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2013.06.17

ハッカースペースか、Makerスペースか、TechShopか、FabLabか?

Text by kanai

この10年間で、ハイエンドの工作機械が使える開かれたコミュニティスペースが劇的に増えた。そうした場所は、ハッカースペース、Makerスペース、TechShop、FabLabなどと呼ばれている。同じような場所なのに、こんなにたくさん呼び名があるなんて、考えてみれば頭が混乱する。そこで、この混乱を整理して、それぞれの名前に込められたコンセプトを解説してみたいと思う。そして、なぜ今、これらの場所の違いを語ろうと思ったのか、その理由についても語りたい。

まずは、もっともわかりにくいところから行こう。ハッカースペースMakerスペースの違いってなんだろ?

ハッカースペース

最初に言っておこう。「ハッカースペース」と「Makerスペース」を区別している人は、実情に詳しい人の間でも、ほとんどいない。実を言うと、その人たちは、たいていハッカースペースに属している。私がこの2つの区別を付けようと考えた理由は、これらの名前の背景にあるコンセプトと表していることが、私の中で大きく離れていったからだ。まずは、ハッカースペースの歴史から考えてみたい。ネタもとはWikipediaと私自身の知識だ。


c-base Hackerspace(ベルリン)

ハッカースペースのコンセプトは、プログラマー(昔は「ハッカー」と呼ばれていた) の集まりとしてヨーロッパで始まった(言葉の構造がドイツ語っぽくない?)。独立系のハッカースペースとしてもっとも早くドアを開いたのは、ドイツのc-baseだ。1995年にオープンした。現在は会員数が450人にもなっていて、今でも活発に活動している。2007年8月(ヨーロッパのトレンドが始まってから12年後)、Chaos Communication Campに参加するために北アメリカのハッカーグループがドイツを訪れた。そこで彼らは、アメリカにも同じような場所を作ろうと燃え上がり、帰国後、NYC Resistor(2007)、HacDC(2007)、Noisebridge(2008)など数多くのハッカースペースが立ち上がった。そこではすぐに、電子回路の設計製作(そもそもの彼らの興味であったプログラミングからの流れ)、興味の赴くままに物理的プロトタイプを行うようになり、教室を開いたり、会費を集めてツールを使えるようにするといった活動に発展していった。面白いのは、「ハッカー」や「ハッキング」という言葉の定義が、ハッカースペースが広がって人気が出てくるにつれて、物理的な物も対象にするようになったことだ。そして彼らは、「ハッキング」という言葉から、主要メディアが使うときのネガティブなイメージをなくそうと努力するようになった。ハッカースペースからは、いくつかの革新的なビジネスが生まれた。ひとつはかの有名なMakerBot Industries(NYC Resistorから誕生した)だ。それは今や、3Dプリント産業を劇的に変革しようとしている。


Noisebridgeの初期のころのエレクトロニクス教室。

2月に開かれたMAKE主催のHow to Make a Makerspaceイベントの基調講演で、Dale Doughertyが示したMakingとHackingの違いが、私にはしっくりきた。彼によれば、MAKE Magazineを立ち上げる前、彼は雑誌名を「HACK」にしようと考えていたそうだ。しかし、娘さんにそのアイデアを話すと、彼女は「ノー」と答えた。ハッキングは言葉の響きが悪くて嫌だと彼女は言った。Daleは、ハッキングはプログラミングだけではないと説明したのだが、娘さんは彼の主張を受け入れなかった。彼女は、その代わりにMAKEにしたらどうかと提案した。「だってみんな作ることが好きだから」と。

Daleの逸話は、私が「ハッキング」に抱いているイメージをよく代弁している。私にとって「ハッキング」や「ハッカー」という言葉はそもそも排他的だ。それが、既存のシステムを破壊したり迂回する昔ながらのプログラミング行為を指す場合でも、物理的な物を扱う場合でも同じだ。基本的に「ハッキング」は、既存の物に予想できない動作をさせる活動の中の特定の形を意味すると考えられている。どんなにひいき目に見たところで、プロのアーティストや職人は、自分たちを「ハッカー」と呼ぶことに、また自分たちの活動を「ハッキング」と呼ぶことに違和感があるだろう。もし私が、Artisan’s Asylumの木工職人に「このテーブルの材木のハックの(たたき切る)仕方がいいね」などと言ったら、相手をかなり傷つけることになる。

Makerスペース

Makerspace(メイカースペース)という言葉は、MAKE誌が創刊される2005年以前はほとんど聞かれなかった。この言葉が知れ渡るようになるのは2011年の初頭、DaleとMAKE Magazinemakerspace.comという言葉を使い始めてからだ。それは、デザインや工作のために誰もが利用できる場所を意味する(子どものための工作スペースとして使われることもある)。Makerスペースは、MAKEの関連のスペースのことだけをそう呼ぶと思っている人がいるようだ。しかし、Maker(メイカー:作る人)という言葉は古くごく一般的なので、MAKEのネットワークよりもずっと大きなものだ。


オーリン大学の機械工作工房。

2010年、私がArtisan’s Asylumを立ち上げたとき、それを「ハッカースペース」と呼ぶことに、いつも違和感を覚えていた。私はこの組織を説明するときに、「コミュニティーワークショップ(ワークショップ=作業場、工作室)」と、ぎこちない呼び方をしていた。自分としてしっくりくる、よい呼び方が他になかったからだ。このスペースは、常にオープンで創造的で密なコミュニティーを持つ、私の母校、オーリン大学のワークショップを手本にしている。誰でも、いつでも、ほぼあらゆる材料を使って、なんでも、既存のものを作り変えるのではなく、一から作れる。そんな場所を目指した。そしてあるとき、Makerスペースという言葉を聞いて、私たちの活動を簡潔に言い表す言葉として使うようになったのだ。


Artisan’s Asylumの溶接工房。

Makerスペースという言葉を聞いてから、私は、気持ち的にハッカースペースとMakerスペースを区別するようになった。私としては、ハッカースペースはハードウェアの作り変え、電子部品の工作、プログラミングが主となる。もっとメディアや工作寄りで、工作のためのツールを揃えているところもあるが、それはあくまでスペースとしては二次的な活動だ。また、私の中で、ハッカースペースは集産主義とつながる傾向があり、さらに、意志決定に過激な民主的方法をとるというイメージがある。これは、ヨーロッパのハッカースペースや、NoisebridgeNYC Resistorといった初期のアメリカのハッカースペースから引き継がれたものだ。


清潔なMakerWorksの設備。

Makerスペースは、私にとって、思いっきりいろいろな工作をしたいという気持ちとつながるようになった。それは、いろいろなタイプの工作スペースが複数あるという意味ではなく、もっと本質的な意味だ。そこでは、あらゆる工作に対応できるよう入念に間取りが考えられていて、高圧電気や換気設備などのインフラが整っている。どんな工作にも対応できる専用ツールや、さまざまなプロジェクトを実現する工具が揃っている。どのエリアも、ホビーストもプロの職人も同じように使えて、いろいろな種類の工作がひとつの場所で行えることによって、人々を引き寄せる力が生じる。たいてい、こうしたスペースは従来のビジネスに近い形で作られる(民主的集産型ではない)。さまざまな業務用の工作機械のメンテナンスや、その機械を利用者が使えるようにするトレーニングのためには、相応の予算と労力が必要だからだ。私が思っているMakerスペースの実例は、Artisan’s AsylumMakerWorksColumbus Idea Foundryなどだ。PebbleSquareといった企業も現れている。

TechShopとFabLab

これも混乱しやすい2つだ。理由は簡単。なぜなら商標名だからだ。こうしたスペースをまとめてTechShopやFabLabと呼ぶのは、ティッシュペーパーをどれも「クリネックス」と呼ぶのと同じだ。


TechShopの会員がCNCフライス盤を使っているところ。

TechShopは、2006年にカリフォルニア州メンローパークに創設された営利目的のスペースチェーンだ。彼らは自分たちを「アメリカで最初の全国的開放型公共ワークショップ」と呼んでいる。Makerスペースやハッカースペースという名前が全国的に知られるようになる前に、TechShopはハイエンドな工作機械を有料会員に公開していたのだ。TechShopは常に、設備の整ったさまざまな工作エリアを一般に提供することに専念している。そこには、木工、機械工作、溶接、切断、CNC加工などの設備が揃っている。


アムステルダムのFabLab。

FabLabは、MIT Media LabCenter for Bits and Atoms所長、Neil Gershenfeldが2005年ごろに立ち上げたスペースのネットワークだ。MITで開かれていた講義、How to Make (Almost) Anythingが元になっている。FabLab設立の原則は、中核となる工作機械(電子機器、レーザーカーター、ビニールカッター、CNCルーター、CNCフライス盤など)を集めて、初心者でもそれらの使い方や工学とデザインの簡単なレクチャーを受ければ、なんでも作りたいものが作れるようになるということだ。FabLabには規格が定められている。場所は1,000から2,000平方フィートあること。揃えるツールもモデルやタイプ、それらを支援するソフトウエア、カリキュラムも決まっている。フランチャイズと考えてもいいだろう(ただしMITがそれぞれのスペースに口を出すことはほとんどない)。FabLabは、Fab Charter(設立許可証)で、無料かほんの少しの会費で、一般に向けて開かれることが要求されている。子ども向けの教室も多く開かれ、地元の非営利団体によって運営されることが多い。

私の中では、TechShopFabLabも、Makerスペースのフランチャイズだ。さまざまなタイプのメディアを使って、一から物を作ることを基本としている。皮肉なことに、2つもMakerスペースという名前が普及する前に始まっている。そのため、それらの名称のほうが、Makerスペースという通称よりも知れ渡ってしまったのだ。

まとめ

私が屁理屈を捏ねて意味のない定義付けをしていると言う人もいるかもしれない。私は、この分類と定義付けは、新しいタイプのスペースが登場したとき、それを自分で考える上で、その根本の目的がなんなのかを知る上で助けになってくれるものと思っている。エレクトロニクスとプログラミングに軸足を置いた従来型のハッカースペースも、特定の人には受け入れられると思う。それはそれでいいことだ。Makerスペースは、ここに書いたとおり、より本道の、一般に開かれたクリエイティブなスペースであり、さまざまな特徴を持つ。ここに示した定義が、みなさんがこうしたクリエイティブなスペースに興味を持ち、参加するとき、または立ち上げるときの助けになれば幸いだ。

– Gui Cavalcanti

原文