Science

2016.01.15

なぜロケットの垂直着陸は難しいのか

Text by kanai

A long exposure image of the SpaceX Falcon 9 showing the launch, re-entry, and landing burns. (Credit: SpaceX)

Elon MuskのSpaceXは、ロケット産業に携わるほとんどの人が不可能だと思っていたことを成し遂げた。史上初めて、ロケットが衛星を軌道に投入し、地球に引き返して垂直に軟着陸したのだ。

ロケットを打ち上げること自体、大変に難しいのだが、その科学的な知識はよく知られており、物理学的な理論もかなり基礎的なものだ。それに対して、その逆は本当に難しい。細長い機体を真っ直ぐに上向きに軟着陸させるためには、打ち上げとはまったく異なる問題がある。

打ち上げ

まずは初歩の初歩。軌道に乗せるためには、ロケットは重力と抵抗の両方と戦わなければならない。そのための設計が、皮肉なことに着陸を難しくしている。

基本となるロケットの物理的な条件は、NASAのロケットや、9歳の子どもが打ち上げる模型ロケットと変わらない。ロケットの重心(重量のバランスが取れるロケット本体内のポイント)は、推力の中心点と推力の方向とに揃っていなければならない。そうでなければ、ロケットは真っ直ぐに飛ばずにくるくると回転してしまう。

ロケットの設計士は、揚力、つまり、翼や操縦翼面や空力機体などすべての部品からなる全上昇力の中心のバランスも考慮しなければならない。抗力の中心と考えれば簡単だ。ロケットの打ち上げの際には、抗力の中心は、重心のすぐ後ろにあるように移動し続ける。そうした設計になっているロケットは安定して飛ぶ。

しかし、燃料を消費すると重心が変わる。もし重心が抗力の中心より後ろになってしまったら、ロケットは不安定になる。すべての推進剤と燃料を消費したロケットは、不安定な状態に近づいているのだ。

帰還

打ち上げるだけでも大変なのだが、それをまた元通り縦に着陸させることはもっと難しい。燃料タンクはほとんど空になっているので、打ち上げのときよりも不安定な状態になっているからだ。12月21日のSpaceXの着陸は、最初の試みではなかった。これまでに2度挑戦して失敗している

前の2回の試みは、海上のドローン船に着陸させるというものだった。地面に着陸するのは今回が初めてだ。陸上への着陸にはいくつかの利点がある。地面は動かない。ケープカナベラルに新しく建設された着陸パッド(LZ-1)はずっと広い(しかし、SpaceXによれば、パッドのど真ん中に着陸したそうだ)。

今回の着陸は、新たに改良されたFalcon 9だからこそ実現できた。通常のロケットは、ペイロードを軌道に乗せるために、その燃料をすべて使い切る。だがFalcon 9は、再利用を目的としているので、SpaceX Dragonカプセルや、月曜日に起動に乗せた11 ORBCOMM衛星などのペイロードを打ち上げた後、第一段を帰還させられるよう、燃料には30%の余裕を持たせてあるのだ。

余分な燃料は第一段を減速させるために使う。第二段を切り離した後に点火され、超音速で飛行する第一段を減速して、着陸サイトへ戻すための「ブーストバック」燃焼が行われる。大気圏に再突入した後に、また点火される。今度は9つあるメインエンジンのうち3つだけが使われる。最後は「ターミナル」燃焼だ。エンジンを一基だけ使って減速し、軟着陸させる。

だがこのために使われるのは燃料だけではない。Falcon 9には、グリッドフィンと呼ばれる、小さな折りたたみ式の耐熱翼がある。これで、宇宙から大気圏に戻る降下中に、姿勢を上向きにするのだ。グリッドフィンは、ロケットの下向きベクトルの後方に抗力を与え、エンジンが常に進行方向に向くように制御する。ロケットがまったく逆の状態で飛行できるように、これはそのわずか数分前に行われる。

また、第一段には、上方に向けたコールドガス噴射装置があり、これでメインエンジンのブーストバック燃焼が行えるようにロケットの方向を逆転させる。そして、着陸用の脚も備えている。

Infographic showing the phases in the launch-and-landing of SpaceX's Falcon 9. (Credit: SpaceX)

これらすべてのシステムは自動化されている。姿勢の制御には、機体に搭載されたセンサーからの情報にリアルタイムで対応しなければならない。瞬間的に対応しなければならず、ロケットは非常に過敏だ。人間の手に負えるものではない。こんな仕事はコンピューターに任せるに限る。

ロケットを上向きに真っ直ぐ着陸させるための姿勢制御を難しくしている最大の要因は、先に述べた質量と抗力の中心の位置だ。衛星を効率よく打ち上げるために、Falcon 9は細長く作られている。だが、それが帰りの姿勢制御を難しくしているのだ。

ブーストバック燃焼の前に、コールドガス噴射装置によってロケットの姿勢が反転すると、ジンバル付きのメインエンジンを使って逆噴射を行い、噴射方向を調整しながら機体を地上に軟着陸させる。言い換えれば、ロケットの姿勢を制御するためのトルクは、すべてがロケットの下側で生じている。もう上側にはバランスを取るための噴射装置はない。試しに、ホウキを反対に立てて、指の先に乗せてバランスを取ってみるといい。それがどれほど難しいことか、わかるだろう。

不可能ではない。しかし、片方の端にしか力を加えることができないので、非常に不安定で長時間そのままで保つことが難しい。さらに、ロケットを上向きに安定させるためのエンジンは、横方向のベクトル調整に加えて、軟着陸のためのブレーキ役も兼ねている。その計算をリアルタイムで行うのは、高度な技だ。

もし、ロケットが大きく傾いて質量の中心がロケット本体の外側に移動してしまったとき、素早く反対方向に押し戻さない限りコントロールを失ってしまう。だから、短くて太いロケットなら簡単に着陸できるだろうが、ペイロードを軌道に乗せるために空力抵抗を少なくした細長い機体は、降下中は非常に不安定になる。

そんなわけで、SpaceXの上向きの軟着陸は、ロケット設計の勝利でもあり、ソフトウェアの勝利でもある。フラフラ動く棒状の細長い機体のバランスを下部のエンジンだけで取りながら、決められた場所に着陸させるのが、どれだけ難しいことか。

だがこれが最初ではなかった

ロケットが縦に着陸したのは、これが最初ではない。先月、Blue Origin社のNew Shepardが準軌道に乗った後に着陸に成功したとき、Blue Originの創設者 Jeff Bezosは、Twitterで、ロケットの打ち上げと着陸の様子を収めたビデオを公開した。

(もっともどう猛な獣、それは一度使ったロケットだ。軟着陸は簡単ではない。しかし、正しく行えば簡単そうに見える)

寛大にも、SpaceXのFalcon 9の着陸失敗(5回の海上テストと2回のドローン船の着陸失敗)については触れずにいてくれた。にもかかわらず、これが2人の億万長者の間に辛辣な言葉が飛び交う結果を招いた。

(Jeff BezosとBOチームへ、ブースター付きVTOLの完成おめでとう)

(だが、宇宙と軌道の違いはハッキリさせておかなければならない。ここに詳しく書かれている[リンク])

おやまあ。とにかく、ロケットを反転させてブーストバック燃焼でFalcon 9を着陸させたことには大きな意味がある。宇宙まで飛ばすには、マッハ3程度の速度でよいが、軌道に乗せるにはマッハ30は必要になる。それに必要なエネルギーは速度の2乗に比例する(E ∝ v²)。SpaceXがFalcon 9で成し遂げたことは、ずっと高度なのだ。軌道速度から減速して地上の基地へ無傷で着陸できたロケットは、これまでにひとつもない。

MuskはSpaceXがFalcon 9-R(コードネーム Grasshopper)で、2013年から準軌道テストを行ってきたことを主張した。

(Jeffはたぶん、SpaceXが準軌道VTOLを2013年から飛ばしていることを知らないのだろう。その後、軌道から海上へ、そして軌道から地上へ着陸させた)

しかし、Falcon 9が着陸に成功したとき、Bezosは黙っていられず、最後にこう言った。

(SpaceXの準軌道ブースターの着陸おめでとう。我々のクラブへようこそ!)

BezosとMuskがどれだけ真剣にやりあっているのかは知らないが、億万長者たちの宇宙開発競争での言い合いは、私はいいことだと思う。少なくとも、2つの核保有国が大量のICBMを作ってしまった昔の宇宙開発競争よりずっと面白い。

最後の航海

着陸したFalcon 9は、現在、着陸パッドにひっそりと立ったまま、 再処理施設へ運ばれるのを待っている。

将来は、帰還したFalcon 9に再び燃料を詰めて飛ばすことが予定されている。これにより、打ち上げは、新しくロケットを作る費用のわずか3%に相当する燃料代だけで済むのだ。ただし、このFalcon 9はもう飛ぶことはない。

CRS-7の打ち上げには失敗したが、SpaceXはDragonを、CRS-8とともに2月に打ち上げる予定だ。3基のFalcon 9が揃ってケープカナベラルの基地に着陸するというSpaceX Falcon Heavyのデビューは、今年の中ごろを予定している。

原文