Fabrication

2016.01.14

機械式腕時計を作ってしまった人

Text by Takumi Funada

したーじゅさんは機械式腕時計を作った。ネジ以外の全部品が自作。これが1個目という。動画にその過程がまとめられている。自室で、ひとりで、全部作っているように見える。驚いたので、さっそくメールを送っていくつか質問をした。以下はその一問一答です。

設計開始から完成までにどのくらいかかりましたか?

2か月です。大まかに分けて、1か月で設計と加工プログラム作成、1か月で加工、組み立て、調整です。ただし、それまでに時計の勉強、加工の勉強、設備の調達、試作(置時計の作成)等を行い、ある程度の準備をしました。それらに約2年かかっています。

どのようなCNCを使いましたか?

オリジナルマインドのKitMill RD300のボールネジ仕様を使用いたしました。ただし、腕時計のパーツが加工しやすいように自分で改造しています。具体的には下記のとおりです。
1. スピンドルの回転数を30000rpmまで上げれるように改造
2. 切かすを吸い込めるように改造
3. SUSの加工用にミストを吹きかけられるように改造
4. 材料のチャックがしやすいようにバイスを自作(CNCのZ軸が短く既製品が使えなかったためです)

設計の際、参考にしたムーブメントはあるのでしょうか?

http://mydearmini.com/analysis-1-2-3.html
このページを参考にしました。

ヒゲゼンマイ(振り子運動を生み出す微細なスプリング)まで自作されていたのにはとても驚きました。どのように製法を学んだのでしょうか?

ヒゲゼンマイの整形方法は書籍で学びました。しかし、材料(ヘアスプリング)の調達に苦労をしました。ヘアスプリングは探しても見つかりませんでした。はじめは薄板をカットして作ろうとしていたのですが、うまくいきませんでした。そこで、バネメーカー等に連絡を取り、提供していただくことはできなかったのですが、ヘアスプリングの製法を教えていただき、その情報をもとに作成しました。

製作の過程でもっとも難しかった部分はどんなところですか?

脱進機*周りです。特に調整に苦労しました。加工した部品をそのまま組み立てただけではまともに動きませんでした。そこからヤスリで削っては様子を見てを繰り返し調整を行いました。部品の再加工も何度も行いました。
* 脱進機=振り子運動を歯車を止めたり進めたりする動きに変換する機構のこと

完成品は何個作りましたか? 何個作る予定ですか? 販売等は考えているのでしょうか?

腕時計は今回のが1個目です。ただし、それまでに置時計2個、掛け時計(振り子時計)1個を作っています。基本的に1度設計したものは1個しか作るつもりはありません。これからも、アイデアはすでにいくつかあるので新作は作っていきます。販売は今のレベルでは考えていません。これから完成度を上げていき自分が売ってもいいというレベルになったら、販売もしたいと考えています。その場合、完成品だけではなく、組み立てキットも作りたいと考えています。

出来上がった時計に対するご自分の印象はいかがでしょう?

美しいと思います。(自分の好みのデザインにしていますから)

そもそもフルオリジナルで時計を作ろうと考えたきっかけは何ですか?

もともと機械仕掛けのようなものが好きで、興味本位ではじめは機械式置時計(振り子)を作っていました。作っていくうちに、機械式時計の魅力に引かれていき、腕時計の作成にたどり着きました。

また、私が作成した時計の特徴としてスケルトンになっていますが、中の機構がすべて見える時計がほしかったというきっかけもあります。世の中にスケルトンの時計はあるのですが、どれも装飾などが施されていて、それが私の理想と異なっていました。自分にとって理想の時計がほしかったという理由もあります。

普段のお仕事はどんなことをされているのでしょうか?

機械設計です。

私にも作れるでしょうか?

可能だと思います。(もちろん苦労はすると思いますが)

実は私は時計の分解をしたことはありません。理由は自分で苦労して考えて作り上げていくステップを楽しみたかったからです。そして、部品の加工は加工機の使い方さえわかればできると思います。難しいのは調整です。どこをどう触ればどう変わるかさえわかれば調整もできると思います。