2009.01.08
牛の年、道でシュレッダーを拾ったよ。
ボクは、夜遅くにニューヨークの金融街を歩くのが好きだ。ボクが住んでいるのは、グラウンドゼロから数ブロック離れた場所で、今や金融のグラウンドゼロとなったウォール街へも数ブロックで行ける。この地区から、仕事や人が出て行くとき、近ごろでは出て行く人がますます多くなってるみたいだけど、結構なものを大量に捨てていくんだ。ニューヨークに入ってくる仕事や人はいないみたいで、彼らは備品を投げ捨てていき、移った先でまた同じ物を買う。ボクは、ボクのアパートにあるMakeのオフィスで必要となる物を頭の中にリストアップしている。拾えるものは買う必要がない。このごろ気づいたんだけど、捨てられている物の多くは、故障しているようで、じつはちゃんと動く。前からシュレッダーが欲しかったんだけど、お金を出して買う気にはなれなかった。とくに、道に転がっているとわかったときからはね。昨日はツイていた。夜の散歩から帰ってくると……、あったんだ。シュレッダーがね。数あるDuane Readeドラッグストアのなかの一件の外にあったゴミの山に、フェローズ製の電動シュレッダーが捨てられていた。ちょっと重かったけど、それを家まで持って帰って、さっそく試してみた。コンセントに繋ぐとLEDは点灯したが、動かない。モーターかセンサーだろう。シュレッダーなんて単純な機械だから、壊れていても直せるはずだ。しかし、分解しても原因は見あたらない。そこで紙片が入るバケツのほうを調べてみると、本体をバケツに正しくセットしないとスイッチが入らないようにするための、プラスティックの出っ張りがあった。この機構がないと、シュレッダーが作動したまま本体が外せるようになってしまい、怪我をする恐れがある。逆に、この出っ張りがないとシュレッダーは動かない。この出っ張りが折れていたんだ! 接着剤でちょっとくっつけてやれば、またはボール紙を切って挟んでやりさえすれば、完全に問題なく使えるものだったのだ。ボクはすぐにボール紙で出っ張りを作ってやると、シュレッダーは動いた。みごとに紙を刻んでくれた。
約5年前、ボクたちがMakeを立ち上げたとき、Makerはもっと注目されるべきだという信念を共有する気概ある一握りの人間が集まった。それからキツイ仕事と自己犠牲を重ねた結果、たくさんの夢が現実となった。16号にわたる数々のプロジェクトは末永く記憶され、息子や娘たちの世代に受け継がれるだろう。Maker Faireには何百、何千という参加者が集まり、ウェブサイトは無数の人々の想像力をかき立て、最高のコミュニティをオンライン上に築いた。オンラインショップでは、Makerの手による最高の電子キットを揃えることができた。そして間もなく、Make: televisionが公共テレビとウェブでスタートする。これはボクたちだけで成し得たことじゃない。Makerみんなの手柄だ。
去年はいい年だったけど、同時に最低の年でもあった。今や歴史的に重要な転換期にあり、世界は混乱している。今日のボクたちの行動が、未来の世代に大きく影響するんだ。ボクたちが抱える問題の解決策は、その問題を作った人からは生まれて来ない。未来の科学者や技術者を、ボクたちはどう育てていけばいいのだろう。ボクたちは、それぞれ役割を担っている。物を作る人、教師、親、兄弟、社会、しつこいぐらいに好奇心旺盛な友人。Maker Faireでは、子供を持つ親たちが、こんな話をしてくれた。子供がMakeを手に取ったり、Makeのウェブサイトで面白いものを見つけたことがきっかけになって、数年後に彼らは、物を作る人間を、アーティストを、科学者を、技術者を目指すようになったと。こんなことが、もっとたくさん、毎日起こるようにするには、どうしたらいいんだろう。物を作ること、物を作る人をもっと称賛して、さらにいろんな物作りを奨励するには、どうしたらいいんだろう?
2009年は、今まででもっとも厳しい年になるだろう。2008年も楽じゃなかったけど、2009年には、ボクたちの集団としての持久力を試されることになる。でも、何かが湧き起こっている。エネルギーが感じられる。人々は、再び物を作り始めているんだ。人々が集まって、情報を分かち合ったり、学び合ったりして、互いに刺激し合うようになってきている。自分で作った物を売るビジネスを立ち上げている。自分で物を作っているあなたは、もう孤独じゃない。ウェブやMakeの誌面、ビデオやMaker Faire、さらにはこのサイトやハッカースペースなどを通じて、みんなで力を合わせて、この厳しい時代を乗り切ろうじゃないか。ボクたちは、今よりもっとうまくやれるようになるはずだ。ボクたちは、自分たちの進むべき道を “make” するんだ。
2009年は牛の年。中国の暦によれば、牛は労働によって繁栄をもたらす動物とされている。退場したネズミは富の象徴だった。ボクは、あの馬鹿騒ぎとおさらばできてよかったと思ってる。良かれ悪しかれ、人は騒ぎに乗ってしまう。テレビの覗き見番組、非論理的な思想、ネズミ講まがいの経済、物事の知的レベルの低下、こんな害毒はもううんざりだ。今年のシンボルとして、牛以上に相応しいものは思いつかない。道を踏み外さない忍耐力、疲れ知らずで、精神的にも強い働き者だ。ボクは、世界一の仲間とMakeで仕事できることに感謝している。彼らのお陰で、労働も楽しみになるからだ。
みんなも、去年は、Makeから何か得てくれたと思う。物の見方が変わったとか、何かを分解してみたとか、何かを組み立ててみたとか……、子供といっしょに何かを作るための特別な時間を過ごしたとかね。2009年のMakeには大きな計画があるんだ。海外でのMaker Faireから、より多くのMakerを、直接、またはオンラインで結ぶ計画までいろいろだ。2009年は小さなアイデアや小さな計画の年じゃない。みんなと協力して、これまで以上に地球規模での物作りを称賛していこうと思ってる。2009年は、大勢の人に呼びかけて、ボクたちがやるべきことを一緒にやる。よりよい物作りのために、みんなで互いの責任を分担していくんだ。この重要な仕事を立ち上げるために、もっともっと多くの人たちが、オンラインで、または直接、顔を合わせて欲しいと思ってる。でも、いちばん大切なのは、この共同作業を実現させる過程で、みんなが、大勢の新しい友達を得ることだ。
ブログへの不機嫌な書き込みを読んだり、問題が起きたときにみんなで「見て見ぬふりをしよう」という風潮を見れば、世をすねたり、後ろ向きな考え方をする人が多いことは、ボクにもわかる。だけど、Makeでやり始めたことを止めるわけにはいかない。Makerは素晴らしいものを作ることや、それをみんなに見せることを止めたりはしない。物作りへ時間と資産を投資することが、自分たちの未来への布石になるんだ。何かしなくちゃいけないことは、みんな気づいてるはずだ。アメリカは、これから大きく変わるとボクは思う。試練が厳しければ厳しいほど、満足度も高くなる。そして、それが国を愛することになる。そう思うのは、ボクが物を直すのが好きだからかもしれない。
もしかして、ボクたちは、今はボクのオフィスに置いてある、あの投げ捨てられたシュレッダーみたいなものかもしれない。外観は壊れたガラクタだけど、分解して調べてみたら、モーターはぜんぜん平気で、部品もみんな大丈夫だった、みたいな感じだ。Maker仲間でスイッチを直してやりさえすれば、またちゃんと動くようになるんだ。
Makerのみなさん、良い年でありますように。
訳者から:あけましておめでとうございます。本年もよろしく! ボクも去年はMakeの記事製作やMake: Tokyo Meetingを通じて、人の繋がりの大切さを実感しました。ボクはひとり考えてコツコツと作るのが好きで、ずっとそうしてきた。でも、同じようにひとりで考えて物を作っている人と仲良くなって情報交換すると、ひとりの物作りがパワーアップするんだね。共同で何かを作れば、たしかに洗練された物ができるけど、妥協の産物となって個々人のアイデアが活かされないことがある。でも、ひとりで物を作る人のコミュニティができると、個人のアイデアがさらに大きくなり、それが大きな力になり得る、なんてことを感じた1年でした。たぶんMakeはそんな考え方を持っている人たちのための、最適なコミュニティであると思います。十分に増幅された個人のアイデアを共有することで、社会に大きく貢献できるんじゃないかしらね。
– Phillip Torrone
[原文]