減るので安心です! スポンジタイプのクリーナーもついています。

はんだは人体への害が少ない鉛フリーで、直径1mmくらいのものが初心者にはおすすめです。FS601-03がよいでしょう。FX650-84セットではんだを使い切ってしまった人は、これを追加購入するとよいです!

作業用マット

こちらははんだづけ小町でプロデュースされている耐熱マットです。他にあると便利なものとして紹介していただきました! HAKKOさん直営のオンラインショップで購入できます。

はんだこての選び方

はんだこてには、大きくわけて2種類のタイプがあります。ニクロムヒータータイプセラミックヒータータイプで、用途に合わせてどちらかから選ぶのが良いとのこと。

ニクロムヒータータイプは、ニクロム線がこて先の外側からまかれていて加熱する方式です。W数が高いほど熱容量が多くなります。電子工作や板金など作業内容によって選ぶことがポイントです。値段はお手ごろなものが多いですが、デメリットとしてはセラミックヒータタイプよりも温まるのに時間がかかります。ものによっては5分ほど待たないといけないようです。

セラミックヒータータイプは、タングステンで作られたヒーターのまわりをセラミックが覆っていて、こて先を内側から加熱する方式です。絶縁性に優れているので、ICや電子部品などデリケートなはんだ付けに適しているそうです。ニクロムヒータータイプに比べるとグリップからこて先の長さが短いので、ペンを持つような感覚ではんだ付けできます。デメリットはニクロムヒータータイプより値段が高いことと、衝撃に弱いので、落としたりしたときにセラミックが割れる可能性があるということだそうです。(もし割れても交換部品は購入できます!)

おすすめセットで紹介したはんだこては、両方ともセラミックヒータータイプですが、安価に始めたい方はニクロムヒータータイプのものでも大丈夫です。電子工作用ですと20W〜30Wのものがおすすめです。ニクロムヒータータイプは消費電力(W数)の違いによって大きさがかなり変わります。20Wですとペンを一回り大きくしたサイズで全長は20cmほどですが、一番大きな500Wのものは全長が43cmもあります。500Wは看板やトタンの接合などに使うそうです。


左が20Wで全長20cm、右が500Wで全長43cm。こて先の太さも桁違いです!

接合する金属や用途に合わせて消費電力を選びましょう。詳しい選び方はHAKKOさんのホームページにも書いてあります。https://handa-craft.hakko.com/support/soldering-iron-type.html

火傷をしないために

ヒーターに近い金属部分を持たないのは当たり前として、意外と知らないのは樹脂で覆われている部分でも触ってはいけない場所があるということ。下の写真を見て触っていい場所を確かめましょう。

また火傷対策として、できれば作業時に軍手など手袋を使った方がいいとのこと。はんだ付けをする対象物も熱くなるので、はんだこてを持たない方にだけ手袋をする、という方も多いそうです。

中級編

温度はどのくらいに設定するべき?

FX-600など温度調節ができるはんだこてを使用する場合、初心者は温度設定の温度をいくつにすればよいか迷うと思います。一般的にはんだ付けに適切な温度ははんだの融点+150℃というように言われているそうですが、共晶はんだ(鉛入り)の場合は融点が約183℃、鉛フリーはんだの場合は融点が約217℃なので、だいたい350℃前後から対象物の熱容量や材質によって微調整するのがよいとのこと。基本的には350℃にしておいて、熱が足りないな〜と思ったら少し上げるという感じです。あまり温度を上げすぎると酸化がひどくなったり部品を傷つけてしまったりするので気をつけましょう。

3秒くらいではんだ付けできるのが好ましいそうなので、3秒たってもはんだが溶けにくい場合は温度を上げてみましょう。逆に瞬間的にはんだが溶けるようであればもっと温度を下げても大丈夫です。

HAKKOさんはできるだけ温度を下げてはんだ付けすることを推奨されています。これは部品を傷つけないたいためはもちろん、フラックス*の揮発温度が100~120℃のため、温度が高すぎるとはんだ付けしている間にフラックスが飛んでしまい、はんだのぬれ広がり性が悪くなるからだそうです。
* 「フラックスってなに?」という方は上級編にて説明していますのでそちらを参照してください。

実はこのインタビューで初めて知ったのですが、FX-600はダイヤルがカチッと止まる320℃や370℃だけではなく、その間も無段階で選択ができるそうです。読者の皆さんは知っていたかもしれませんが、意外と知られていないと思うので周りの愛用者の方にもぜひ教えてあげてください〜!


カチッと止まらない場所でも温度設定が可能!

こて先クリーナーのスポンジとワイヤー、どう違うの?


左がスポンジタイプ。右がワイヤータイプ。

スポンジタイプは水を含ませるので、こて先のはんだをきれいに取り除ける、というのが特徴です。そのため、はんだ量のコントロールが必要な微小部品へのはんだ付けはスポンジタイプのほうが向いているそうです。価格も安いのでランニングコストが抑えられます。ただ、注意点として水を使用しているのでこて先温度が低下しやすいです。クリーニング後のはんだ付けには、こて先温度の回復を考慮しなければいけません。

ワイヤータイプはフラックスが含まれるため、こて先の酸化物や余分なはんだをある程度除去し、スポンジタイプとは違ってはんだが少し残ります。そのため、こて先の酸化防止効果があるそうです。水を使わないので温度の低下はなく、作業性がよいです。

趣味で電子工作をされる方はどちらを選んでもよいそうです。2つともいいところがあるので実装工場などではんだ付けしているプロの方は両方をデスクに置いて使い分けている方もいらっしゃるそうですよ!


表をつくってみましたので参考にしてください!

ちなみに、乙女電芸部ではワイヤータイプを愛用していて、はんだづけ小町でも同じとおっしゃっていました! 温度が下がらないのはうれしいですね。スポンジタイプしか使ったことのない方はぜひ試してみてください〜

ケミカルペーストってどのくらいの頻度で使うべき?

普段から乙女電芸部では、酸化してはんだがなじまなくなったこて先はケミカルペーストを使ってきれいにしているのですが、その使用頻度はどれくらいにするべきか知らなかったので質問してみました。

まず、ケミカルペーストの使い方は以下の通りです。

ケミカルペーストの存在を知らなかった方はこれを導入するとこて先が長持ちするのでぜひ試してみてください。

使用頻度としては、◯日に1回などという目安があるわけではなく、はんだがなじまなくなったら使う、ということだそうです。HAKKOさんが実験したところ、400℃ではんだをのせずに10分間放置したらこて先が酸化してはんだがなじまなかったということです。そのため、ケミカルペーストを毎日使用してもおかしくはないそうですが、酸化を防ぐ方法も教えてもらいました! 一つ目に効果的なのはこまめに電源を切ること。FX-600などはすぐにまた温まるので、作業中に電源を切ってもそんなにストレスはありません。二つ目はこて先に常にはんだをのせておくことです。はんだでコーティングされていると酸化が防げるので、常にはんだをのせておくといいそうです。

「金属は空気中の酸素と触れて酸化するので、お肌のUV対策と一緒で常にはんだで覆っておくのがいいですよ〜」と、はんだづけ小町さんらしいアドバイスもいただきました!

上級編

こて先の交換頻度と色々な形状

こて先の交換タイミング

こて先の交換頻度は使用する頻度や時間、はんだの種類によっても変わってくるので、一概には言えないとのこと。交換の目安としては3つあり、こて先に穴があいてしまった場合、形が変わってしまった場合、酸化が進んでケミカルペーストでメンテナンスしてもはんだがのらなくなってしまった場合だそうです。そういった状態で使い続けると熱がうまく伝わらなかったり、基板や電子部品を傷つけたりすることがあるので、交換しましょう。


酸化したこて先の様子

こて先の交換方法

交換するといっても型番がわからない!という経験のある人もいるかもしれません。HAKKOさんのこて先にはほとんど刻印があって、こて先の型番が記載されているそうです。

ただ、酸化して真っ黒になった状態ではこれが読めなくなることもしばしば。はんだ付けに付属している標準こて先から変更をしていない場合は、はんだこての製品ページに、付属のこて先の記載があるので、そこを参照して購入しましょう。付属のこて先から形状を変更した場合でも、製品ページにはそのはんだこてに対応しているこて先の一覧が図面とともに載っています。形状やサイズを見て同じものを見つけてください。もし完全に型番がわからなくなってしまった場合は、HAKKOさんの問い合わせ窓口に電話すれば一緒に探してくれるそうです。

こて先の色々な形状

こて先の形状は
①熱をたくさん蓄えられる形状か
②はんだ付け部分に触れる面積が広いか
③対象物の部品の大きさ
④部品と部品の間の密集具合
をもとに選定するとよいそうです。

HAKKOさんでは以下のようなたくさんの型のこて先を販売されています。

小さな部品や狭いところでのはんだ付けにはB型やI型がおすすめですが、BC/C型、D型もおすすめです! BC/C型は円錐を斜めにカットした形で先端を使うと細かい部品もはんだ付けができます。D型はマイナスドライバーのような形で、これも端を使えば細かいはんだ付けが可能です。BC型/C型、D型は熱をたくさん蓄えられる形状のため、ランドに熱が伝わりやすく作業性が良いです。

最近はD型の人気が高まっていて、良さに気づいているひとも多いようです! 小さい部品もはんだ付けするし、電源ジャック用の広いランドもあるといった基板のはんだ付けなどに持ってこいです。HAKKOさんのソルダリングスクールでもD型を使用しているそうですよ〜!

乙女電芸部でもその日の作業に合わせてB型、BC/C型、 D型、I型を使い分けています。

ここからはとてもニッチですが、他の形状も紹介します。工場などでよく使用される型です。

BCF/CF型は黄色い部分だけにはんだめっきがされていて、他の部分にははんだがつかないそうです。そのため、はんだの量の調整がとてもしやすいらしく、はんだがボトっと大量に落ちることなどを防げるそうです。

BCM/CM型は中に窪みがついているので、表面実装のQFPを引きはんだするときなどに重宝するそうです。はんだは温度の高いほうに引っ張られる特性があるので、窪みがあるとコテにはんだが引っ張られすぎずきちんと表面実装部品にはんだがついて、余分なはんだは窪みに入ってくれるとのことです。

溝付き型はDIP部品のはんだ付けに適しているそうです。底面が斜めにカットされているので、基板のランドも温めつつ、リード線を溝で挟んで温めるそうです。

J型はI型を曲げた形で、狭小スペースのはんだ付けや、引きはんだに使うそうです。

K型はカッターのような形でこれも引きはんだに使用したり、先端で細かい部品のはんだ付けに使用するそうです。

フラックスって塗ったほうがいいの?

フラックスとははんだ促進剤のことです。はんだ付けには、必ずフラックスが必要だそうです。フラックスが金属表面の酸化被膜を取り除き、酸化被膜が取り除かれた場所にはんだが拡がっていきます。

一般的なはんだ付け作業にはヤニ入りはんだを使います。ヤニ入りはんだの中にはフラックスが含まれており、通常はこれだけで対応できます。ただし、はんだの拡がりが悪い場合は、別途フラックスをはんだ付け部分に塗布してあげるとスムーズにはんだ付けができます。

ちなみに、油汚れなどはフラックスでは取れないので、その時はアルコールなどで清掃してください。

こちらの写真を見るとはんだ付けにはフラックスが必要ということが一眼でわかります。

フラックスを使う場合は、何にはんだ付けをするかによってフラックスの種類を選ぶ必要があります。電子部品用、ステンレス用などと用途によって成分が違うそうです。用途に合わないフラックスを選ぶと、はんだ付けができない・はんだ付け後に腐食するなどの不具合につながるので注意してください。基本的にはヤニ入りはんだを使っていればフラックスを購入する必要はありませんが、ヤニなしのはんだを使う場合やはんだの広がりが悪い場合は用途にあったフラックスを買いましょう。

番外編

はんだこてでできる意外なこと

FX600でこて先を変えると、ステンドグラスが楽しめるそうです。ステンドグラスは熱量が必要な作業になるので、蓄熱量を確保するため、B3720というアタッチメントをつけて太いこて先に変更します。電子工作用とステンドグラス用ではフラックスが異なり、フラックスが混ざると電子部品の腐食を起こす可能性もあるので、必ずこて先を変更しましょう。

アタッチメントをつけると、FX-601と同じように使えるので、T19シリーズの太いこて先をつけてステンドグラスを楽しみましょう。ガラスにカパーテープ(銅テープ)をまきつけて、そこにはんだをつけるそうです。以下の動画がわかりやすいです!

はんだづけ小町さんではこれを使ってアクセサリーを作られています。とても素敵なので、ぜひ乙女電芸部でも真似したいです!はんだ付けスキルをかわいいモノづくりにも活かすことができそうで、ワクワク!


はんだづけ小町の思い描く未来

ここははんだづけ小町さんにお聞きしたインタビューをそのままお伝えします!

「世の中にははんだ付けという言葉を耳にしたことがない人もたくさんいると思います。実際私も入社するまではんだ付けのことをよく知りませんでした。そんな状態なので、一般の方ははんだ付けに対してハードルが高いし、まだまだ趣味ではんだ付けをするという方も少ないと感じています。

ただ、はんだ付けの可能性は奥が深く、まだまだこれから開拓していける趣味の分野じゃないかな、と思うので、楽しさや広がりを追求していきたいです!」

「ゆくゆくははんだ付けが趣味の選択肢の一つになってほしいです。映画鑑賞や手芸と同じように『私の趣味ははんだ付け!』と言われる方が増えていったらいいですね。SNSなどでもかわいいガラスのアクセサリーづくりを発信しているので、そういったものを通してはんだ付けの楽しさを皆さんに提供していきたいな、と思っています。」

乙女電芸部でも主婦がはんだこてを持って家電を作り変える世界をスローガンの一つとしています。私たちも引き続き、電子工作・はんだ付けの楽しさや可能性を発信していきたいと思います!

乙女電芸部と一緒にはんだ付けしよう!

乙女電芸部のはんだ付け講座

こちらの動画で初心者にもわかりやすいようにはんだ付けの仕方やコツを説明しています。ぜひご覧ください。

はんだ付け挑戦キット

上の動画で例として使っているのはこちらのキットです。乙女電芸部のショップからご購入いただけます。
https://otoden.thebase.in/items/28243427

振動モータにストローなどをつけることで、こんなふうに動きます! はんだ付けの他にグルーガンをつかってデコレーションすれば楽しい生き物がいろいろつくれますよ〜!

長くなりましたが皆さん安全に気をつけて、はんだ付けを楽しみましょう!