「FabLearn Asia 2015」(主催:慶應義塾大学SFC研究所ソーシャル・ファブリケーション・ラボ)が、12月12日(土)・13日(日)の2日間にわたって横浜で開催された。このカンファレンスは、STEM教育についてのアジア初の国際会議となる。
近年のデジタルファブリケーション技術の普及、急速に注目度を高めているプログラミング教育といった状況もあって、STEM教育を教育現場にどう導入していくかは、今後さらに活発な議論を呼び起こしていきそうだ。実際、FabLearn Asia 2015の会場には、初等教育から高等教育までの現場の先生方、省庁・自治体といった施策側の担当者、教育系の機器やプロダクトを提供する企業、教育プログラムなどを提供するNPOやメイカー、学生など、国内外・各領域から幅広く関係者が参集した。その1日目の様子を紹介しよう。
パウロ・ブリクスタイン氏(スタンフォード大学/FabLearnチェアマン)は、「ファブラボやメイカームーブメントにより科学技術教育は変わるのか」をテーマに、基調講演を行った。
スタンフォード大学の「FabLab@School」プログラムを推進する氏は、教育の目的や意義を問いかけながら「開放型教育」の重要性を強調、FabLabなどラボ系の活動との協働を提唱。特に、後半の実践例紹介では、各国の子どもたちの様子を次々とスライドで紹介していく。
・タイ:灌漑のタイミングをはかる装置、農地をモニタリングするドローン、衛星の製作例
・ブラジル:赤ちゃんの泣き声で揺れ動くベビーカーの製作例
ルネサンスの歴史学習でダヴィンチのマシンを再現した7年生の女子や、温度に反応して模様が変化するTシャツを作成した女性たちの例も紹介され、「必ずしもロボットやセンサーを使わなくても、歴史学習やクラフトの分野にも、この教育は応用できる」と氏は語った。また、このような実践例を見ていくと、K-12(米国の幼~高の13年間の教育)の子どもたちでも「数週間で想像できないようなものを作りあげるプログラムが可能だ」とも。
くわえて、インタラクティブな授業の効果、子どもたちの活動レベル、ペア学習やグループ学習の効果についての分析データも発表され、「すべての子どもたちがこの教育にアクセスできる環境づくりを」と氏は講演を締めくくった。
1日目の講演のスピーカーはほかに、田子學氏(アートディレクター、株式会社MTDO.inc.代表)、小森勇太氏(ライフイズテック株式会社)、田中浩也氏(慶應義塾大学環境情報学部准教授、ソーシャルファブリケーションラボ代表)。茨城県古河市の平井総一郎氏、福岡雙葉学園の大庭真佐子教諭と生徒たち、アメリカンスクール・インジャパンのサラ・スッター教諭による実践例の紹介も行われた。
昼のランチタイムと午後のコーヒーブレイクの間、3時間ほどにわたっては各部屋に別れてのワークショップや研究発表も行われた。3Dモデリング入門、レーザーカッター、ロボットづくり(ファブボット)、AgIC、MESH、電子工作手芸(乙女電芸部)のワークショップはどこも早々に満席となり、この機会に「触ってみたい」「作ってみたい」という現場の人たちならではの熱意が感じられた。
FabLearn Asia 2015の実行委員長を務めた渡辺ゆうか氏(FabLab Kamakura代表)は、こう言う。「STEM教育のような新しい学習環境を醸成していくには、ポリシーの発信だけではうまくいかない気がしていました。このようなかたちで各領域の関係者が集い、実践例を共有、コミュニケーションをしながら、モデルやプログラムを増やしていかなくてはならないと思っています」。FabLearn Asiaは今後定期的な開催を目指し、新しい学習環境づくりの場として貢献していく予定だ。
会場となった横浜市開港記念会館