Fabrication

2012.11.09

Kickstarted – スペースの問題(とMakerスペースの作り方)

Text by kanai


今週、OpenROVは大きな一歩を踏み出した。我々はガレージを脱出したのだ。とは言え、会社がぐんぐん伸びて、人をたくさん雇って、ベンチャーキャピタルの投資を受けたから、というわけではない。ただ狭くなってしまったから引っ越すのだ。カリフォルニア州クパチーノのガレージは、アクリル板やウェブカメラやブラシレスモーターの箱で迷路のようになって身動きが取れない状態になってしまった。すべてがここにある。慎重に計画と戦略を立てたつもりだったが、このプロセスに必要な物理的なスペースを小さく見積もりすぎていた。
残念なことに、我々のようなMakerビジネス、つまり、Kickstarterでいきなり注文が増えたにわか起業家にとって、どれだけのスペースが必要になるかを正しく見積もることは難しい。とくに、Kickstarter後にどれだけの注文があるかわからない場合は、なおさらだ。
ガレージ(またはリビングルーム)は、出発点としては最適な場所だ。長期契約の家賃を払う必要もなく、柔軟に使えて、余計なコストがかからない。しかし、ガレージの占有率が高くなると、同居人が文句を言い出す。スペースが限られれば、必要なツールを並べることもできなくなる。
TechShopなどのMakerスペースがフルセットの高速プロトタイピングツールを提供したおかげで、ガレージを作業場にしていた人たちにできることが大きく広がり、Makerビジネスにはガレージにプラスしたスペースが与えられた。問題は広さだ。一部のMakerスペースは土地の確保で苦労をしている。たとえば、サンフランシスコのTechShopでは、資材などを保管できる50〜100平方フィートの「ケージ」(区画された倉庫スペース)が小数あるのだが、空きを待つ人が大勢いる。
従来の不動産の見地からすれば、成長ビジネスの次なるステップは明白だ。サンフランシスコにはSF Madeという素晴らしい団体がある。必要なスペースの見積もりや、決断に付随するオプションと経済的誘引プログラムを段階を追って説明するなどして、地元ビジネスの創設をサポートしている。事業に非常に広い場所を必要とする場合は、全国どこでもテナント関係に詳しい不動産ブローカーからも同様のバックアップが受けられる(仲介手数料は土地の所有者が支払うのが普通だが、最高のブローカーを探す努力は必要)。
しかし、Makerビジネスでは、とくにKichstarterで資金を得たような需要のハッキリとわからない程度の事業では、大きなスペースを借りるこはできない(おそらくその必要もない)。このジレンマが、こうした小さな工場スペースの大きな需要を生みだした。
Makerスペースのひとつのモデルに、マサチューセッツ州ソマービルのArtisan’s Asylumがある。ここは、このジレンマを最大限に活用しているように見える。いわゆる一般的なMakerスペースとは違って、NoisebridgeのようなハッカースペースとTechShopのようなスポーツジム的会員制スペースを掛け合わせた生協型モデルだ。しかし、Artisan’s Asylumのもっともユニークな点は、そのサイズにある。4万平方フィート(約1,120坪)の床面積を、共有工具スペースと個人向けの作業スペースの区画とに分けて提供しているのだ。

Artisan’s Asylumは、その気になって探さないと見つからない。ほぼ住宅街の中に隠れるように埋もれているからだ。その外観からは、その中にアメリカ最大のMakerスペースが入っているとはとても思えない。エグゼクティブディレクターのGui Cavalcantiは、この状態に満足している。先週、ここを見学したとき、ソマービルの市街化調整区域法が大きく貢献していると彼は強調していた。住宅地と準工業地区が隣接できるため、半数近くのメンバーが近所の住民だという。
「Makerにはプロジェクトを行う場所が必要です」とGuiは巨大なスペース内を歩きながら話してくれた。個々のMakerエリアは、テープで区画されているか、パーティションで区切られている。小さな区画は50平方フィート(約1.4坪)から、大きな区画は250平方フィート(約7坪)ある。ここでは、オートバイを組み立てている隣の区画でファッションデザイナーがモデルに布をあてがっていたり、生物学者が苔を栽培している隣で木工職人がボウルを彫っているなんていうことが珍しくない。あらゆるタイプのMakerがそこにいる。

写真:Aaron Falk
共有の工具も使える。レーザーカッター、CNCフライス盤、完全な金属加工場や木工場もある。しかしそのスペースは全体のほんの20パーセントだとGuiは言う。その他のほとんどの工具は、会費を安くすることを見返りに、メンバーが貸し出している。工作機械のメンテナンスは、フルタイムのスタッフ(と高い技能を持ち任命されたメンバー)が行っている。
彼らのモデルが成功したことに異論を挟む余地はない。2年たらずの間に、拡大と需要に対応しきれない状態になっている。1,000平方フィート(約28坪)から9,000平方フィート(約250坪)、25,000平方フィート(約7,000坪)へと移転を繰り返した。さらに大きくなって、現在の建物は40,000平方フィート(約1,120坪)だ。それでも、150人が予約リストに載っている。Guiとそのチームは、成功を確信しているはずだ。
OpenROVや他の人々が目指す小さな製造業者にとって、このスペースは理想的だ。そこには2,000平方フィート(約56坪)の「フレックススペース」がある。Makerの緊急の需要に応じて、1平方フィート単位(最小1週間)でスペースを臨時に拡張できる。Guiはまた、オフィスや工場の建物が隣接していることの重要性を強調していた。メンバーのうち2人は、完全にスペースが足りなくなり、現在、隣の建物に越してきたという。
Artisan’s Asylumは、単にツールを提供しているだけではない。Maker経済がこの街で発展するよう、生態系全体を構築しようとしているのだ。地元の行政機関、都市計画プランナー、開発業者はこの動きに注目すべきだ。
Artisan’s Asylumのモデルに関する詳細と、同じようなMakerスペースの立ち上げ方を知りたい方は、運が良い。彼らは運営方法をオープンソース化しているのだ。彼らは「Makerスペースの作り方」セミナーを2月に開く予定でいる。
また私たちは、カリフォルニア州バークレーに自分たちのMakerスペースを立ち上げようとしている。プロのMaker、つまり、こうしたスペースやツールを必要としている小規模事業者のための場所だ。興味のある方は、ここへ知らせてほしい。
– David Lang
原文