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2015.12.02

TechshopスタッフのMel Olivaresさんに聞く「ドリームコンサルタント」という仕事

Text by tamura

急ピッチで2016年4月のオープンのために準備が進んでいる「Techshop Japan」(プレオープンは2月)。豊富な機材や利用システムだけではなく、会員をサポートするドリームコンサルタントと呼ばれるスタッフの存在がTechshopの特徴だ。今回、MAKEでは、Mel Olivaresさん(Corporate Team Operations Development)にドリームコンサルタントという仕事の特徴や日本のコミュニティへのメッセージを聞いた。ちなみにMelさんは日本語も堪能で今回のインタビューもほぼ日本語で行われた。

MAKE:Melさんの経歴について教えて下さい。

スタンフォード大学でプロダクトデザインを学び、在学中の2008年には3ヶ月間、同志社大学に留学したこともあります。その後はJR東日本でインターンもしました。大学卒業後、2010年に最初のTechshopでドリームコンサルタントになりました。その後の5年間は主にドリームコンサルタントのトレーナーとして、新しいTechshopの立ち上げ時にドリームコンサルタントを教育したり、日本のTechShop立ち上げのような特別なプロジェクトに関わっています。昨年、Fujitsu Labs AmericaとTechShopが共同で行った「TechShop Inside! powered by Fujitsu」というプロジェクトでは責任者を務めました。

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Mel(前列中央)さんと彼がトレーニングしたドリームコンサルタントたち

MAKE:ドリームコンサルタントとはどんな仕事なのでしょうか。

ドリームコンサルタントの基本的な仕事は、Techshop内の工作機械や工具が壊れた際に修理したり、施設内の安全を管理することです。また、会員と積極的に会話をして、会員が自分の作りたいものを作るのに障害がある場合には、それを乗り越えるためのお手伝いをしています。私は毎日少なくとも20〜30人、多い日には100人近くの会員と話をしているのですが、こういった会話によって会員のみなさんが家族のように歓迎されているという雰囲気を作るということもドリームコンサルタントの大事な仕事です。

最近はいろんなところで「イノベーション」が話題になりますが、イノベーションは無理やり起こせるものではありませんよね。私の考えでは、イノベーションとは「花」のようなもので、花を咲かせるために「庭」と「庭師」が必要です。私は、Techshopのことを庭のようなものでドリームコンサルタントのことを庭師のようなものだと思っています。

ドリームコンサルタントは工作機械や工具のことをすべて知っていなければいけないということではないんです。私自身も知らないことがたくさんあります。でも、(スタッフや他の会員のなかで)誰がどんなことを知っているかは知っています。会員が困難にあったときは、私もアドバイスをしますが、他に解決できる人がいるときはその人を紹介します。Techshopのスタッフは会員の「知識を得る旅」をちょっと手伝うだけで、ヒーローは会員です。 知識をシェアする環境であることは、TechShopにとってとても大事なことだと思っています。

会員同士が協力してビジネスを成功させることもTechshopではよく起こっていることです。一番良い例は、3DプリンターのType A Machinesでしょう。また、日本のWHILLがシリコンバレーに来た時には、Techshopのなかにオフィスを提供しました。加えて、私が日本で働いていたこともあって意気投合したWHILLの杉江さんと部屋をシェアした、ということもありました。Techshopではこんなことも起きるのです。

メイカースペースにインキュベーターがいる場合、彼らの目的はビジネスです。彼らは(大きなビジネスになるような)、良いアイデアを必要としています。しかし、Techshopでは、どんなアイデアに対しても、いい、悪いは判断しません。どんな馬鹿げたアイデアでもいいんです。大学生、アーティスト、ハッカー、そしてNASAやYahoo!で働いているような人たちが一緒になって、本気でポテトキャノンのようなバカげたプロジェクトを作ったりもします。でも、Techshopは、そういった「遊び」によって、クリエイティブな雰囲気になっているんです。

私は、そのクリエイティブな雰囲気が、結果的にはビジネスにもつながる優れたアイデアを生み出す「庭」になると思っています。ここで強調しておきたいのは、Techshopのゴールは世界を変えるようなアイデアとそのアイデアを核としたイノベーティブなビジネスを生み出すことです。そのために、ホビースト、アーティストはもちろんアントレプレナーやビジネスマンなどあらゆる人々が集うことができる安全で自由でクリエイティブなスペースを私たちは提供します。

MAKE:Melさんが考える一番Techshopらしいプロジェクトを教えてください。

Mel:Techshopには、オズボーンさんという会員がいました。オズボーンさんはとても裕福な方でグアテマラに靴の工場を経営している家族が住んでいたのですが、グアテマラの病院の手術室には照明設備がないところがあり、そういった病院では帝王切開で出産する最中に停電があると母親が命を落としてしまうことも多いと聞いて、オズボーンさんは心を痛めていました。たまたま小さいマフィンのような形をしたソーラーライトのことを知ったオズボーンさんが、そのライトをTechshopで試しに作ってみたところ、35ドルで作ることができました。その後、オズボーンさんはそのライトを家族の経営している工場で組み立てて病院に贈ったのです。

MAKE:日本のコミュニティ、そしてドリームコンサルタントへの応募を考えている方へのメッセージをお願いします。

メル:私は、日本に住んでいたということもあって、Techshopが日本でオープンすることにわくわくしています。日本では「カイゼン」についてよく知っている方が多いので、それがどう活かされるのかが楽しみです。私たちが日本のみなさんに伝えたい一番大事なメッセージは「あなたは何でもできる(作れる)」ということです。私たちは、そのための困難を乗り越えるためのお手伝いをしたいと思っています。

日本では自分のことをヒーローと感じる機会はあまりないと思いますが、ドリームコンサルタントになることで、あなたは(会員にとっての)ヒーローになれるかもしれません。先ほど話したように、ドリームコンサルタントはすべての技術に習熟している必要はないんです。熱意、パッションを持ち続けてください。それが一番大事です。ドリームコンサルタントが子どものような熱意を持っていれば、会員も子どものように熱心に自分の作りたいものを作ることができるはずです。

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「TechShop Inside! powered by Fujitsu」のために用意されたトレーラー、内部にはレーザーカッターや3Dプリンターなどを搭載している