2015.05.29
コンセプトからコックピットへ、没入型Makerシムピット「B.S.B.B. MkII」
Steel Battalion(鉄騎)は、オリジナルXbox用にカプコンとMicrosoft Game Studioが2002年に販売したゲームだが、ユニークなことに、専用コントローラーが付属していた。2本のジョイスティックと複数のブロックから構成されたコントローラーには、40個近くのボタン、スイッチ、ノブ、ドライブセレクターがある。さらに、床に置いて足で操作するフットペダルもある。このシングルプレイヤーゲームの目的は、2足歩行ロボット、Vertical Tankを操縦すること(AT-STウォーカーみたいなやつ)。発売から数年経ったとき、Steel Battalionのプロデューサー、稲葉敦志は、彼のスタジオがとったアプローチについてこう振り返った。「ゲーム業界だけができること」を示したかったと。
稲葉はDavid Shuffに会ったことがなかった。Davidは、熱心なMakerだけにできる方法で Steel Battalionに手を加えた。自分が望む形に、ゲームを作り変えたのだ。
コックピットのドアを閉めた B.S.B.B. Mk II
箱の中でゲームをプレイするというシンプルなアイデアからスタートして、プロジェクトは自作の回路、ジョイスティックの改造、大工仕事、音響効果、映像システムが追加され、Shuffが言うところの「独自の環境的刺激にあふれる一体型コックピット」へと発展した。さらに「2人プレイヤーがコミュニケーションをとりながら協同できるメタゲーム」というレイヤーも重なった。
基本的には、1人が暗いコックピットに座り、外にいるコーチがプレイヤーに指示を出し、タンクの操縦方法やゲームのやり方を教える。
そうしてできあがったBig Steel Battalion Box (B.S.B.B.) Mk IIは、その世界に入り込むようなシムピットで、完成まで2年、今でも改良を続けている。
私たちはDavidに会い、製作工程について、アイデアについてなどを聞くことができた。コンセプトからコックピットまで、アイデアを実現するまでの数カ月間の話だ。
コントローラー(ゲーム)とコックピットの効果をつなぐインターフェイスの回路を作っているところ。XboxのディスプレイにはApple IIcのグリーンモニターが使われている
Makerとその父。ブレッドボードで異常動作の発生について調べている
最初の振動モーターはデスクの下に取り付けたが、あまりよくわからなかった。あれこれ調べた末、日立マジックワンド(マッサージ機)の中身に行き着いた。それには独立した電圧ダイアラーがあり、「ガラゴロ」と「ブルブル」の中間のちょうどいい振動を作る方法を学んだ
ローンチイベントにて。プレイヤーの顔が隣のディスプレイに表示されるので、ゲームとプレイヤーの表情が同時に見られる
第二世代のコントローラーと、Davidが初心者のために作った操縦説明書
Make:B.S.B.B. Mk IIには2年以上の時間をかけているけど、最初からこれを作ろうと計画をしていたの? それとも、だんだんこんな形になっていったの?
David Shuff:まさに、終わりの見えない戦いでした。作り始めるきっかけになったのは、「このゲームは冷蔵庫の箱の中でプレイしたら最高だろうな」と思ったことです。そして、冷蔵庫の箱では小さすぎることがわかり、フォームコアで箱を作るという計画になったのです。でも、それで終わりにしようとは思いませんでした。いろんなものをハックして、ベルやらホイッスルやらを付けようと考えました。私の友人にボックスの中でプレイしもらったとき、彼と会話ができないことに気がつきました。そこで考えました。「画面を見ながらパイロットと会話できる仕組みが必要だ」と。そしてこうなったのです。
このボックスは去年の暮れに公開しましたが、ローンチイベントの直前までティンカリングしていました。今でもそれは続いています。
Make:これの前に別バージョンがあったの? Mk IIとなってるけど。
Shuff:たしかに。残念ながらMk Iの資料は残ってないのです。冷蔵庫の箱は小さすぎると気がついたとき、ガスレンジの箱と合体させたのです。しかし、すぐにフォームコアで作ったほうが早いとわかりました。そして、オリジナルの箱を作ったのです。
Make:今のこのデザインから省いたものってある?
Shuff:一段落つくごとに、次に何を加えればいいかを、予算と自分の技術と相談しながら考えます。なので、たとえば、油圧で動かすなんて無理です。フォースフィードバックも考えないことにしています。でも、常に次のステップを考え、今あるもので何ができるかを考えているので、消極的になっているわけではありません。今あるこれを、作る前に見たとしたら、決して自分で作れたとは思わないでしょう。
CRTのテレビを使ってアナログ感を出したかったのですが、重さと大きさと熱のために断念しました。それに、持っていたVGAとコンポーネントのコンバーターが、モーターが回転するたびに電磁波で誤動作してしまうため、4:3のコンピューターディスプレイは使えないことがわかりました。エフェクトとしては悪くなかったのですが、「入力信号がありません」というメッセージが表示されてしまうので、雰囲気が丸つぶれでダメでした。
これから追加したいものはたくさんあります。いつ実現するかわからないけど。ロボットが火災になったときに部屋に煙りが出るように、配管がしてあります。しかし、まだ安全に煙を出すように調整する時間がありません。
大きな教訓は「作ればみんなが助けてくれる。完成させてくれる」
Make:このボックスを作るには、設計と大工仕事と組み立てと回路の製作という作業が入り交じっているけれど、B.S.B.B. Mk IIを作る途中で、それまでにはなかった技術を習得したという経験は?
Shuff:いやあ、全部ですよ。どの段階も自信満々にスタートしますが、やりながらわかっていくこともあれば、手に負えないと感じて助けを求めることもあります。
私は、フォームコアが加工しやすい素材であることに驚きました。構造体としても頑丈です。
しかし、私はガールフレンドの Sara McBeenにさんざん助けてもらいました。彼女はプロダクトデザイナーで、父親は大工です。友人で共にMaker Faireで学んだChris Losseは、最初のバージョンの回路の設計を計画する上で大きな助けになってくれました。エレクトロニクスの魔術師で狂気的音楽の天才、Leon Dewanは、このプロジェクトに身を捧げ、回路と音声の配線を一段高いレベルに引き上げてくれました。
そこで得た大きな教訓は、「作ればみんなが助けてくれる、完成させてくれる」ということです。正直言って、私の役割は、ビジョンを示すことと、ゆっくりだけど着実に頑張ることでした。それから、部品は全部私が買いました。
Make:今のデザインで、いちばん自慢したい部分は?
Shuff: 私は、取り憑かれたように箱の光の漏れをなくす作業に没頭しました。とくにドアまわりです。ひとつ、誇れる「ひらめき」は、初めて箱の中に入ってドアを閉めたときです。本当に真っ暗で、眼の前に手をかざしても見えないほどでした。しかし、興奮が冷めて冷静になったときに気がつきました。ドアの内側の取っ手を付けるのを忘れていたのです。「ねえ、ちょっと、こっちへ来て助けてくれないかな」みたいな。
Make:B.S.B.B. Mk IIで使用した部品と材料を教えてくれる?
Shuff: これを作るに当たって、部品の妥当な値段は50ドル以下というのが私の基準です。なので、納得できる部品を探すために時間がかかりました(なので、どれだけ妥当でない部品を買ったことか)。
全体のフレームはフォームコアで、約100本の六角ボルトで手締めしてあります(接着剤は使っていません)。買ったのは大きなものだけで、あとの細かい部品は会社のプレゼンなどで使用した後の廃材を使っています。シートは釣り用ボートの椅子です。これにラリー用の4点式シートベルトを取り付け、日立マジックワンドの中身を埋め込んでいます(TIL: ガタゴトとブルブルの振動の違いは電流の違いであることがわかりました)。コンソールの本体はイケアのデスクです。ドアは、アマゾンで買えるいちばん長い引き出し用のスライダーに取り付けてあります。排気にはトイレ用換気扇で、ユーザーレビューでいちばんウルサイというものを使っています。ヘッドセットは中国空軍の放出品です。
オリジナルの回路はブレッドボードの上に組みました。いくつかの標準的なICと555タイマーを使っています。それをゲームコンソールのLEDに接続して、論理入力としています。簡単な(適当な)コンパレーターロジックを使って、たとえば、すべてのライトが同時に点滅する(ダメージを受けた)場合と、脱出ボタンが点滅する場合(脱出せよの合図)などのフィルタリングをしてます。
最終的な論理回路は、一から作り直し、Leon Dewanがプリント基板を作ってくれました。これで非常に安定しました。彼はまた、空軍のヘッドセットとその低インピーダンスのマイクの使い方を解析してくれました。音質は、魔法のように本物らしい雰囲気を出してくれます。彼はヒーローです。
Make:シムピット(シミュレーションコックピット)プロジェクトについては知っていた? それを作っているMakerたちとか。それとも、まったく知識がなく飛び込んだ? みんなが知っておくべきシムピットの情報源ってあるのかな。
Shuff:Virtual World EntertainmentのBattleTech Centersを参考にしました。90年代にはすごく流行っていてました。私は実際にプレイしたことはないけど。VWEのFacebookグループは非常にアクティブでメンバーのなかには驚くようなプロジェクトをやっている人がいて、今のゲームに当時のポッドをリフィットさせたりしています。
しかし、たいていのシムピットプロジェクトは、技術的にも高度すぎて私の手には負えないものでした。それより、今はもうありませんが、ディズニーワールドにあった海底2万マイル・ライドです。その雰囲気作りや細かい部分など、その世界観に浸れるために世界最高水準の技が使われていました。私はむしろ、そちらに刺激を受けました。そんなわけで、私はプレイヤーたちに、モニターのフレームの裏に愛する人の写真を飾るように勧めています。
追加情報:
B.S.B.B. Mk II ウェブサイト
制作過程の写真170点
Davidが話していたベルやホイッスルは、このデモビデオで見ることができる。
2014年11月にDavidのアパートで開かれたローンチイベントの様子。
[原文]