2015.08.10
MFT2015レポート ― ハッカソン発のチームに見る企業とエンジニアとユーザーの次のステージ
Maker Faireに何か作品を作って出そうとするとき、以前は1人で作る、1人で作りきれない場合は何とか仲間を見つけて一緒に作る、というケースが多かった。
でも、誰もが最初から仲間がいるわけではない。誰もが運良く仲間が見つかるというわけでもない。もちろん、1人で作って1人でMFTに参加するのもよいのだが、一緒に作る仲間がいることでモチベーションは確実に上がる。
ちょっと前まで“仲間”と出会うのは偶然の産物だったが、いまは違う。デジタルファブリケーションの設備を備えたシェア工房が増えてさまざまなワークショップが行われ、企業やコミュニティが主催するハッカソン/アイデアソンも増えている。いまは、こうした場所や機会をきっかけにさまざまな人と出会うことができる。
最近よく行われているものづくり系のハッカソンは短期間にアイデアをプロトタイピングで形にしようというものだが、ハッカソンイベント終了後も活動を続けるチームも多い。ハッカソンで取り上げたアイデアの製品化を目指す、新しいアイデアをブラッシュアップする、あるいは作ること自体(活動そのもの)が目的であったりと、その方向はさまざま。今年のMFTは、そんなハッカソン発のチームの出展も多かったのも特徴だ。
ちょっと未来のお弁当箱がもうすぐ登場!?
XBen(エックス・ベン)は2日目のトークセッションにも登場した注目のプロジェクトだ。2014年10月のau未来研究所とEngadgetのものづくりイベント(Engadget電子工作部)から生まれ、「ランチタイムのコミュニケーションを盛り上げる」をコンセプトに、MA10、GUGEN2014、SXSW2015と活動を続けてきた。
XBenはおかずを交換し合ったり、コミュニケーションを促進するアプリ連携のお弁当箱、いわゆるIoT機能を持つ進化したお弁当箱だ。トークセッションに登場したメンバーの中澤優子さんは、経産省のフロンティアメイカーズ育成事業に採択され、XBenプロジェクトを掲げて海外視察にも行っている。そこでBentoブームにある海外のマーケットに手応えを感じたという。
現在の状況はというと、年内にクラウドファンディングにリリースすることを目指し、量産化試作を進めている。「次世代のお弁当箱として、一般の人たちに使ってもらえる形にしたい」というところから、まずは3Dプリンターを使ったお弁当箱の量産を進めるという。
ブースには3Dプリンターで出力したいくつかのサンプルが展示されていた。また、材料に可食インクを用いたものもある
その理由を聞いてみると、まず一般の、普通の人たちに使ってもらうことを重視したからだそう。いきなり新しいことを詰め込みすぎてしまうのはどうなのかということ。
たとえば、「従来の金型を使った製法ではなく、3Dプリンターで作るので細かなカスタマイズ(お弁当箱の中の仕分けパーツの大きさ、形、数など)が可能です。さらに、アプリと連携します、光ります」としてしまうと、理解できる/できないを通り越してしまうのではないか。まず、3Dプリンターで作るので細かなカスタマイズが可能という、製品としての良さを理解してもらい、受け入れてもらうことを目指しているのだ。そのあと、実はアプリ連携の機能を準備していたんですよ、という流れで投入していくという。
現在、いくつかハッカソン発のプロダクトの製品化が進んでいるというニュースはよく耳にする。もちろん、作るものやターゲットによって事情は異なるが、プロジェクトの最初のアイデアの実現だけに固執するのではなく、より多くの人に届ける、そのためにまず最初のハードルを越えることに注力するというのは必要になるステップなのかもしれない。
JINS MEMEのアプリ開発のノウハウを蓄積したい、JINS MEMEハッカソンチーム「eye-sync meme」
発売前にもかかわらず、すでに2回もハッカソンが行われ、盛り上がりを見せているデバイスがJINS MEMEだ。JINS MEMEは3点式眼電位センサーを搭載し、眼の動きの変化をとらえることができるメガネ。視線や筋肉の動き、まばたきなどの検出から、自覚が難しい身体の状況を検知可能だというもの。これまでにないデータが取得できるということで、そのおもしろさからさわってみたいという開発者は多い。JINS側も研究機関との連携のほか、IDEA PITCH CONTESTなど行っている。ハッカソンイベントも、4月にEngadget電子工作部、7月にMashup Awardsで開催された。
今回Maker Faire Tokyoに出展していたのは、Engadget電子工作部のハッカソンイベントで優勝したチーム「eye-sync meme」だ。「eye-sync」は、2台のiPhone、2台のJINS MEMEを使って“にらめっこ”(?)する。先に視線を外したら負けというゲーム。勝ち負けがついたら終わりというのではなく、その後、双方の眼の動きから相性診断もしてくれる。残念ながら、当日、会場ではなかなか通信環境が難しく(JINS MEMEとiPhontアプリはBLEで通信する)、なかなかデモがうまく動作しなかったようだが。
実際にJINS MEMEが販売されるタイミングで同時にアプリもリリースしたいと、ハッカソンのメンバーを中心にその後も開発を続けている。ハッカソンで作ったのは2人用のゲームだが、1人で遊べる形も考えている。これは、最初から2台ないと遊べないというのではなかなかアプリも手にとってもらえないのではないかということから。
いま、デバイスの知見などをもっと蓄積する・共有する必要性を感じているという。もっと広く、ハッカソンに参加した他のメンバーや興味のある人たちでユーザーグループのようなコミュニティを形成できればいいなと考えているそう。ユーザーにも開発者にも初めてとなるデバイスなので、こうした動きが進むことの意味は大きい。興味のある方はぜひ。
富士通の「あしたのものづくり研究会」
このスペースは、いわゆるスポンサー枠なのだが、他の企業ブースとはちょっと違って、展示されていたのは企業としての新製品・新サービスというわけではなく、社員の自主研究、社内ハッカソンを通して製作されたものが中心となっていた。
富士通といえば、あしたのコミュニティラボ主催で地域のコミュニティや学生らと一緒にアイデアソンを行うなどの試みに早くから取り組んできたことで知られている。また、富士通研究所などで定期的に社内ハッカソンが行われている。今回、それらの活動の成果を展示していたのだ。社内ハッカソンはクローズドで、その様子や成果物を見ることができなかったので、個人的にも楽しみにしていたブースだった。
小さな子どもの体重・身長など身体測定用のデバイス。鏡にメッセージが表示される。展示されていたデモでは、大人向けに表示される体重は若干考慮されていたという
このクリップに挟んでタスク登録することで、タスクの見える化ができる
ちなみに富士通以外にも、さまざまな企業の自主研究企画的な出展があった。なかなか公式には表記されておらず、聞いてみると実は……という感じのものが多かったようだが。自分たちが作ったものを熱く語り、来場者とのコミュニケーションを楽しんでいたことが印象的だった。こうした動きがあったのも、Maker Faire Tokyo 2015の特徴だったと思う。
「作る」の裾野を広げるヒャッカソン
ヒャッカソンは100円ショップにある商品を使って、おもしろいもの、新しいもの、作りたいものを作って、それを楽しもうというコミュニティ。東京近郊だけでなく、岩手、福島、宮城などでもイベントを開催している。
当日のブースには、虫かごサイズの植物工場「スマートアグリ」、ストローで作ったロボ「孫の手ロボ」、iPhoneがすぐに取り出せるリストバンド風ケース、事前の紹介記事にも掲載されていた「チャリで来た」(MFTバージョンもあった!)など、数多くの楽しい作品が展示されていた。
かわいい「べゼリー」
モニターの上に一列に並んで、手足、身体をちょこちょこと動かし続けるクリーチャー、べゼリー。これは、テレビからの音声に反応した動きだ。中身の機構は同じはずなのに、なぜか並べてみるとそれぞれ動きが違うという不思議さ。Engadget先端研究所(Engadget電子工作部OBの活動)のメンバーによる活動で量産化を目指している(が、まだもう少しかかりそうとのこと)。
べゼリーを説明するとそんな感じなのだが、実物を見ると「かわいい!」の一言。ついさわりたくなる。Maker Faire Shenzhenにも出展し、やはり、特に女性や子どもに人気だったという。今回、Maker Faire Tokyoに合わせて外側を作り直した。ブースには、人が話しかけると反応する子もいた。また、2日目には会場で購入したパーツで改造を施したというバージョンも!
そのほか、「makuake」ブースでは現在ファンディング中の光枡も。これは、2013年9月岐阜県大垣市で始まった「コア・ブースター・プロジェクト」(IAMASの小林茂教授と卒業生たちがその周辺で創業したベンチャー企業が主催した取り組み)のチームから生まれたもの。傾けると光る枡、枡としてそのまま使えるので、「檜の香りと光を楽しみながら、お酒を嗜む」なんていう楽しみ方を提示してくれるもの。ちなみに、光枡は「マクニカ」ブースにも展示があり、ここでは枡の底蓋を開いて基板を見ることもできた。
また、ヤマハのPlay-a-thon、GUGEN Hiramekiを経て、5月にindiegogoでの資金調達に成功した「Orphe」も、暗室内のブースにてデモ展示。Orpheは、9軸センサーや100以上のフルカラーLEDを搭載し、動きに合わせて光を制御できるスマートシューズだ。Orphe本体、連携アプリなどの開発も進んでいる。
東芝FlashAirのブースでも、FlashAirハッカソンイベントの優勝作品が展示されていた。この「スマートジャグリング」を含め、FlashAirハッカソンからも数チームがビジネス化、製品化に向け鋭意開発を進めているという。
昨年から急激に広がっているハッカソンブームで、いま多くのハッカソンイベントがいろいろな場所で開かれている。新しいビジネスや製品を作り出そうというものであったり、ものづくりのコミュニティを広げようというもの、開発スキル・ノウハウを共有していこうというもの、目的はさまざま。そんな、目指す方向が異なるハッカソンチームが一同に集まるというのもMFTのおもしろいところだ。
─ 大内 孝子