Crafts

2013.06.25

メイカースペースをMakeする:ビジネスモデルを作ろう(2)

Text by kanai

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(日本語版編注:Part.1はこちら

6. 工具のメンテナンス / 消耗品

工房の運営には大量のお金がかかる。刃は鈍るし、ベルトは切れるし、溶接のガスは切れるし、いろいろある。Asylumは3年間やってきて、ひと月にかかる経費が500〜1,000ドルというところで落ち着いてきた。酷使される設置面積750平方メートル、30万ドル相当の機械の消耗品にかかる経費は、月に1,300〜1,700ドルだ。この例をもとに、スペースの広さと工具の数でスケールすれば、だいたいの経費が割り出せるだろう。消耗品に関しては、会員が負担するというシステムもある。会員が持参するか、スペースで購入するのだ。計算した経費をスプレッドシートに書き込もう。

7. 契約スタッフ

Artisan’s Asylumには、クラスで教える講師として、月に35〜45人のパートタイムスタッフを使っている。クラスにかかる時間は週に2〜10時間だ。私たちの手間もほとんどない。そこで、彼らは契約スタッフとして、時給を支払い、月給や従業員特典はない代わりに、クラスの売り上げの50パーセントを支払うようにしている。これはスペースを立ち上げたときからの方針だ(最初の1年は60パーセントだった)。この戦略は、Asylumの講師という仕事に魅力を与え、講師は自分からクラスの宣伝をするようになる。さらにこれが、講師のフルタイムの仕事と、自分のための仕事を持続性のある形でつなぐ役割を果たしている。他のスペースや似たようなビジネスでは、クラスの内容にもよるが、時間あたり20〜75ドルを支払っているところが多い。

これとは別に重要な契約スタッフに公認会計士がいる。毎年、私たちは税金の計算のために数人を雇っている。自分でやらないほうがよいものもある。もし間違えば、大変なことになるからだ(とくに非営利の場合は、確定申告に不備があったときに、501(C)3認証が取り消されてしまう恐れがある)。我々の場合、830平方メートルのときで年間10万ドルの収益があったが、確定申告のための書類作成には1年でおよそ2,500ドルかかった。その後、毎年の財務概況が必要なまでに成長し(間もなく会計監査が義務づけられる)、そのための経費は年間7,000ドルになった。会計監査のコストはもっと高くなるだろう。法人格と 5011(C)3認証を取得する際に法律的手続きのために1年間、定期的に弁護士に相談をしたが、それには2,000〜3,000ドルかかった。

今の時点でこの経費を見積もるのは難しいので(収入がわかってから、またここに戻って考えるといい)、契約スタッフの費用をスプレッドシートに記入しておこう。

8. 保険

アメリカで大きなビジネスを行うためには、また商用施設を借りる場合は、保険に入らなければならない。新しい場所を借りるときに、これがいちばんの障壁となる。メイカースペースにかける保険について詳しくなるための手引き(英語)に書いたとおりだ。まだこれを読んでいない人は、先に読んでおいてほしい。我々の経験に基づく保険の価格の例は、以下のとおりだ。

  • 財産責任保険:建物の広さ、管理する財産の量、どれだけ保険をかけるかによって大きく変わるが、一般的には年間、1平方フット(約1/3平方メートル)あたり0.20〜0.40ドルといったところだ。
  • アンブレラ保険:財産責任保険をいくらかけるかによって変わってくるが、財産責任保険の保険料の15〜25パーセントと見ておこう。
  • 労働者災害補償保険:従業員の給与と、仕事の内容によって変わってくるが、一般的に、事務職や管理業務の場合で総年収の0.61パーセント、実作業や職業指導の場合で総年収の3.17パーセントとなる。
  • その他の保険:私たちはその他にもいろいろな保険をかけている。たとえば、会社役員賠償責任保険非保有自動車保険などだ。これらは、保険料全体の10〜20パーセントを占める。

これは、あなたにとって必要な保険を網羅したものではない。賃貸契約や地元の法律を調べて、加盟が義務づけられている保険があるか、またそのほかにかけておくとよい保険などを確認してほしい。保険は一括払いが多いが、ここでは月払いとして分割するとわかりやすい。

9. 手数料

すべての収入はオンライン取り引きかクレジットカードと考えておこう。会計の訓練を受けた店員、現金を扱う会計資格のある人材、安全に現金を保管できる場所がないかぎりは、現金は扱いたくない。そのため、総収入の3〜5パーセントを、銀行、支払いサービス、信販会社などへの手数料として確保しておくことが必要となる (総収入が確定したら記入しよう)。

10. その他の出費

残念ながら、これまであげてきた支出のリストは、このようなスペースを運営する上で必要な毎月の支払いの、ほんの一例に過ぎない。しかし幸いなことに、大きなものはすべて押さえてあるので、あとは、これまでにわかった支出の10〜25パーセントを越えるものはない。ここに、毎月かかると思われる支出の例をあげておこう。

  • 宣伝広告(グラフィックデザイン、印刷など)
  • 教室用の材料
  • ボランティアの食事、ビールなど
  • 商品やサービスを販売する際の経費
  • 会費や受講料の割り引き(支出として計算しておくことで、いくらかかったかがわかる)
  • 事務用品
  • 電話料金
  • ウェブサイトの契約料(SurveyMonkeyなど)

11. 総支出

すべての支出を合計しよう。恐ろしい数字になっただろうか。よろしい、そのはずだ。Artisan’s Asylum では現在、月に約80,000ドルを支出している。それでも3,700平方メートルのスペースを運営するには人材が不足している。こうしたスペースの運営には金がかかるのだ(もっと小規模でも同じ)。最初からこのことをわかっていないと、後になってビックリすることになる。支出についてはしっかりと覚悟しておこう。うまく計画を立てて、上手に仕切るのだ。最初からすべてを支払う必要はない。たとえばAsylumでは、2年目になるまで誰にも給与は払わなかった。しかし、大きな期待を抱く創設者たちと末永く持続可能なビジネスへ、どのように発展させていくか、計画的に事を進めなければならない。

収入を特定する

ここでギアを切り替えて、お金を稼ぐほうを考えよう。支出については大まかにわかったので、それをガイドに使って、どうやってお金を作るかを考える。教室を開くか? 会費を取るか? スタジオスペースを貸し出すか? 寄付を募るか? どの収入源にも長短がある。慎重に組み合わせていくことが大切だ。

収入の予測を立てるためには、次の3つの見積もりを立てる。なんとか収支が合う悲観的な見積もり、期待どおりに進んだ場合の根拠ある見積もり、すべてがうまくいったときの最大限の楽観的見積もりだ。これによって、ビジネスが本格的に回り始めたときがわかる。

1. 会費

メイカースペースのもっとも一般的な収入源は会費だ。単一の会費を定めているところもあれば、支払い能力に従って価格がスライドするところもある。また、Artisan’s Asylumなどでは、スペースの利用レベル(1週間に何時間、何日利用するか)に応じて複数のコースを設定している。会費はコミュニティへのサービスと考えているスペースもある。会費は無料で、ビジネスは行わず、必要な運営費は補助金で賄っている。我々のガイダンスに従って、スペースが対応できる人数から会員数を予測して、どのような会費制度にするかをよく話し合うことだ。会費の相場は、腹を空かせたハッカーに対応したNoisebridge月40ドルから、TechShop月175ドルまでさまざまだ。料金を決める際には、地域ごとの利用者層とその支払い能力を考慮する必要がある。Artisan’s Asylumがあるマサチューセッツ州ソマービルの個人の平均年収は36,500ドル。平均世帯収入は61,799ドルだ。なので、もっとも人気の週7日24時間利用できるコースの会費を月150ドルに設定している。

スペースの会員を続けてくれそうな人の数を考えるときのために、次に示すアメリカ国内の会員の密度データを参考にするとよいだろう。

  • Artisan’s Asylumはレンタルスタジオ中心なので、会員の密度はとても低い。これまでのところ、11〜17平方メートルに1人といったところだ。
  • すべてボランティアで運営しているMakeIt Labsは、この2〜3年で560平方メートルのスペースに会員が増えている。プライベートスペースは少ない。現在は6〜9平方メートルに1人といったところ。
  • TechShopにはプライベートなスタジオスペースはほとんどない。非常に効果的なマーケティングキャンペーンを行っていて、新規会員の大幅な割り引き制度もある。ロケーションもよく、ハイエンドの機材も揃っている。場所によって密度は異なるが、5年以上運営してきて、1.9〜3.7平方メートルに1人だ。

あなたのスペースにどれだけの人数の会員が入れるかを見積もり、見込まれる収入を2つほど記入しよう。

2. レンタル

Artisan’s Asylumは、床面積の50パーセントをレンタルスタジオやプロジェクトの倉庫に提供できるまでに発展した。私たちの街の不動産は比較的高いため(平均的な住宅価格は45万ドル)、結果として、会員は自分だけのスペースを何よりも欲しがっている。しかしこれには長短がある。レンタルスペースは季節や会員がスペースで過ごせる時間などによって変化しない安定した収入が得られる。だがその一方で、一般スペースや教室の同じ面積の1人あたりの収入よりも低くなる。

スタジオスペースや倉庫スペースを貸し出したいと考えているなら、私たちの例を見て収入の見積もりを立ててほしい(ただし、私たちのレンタル料はとても高いということを覚えておいてほしい。この近所の小規模スタジオの商用資産価値を参考にしている)。

  • 50、100、200、250平方フット(4.6、9.3、18.6、23平方メートル)のスタジオ: 1平方フット(約1/3平方メートル)あたり月2ドル
  • パレットストレージ(1.2平方メートル):月30ドル
  • 棚ストレージ(2x2x2フィート、面積2x2フィートで4つ分までスタック可能):月10ドル

トータルの収入から、入替などを考慮して一定の空きを含めておくとよい。いくつかのレンタルコースの収入の金額を記録しておこう。

3. 教室

教室は、Artisan’s Asylumの初期段階において収入の60〜75パーセントを占めていた。私が見てきたほぼすべてのメイカースペースも、教室は収入の大きな部分を占めている。教室は、新しい会員に、そのスペースでの工作機械の使い方を教えるものだ。特定のプロジェクトはないが、なんらかの形で参加したいという人たちに、気軽に入ってもらうための入口にもなる。地元のクラフト作家たちには、講師として安定した収入をもたらすことにもなる。同時に彼らは、コミュニティのスキルレベルを、時間をかけて劇的に向上させることになる。現在Asylumでは、教室の収入は全体の25〜35パーセントを占めているが、それは賃料や光熱費に加えてスタッフの人件費にあてられる。

私たちは、教室の受講者から1時間10〜30ドルの受講料を徴収している。そのため内容は非常に充実している。受講料が安すぎると批判されることもある。近所の昔からあるほとんどのクラフト教室よりも安くしているからだ。ただし、この価格はあくまでソマービルだからということを覚えておいてほしい。繰り返すが、ここは一人当たりの平均年収が36,500ドルで、平均世帯年収は61,700ドルの地域だから成り立つのだ。

教室は、ひとつのセッション2〜3時間だ。ほとんどの教室が4セッションで構成されている(一部の工学、デザイン、プロジェクトベースの教室などは6〜8セッションのものもある。また工作機械の使い方をトレーニングする教室は1セッションかぎりのものもある)。さらにAsylumでは、工作専用エリアをピーク時のほぼ50パーセントを教室にあてるようにしている。つまり、溶接コースは週末の夜2〜3回と、週末の昼間、工作機械コースは週末の夜に2〜3回といった具合だ。これ以上教室の時間が長くなると、そのエリアを使いたい他の会員から文句が出る。最後に、工作機械を教えるコースでは、講師1人に対して受講者が多すぎると、効率が極端に悪くなることを覚えておいてほしい。私たちは、簡単に習得できるものや教えやすいもの(ハンダ付け、プログラミング、CADなど)を除いては、講師1人に対して3〜8人と決めている。

講師が何人いるか、どのくらいの頻度で教室を担当できるか、どの部屋が使えるか、ひとつの教室で何人教えられるか(教室の広さと講師の対応能力)、を考慮して、1カ月に各工作エリアで開催できる教室のだいたいの時間を割り出そう。以下に示すArtisan’s Asylumでの単位面積あたりの収入の例は、ピーク時間の50パーセントを使った場合の最大値だ。あなたの地域で人気のコース、会員がお金を払ってもいいと考える内容を探る参考にしてほしい。

  • 木工:月に平方フット(約1/3平方メートル)あたり10〜25ドル。大きな材料を扱うスペースが必要なため、この数字になる。
  • 機械工作: 月に平方フットあたり15〜30ドル。スペースは狭くて済むが、あまり人気がない。
  • 溶接:月に平方フットあたり40〜60ドル。このコミュニティでは溶接の人気が高い。
  • 静かな教室: 月に平方フットあたり35〜55ドル。ここではあらゆる種類のことが教えられる。
  • エレクトロニクス:月に平方フットあたり20〜35ドル。非常に人気が高いが、ある程度広いスペースが必要になる。
  • ジュエリー、ガラスワーク: 月に平方フットあたり40〜55ドル。人気が高い上に、あまり広さを必要としない。

地域性、講師、コミュニティの興味の対象などによって、教室の形は大きく変わる。教室の収入を見積もるときは、材料費を差し引くのを忘れないことだ。教室の内容によっては材料費が非常に高い場合がある。あなたの施設と講師とでどんな教室が開けるのかをしっかり考えて、期待される収入を書き込もう。

4. 補助金と寄付

Artisan’s Asylumでは、スペース創設の初期のころは一般収入の足しとして、創設後期には工具やインフラの購入資金として寄付金を活用した。寄付をビジネスプランに組み込もうとしているならば、どれだけのイベントが開けるか、どれだけの人が参加してくれるかを、私たちの助言を元に見積もり、1年間を平均して月あたりの収入を割り出そう。我々の場合は、年に1回から2回の大規模な資金集めイベントを行って、1人あたり25〜40ドルの収入が安定的に得られている。特定のアイテムに関連したイベントとなると、平均して1人あたり100〜200ドルになることもある。

イベントの参加人数は、ネットワークの大きさ、イベントの規模、どれだけ強力に薦めるか、によって決まる。私たちのグランドオープニングの資金集めイベントでは、当時のネットワークの人数が1,500〜2000人のところ、参加者が200〜300人あった。最近行った、緊急性の低いインフラ整備のための資金集めイベントでは、300人の会員のコミュニティから50人が集まった。私たちの場合と条件は大きく異なるだろうが、イベントで見込まれる収入を見積もろう。ここでは、0ドルに近い悲観的な見積もりをするよう強くお勧めする。収入に関して自立したビジネスモデルを構築する必要があるからだ。

スペースの中には(sproutThe Crucibleなどを含む)、非営利の501(C)3団体として助成金を受け取り、それを運営にあてているところがある。残念ながら、私たちは助成金に関してはあまり経験がなく、助成金を受け取るための助言や、いくらぐらいもらえるかなどをお話することができない。

5. その他の収入

メイカースペースには、会費、レンタル、教室、寄付のほかにもさまざまな収入の道がある。下に示す例を見て、さらに収入を得る方法を考えよう(ただし、それには追加の人材や経費が必要になることもお忘れなく)。

新しいタイプの収入については、柔らかい頭で自由に考えを出し合うことが大切だ。ただし、まったく新しいアイデアの場合は、思っている以上にエネルギーとお金を使うであろうことは覚悟しなければいけない。こうしたその他の収入でいくら見込めるかを計算して、記入しよう。

6. トータルの収入

すべての収入を合計して、悲観的な(収支がとんとんの)予測、合理的な裏付けのある予測、もっとも儲かる予測を立てよう。悲観的な予測と最大の予測との間に大きな開きがあれば、いい感じだ。反対に、その差が小さいと困ったことになる。

収入と支出

収入と支出を比べてみよう。月の終わりに利益は出ているだろうか? アメリカ中のスペースがそうであるように、収支がぎりぎりであっても、それでいい。現実的な計算ができている証拠だ。地球上のどの企業も、5〜20パーセントの税金を納めたあとが純利益となる。常に黒字であれば、最高にうまくいっているということだ。

もしものための現金を銀行に預けておくことも大切だ。収支がとんとんでは足りない。何か余分な支払いが発生したときに、スペースを閉じなければならなくなる。理想的には、3カ月分の支出に相当する額を確保しておくことだ(賃料と光熱費だけでなく、すべての出費だ)。これだけを常に銀行に置いておけば、最悪のシナリオが発生したときでも、なんとか乗り切れる。

とまあ、こんなところだ。もし知りたいことがあればコメントに書いて欲しい。今後の記事でお答えできればと思う。

– Gui Cavalcanti

Gui Cavalcanti is the co-founder of Artisan's Asylum in Somerville MA. He was the organizer of the "How to Make a Makerspace" workshop.
Gui Cavalcanti、マサチューセッツ州ソマービルのArtisan’s Asylum共同創設者。「How to Make a Makerspace」ワークショップを運営している。

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