Crafts

2015.06.10

Maker Faireの10年:Dale Dougherty

Text by kanai

10周年を迎えたMaker Faire Bay Areaは、我々の文化の終わりのないMakingとMakerカルチャーの台頭を祝う祭として大変に盛り上がった。5月15日から17日にかけてサンマテオで開かれたMaker Faire Bay Areaは、すべてのMaker Faireの母だ。もっとも規模が大きく派手で、それでいて、これまでになくスイートとチャーミングだった。Maker Faireがここまでパーフェクトで大人気になるまでに10年かかった。私はこの10周年を誇りを持って讃えたい。Maker Faireは世界中にMakerムーブメントを押し広めている。

Buckminster Fuller revisited. Strawbees activities took place inside a geodesic dome.
バックミンスター・フラーも蘇った。ジオデシックドームの中で活動するStrawbee

サンマテオイベントセンターを歩き回っていると、このイベント会場を、この週末だけ、世界でもっともクリエイティブで、もっとも器用で、もっともイノベーティブな街に変えてしまったことがわかる。ほかの街と違って、ここには私たち全員の想像力が集結している。住民はみな好奇心旺盛で冒険好きだ。学ぶことが大好きで、遊びたくてやってくる。どこへ行っても驚きが待っていることを知っているので、熱心に動き回る。その場に立っているだけでも、Makerは私たちを放ってはおかない。みんな動き回っているのだ。動きの速い小型ロボット、這いずり回る蜘蛛型ロボット、ぶらぶらとやってくるアートカー、犬そりの犬のようにつながれた自転車、車椅子といっしょにモーターで走るアディロンダックチェア、人々を縫って走る電動カップケーキなどなど。

他の街と同じように、ここにも商売がある。それは健全な証拠だ。Intel、HP、DFRobot、Google、Italian Trade Agencyといったスポンサーがいる。私たちのスポンサーは、見本市のようなブースは出さない。ただ売るだけでなく、参加し、語り、聞くためにここへ来ているのだ。作る活動を提供したり、あるいはMakerに展示させたりもしている。たとえばGoogleは、ハンダ付け講習会のスポンサーを務め、防護メガネを配っていた。ますます買いやすく、使いやすくなってきたレーザーカッター、3Dプリンター、CNC切削マシン、フライス盤などの工作機械のでデモンストレーションもあった。

lego-makey

Maker Faireがどんどん商売の場になってきている理由の大部分は、Makerたち自身が新製品を作りビジネスを立ち上げているということがある。これには、littleBits、Particle(元Spark)、Shaper、LightUp、Roominate、Othermillなどなど多くの企業が含まれる。毎年、生まれたばかりのスタートアップが出展し、その多くはKichstarterで資金を得ている。

A typical activity at Maker Faire. Look at how focused the kids are. I hope parents are learning from this experience to create these opportunities at home.
Maker Faireでよく見られる光景。子どもたちの真剣な表情を見てほしい。両親たちもここで学び、家に帰っても作る機会を子どもたちに与えてほしいものだ

それでも、Maker Faireはオープンでインタラクティブなイベントだ。Makerは、テクノロジーや素材やツールを使って人々と触れ合っている。彼らは人と触れ合うためにデザインし、あらゆる世代の人々との触れあいから学んでいる。こうした交流がMakerたちに貴重なフィードバックを与える。こうした交流が火花を散らし、ヤル気に火をつける。ロボットすらも互いに触れ合っている。

russell and inmoov

散策

会場を歩き回り、多くの人々に会って、私は驚きと畏敬の念でいっぱいになった。ものごとがどうしたらこんなに美しくなるのだろう。溢れかえるアートと魔法。オープンで多様で、こんなに短時間で一カ所に集合できるとは。他所では見られないものをたくさん見た。こんなにたくさんの入場者を集め、誰もが驚き楽しんでいる。そして、日曜の夜が突然にやってくる。夢から目覚めたような気分だ。それがMaker Faireだ。最後にはかならず、もっともっとと欲求が残る。

Dale and Luke

日曜の朝、Maker FaireでEric Sorensenから、長男のLukeと写真を撮ってほしいと頼まれた。Lukeは10歳だ。初めてMaker Faireを訪れ、Young Makersエリアに向かった。Ericは写真とともにこんな手紙を私に送ってくれた。「私たちはMaker Faireが大好きです。3時に入りましたが、そのあとずっといました」。本当にうれしい。もうひとりのLukeにも会った。シンシナティから来た少年で、3Dプリントで作った義手を着けていた。彼の父親が勉強して製作したものだ。父は彼のことを「クールハンド・ルーク」と呼んでいた。

Dale and Sasha

サンタクルーズから来た高校1年生のSasha Jaffaroveは、私が企画した若いMakerのためのパネルディスカッションに参加した。彼女は、岩石と洞窟が大好きで、そこから洞窟マッピングロボットを作るに至った経緯を話してくれた。Raspberry Piとレーザーの使い方をどのようにして学んだか、そこから何を得たかを彼女は熱っぽく語った。彼女は、ロボットのデザインを何度も変更して改良している。彼女の母親が私たちにくれた手紙にはこう書いてあった。「私も観客に混じって聞いていました。周囲の人たちはみな、口を揃えて子どもたちを素晴らしいと讃えていました。Maker Faireに出会えて本当によかった」

Bruce Shapiro and his wife, Maureen.
Bruce Shapiroと妻のMaureen

10年前にMaker Faireで会った人たちと会えたこともうれしかった。そのひとりが、CNCをアート表現のための手段と考えているArt of Motion ControlのBruce Shapiroだ。彼はEggbotの作者としても知られている。2006年に私たちが配ったTシャツを着てくれていた。今年、彼は代表作のSisyphusを展示していた。大きくて丸い、砂に絵を描くロボットだ。子どもたちが下から覗き込んで、その仕掛けを探ろうとしていた。

My daughter, Katie, and her son, Henry, visit with Russell the Electric Giraffe.
私の娘、Katieと孫のHenry。電気キリンのRussellとご対面

私たちはみな、この10年間で変わった。もちろん年も取ったが、そんなMakerの内部には決して年を取らない子どもの心が宿っている。最初のMaker Faireのとき私は50歳だった。そして、今回のMaker Faireの週に60歳になった。Maker Faireは私の誕生パーティーだと思うべきだと言ってくれる人もいる。これ以上のお祝いはないだろう。そこは私を若返らせてくれる。そして何よりもエネルギーを与えてくれる。さらに、私には孫のHenryが生まれ今年初めてMaker Faireを訪れて、電気キリンのRussellと出会った。Henryと彼の創造的な発達の様子は、私の子どもたちとは違ってくるだろう。それはMaker Faireのおかげだ。私にはMakerになったHenryの姿が見える。

メイキング・オブ・Maker Faire

10年前、Maker Faireは単なる私のアイデアだった。夢でありビジョンであり実験だった。Makerたちは自分のプロジェクトを見せ合い、互いに交流したがっていると私は考えていた。誰もがMakerに会って、彼らが作ったものについて語り合うのを楽しんでくれるに違いないと思っていた。一言で言えば、Maker Faireは世界最大の工作の発表会だ。幼稚園のころにやったあれだ。それが今はすべての人のためにある。

これほど特別なイベントに育ったのを見て、これを想像していたかとよく聞かれるが、私はとにかく実現させることに集中していたと答えている。私たちはお祭りを作り直そうと考えたのだ。クラフトフェアとアートフェア、それにサイエンスフェアをまぜこぜににした祭りだ。そこでは、普通の人の創造性、想像力、スキルが花開く。10年目のMaker Faire Bay Areaは、サイズも内容も、私の想像を遙かに超えるものとなった。

Maker Faireには2人の重要人物がいる。2人の母と呼んでもいいだろう。Sherry HussとLouise Glasgowは、私のアイデアを見事に現実にしてくれた。ひとつのアイデアを思いついて、それを受け継ぎ、よりよくしてくれる人たちと働けるなんて、こんなに幸せなことはない。Maker Faireを製品に例えれば、Sherryはデザインとプロトタイピング、パッケージングとソーシャルマーケティング、エンドユーザー・エクスペアリエンスを担当してくれた。Louiseは生産を監督し、すべての部品をリアルタイムで供給してくれた。そして、熱心で有能な人材を含む生産チームを育て管理し、さらに現場では多くのボランティアを集めた。つまり、ものすごい大変な仕事を締め切りまでにやってのけたということだ。Maker Faireを立ち上げ、ここまでの規模と内容に育て揚げることができる人間は、さらにすべての関係者をいたわることができる人間は、他にはいなかったと私は確信している。Maker Faireは、よりよくしようという思いから、何年もかけて、少しずつ、つながりを広めつつ大きくなってきた。これ自体が、このイベントを愛する人たちからなる献身的なチームによる巨大なMakerプロジェクトだ。陰の努力の大きさを知っているSherryとLouiseとチームのすべてのメンバーに感謝したい。

two girls building

Maker Faireは、多くの母親や家族からの絶え間ない世話によって大きくなってきた。そう、よく言われるように、「村ぐるみ」の教育だ。Maker Faireの場合、その村とは素晴らしきMakerのコミュニティだ。あらゆる種類の工作技術を披露し、みんなが自分たちの活動に目的を持ち、みんなで成長している。Maker Faireに集まるMakerたちは、自分たちの活動を見せにやってくる。それがMaker Faireの核心だ。私たちは彼らの場所とテーブルと椅子を提供するが、創造性、情熱、創意工夫を持ち込むのは彼らであり、そこで人や物が交流して多くのことを学び合う。Makerはこのイベントのスターだ。目には見えないかもしれないが、彼らはみな互いに助け合い、尊敬し合っている。Maker Faireは競争の場ではない。協調を促す場なのだ。

Robot Resurrection and InMoov Robot
Robot ResurrectionとInMoov Robot

Maker Faireには「ヴァイブ(vibe)」があると多くの人は言う。この感覚を言葉で説明するのは難しいが、実際にそこで人々の表情を見ればすぐに感じられる。文字どおり、スポンサーもMakerもお客さんも、みんなハッピーだ。Maker Faireでは、みんながベストな自分でいられる。そして、ひとりではやったり感じたりできない何かをみんなで生み出している。こう表現したらいいだろう。「みんなが一緒になってプレイしている」と。この波動がこの繁栄の10年間、続いてきたのだ。私には予想できなかったことだ。

Photo by Anne Hammersky
写真:Anne Hammersky

ハイライト

今年のハイライトはMakeFashionショーだった。ShannonとMaria Hooverが企画し、ウェアラブルデザイナーのグループと、私たちのクルーであるJohn“Parts”Taylorとで実現させた。

models for makefashion show

fashion show prosthetic leg

それは驚きの体験であり、新しいジャンルを生み出した。ファッションモデルを使い、ファッションショーをハックしたのだ。ランウェイを歩く人も、着ている者も変わっていた。そこでは、障害のある人、男、女、子どものファッションが披露された。何千もの人たちがそれを見た。何色にも輝くLEDで飾られた義足は楽しくもあり愛を感じた。すべてが衝撃的で、それに見入る小さな女の子や女性たちの表情がなんともよかった。

eyes in the trees

KnitsforLife.comのLornaとJill Wattは、クリエイティブデザイナーであり、ヤーンボマー・アーティストだ。大きなニットの目玉を作り、会場の木に仕込んだ。そこには何のサインも看板もないのだが、それを見た人はびっくりして楽しい気分になる。ある人は、子どもが木の中の目玉を最初に見つけるのだと言っていた。子どもはいつもキョロキョロしているかが、大人はそうでもないからだ。

brian matthews parrot
Brian Matthewsと彼のオウム。写真:Anne Hammersky

Brian Matthewsはエンジニアでアーティストだ。彼のウェブサイトはFlappingsprocket.com。Brianは3Dプリントしたオウムを肩に乗せて歩いていた。Maker Faireでは珍しい光景ではない。しかしBrianは、このオウムを通じてMaker Faire会場の大勢の人たちと関わり合っていた。

Intelは、サンフランシスコ湾岸地区で活躍するDJ Qbert、Rich Quitevis、Ritche “Yogafrog” Desuasidoを招いてThud Rumbleのショーを開催した。Ritcheによると、彼らはIntel Edisonを使うことで、ノートパソコンを使わずにDJができるようになったという。ターンテーブルもそれ自体を楽器として扱えるようになった。DJ QbertはDJでターンテーブリストだが、彼はターンテーブルの「スクラッチング」を「手で行う芸術に進化させ、オーケストラや人の声を完全に新しいサウンドや歌」に変えることができる。Richはこの方面の技術的な指導者で、DJスクラッチのカルチャーにテクノロジーを注ぎ込みスクラッチの可能性を広げている。Maker Faireの日曜日は、彼らのパフォーマンスで幕を閉じた。テスラコイル(19年もののCam Daxを使用)をターンテーブルのスクラッチで操り音楽を奏でていた。

Makerカルチャーの母

Maker Faire Bay Areaはまた、世界にMakerムーブメントを広めることになったマザーカルチャー(Mother Culture)でもある。マザーカルチャーは、生物培養(バイオロジカルカルチャー)が子どもを作り繁殖するのと同じだと言える。サワードー・スターター(サンフランシスコの名物。初期の入植者が持ち込んだと言われている)や酢のようなものだ。どちらも地元産だ。人々は、Maker Faire Bay Areaを体験しようとやって来て、地元でMakerカルチャーを根付かせるための何かを持ち帰る。この10年で、Maker Faireは世界中にネットワークができた。2014年、131のMaker Faireが開催され、今年はそれを上回る予定だ。今週、私たちは新しいプログラムを発表した。School Maker Fairesだ。この金曜日に開催したHow to Make a Maker Faireワークショップには、100人もの参加者があった。みな異なる国、アメリカの異なる地方からの人々だ。カナダ、イギリス、フランス、ハンガリー、台湾、日本、ルクセンブルク、中国、ドイツなどの国々からグループが集まった。彼らは、最大規模のMaker Faire Bay Areaを体験しにやって来たのだ。そして、その他意見を身と心に刻み込んで帰っていった。彼らはMakerカルチャーを世界中に広めていく。

Makerカルチャーは、学校、図書館、コミュニティーセンターにも広がりつつある。ハンガリーから来たグループは、Maker School Hungaryと書かれた赤いTシャツを着ていた。サンフランシスコ湾岸地区オークランドの学校、Lighthouse Charter SchoolはMaker Faireで大変に目立っていた。カリフォルニア州ゴレタ(サンタバーバラの近く)のDos Pueblos工業高校は大勢の学生を連れてきていた。彼らはみな、宇宙飛行士かNASCARのドライバーのような黒いツナギを着ていた。自らをD’Penguineersと呼ぶ彼らは、60のメカニズムで構成されるインタラクティブなキネティック彫刻、Carousel of Physicsを展示していた。彼らはこの展示物の開発を進めて、学校や図書館に販売したいと考えている。このプログラムの責任者、Amir Abo-Shaeerは、学生と彼らのプロジェクトをMaker Faireに送り込むことで、彼らの学校やその目的に対する意識が高まったと話している。

Keane and Carson Gillespie share their CubeRinth kits. Older brother Reagan is part of the team.
KeaneとCarson Gillespieは、CubeRinthキットを展示。兄のReaganはチームの一員だ

Maker Faireにはホームスクールの子どもたちも多く来ていた。Reagan(13才)、Carson(11才)、Keane(9才)のGillespie兄弟は、アリゾナ州アンセムから両親と来ていた。彼らは新しいキット、CubeRinthを展示していた。カスタマイズ可能なマルチレベル式迷路ゲームだ。去年、Maker Campに参加してアイデアを思いついたのだという。

Makerカルチャーは草の根レベルで各都市に広がり、メイカースペースがたくさん生まれるようになった。Makerシティの考え方が広がり、地方のMaker、物理的なスペース、DIYワークショップ、教育、地産製品、製造機械、経済の一部としての資源、教育的文化的発展を結びつける手段として語られるようになっている。それは市民参加も促している。一般市民の主導で、行政にはできないことをやってのけている。

次の10年

これからの10年で、Maker Faireはさらに大きくなり、Makerムーブメントはさらに広がり、大きな影響力を持つようになるだろう。
・新しいビジネス、新しい世代のイノベーターが生まれ、新しい雇用が増える。
・学校教育は作ることから学ぶように変化し、自律的学習によってクリエイティブに問題が解決できる人間が育つ。
・よりクリエイティブで、より生産的で、より開かれた文化が育まれ、科学、テクノロジー、アート、クラフトが統合される。

american steel studio

Maker Faire Bay AreaとそのMaker Faireネットワークは、作ることの楽しさを人々に伝え、あらゆる種類の人々をMakerにできる可能性を示してきた。人気が高まるのはよいことだ。もう、これを小さなサブカルチャーだとは言わせない。もはや、カリフォルニアだけで通用するものでもない。Makerコミュニティ(と言うようりは、地域と興味をベースとしたコミュニティのネットワーク)は、この10年間がんばってきた。しかし、これからどのように成長し、どんな姿になるかは誰にもわからない。私たちが知っている彼女のままで成長してくれるものと、私は信じている。

10歳になったMaker Faireに私からアドバイスがある。

キミのお陰で変化した世界を想像してほしい。誰でも、何を学んだか、何を作ったかで自分を語ることができる。Maker Faireでは、私たちを変えてくれたすべてのものに居場所がある。みんな仲間だ。キミも仲間だ。他のみんなも同じだ。みんなで集まることで、私たちは、オープンであること、創造的であること、冒険的であること、遊び心があること、寛大であること、親切であることの価値を重んじるひとつのコミュニティで互いに結ばれる。それが私たちであり、私たちのベストな姿だ。

私たちには物事を変えるための自由とツールがあることを知ろう。みんなで世界をよりよい場所にしていこう。

原文