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2015.07.29

MFT2015出展者紹介 ─ 腕時計を自由にデザイン!「Starter Watch」の提案と今後目指すもの

Text by guest

Maker Faireの展示は、自分たちで作ったモノや技術的なアイデアを紹介するもの、またコンテンツやパフォーマンスを見せるものなどが多い。その中で「Ginger Design Studio」の展示はちょっと異色だ。

彼らが展示するのは「Starter Watch」という、3Dプリンターを利用して自由に外観をデザインできる腕時計。造形にはDMM.makeのアクリル樹脂によるプリントサービスを利用しており、奇抜なデザインと半透明のアクリルの組み合わせで、まさしく「ユニーク」な腕時計を実現している。

しかし、Starter Watchの特徴は、単にデザインが目を引くことだけではない。「自由に」というところがポイントなのだ。3Dプリンターが広く知られるようになり、個人でも購入可能な製品も増えているが、実際に使いこなすにはハードルが高い。CADや3Dモデリングのツールを扱うのは初心者には難しく、誰もが自由に自分が欲しいものを3Dプリントできるわけではない。

そこでStarter Watchは、ウェブ上に独自のデザインツールを自分たちで構築し、誰でも「自由に」腕時計のデザインを行える環境を作り上げた。

Ginger Design Studioの暮橋昌宏さん(左)、横尾俊輔さん(中)と星野泰漢さん(右)。3人とも学生時代からの仲間

Ginger Design Studioの暮橋昌宏さん(左)、横尾俊輔さん(中)と星野泰漢さん(右)。3人とも学生時代からの仲間

Gingerのメンバーの横尾俊輔さんは「3Dプリンターが普及しない大きな原因として私たちが捉えているのは、みんな作りたいものが仮にあったとしても、それをデータにできる環境がないこと。そこを解決するソリューションを作ってみようということで、Starter Watchを立ち上げた」と、プロジェクトのきっかけを語ってくれた。

同じくメンバーの星野泰漢さんは「ポイントとしてはデータを作るCADをいじる難しさもあるし、形を作ることの難しさがある。デザインすることは、誰でもできるようでできません」と、3Dプリントを使いこなすことの難しさを指摘する。

そこでStarter Watchのデザインツールは、あえて不自由さを演出している。

「このサービスでは、3つのデザインパターンにあえて絞った。自由にデザインできなくする代わりに、なんとなくいじればそれっぽくなる」「そうしないと(腕時計として)イイ感じの形を作ること自体が結構難しい」(星野さん)

Starter Watchのウェブサイトに用意されたデザインツールは、「八角形をベースにポリゴンのような形状を変形させてデザインするタイプ」「四角や丸などの図形をレイアウトすることでデザインするタイプ」「正方形のブロックを組み合わせてドット絵のようにデザインするタイプ」の3つのデザインパターンが用意されている。

ポリゴンタイプのデザイン画面。8角形の頂点部分をドラッグして変形できるほか、ケースやバンドの色も変更できる

ポリゴンタイプのデザイン画面。8角形の頂点部分をドラッグして変形できるほか、ケースやバンドの色も変更できる

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Starter Watchのデザイン例。ケースの色はクリア、黒、青、緑、ピンク、黄から、バンドの色は白、グレー、黒、赤、オレンジ、青から選べる Starter Watchのデザイン例。ケースの色はクリア、黒、青、緑、ピンク、黄から、バンドの色は白、グレー、黒、赤、オレンジ、青から選べる

いずれのパターンも、操作方法がよく考えられており、自由に形作れない代わりに、操作に迷うことがない。しかし、とても良く練られた仕組みになっており、根気よく作業すれば、複雑なデザインも可能だ。

ウェブサイトのツールで色や形、バンドなどを選ぶとサーバー上にデザインが保存される。そのデータを元に3Dプリントで成形し、約2週間後にユーザーの手元にプリントしたパーツの他に、時計のムーブメント、針、バンドという一式が届くので、ユーザー自身の手で組み立てれば完成だ。

腕時計の組立というとハードルが高そうだが、そこにも工夫を加え、「通常の時計とは違う構造設計をしていて、誰でも組立ができるような構造にしている」(星野さん)のだという。実際に、組み立てはドライバー1本で可能となっており、そのドライバーもパーツに同梱されている。

つまり、「自分だけの腕時計が欲しい」というユーザーのニーズから、それが形となり、実際に手にとるまでの間で、障害となる要素が徹底的に取り除かれているというわけだ。プラットフォームとして、そしてユーザー本位のサービスとして非常に完成度が高い。このプラットフォームこそ、Ginger Design StudioがMaker Faireにおいて展示するものだ。

届くパーツの一例。ケースはデザインした外側、ムーブメントを固定するベース、バンドを通す裏蓋、竜頭の4点の部品からなる。写真はケースの部品がクリアと青の2組分が写っている

届くパーツの一例。ケースはデザインした外側、ムーブメントを固定するベース、バンドを通す裏蓋、竜頭の4点の部品からなる。写真はケースの部品がクリアと青の2組分が写っている

このStarter Watch、残念ながら現時点では販売していない。というのも、3Dプリントの出力に外部のサービスを使っている以上、どうしても注文から配送までに時間がかかってしまうなど、いくつか課題が見えてきたためだ。ケースの出力に使われているDMM.makeの3Dプリンターは、数千万円クラスのものなので、自分たちで購入するのも難しい。

「そこをもうちょっと上手くできないか考えている。これから、腕時計以外のものを(Starter Watchのようなスキームで)やるにしても、企業とコラボレーションできればと思っている。そんな企業を探すのがMaker Faireでの我々の隠れた目的です」(星野さん)

「僕らの技術を使って、時計以外のもので誰もが作れるデザインインターフェイスシリーズを展開していくといったコラボレーションをやりたい」(横尾さん)

東京東部に所在するGinger Design Studioのスタジオ。ほとんどのテーブルや棚、イスなどの家具も自分たちで作ったもの

東京東部に所在するGinger Design Studioのスタジオ。ほとんどのテーブルや棚、イスなどの家具も自分たちで作ったもの

プラットフォームとしてサービスとして、ユーザー視点で完成されたものを作ったGinger Design Studioは、「人々の生活とか世の中に対して、何か刺激になるような新しいこと、楽しいことを与えたい。単なる目新しさと言うより、少し刺激的で世の中を変えていくような要素を持ったものを提供してきたい」という活動目標を掲げている。

すでに、外部の企業から製品のデザインや試作の依頼を受けており、趣味に留まらないデザインハウスとしての活動も行っている。また、今夏にはStarter Watchに続く新たなプロジェクトの公開を予定。今後はMaker Faireへの出展に止まらず、より広い世界での活躍が期待される。

さて、Maker Faire Tokyo 2015のGinger Design Studioブース(D-02-07)では、Starter Watchの実物やデザインツールの展示が行われる予定だ。また、8月2日(日)の16時からはプレゼンテーションが行われ、Starter Watch以外のGinger Design Studioの活動についても紹介されるというので、お見逃しなく。

─ 青山 祐輔

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