2018.01.19
教育現場にメイカースペースが必要な今だからこそ考えたい、予算をあまりかけずに持続可能なメイカースペースを作る方法
サンフランシスコで開かれた2017 STEAMシンポジウム(科学、技術、工学、アート、数学教育のための討論会)に参加して以来、頭の中を素晴らしいアイデアが飛び交っている。そのすべてを捕まえて披露することは不可能だが、そのなかでもMakerのみなさんにお教えしたい価値あるアイデアに、予算をあまりかけずにメイカースペースを開設する方法がある。メイカースペースはホットな流行であるという他に、子どもたちの学習意欲を高める見た目のインパクトがあると、教育界で話題になっている。とくに「Make:」のファウンダーであるDale Doughertyと話したことが、私にとって大変に印象的だった。彼は、利用者による、利用者のためのメイカースペースのデザインという考え方を熱弁していた。いわゆる、ユーザー中心デザインだ。
メイカースペースをデザインする際には、いくつかのことをハッキリさせておく必要がある。多額の予算は必要ないが、少なくとも最初に、スペースの構想、使命、目的を明確にしておくことが大切だ。もしあなたが新しいスペースで新年を祝いたいと考えているなら、または今のスペースを再起動したいと思っているなら、ここに示す、STEAMシンポジウムと、サンディエゴのMakerコミュニティで私が拾い集めた知恵を参考にして欲しい。
短期予算と長期予算を決める
予算がきびしいときは、紙にこの魔法の数字を書き込もう。これが戦略の決め手となる。予算に苦しんでいる教育者なら、DIYで対処するチャンス、場所、材料を探し出すためのクリエイティブで独創的な発想を活かす方法を心得ているはずだ。ちなみに、計画の短期的構想と長期的構想のそれぞれに、予算の制約が違ってくる場合がある。
スペースの目的、構想、利用者を特定する
これは、メイカースペースをデザインするときや改装するときに、真っ先に考えて答を出しておくべきこととして、MakerEd VistaのDaniella Shoshan、Steindorf K-8 STEAM SchoolのRick Shertle、Maker TherapyのGokul Krishnanなど、STEAMシンポジウムに参加した専門家たちが強調していたことだ。早期に、そして頻繁に利用者に会って、彼らがスペースに何を望んでいるかを知ることが大切だ。Daniella Shoshanは、そこで考えておくべき質問事項を教えてくれた。
・スペースの目標は何か? どのような結果を望んでいるか?
・誰が、どのようにスペースを利用するのか? 利用しないと思われる人はどんな人か? なぜ利用しないのか?
・スペース利用への障害になるものはあるか(文化、言語、交通、先入観など)? それをどうしたら取り除けるか?
・予想されるユーザーにとって、もっとも面白い、または関連性の高いプロジェクトは何か?
・両親やコミュニティは参加するか? どのように参加できるか?
・自分たちの価値は何か? その価値をどのようにスペースに結びつけるか?
Daniellaは「メイカースペースの基本ラインをリセットする:コミュニティを中心としたメイキングを通した平等性と多様性」と題したセッションで、あらゆるステージの利用者を受け入れることが重要だと強調していた。「恐れずに、この質問を学生や子どもたちにも向けてみましょう。現在の社会情勢では、多様性を受け入れることは危険だと思われるかも知れません。面倒なことかも知れません。しかし、少しずつでも多様性を受け入れる方向に進みましょう」
ツールを選ぶ前に宿題を終わらせてからツールの欲しいものリストを作る
メイキングの文化に身を投じて、どっぷり浸ろう。地元のメイカースペースを訪ねて、地元の専門家の話を聞き、すでにあるものを調べるのだ。一般に開かれた市民のためのメイカースペースを併設する図書館が、どんどん増えている。サンディエゴ中央図書館 Innovation Labの責任者であり、San Diego Makers’ Guildの共同創設者のUyen Tranは、ツールに関して貴重なアドバイスをくれた。私たちが使えるツールや技術が数多くある一方、コストにも大変に幅がある。そこで、目的と維持管理と、ゆくゆくのアップグレードのことを考えるべきだという。技術は目まぐるしく変わる。最先端のハイテクツールを揃えておこうと思えば、それを維持管理し、アップグレードできる専門の技術スタッフを雇う必要がある。ツールは常に正常に使える状態になっていなければならないからだ。彼女は、MakerEdのYouth Makerspace Playbookもぜひ読んで欲しいと言っている。スペースの設立方法やツールの選び方が詳しく書かれている。
サンディエゴ中央図書館は、地元の利用者からなるコミュニティをとくに大切に思っている。「ここにはミシン、レーザーカッター、3Dプリンターなどがあり、誰でも使えるようになっています」と彼女は言う。図書館では、誰でも参加できるワークショップも開催している。あなたが住んでいる地域で同じような施設を探すなら、MakerMapまたはMaker Directoryを使うとよいだろう。近くのメイカースペースを見つけることができる。ただし、ここにすべてのスペースが掲載されているわけではないので、近所のMakerや教育関係者にも話を聞いて欲しい。
手に入る材料やツールがわかったら、スペースに備えたいツールの「欲しいものリスト」を作ろう。これには、木工機械、電動工具、ソフトウェアも含めてよい。
カリフォルニア州サンノゼのSteindorf K-8 STEAM Schoolで教員を務めるRick Shertleは、彼が好んで使っている手工具と電動工具を教えてくれた。手工具は、測って、挟んで、切るもの。電動工具は、ドリルプレス、糸のこ盤、サンダー、電動ドリルだ。彼の一番の助言は、「最高級の高価な道具は必要ない」というものだ。それは、仲間のMakerが3万ドルのレーザーカッターの購入を考え直し、その数分のーの価格の製品を買ったところから来ている。メイカーカートも安価に作れる。これがあると大変に便利だし、それ自体が面白い工作プロジェクトになる。
メイカーカートの便利さは、長期の治療が必要な病気の子どもたちと関わっているMaker TherapyのGokul Krishnanも認めている。彼は、子どもたちと一緒に、病院内で世界初の移動式メイカースペースを製作した。子どもたちはこれにより創造的な力が与えられ、頭の中で想像したものを実現化させている。
恐れることなく地元コミュニティの親、学校、企業などに話をして、必要なものを集めよう。また、ツールドライブ(訳注:工具を無料で貸し出す工具の図書館)やDonorsChoose.orgを探してみれば、必要なツールがすべて揃ってしまうかも知れない。
ツールの配置を決めて運営計画を立てる
計画の全体像がハッキリして、必要なツールが揃ったら、スペース内のツールなどの配置と、スペース運営に必要な資金について考えよう。
スペースを開設する際に、もっとも大変な仕事は運営だとRick Shertleは話している。体験から学んだ大切な教訓に、スペース内を常に整理して工具類の所在を明確にすべし、というものがある。ツールの管理と整理のための簡単な計画を立て、スペースの基本ルールを作っておけば、長い目で見て、労力や予算が節約できる。Rickがもっとも苦労したのは、スペースの整理と、現在所有しているツールの一覧表作りだったと言う。ボランティアか学生にスペースの管理者になってもらうのがよいと彼は助言している。管理者は、ツールなどの機材の補充や貸し出しの責任者だ。これは、シンプルなExcelファイルで管理可能だ。
助成金を申し込む
メイカースペースやSTEAMプロジェクトには助成金が出ることがあるので、躊躇せずに申し込もう。申し込み先さえわかれば簡単だ。助成金が下りれば、レーザーカッターや3D プリンターやソフトウェアなどの高額なツールが手に入る。まずは、CDFA、Grants.gov 、STEM Grants(米国内向け)を探してみよう。よい申し込み先が見つかるはずだ。
ちなみに、サンタクララ郡教育管理事務所のJennifer Janzenは、助成金の申し込み書の書き方には、ちょっとした技があると話している。15年間助成金の事業に携わってきた経験から、できる限り助成金提供者の指示に従って書くことが採用につながるという。申し込み者のうちのほとんど(60パーセント以上)は、資格がないか、提供者の指示通りでないために落とされているそうだ。
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